GTC 1999 GT INSIDE REPORT


〜 GTアソシエイション事務局長に訊く 〜


 過日、JAFが来季のGTCの技術規則を決定した。またGTアソシエイション(GT-A)は、来年6月、スペシャルイベントとして初の海外レース開催を計画している。これらを踏まえて、GT-Aの加治次郎事務局長に話を訊いた。

―まず、GT-AとしてはGTCの現状をどうお考えになっていますか。
加治事務局長(以下略)「今、日本のレースはみんな、おカネが回らない、お客さんが集まらないという状況になってしまっています。ある意味でGTC頼みという状況になってしまっている。モータースポーツが世の中で認められるための責任が、今、全部GTCにかかってきていると考えなければならないでしょう。
 そういう目で見たとき、今は国内のトップレベルのドライバーもチームもすべてGTCに集結してきていると思いますが、その材料をどう組み立てて、スポンサーや観客に見せていけるかが大事だと思います。今までは全部揃っていたとはいえなかったんですが、これからはもう名実ともに(モータースポーツ全体を)引っぱっていかなければならない。ほんとうにこれからの世の中に受け入れてもらえるようにしなけらばいけない。また、ドライバーやチームや、その他の関係者の生活を担えるようなものにしなければいけない。ですから絶対潰しちゃいけないんです。育っていけるかたちにしなけりゃいけない。そういう意味では今までとは違うと思っているわけです。
 そのためにはレースのやりかたを少しずつ変えていく必要がある。世の中の変化に合わせて、今ついてきてくれているお客さんやスポンサーの期待に応えていけるものにしていく必要があると思います。
 今までは、なにか新しいものが出てくればそっちへ乗り換える、あっちの水がおいしそうだからそっちへ行くというかたちでやってきたんですが、これからはそれでは立ちゆかない。今は自動車メーカーもタイヤメーカーもずいぶん環境が変わってきて、ほんとうの意味でグローバル化してきている。日本の市場のためだけにそんなにおカネが落ちるというわけにはいかなくなっているわけです。ましてこれから日本の市場が伸びていくわけでもない。そういう意味でも、今までと同じことを自動車メーカーやタイヤメーカーに期待していくことは間違っていると思うんです。したがって(モータースポーツは)メーカーさんがおカネを使うだけの価値のあるものにしていかなければいけない。そのためには、まず基本的にはお客さんの心をとらえているかが一番大きな課題だと思います。自動車メーカーにとっても観客はお客さんなわけですから。
 そういう意味では、今GTCはそれをとらえかけてる。今までのレースは内部の人間だけおもしろかったんですよ。ごく限られた人だけね。それが今、多くの人におもしろいねと言っていただいてきている。さらにそれが、よくわかっている人にはさらにおもしろく感じられるし、そうじゃない、パッと見に来た人でもおもしろい、というふうにしていかなければいけない。
 そのためには情報をもっと与えていかなければいけないと思います。テレビの放送は現場に来たら見られない部分を見せなければいけないし、サーキットへ来たらサーキットへ来ただけの情報を持って帰ってもらわなければいけない。たとえば、迫力だとか音だとかというものはテレビではなかなか表せないけれども現場では表せますよね。でも、それだけではダメで、ドライバーの技術とかチームの技とか、クルマのすごさとかいうものを見てもらわなければいけない。そのしかけや設備も必要だし、そういうこともやっていかなければいけないと考えています。
 たとえば、内側にいるわれわれはラップタイムも見てるしモニターも見てる。だからおもしろいと思っている。それだけの情報を与えられる状況になっているわけです。ところがお客さんはなにも情報が与えられていなくて、すごい迫力だろうということしか伝えてられていない。しかし、迫力だけだったらもっとすごいものはいくらでもある。そんなことでお客さんの心がつかまえられるわけではない。問題は人間が技としてやっている部分をいかに知ってもらうか、見せられるかということでしょう。チームがどういう工夫をしてるかとか、ドライバーがどういう悩みを持って、なにと闘っているかとかいうことがもっと伝えられなければいけない。そのための素材としてはラップタイムも必要でしょうし、モニターにドライバーの顔やチーム監督の顔が映ることも必要でしょう。野球の中継を見ててもいろいろな情報が伝えられているわけですから。
 モータースポーツは、自分たちが遊ぶために造ってきたものですから、お客さんは関係なかったんです。モータースポーツを職業としている人たちは自分の道楽でおカネを落とす範囲でしかやってきていなかった。それでは、その人の気持ちが変われば明日はなくなる。自動車メーカーが落としているおカネだってある意味では同じです。そこにしがみついているかぎりは、たとえば前年比で半分になっちゃったりするわけです。
 ところが一般の人たちの支持というものは急に半分にはならない。だから、つねに自分たちの姿を知って、自分たちを支持してくれるお客さんたちはどっちを向いているのかを常に気にしてリサーチしていくことが大切です。ですからGT-Aでは観客調査というものをずっと続けてきています。これはすごく大切なことです」

