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2016.12.22
【SUPER GT 2016 総集編】GT500クラス第2回「Honda NSX CONCEPT-GTの戦いを振り返る」

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先週の日産GT-Rに続き、第2回ではGT500クラスのHonda NSX CONCEPT-GT勢の2016年シーズンを振り返ってみる。ライバルたちとは違って、ミッドシップレイアウト、そして昨年まではハイブリッドシステム搭載と独自路線を歩んだHonda。だが、今季はハイブリッドを降ろすことになった。マシンが変わったことが、どういう影響を及ぼしたのか? Honda NSX CONCEPT-GT勢の1年を追うとともに、Hondaの松本雅彦GTプロジェクトマネージャーにこの1年を総括してもらう。

 

■新たなパッケージでスタートを切ったHondaの2016年シーズン

 

 Honda NSX CONCEPT-GTは、ライバル達と共通のモノコックを使用しながらも、エンジンをミッドシップにマウントして後輪を駆動(MR)するレイアウトを採用。さらにGT500クラスのマシンとして唯一、ハイブリッドシステムを搭載する車両として、2014年に登場した。そのチャレンジによって、思いの外に開発に時間が取られ、昨年までの2シーズンでは、苦戦を強いられる事もあった。
 だが今シーズンを前にして、ハイブリッドシステムを非搭載として2016年を戦うことが公表された。これはバッテリーを供給するメーカー側に問題が生じたためで、代替品やHonda自体でのバッテリー製造まで検討したというが、無理があると言うことでの断念となった。
 そして、ハイブリッドシステムを搭載しない今季のHonda NSX CONCEPT-GTは、規定による最低重量を1077kgから1049kgへと軽減されることとなった。

 

 

 

■苦しんだシーズン序盤。だが、第4戦SUGOでは持ち前の速さを見せる

 

 こうして迎えた開幕戦の岡山は、NSX CONCEPT-GT勢にとって厳しい結果となった。公式予選では、5台すべてがQ2への進出を逃し、決勝レースでもNo.100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/伊沢拓也)の10位がベストリザルト。
 この結果にHondaのSUPER GTプロジェクトを統括する松本雅彦プロジェクトリーダー(PL)は、こう振り返った。「元々NSX CONCEPT-GTは、岡山やもてぎのようにタイトなコーナーが多くストップ&ゴーの比重が高いサーキットは得意ではなかったのですが、それにしても開幕戦は完敗でした。エンジンのパワーが足りなかったことだけではなく、クルマの基本的なセットアップが十分ではなかった」。ハイブリッドシステムが非搭載となり、エンジンにはこれまで以上に低回転域からのトルク特性が問われるようになったが、開幕戦ではその辺りが不足していたようだ。

 

 

 第2戦の富士では、予選6位のNo.15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT(武藤英紀/オリバー・ターベイ)を筆頭に3台がトップ10入りとなる。高速コースという富士のレイアウトが、NSX CONCEPT-GTが持つコーナリング性能とマッチし、ポテンシャルを十分に発揮する形となった。レースではNo.17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/小暮卓史)とNo.15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT、No.8 ARTA NSX CONCEPT-GT(松浦孝亮/野尻智紀)が8番手から10番手を走行。終盤7番手を争った15号車と17号車が、接触してレースを終えてしまう(周回数では完走扱い)。No.100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTもレース中盤にタイヤトラブルでリタイア。結局、8号車の6位が、NSX CONCEPT-GT勢のベストリザルトだった。

 

 

