News

Special
2017.12.15
【2017年シリーズ総集編】GT300クラス 第3回「タイトルを巡る熾烈な戦い」

【2017年シリーズ総集編】GT300クラス 第3回「タイトルを巡る熾烈な戦い」の画像

決して平坦ではなかったグッドスマイル 初音ミク AMGのタイトルへの道
最終戦もてぎの苦闘と、ライバルたちが2017年の戦いを振り返る

2017年のGT300クラスを振り返る総集編も今回の第3回が最終回。チャンピオンを獲得したNo.4 グッドスマイル 初音ミク AMGの谷口信輝/片岡龍也を中心に、今シーズンのGT300クラスを紐解いてみよう。

 

 

■タイヤの異なる3台のメルセデスAMG GT3が活躍した2017年

 岡山国際サーキットが舞台の開幕戦を終えた後、片岡龍也とともにNo.4 グッドスマイル 初音ミク AMGを駆る谷口信輝は、こんな言葉を口にしていた。「僕らは2011年、2014年とチャンピオンを獲ってきたから、それで行くと今年もチャンピオンだね(笑)。チャンピオン獲りたい!」と。そんな希望が現実となった。
 今年のGT300では、メルセデスAMG GT3勢が好調な滑り出しを見せた。開幕戦の予選でNo.65 LEON CVSTOS AMG(黒澤治樹/蒲生尚弥)がポールポジションを奪い、4号車とフロントローを分け合った。決勝も順位は入れ替えたが、この2台のワン・ツーとなった。もともと岡山とメルセデスAMG GT3の相性は良い。そして、65号車は鈴鹿の第6戦、もてぎの最終戦を制し、そしてSUGOの第4戦ではNo.11 GAINER TANAX AMG GT3(平中克幸/ビヨン・ビルドハイム)も優勝。3台のメルセデスAMG GT3で4勝と、勝率は5割に上る。

 

   

 

 しかし、チャンピオンは1台だけ。それを分けたのは何だろうか? ひとつはタイヤの違い。4号車はヨコハマ、11号車はダンロップ、そして65号車は今年からブリヂストンを装着した。結果論ではあるが、常に安定していたのがヨコハマ。それに準じていたのがダンロップ。そして、右肩上がりでマッチングが進んでいったのが、ブリヂストンだろうか。
 GT300クラスをタイヤの面からみれば、ブリヂストンが5勝、ヨコハマが2勝、ダンロップが1勝となる。一方でポールポジションでは、ヨコハマが5回、ブリヂストンが2回、ダンロップが1回とヨコハマが逆転する。速さではヨコハマを使うチームに分があり、決勝ではタイヤ交換を延ばしたり、無交換などチャレンジができたブリヂストンという図式が見える。またブリヂストン勢はポイントをコンスタントに稼げなかったことがタイトルに届かなかった要因であろう。

 

   

 

   

 

 

 レースの内容からも、4号車の今シーズンのチャンピオン獲得の方程式が見えてくる。一言で言えば“落としたレースの少なさ”である。実質リタイアなし(ノーポイントは1戦)で、それも含め5ポイント以下のレースはわずか2戦だ。その2戦もタイヤトラブルと100kgのウェイトハンディを積んだ1000kmレースと、ある意味納得のいく条件だ。また、決勝でタイヤトラブルが起きたのが第2戦というのも、ウェイトハンディの面からラッキーだったのかもしれない。
 とは言え、他車との接触などによるアクシデント、メカニカルトラブルやピット作業のミスがなかったことも、非常に大きな要因だ。まさにチーム一丸となって、いい仕事をしたと言うことができる。逆に、65号車が第7戦タイでピット作業違反をしていなかったら、No.55 ARTA BMW M6 GT3(高木真一/ショーン・ウォーキンショー)が第4戦SUGOで接触せずに上位入賞できたら、No.51 JMS P.MU LMcorsa RC F GT3が第5戦富士で予選Q1をクリアして決勝を上位で終えていたら…。

 

   

 

   

 

 

■最終戦の裏側に存在した谷口と片岡、4号車の苦闘

 シリーズを終えた時、4号車の片山右京監督は、こう語っている。 「今年はヨコハマの100周年ということもあり、特にAMG GT3の3車はそれぞれタイヤが違うという競争状態で、現場のスタッフが頑張ってくれました。今年は絶対にチャンピオンを獲るんだというのを年頭から目標にしてきて、ドライバーふたりが、いい時ばかりじゃなくて、厳しいレースもあったんですが、厳しい時でさえ常に全力で戦ってくれた。チャンピオンを獲ってきてくれて本当に嬉しく思います」
 その厳しいレースというのは、入賞できなかった2戦以上に、最終戦だったのではないか。ポールポジションを獲得し、序盤は後続を引き離す。ここまでは順調そのもの。しかし、10周を過ぎるとガクンとペースが落ちた。ゆえに早めのピットストップを余儀なくされたが、これは想定内だったという。
「マーキング(予選と決勝スタートで使える)のタイヤが、ロングランには向かないというのは、実は土曜の公式練習から分かっていました。だから、とりあえず予選で1ポイント獲ろうと。ポールポジションの記者会見でふたりがヘラヘラしていたのは、ポールが獲れて良かったというんじゃなくて、半分諦めていたから」と後日、谷口はそう明かす。
 早く入ったピットでは、レースウィークに履いていないハードタイヤを装着。しかも彼らが4本を換えるのに対し、ライバルは無交換、2本のみの交換で済ませピット作業時間を短縮する。ピットイン後は一時4番手まで後退。しかも背後を脅かされ、ワンミスでタイトルを失う状況にまで陥った。ステアリングを握る谷口の心境も穏やかではなかった。
「前にいるクルマが全然抜かせてくれなくて……。あんなに長い間、蓋され(ブロック走行され)ていなかったら、もっと楽な展開になっていたはず。だから、大事に行こうなんて、そんな気はまったくなくて。(抜けば楽になると)分かってはいたけど(タイヤの)グリップがなくて抜けなかった」と谷口は振り返る。その緊張感の中、谷口は相手のワンミスをしっかり捕らえて3番手に浮上したことによって安全圏に入った。

