2024シーズン、HondaとHRCはGT500クラスに新型マシンのCIVIC TYPE R-GTを送り込んだ。狙うはデビューイヤーでの王座奪還だった。シリーズ前半戦では開幕戦から4連続表彰台で、4戦目には初優勝も達成。だが、第6戦と第7戦は雨に苦しみ、最終的にはタイトルを逃す結果となった。
熱戦が連続した2024シリーズを振り返る総集編「2024 シーズンプレイバック」。第4回はGT500クラスの第2弾はHonda CIVIC TYPE R-GTの5台の活躍を振り返る。
■2024年に投入したCIVIC TYPE R-GTはストレートで強みを発揮する
Hondaは2024シーズン、新たにベース車両をCIVIC TYPE Rとして開発したCIVIC TYPE R-GTをGT500クラスに投入した。昨年までのNSX-GTに対しボディ前端左右が張り出した形状のCIVIC TYPE Rの場合、エンジンルーム内の空間に余裕がある。そこで開発陣はラジエターを2個から1個に減らしてグリル左側の低い位置に置き、グリル右側の低い位置にインタークーラーを並べるというレイアウトに踏み切った。この結果、大幅な軽量化と低重心化が実現した。
開幕に向けたCIVIC TYPE R-GTの開発熟成は、3月の公式テストでは必ずしも順調には進んでいないように見えた。2023年まで使われていたNSX-GTは、ダウンフォースを武器として、コーナリングに強いがストレートではドラッグが大きく最高速が伸びないという特性を示していた。これに対し新しいCIVIC TYPE R-GTは、ダウンフォースが少ない代わりに、ストレートの最高速が伸びるという真逆の基本特性を示した。
開発陣はこうした変化の中でパフォーマンスを最大限に引き出すべく熟成を進めたが、課題がもう1つあった。今シーズンは新たにGT500クラスの車高を引き上げる規則が導入される予定だったからだ。当初、車高の上げ幅は確定していなかったので、Hondaの開発陣は車高の引き上げ幅を大きめに予測して熟成テストを繰り返した。この結果、CIVIC TYPE R-GTのダウンフォース不足傾向が、ベース車両切り替えのためなのか、車高引き揚げの影響なのかの見極めが難しく、熟成は必ずしも思い通りには進まなかった。
最終的に開幕直前になって車高の上げ幅は5mmと決まり、Hondaの開発陣はいくつかテストしていた空力アイテムのバリエーションの中から1つを絞り込んでホモロゲーションを取得、開幕を迎えた。そこからの限界性能の追求はシーズンを闘いながら進めていこうという戦略であった。
■開幕戦から3連続表彰台で挑んだ第4戦で8号車が完勝でCIVIC初勝利を挙げる!
熟成に苦慮したとはいえ、開幕戦を迎えたCIVIC TYPE R-GTは順調に走り始めた。岡山国際サーキットの公式予選では、8号車ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT #8(野尻智紀/松下信治)がポールポジションを狙えるペースでタイムアタックしたものの、走路外走行(4輪逸脱のオーバーラン)によりタイムが抹消され最後尾スタートとなった。しかし100号車STANLEY CIVIC TYPE R-GT(山本尚貴/牧野任祐)はCIVIC TYPE R-GT勢の最上位の3番手に食い込み、決勝でもポジションを守ったままレースを走りきって3位に入賞。CIVIC TYPE R-GTのデビュー戦で表彰台に上がってその基本性能の高さを証明した。
だが100号車の山本は不本意だったようだ。「シビックのデビューレースで優勝ができなったので、心中は複雑です。レースをやっている以上は勝たないといけないし、デビューレースは一生に一度なので。ただ、去年、僕が途中からレースを離脱したり、シーズンオフに体調不良で牧野選手が休んだりと、チームとしてベストな状態で過ごせていなかったことを考えると、ここまで持ってこられたのはチームの力だと思います。今後さらに力をつけて、自分たちの手でCIVICの初優勝を飾れるよう、がんばります」と、それでも今後のCIVIC TYPE R-GTに期待を語った。