―GTCにプライベーターが参加しにくくなってきているという批判もありますが?
「誤解されやすいことなんで注意してほしいんですが、プライベーターのためにレースがあるわけではないんです。だからといってメーカーのためにやっているわけでもない。プライベーターだとかファクトリーだとかいうことにこだわるのは、内輪の論理でしかないと思います。肝心なのは、どう一般の支持を得るのかということです。一般のお客さんにとっては、プライベーターだとかメーカーだとかという区別があるわけではない。だから、メーカーをバックにパフォーマンスの高いクルマを造れるチームがあるとすれば、それに対してプライベーターはどういうかたちでお客さんの支持を得るかを考えなければいけない。それはドライバーのキャラクターであったり、監督やチームとしてのキャラクターであったり、めずらしいクルマを持ち込んたりということだと思うんです。今、日本のGTCは、それを可能にするために特認車両制度を設けたり、遅いクルマを助ける措置をとったり、いろんなかたちでそれをやっているわけです。
 今、GTCは表彰台に立てればなんとかスポンサーの支持を得られるようになった。しかもそれがずっと独占されることのないように(さまざまな規則を)作っている。今までの考え方からしたら、そういう規則はおかしいと考える人もいるわけです。だけど、おかしくたって、成立しなくてすぐ潰れちゃったら話にならないわけで、そんなことよりは一般のお客さんに支持される、おもしろい、また見に来ようと思わせる、それで(レースを)やっている人たちの地位が上がっていくことのほうが大切なんです。
 自動車メーカーは、クルマを速くして勝つためにおカネを費やしています。しかし、そのことは決してみんなの幸福ににはつながりませんよ、ということですよね。かといって、それがなければ自動車メーカーにとって魅力が半減することになるでしょう。われわれにとって自動車メーカーもスポンサーのひとつですから、スポンサーにとっての魅力をどう作るかという視点も必要です。
 具体的に言えば、このレースにクルマが使われていることがメーカーとしてのステータスにつながるようになれば、自動車メーカーとしても関与せざるをえないわけじゃないですか。GT-Aの観客調査でも、スポンサーにどういう印象を持ちますかという設問があって、かなりの人が『好感を持つ』という答えてくれてるわけです。一般のお客さんが、レースの楽しみを自動車メーカーが支えてくれるんだという見かたをしてくれるようになればいいということです。自動車メーカーがアピールすべきことは、『勝った勝った』ということじゃなくて、別の領域だってあるはずなんです。お客さんもそういうことに賛辞を与えてくれるように育ってくれることが、モータースポーツを大きくしていくことだと思います。
 もっと多くの人たちの支持を受けるためには、ハードとしてのクルマに頼りすぎていてはダメだと思います。ドライバーのすごさとか、チーム運営のすごさとか、メカニックの仕事だとか、戦略だとか、それからモータースポーツにはビジネスゲームという側面がありますから、そういう部分も伝えていくべきなんです。選手の努力とかチーム戦略とか、それこそスポーツじゃないですか。そういうスポーツとしての魅力を伝えていく努力をしなければ、モータースポーツの発展はないということですよ」

―来年の車両規定については?
「車両規定については、GT-Aからも提案を出し、だいたいそれに沿って決めていただいています。基本は、ハイテク競争のようになっていかないようにということです。技術競争で勝負がつくのではなく、スポーツとして勝負がつくようにしていきたい。もし、技術競争こそがモータースポーツだという意見があれば、私は別に反対はしない。ですがそうであれば、その技術を、つまりわれわれはこういう工夫をしたということをもっとアピールすべきですよね。ただ、それに魅力を感じる人がどれほどいるかということを考えると、それを重点にすべきではないと考えるわけです。
 安全面については、一般の人から見れば訓練されたドライバー、訓練されたメカニック、訓練されたエンジニアが普通の人にはできないことをやっているからこそ見てもらえる。それが危険なものであることは確かですが、それが生命の危険の領域までいってはいけない。そのためにできるだけ安全なクルマにしたいということです。
 そのあたりはバランスだと思っているんです。NASCARだって昔からああいう格好だったわけじゃなくて、だんだんにああなっていったと思うんです。ですが、日本のマーケットだとか日本のファンにとってあのかたちがいいかどうかというと、現状ではちょっと違うなと思っているんです。あそこまでを目指しているんではなくて、ただ考えかたとして、開発すべきテーマというのを絞って、技術として取り組んでもらうということになるんじゃないでしょうか」

