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2016.12.15
【SUPER GT 2016 総集編】GT500クラス第1回「日産GT-Rの戦いを振り返る」

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先週までのGT300クラスの総集編に続き、今週からは3回に渡ってGT500クラスの2016年シーズンを振り返ってみたい。GT500クラス編は、GT-Rの日産勢、NSX CONCEPT-GTのHonda勢、そしてRC Fのレクサス勢と3つの陣営ごとに解説していきたい。
第1回は、3連覇を狙っていたNo.1 MOTUL AUTECH GT-Rを中心に、今季8戦でライバルを上回る5勝を挙げた日産GT-R勢の1年を追うとともに、NISMOの鈴木豊監督にこの1年を総括してもらう。

 

■開幕から4連勝と圧倒の成績を見せた日産GT-R勢

 

 2016年の日産GT-R勢は、No.1 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)が、開幕から連勝。No.24 フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-R(佐々木大樹/柳田真孝)も2勝し、No.12 カルソニック IMPUL GT-R(安田裕信/ ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)が1勝と計5勝を記録した。シーズン前半は、GT-R同士のトップ争いが何度も見られ、このままならGT-R勢として3連覇の可能性は高いと誰もが感じていただろう。

 

 

 開幕戦の岡山では、チャンピオンのNo.1 MOTUL AUTECH GT-Rが予選3番手からスタート。前半をクインタレッリが追い上げ、ピットインでは定評のあるNISMOらしいピットワークで逆転。後半を松田が安定して走る。この鉄板パターンで幸先良く1勝目を掴んだ。更に彼ら以上に目立ったのは、GT500のデビュー戦となったNo.46 S Road CRAFTSPORTS GT-Rの千代勝正だ。本山哲のパートナーに抜擢された彼は、前日の予選でもQ1でトップタイムをマークして、早速注目を集めた。4番手で46号車を引き継いだ千代は、猛プッシュで前を行くNo.6 WAKO'S 4CR RC Fを相手に、サイド・バイ・サイドの接近戦を繰り広げ、見事に攻略。続いて2番手のNo.37 KeePer TOM'S RC Fもテール・トゥ・ノーズで攻め立てる。ここは一歩及ばなかったが、それでもチームを3位表彰台に導く活躍で、“師匠”本山からも「千代の走りは100点!」と絶賛された。

 

 

 第2戦は、決勝日に5万人を超える大観衆を集めた富士。ロードラッグ仕様の空力セットにアドバンテージが有ると言われていたGT-R勢が、やはり活躍を見せた。予選はNo.12 カルソニックIMPUL GT-RとNo.46 S Road CRAFTSPORTS GT-Rがワン・ツー。さらに40㎏のウェイトハンディを搭載したNo.1 MOTUL AUTECH GT-Rも4番手につける。
 だが、決勝ではGT-R勢に不運が降りかかる。110周のレースも終盤に差しかかった72周目、他車のタイヤバーストにより、タイヤやマシンの破片がコース上に散乱し、セーフティカー(SC)が導入された。この時、2度目のピットインを予定していたNo.46 S Road CRAFTSPORTS GT-Rはガス欠のリスクを背負ってしまい、ペナルティ覚悟でピットイン。結局、90秒のピットストップペナルティを課されて、上位から脱落。このSCランで、No.12 カルソニックIMPUL GT-Rが稼いでいたマージンが帳消しとなり、2番手のNo.1 MOTUL AUTECH GT-Rが急接近。最後のピットインを終えると、2台のポジションは逆転。しかし12号車(デ・オリベイラ)は再度トップを奪い返す。だが、1号車(クインタレッリ)も食い下がる。そしてラスト4周、猛追撃をしのいでトップを走っていた12号車の左リアタイヤのバーストにより、壮絶なGT-R同士のトップ争いは思わぬ幕切れとなり、No.1 MOTUL AUTECH GT-Rの2連勝となった。

 

 

 第3戦が予定されていたオートポリスは熊本地震により中止。次なるレースは第4戦のSUGOとなった。ここではNo.24 フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rが大逆転で勝利する。予選での24号車は9位。さらに柳田真孝が決勝3周目に他車との接触からスピン。一時は13番手までポジションを下げる。柳田がここから奮起し、30周目には6番手までリカバーしてピットイン。そこで近藤真彦監督はタイヤ無交換作戦を採り、後半を佐々木大樹に託す。トップへ浮上した25歳の若きエースは苦しみながらも、No.39 DENSO KOBELCO SARD RC FらRC F勢の猛追を懸命にしのぐ。その時、GT300車両のクラッシュにより5周早くレース終了となり、24号車は逃げ切ることに成功した。

 

 

 第5戦は再び富士。GT-R勢はシーズン2基目のエンジンを搭載して臨んだ。そこではNo.12 カルソニックIMPUL GT-Rが第2戦の雪辱とばかりに、ポールポジションからライバルを圧倒する走りで独走優勝。No.1 MOTUL AUTECH GT-Rも84㎏ものウェイトハンディを搭載しながらも4位入賞を果たす。
 その一方でNo.24 フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rは電気系のトラブルでリタイア、No.46 S Road CRAFTSPORTS GT-Rはメカニカルトラブルから1コーナーでクラッシュと不運に見舞われる。「信頼性の確保を重点項目」とGT-R開発の指揮も執るNISMOの鈴木豊監督がシーズン当初に語っていただけに、頭の痛い一戦となってしまった。
 とは言え、2017年前半は開幕から土つかずの4連勝と、GT-R勢はライバルを圧倒して見せた。