続いて富士スピードウェイで開催された第2戦では、17号車Astemo CIVIC TYPE R-GT(塚越広大/太田格之進)が公式予選で、実戦デビュー2戦目のCIVIC TYPE R-GTにとって初めてのポールポジションを獲得した。Q1では太田は1位タイムを記録し、Q2も塚越が3位で、合算タイムで最速となった。塚越は「CIVIC TYPE R-GTに変わって、オフにクルマを作り上げてきて、少し気温が上がってきてなかなか速く走らせることができていませんでした。それに開幕戦ではちょっと不運なアクシデントで走れなかったというのもあったし、いろいろ第2戦に向けて見直しました。その甲斐あって公式練習の走り出しからすごく調子がよかったので、さらにセットアップもいい方向に進めることができました」と、高速系の富士においては準備してきたものが上手くはまったようだった。
決勝では、17号車と8号車が激しく3番手争いを繰り広げたが、8号車がミッショントラブルで戦列を離れた結果、17号車が3番手のポジションでレースを走りきってCIVIC TYPE R-GTは2戦連続で表彰台に上がった。
鈴鹿サーキットで開催された第3戦では、公式予選で16号車ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GTが2番手、8号車が4番手につけて決勝レースを迎えた。2番手からスタートした16号車ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT #16(大津弘樹/佐藤蓮)はタイヤ消耗に苦しんで順位を落としたが、それでも3位でフィニッシュ。CIVIC TYPE R-GTは3戦連続で表彰台に上がった。
真夏の太陽が照りつけて過酷なコンディションとなった富士スピードウェイで開催された第4戦では、8号車がCIVIC TYPE R-GTにとって2度目のポールポジションを獲得。2番手には100号車、3番手に64号車 Modulo CIVIC TYPE R-GT(伊沢拓也/大草りき)が続き、ストレートスピードが伸びるCIVIC TYPE R-GT勢がその特性を活かし1-2-3体制でスターティンググリッドについた。
決勝レースではスタートから8号車がトップに立って逃げ、ポジションを譲ることなく優勝を遂げ、100号車もこれに続いて、CIVIC TYPE R-GTはデビュー4戦目にして初めての優勝をワン・ツーフィニッシュで飾った。
野尻は「僕らは途中でどこか歯車が噛み合わなくなるという過去のレースがいくつかあるんですが、今回はそういうものを寄せ付けないくらい、8号車がこのレースに勝つんだという雰囲気も作りたいなと思っていました。終始フルプッシュで後続の100号車を離すために走っていました。自分のスティントとしては、思ったとおりにギャップも広げられ、やれることは最大限やれたというところです。ここまでチームでトラブルがあっても、すごくしっかりと前を向いて今日のためにクルマを作ってきてくれた。そういう意味でもチームに感謝ですし、HRCにも感謝。CIVICの初優勝というところでは少しお待たせしたと思いますが、我々が達成できたので非常にうれしく思います」と、皆への感謝とCIVIC TYPE R-GTの初優勝を喜んだ。
■シーズン後半戦は雨が連続し、新型車ゆえのデータ不足もあって苦戦が続く
8月31日から始まるはずだった第5戦鈴鹿は開催週に入ってから台風10号の接近により、中部地方に警戒情報が出されたため、週末の第5戦は12月7、8日に延期となった。
この長いインターバルを置いて9月第4週にスポーツランドSUGOで開催された第6戦からシリーズ後半戦が始まった。その第6戦だが土曜は悪天候に見舞われ、午後の公式予選がキャンセルとなった。このため、土曜日午前中の公式練習で記録したタイムで決勝レースのスターティンググリッドを決める異例の措置がとられた。CIVIC TYPE R-GT勢は、公式練習でセッティングを進めようとしていたが悪コンディションの中では十分走り込めず、タイムが伸び悩み、決勝グリッドは6番手の64号車が最上位で他は10番手以下となった。ウェットコンディションで始まった決勝レースは途中で路面コンディションが好転していく中、10番手スタートだった17号車が一時期2番手まで順位を上げたがペナルティで後退。11番手スタートの100号車が5位でレースを終えた。これでCIVIC TYPE R-GTの連続表彰台も、残念ながら途切れてしまった。