―GTCのありかたを考える際に、参考にしているカテゴリーはありますか。
「NASCARとか、アメリカのモータースポーツのありかたというのは当然参考になりますし、ヨーロッパだって参考になる。ただ、日本的なものというのは当然あるだろうと思っているんです。NASCARだって50年からの歴史があるわけでしょ? 50年前から同じ形態でやっているわけじゃないんです。お客さんの支持があって少しずつ変えてきている。日本にはそういう歴史がないんです。外から押しつけられて、なんだかわからないままに潰しちゃって、また一から仕切りなおしになる。そのつどチームも潰れちゃうという格好でやってきたんだけど、もうそれは通用しない。そういう意味ではF1だとかNASCARだとかCARTだとか、すこしずつ姿は変えながら自分たちを維持していくというやりかたは参考になると思います」

―海外でのイベントについて教えてください。
「来年の6月下旬にマレーシアで開催する予定です。やるからには興行として成功させなければいけませんから、F1やFIA-GTやアメリカン-ル・マンなどとバッティングせずに安定して続けていける時期として、6月下旬から7月上旬に設定しました。
 アジアに進出するのは、この地域の自動車マーケットが日本のマーケットと似た姿をとっていくだろうと予測しているからです。GTCはアフターパーツマーケットの活力を基盤としています。日本にはそういうマーケットが今あるわけで、それはヨーロッパともアメリカとも違っています。アジアの市場はそういう格好で進んできています。今後もそういう方向で進むでしょうから、われわれとしてもそれを当然取り込みたいし、われわれを支えているパーツメーカーにとっても魅力的な市場たりうるわけですから、その足がかりとしてGTCを使っていくというのはビジネスとして当然の成り行きです。
 また、日本の国内だけでモータースポーツを考えていると、相対的にどんどん小さくなってしまうわけです。これ以上大きくなるとは思えない。片方で韓国や中国などアジアの経済発展がある。そこにヨーロッパやアメリカからいろんなメーカーが来るでしょう。そんななかで日本がアジアを放っておいたら世界で孤立してしまいます。
 モータースポーツには、いわゆるクルマ文化という側面もあります。海外に進出するということは文化を輸出するわけです。日本は、これまで音楽にしろなんにしろ欧米から大量に輸入してきました。ところが、最近はアジアのアーティストがどんどん入って来ていますし、同時にアジアには日本のアーティストが進出しています。アジアの人たちは日本の情報を知っているし、日本のアーティスト、俳優に憧憬を持っている。ところがモータースポーツはなんにもやっていないんですよ。
 また、スポンサーという側面でいうと、今は生産拠点がみんなアジアにいっちゃってる。そういうスポンサーに対して魅力を保つためにも、国内だけでやっていてはもう限界なんです。大きな会社はみんなグローバル企業になってる。そういうグローバル企業がどういう戦略を持っているかというと、ほとんどヨーロッパ、アメリカ、アジアという三極に分けている。日本はアジア地域のなかに組み込まれているんです。タイヤメーカーもそうです。アジアにどんどん魅力的な市場が育っているわけで、そのなかで日本の相対的地位というのはどんどん下がる。絶対的に小さくはならなくてもね。だからアジアに出ていくことはマストなんです。もう遅いくらいですよ」

―ヨーロッパのFIA-GTやル・マンとの連携については?
「クルマの供給元などが交流することは大事です。ただ、どういう人たちがレースをするか、どういうマーケットがあるかということが日本とは基本的に違う。ヨーロッパのスポンサーと日本のスポンサーにはちょっと違いがあるし、チームにも違いがある。ドライバーだって違います。
 クルマについては、今年の鈴鹿1000kmで言えば、空力的には日本が有利になっている。ヨーロッパの場合には少量生産車でやっているからもともとのクルマの性能は高いけれど改造範囲は狭い。パワーウェイトレシオは向こうのほうがいいけれど、ラップタイムは日本のほうが速いというかたちだったんですね。ただ、来年の規則になれば空力的な差もそんなになくなるから、リストリクターと重量で合わせれば、同じクラスで走ってもそんなにおかしくないわけです。そのくらい近いところにいるわけですから、ムリヤリ合わせる必要もないだろうと思います。
 それから、ル・マン24時間というのは世界的に見ても非常に特殊なレースなんです。富士スピードウェイのストレートが4本連続してある、そういう感じなんです。あそこでそれなりにパフォーマンスするためにはかなりのトップスピードを維持しなければならない。そういうクルマでシリーズ戦をできるかというと、過去から明らかなように、できないんです。日本のシリーズ戦のように密度の高いレースというのはとても成り立たないことがわかっているから今のGTCを作っているわけで、それを今さらル・マンに合わせようという気はありません。
 実は、同じことはFIA-GTの人たちも考えているわけです。FIA-GTの人たちも、ル・マンよりはむしろ日本のGTCと一緒にできないかと考えています。先日もミーティングをしましたけれども、彼らもわれわれの考えはよく理解してますね。クルマのレギュレーションを完全にイコールにはできない、それはマーケットが違うからだ、ということは彼らも理解しています」


BACK