 

 

■一転して厳しいシーズン後半戦。もてぎでの第3戦で5勝目をマーク

 

 1000kmとシリーズ最長の第6戦の鈴鹿は厳しいながらもボーナスポイントが獲得できるだけに、各チームとしては勝ちたいレース。だが、この時点でポイントリーダーのNo.1 MOTUL AUTECH GT-Rはウェイトハンディが100㎏となり、この点でも厳しさが増す。

 

 

 レースは、RC F勢にNo.46 S Road CRAFTSPORTS GT-Rが挑む形になった。だがドライバーの千代は前戦のクラッシュのケガが完治していないとドクターストップとなり、23歳の高星明誠が代役として急遽ドライブする事となった。GT300では勝利も挙げている高星だが、GT500マシンはこのレース週が初ドライブであった。しかし、練習走行で20周ほど走って臨んだ予選Q1を、見事7位で突破。続く本山も渾身のドライビングで予選2位を獲得。決勝ではペナルティもあったが、今季2度目の3位表彰台に上がった。

 一方、No.1 MOTUL AUTECH GT-Rは、100㎏のウェイトハンディを感じさせない走りで、4番手で最終ラップを迎えていた。たが最後の最後でガス欠症状が発生し、ゴールまであと少しという所でマシンはストップしてしまい6位という結果になった。シーズンを終えた今だから言えることだが、ここでチェッカーを受けていれば“最後の結果も変わっていたのでは…”と思わずにはいられないシーンであった。

 

 

 次は海外開催となるタイのチャン・インターナショナル・サーキット。第7戦ではあるが、開催数としてはシーズン6戦目となり、ウェイトハンディはこの大会までポイント×2kg。No.1 MOTUL AUTECH GT-Rには引き続き100㎏のウェイトが載せられたまま。他の3台のGT-Rも50㎏前後のウェイトを積む。
 決勝ではNo.12 カルソニックIMPUL GT-Rが予選3位からレース序盤を表彰台圏内で走行。だが、ピットイン時のペナルティでドライビングスルーを課せられ、ポジションを下げてしまい4位となってしまった。他の3台は入賞できず得点獲得はかなわなかった。

 

 

 最終戦となるもてぎは、土曜日にオートポリス大会の代替戦として第3戦が行われ、日曜日に第8戦(最終戦)を行うという変則スケジュールでの開催となった。このもてぎに持ち込まれたGT-Rには、シーズン3基目のエンジンが搭載された。もてぎのコースはGT-Rにとって苦手な部類ではあるが、ウェイトハンディが第3戦はポイント×1kg、日曜の最終戦は無くなるだけに、GT-R本来の強さが再び見られるのではと思われた。

 

 

実際、第3戦ではNo.24 フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rが、予選2位から再びタイヤ無交換を敢行して今季2勝目を勝ち獲る。GT-R勢としては5勝目、最終戦を残してシーズン最多勝を決める。GT-R開発も担当するNISMOの鈴木監督も「やはり(GT-R勢として)今季のベストレースは第3戦のもてぎです。特にレース後半を担当した柳田のドライブが凄かったと思います」と絶賛。しかし、他の3台は7、8、9位と上位入賞を逃してしまった。

 

 そして翌日の最終戦では4台のGT-Rは全車入賞を果たしたものの、No.46 S Road CRAFTSPORTS GT-Rの6位入賞がベスト。No.1 MOTUL AUTECH GT-Rは7位、No.12 カルソニックIMPUL GT-Rは8位、No.24 フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rは10位と下位に留まった。 そして結果的として、GT-R勢は今季のタイトルを逃すこととなった。

 

 

■総評はタイトルを逃したから“0点”も年間5勝でなんとか及第点

 

 シーズンが終了した今、NISMOの鈴木監督にGT-R勢の今期の評価を改めて聞いてみた。
「本当なら(チャンピオンを獲れなかったことで)0点と言ってもいいです。しかし、各チームもドライバーも、全員が頑張ってくれましたし、シーズン5勝を挙げたことで、なんとか60点(及第点)というところです」と苦笑する。
 そしてもてぎで投入した総決算のエンジン(今季3基目)に関しても「自分たちでは想定通りでしたが、ライバル(RC F勢)の上げ幅の方が大きかったようです」と潔くライバルを讃えた。

 


開幕戦岡山優勝でファンの声援に応えるドライバーと鈴木監督

 

 もはや気になるのは終わったシーズンより、一新される2017年のGT-Rだろうか。鈴木監督は言う。 「現在開発を進めているところですが『ライバルとの力関係が、まだ見えてきていない(から良い悪いは言えない)』というのが正直なところです。この後、海外も含めて(3メーカーが)一緒にテストを進めていく中で、見えてくると思います」と前向きだった。
 最後に「3連覇を期待して今シーズン応援してくれた日産ファンの皆さんには『本当に申し訳ありません』と言いたいです。でも、来シーズンはその分も喜んでもらえるよう今から(新型車両の開発を)がんばっていきます。これからも応援をよろしくお願いします」と、早くも来季のタイトル奪還を意識したコメントを寄せてくれた。

 


2017年型GT500マシン「Nissan GT-R NISMO GT500」テスト車両
最終戦もてぎの新型車発表会にて

 

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