 第3戦に予定されていたオートポリス戦は熊本地震により中止となった。これにより、第4戦SUGOまでは2ヶ月以上インターバルが開き、その間にSUGOと鈴鹿で実施された公式テストでNSX CONCEPT-GT勢の立て直しが図られた。そして、バージョンアップした今季2基目のエンジンを第4戦SUGOで投入する。
 この第4戦では、公式練習でNo.100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTがトップタイムをマーク。このセッションではNo.8 ARTA NSX CONCEPT-GTも3番手と手応えある滑り出しとなった。そして公式予選においてはQ1で100号車が2位、No.17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT、No.15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTが4、5位でQ1を突破。また、No.64 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット)は10位とまずまずの結果だった。そして、Q2では17号車が2位を奪った。
 決勝ではフロントローからスタートした17号車が序盤一時トップを走るも、他車と接触してしまい、大きくポジションを下げる。だが、ポイント圏外から猛チャージを見せた17号車は6位でフィニッシュ。序盤のアクシデントがなければ、勝利もあり得ただけに、今となっては大いに悔やまれるレースとなった。予選5位の15号車も7位入賞を果たしている。

 

 

■好レースが続いた中盤戦。第6戦鈴鹿はポール、第7戦タイは2位に

 

 SUGOで17号車がフロントローを奪うなど浮上のきっかけをつかんだNSX CONCEPT-GT。第5戦の富士から第6戦鈴鹿1000㎞、第7戦タイと速さをアピールするレースが続くことになる。

 

  

 

 8月上旬に行われた第5戦富士では、予選Q1でNo.17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTとNo.15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTが3、4位、No.100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTも7位で通過。Q2でも17号車、15号車が4、5位とまずまずのグリッドを獲得。決勝でも優勝こそ叶わなかったが、17号車が2位、100号車が3位となり、NSX CONCEPT-GTにとっての今季初表彰台は、一気に2台が上がることとなった。

 

 

 続く第6戦鈴鹿はシリーズ最長となる1000㎞レースだ。鈴鹿で7月上旬に行われた公式テストでは、初日にNo.15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTが、2日目にはNo.8 ARTA NSX CONCEPT-GTがトップタイムを記録するなど、好感触を得ていた。
 実際、本番のレースでも走り始めから好調を示し、公式予選では3台がQ1突破を果たす。No.15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTの武藤英紀がコースレコードを更新する好タイムで、NSX CONCEPT-GTにとって今季初となるポールポジションを獲得した。
 だが、不順な天候に翻弄された決勝レースでは、各チームがタイヤとコンディションのマッチングに悩み、タイヤのゴムの削れカスが再びタイヤに付着して振動を生じてしまうピックアップも頻繁に生じて苦戦。ポールポジションの15号車は序盤こそトップを走るが、以降はペースが上げることが出来ない。結局、レース中盤に生じたトラブルによってリタイア。予選は13位から着実に1000kmを走りきったNo.100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTの7位がNSX CONCEPT-GTのベストリザルトとなった。

 

  

 

 第7戦は海外遠征のタイ、チャン・インターナショナル・サーキットでの戦い。ここで話題になったのは、このレースでGT500にデビューする19歳の若者だ。昨年はFIA-F4選手権でチャンピオンを争い、今シーズン全日本F3選手権にフル参戦する牧野任祐だ。前戦鈴鹿でGT300クラスの第3ドライバーとしてGT初参戦。この予選Q1で、いきなりコースレコードを更新するトップタイムをマークして周囲を驚かせた。そして、このタイから欠場となったオリバー・ターベイに代わり、No.15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTのステアリングを握ることとなった。タイに来て初めてNSX CONCEPT-GTを、いやGT500マシン自体を初めて走らせた牧野だが、予選のQ2でなんと2番手のタイムを記録。それもわずかの差でポールポジションを逃したと大いに悔しがって見せた。
 彼のパフォーマンス自体も注目であったが、NSX CONCEPT-GTとしても全5台がトップ10に入り、そのポテンシャルが引き上げられたことが証明された。
 決勝でも15号車は武藤がきっちり2、3番手を走り、後を受けた牧野はポジションを2番手に上げる。そこからペースを上げて、トップを追撃。逆転とはならなかったが、その差をかなり詰める猛追にタイの観客も大いに盛り上がった。
 GT500デビュー戦で2位表彰台という快挙を成し遂げた牧野に対し、松本PLも高評価を与えている。「鈴鹿での今季初ポールもベストレースの候補でしたが、決勝は残念な結果になってしまいました。次のタイでは予選2位、決勝2位。これが我々にとっては今シーズンのベストレース。中でもデビュー戦だった牧野選手は、100点満点の仕事をしてくれましたね」
 また、No.64 Epson NSX CONCEPT-GTも予選8位から追い上げ、彼らにとっての今季ベストリザルトである5位に入る快走を見せた。