このSUGOは事前のテストもなく、新型車のCIVIC TYPE R-GTは走行データを持ていなかった。しかも土曜も十分に走れなかっただけに、陣営としてもかなり厳しいラウンドだったことは想像に難くない。
第7戦が開催されるオートポリスも悪天候となり、土曜日の走行はキャンセルとなり、日曜日朝に設けられた各30分間の公式予選でスターティンググリッドを決める変則開催となった。このオートポリスでもCIVIC TYPE R-GTは、データがないままのレースとなった。
それでも予選4位に17号車がつけ、決勝レースでも3番手まで順位を上げたが、接触からコースオフし走行不能となってレースを終えてしまった。代わって予選7位の100号車がCIVIC TYPE R-GT勢トップの3番手に順位を上げたが、サクセスウェイト(SW)が86kgとかなり積み重なっていたため、レース終盤でSWの軽いライバル車にオーバーテイクを許してしまい、表彰台にあと一歩届かない4位でレースを終えた。
■Hondaホームのもてぎで雨の予選ワン・ツー!晴れの決勝は8号車が2位に食い込む
モビリティリゾートもてぎで開催される第8戦は、本来シリーズ最終戦となるはずだったが、第5戦が延期されたので最終戦前のレースとして全車SWが半減のうえ開催されたが、今回も公式予選が行われる土曜日はヘビーウェットコンディションとなった。ここでは64号車がポールポジションを獲得、2番手には8号車が続き、CIVIC TYPE R-GTがフロントローを独占した。
晴天となった決勝レースでは、ポールポジションからスタートした64号車のペースが上がらず順位を落とし、8号車がCIVIC TYPE R-GT勢最上位の2位表彰台を獲得した。100号車は6位となり選手権ポイントを加算し、CIVIC TYPE R-GT勢としては唯一シリーズチャンピオン争いに残ってシリーズ最終大会を迎えることとなった。
延期された第5戦は12月7、8日に、鈴鹿サーキットでシリーズ最終戦として開催された。真冬の鈴鹿サーキットは好天に恵まれはしたが、予選の走行前で気温14度、路面温度24度と厳しいコンディションとなった。100号車がランキングを逆転してチャンピオンとなるためには決勝レースでの優勝が絶対条件で、しかも予選でもランキングトップの36号車 GR Supraとのポイント差が2点以上増えたら、その時点でチャンピオンは彼らのものという厳しい状況だった。
そして公式予選で36号車がなんとポールポジションを獲得。この瞬間に100号車の逆転チャンピオンの可能性は消滅した。決勝レースも36号車がグリッド最前列から優勝。レース後半に17号車が背後まで迫るも及ばず、CIVIC TYPE R-GT勢としては2戦連続の2位で最終戦を終えた。100号車は4位、16号車が5位。
その結果、シリーズランキングでは100号車は2位、8号車は9位、17号車が10位とトップ10以内は3チームで、CIVIC TYPE R-GTのデビューシーズンを締めくくった。
シーズン前半戦は4連続表彰台、4戦目にして初優勝と期待感が高まった新型車CIVIC TYPE R-GTだったが、後半戦は天候のいたずらも続き、新車ゆえデータと熟成不足も相まって苦戦の連続となった。それでもラスト2戦のもてぎと鈴鹿は経験あるコースで連続表彰台と結果を出している。このオフでの走り込み、そして2025シーズンに向けてのアップデートが決まれば、また数段速くなったCIVIC TYPE R-GTをHonda陣営の各チームは見せてくれるはずだ。
※次回は「GT500クラス総集編最終回:TOYOTA GR Supra GT500の2024年」をお送りします。
4/13-14 | Round1 OKAYAMA | |
5/03-04 | Round2 FUJI | |
6/01-02 | Round3 SUZUKA | |
8/03-04 | Round4 FUJI | |
9/21-22 | Round6 SUGO | |
10/19-20 | Round7 AUTOPOLIS | |
11/02-03 | Round8 MOTEGI | |
12/07-08 | Round5 SUZUKA |