 

   

 

 タイトルを掴み取り、片岡は振り返って言う。
「まわりの人に非常に助けられた1年間だったと思います。最終戦もGT500と交錯して、順位を落とすなんてことも、十分考えられた。でもドキドキするようなことなく、(序盤の)僕はスムーズに逃げることができたので、今までになく楽なレースではありました。ただ、(谷口に)代わってから(状況が)どうなるのか分かっているような、分からないような……、谷口さんには辛いレースだったと思います。レース前は周りから『けっこう楽に(タイトルが)獲れるんでしょう』っていう空気感と、自分の(大変だという)感覚からのズレ。これがかなり辛かった。(レース後半を)こんなに緊張しながら見ていたレースも、今までなかったというか……」と、やはり厳しいレースだったことを明らかにした。
「ホッとしております。ポイントリーダーとして、それなりに差をつけてもてぎに入りましたが、実はまったく余裕がなくて。実際に、苦労して3位になれて、勝てなかった悔しさはあるけれど、今はドッと肩の荷が下りた気分です」と、谷口はタイトルを手にしたレース後にしみじみと語った。

 

> 第8戦 ツインリンクもてぎ 決勝リザルト

> 第8戦 ツインリンクもてぎ 決勝レポート

> 第8戦 ツインリンクもてぎ チャンピオン記者会見

 

   

 

   

 

 

■ライバルたちが振り返る2017年シーズン

 最終戦を勝ち、年間2勝を挙げながらもドライバーズランキング2位で終わった65号車。溝田唯司監督は「最終戦は、私たちができる事すべてを出し切る事ができたと思います。チャンピオンは獲れませんでしたが、今年1年(タイトルを争うこと)でチームも違う景色を見る事ができ、さらに強くなるための課題も見えました」と、次なるステップを見据える。
 やはり2勝するもランキング3位だった51号車。実質の新チーム、新車のRC F GT3、中山もエースの役割は初めてで、相棒はGTルーキーの坪井。タイヤもRC F GT3と初組み合わせと初めてづくしだった。「2回優勝していますが、クルマがすごく速いとか、そういうことではなかったんです。勝った時もものすごく偶然と偶然が重なって、その中で自分たちがチーム力を発揮して得た勝利でした。今年やったことを、さらにみんなが積み重ねて、もっといい段階を踏んでレベルアップしていけば、来年はチャンピオンを狙える位置にいると思います」と、中山は来季の手応えを語る。

 

   

 

 そしてランキング4位、55号車の高木は「ショーンが全部初めてのサーキットだったので、ぶっつけ本番みたいな感じでやっていましたが、順応性がすごく良くて、短い時間でコースを覚えながら、M6の走らせ方を勉強していましたよね。その一方で、全部僕が主導権を握ってやらなくてはいけなかったので、久しぶりに刺激のあるシーズンでした」と振り返った。
 最終戦前にタイトル争いから後退した昨年王者のNo.25 VivaC 86 MC(松井孝允/山下健太)は、1勝2ポールポジションでランキング5位。土屋武士監督兼エンジニアは、分かれ目になった第6戦のクラッシュと復帰の第7戦を振り返る。「データロガーもついていないようなクルマで、いかに自分たちがコツコツと作り上げてきたか、鈴鹿の後にすごく分かった。あの状態に戻すのが、並大抵のことじゃないというか……。積み重ねてきたことの集大成が、あの状態だったんですね」。あれがなければ2位、空輸でやっとタイ戦に間に合わせたマシンは完璧ではなくてノーポイント。松井は「今年は残念だったというか、昨年と鈴鹿までが良すぎただけ。かえって今までとは違った成長をさせてもらえたシーズンでした」と、あくまで前向きにとらえていた。

 

   

 

 この25号車以外にJAF-GT300車両は優勝できず、タイトル争いに日産GT-R勢が加われなかったなど、ずいぶん印象が変わった今シーズン。しかし、谷口と片岡が「(昨年のシリーズ)表彰式でチャンピオンの背中を見る悔しさがバネになった」と言うように、敗者たちの心には逆襲の火が点っているはずだ。来る2018年シーズン。より激しくなるであろう戦いが、もう待ち遠しくてたまらない。

 

> GT300クラス ドライバーランキング

 

 

 

 

【2017年シリーズ総集編】GT300クラス 第1回「シーズン前半4戦を振り返る」

【2017年シリーズ総集編】GT300クラス 第2回「シーズン後半4戦を振り返る」

 


 

次回からはGT500クラス総集編(全3回)として、レクサス、日産、Hondaの1年を開発責任者の言葉と共にレポートします。
第1回はチャンピオンを獲得したレクサス陣営の戦いを、LC500の開発を担当したTRD開発部の永井洋治部長のインタビューと共にレポートします。

Page Top