 

 

 いよいよ最終戦もてぎを迎えるが、オートポリスでの第3戦が中止となったため、この週末はその代替戦も組み込まれ、2レースの大会となった。競技規則では、ここまでの参戦数によってウェイトハンディが決められるため、土曜日の第3戦はポイント×1kgで、日曜の第8戦(最終戦)はノーウェイトという条件の違うレースとなる。ハンディキャップの大きいチームにとっては難しい条件ではあったが、逆にNSX CONCEPT-GT勢においてはチャンスでもあり、この連戦で初優勝を予想する関係者もあった。
 だが、第3戦はNo.100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTの予選4位、決勝10位が最高位。最終戦もNo.17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTの予選10位、決勝11位が最高位と、非常に残念な結果で2016年シーズンを終えることとなった。

 

■速さを見せることもできたが、未勝利だけに今季は厳しい評価に

 

 今シーズンのNSX CONCEPT-GTは、「ハイブリッド非搭載によるシャシーの基本セットアップと、エンジンの、特に低回転域でのトルク特性向上が大きなテーマ」と松本PLは語った。だが、結果は未勝利、予選においてもポールポジションは1回と、シーズンを通して全体的にライバルに後れを取ってしまう形となった。
 その中、バージョンアップしたエンジンを投入した第4戦SUGOと第7戦タイでは、速さというパフォーマンスは披露できた。とは言え、「1基目のエンジンでの出遅れを最後まで取り戻せなかった」と、今季の状況を松本PLは語った。「未勝利に終わったこともあって、とても及第点はつけられないですね」
 総合評価においても、松本PLは厳しい言葉でまとめた。

 

 そこで、気になるのは、来シーズンのHondaのマシン。ベース車の新「NSX」の発売が正式に決まり、GT500マシンの名称からも“CONCEPT”の文字が外されて来季は「NSX-GT」となる。
 だが、松本PLは「規定が変わるといっても基本的な考え方は(2016年仕様からの)発展モデル。3年間の悔しい思いを糧に開発していきます。(少し具体的に言えば)エンジンのトルク特性をより最適化することとシャシーの基本セットを追求すること」と、2017年の新型車のコンセプトを説明した。
 


12月14日に発表された2017年に参戦する16号車NSX-GT(発表会後のテスト走行より)

 

 そして、まだ今季と言える12月14日。ツインリンクもてぎでHondaの発表会がいち早く行われた。2チームのみの先行発表で、今季で撤退となった15号車に代わって新規に参戦するTEAM MUGENの16号車NSX-GTと、NAKAJIMA RACINGの64号車NSX-GTの姿がお披露目された。そして16号車は、ヨコハマタイヤを装着することも明らかにされた。このヨコハマタイヤの使用に関して、Hondaのモータースポーツ部の山本雅史部長は「戦略の幅を広げて、何としても勝ちを狙っていく」と説明。
 Hondaの“強い意志”が感じられる言葉と行動が、早くも見えたことでファンにとっては2017年の開幕が待ち遠しいことであろう。

 


2017年型GT500マシン「Honda NSX-GT」テスト車両
最終戦もてぎの新型車発表会にて

 

※次回は最終回、2016年のチャンピオンを獲得したレクサスRC Fの戦いを振り返ります。12月29日の公開予定です。

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