News

Special
2017.12.26
【2017年シリーズ総集編】GT500クラス 第2回「諦めなかった1勝! GT-Rの苦闘」

【2017年シリーズ総集編】GT500クラス 第2回「諦めなかった1勝! GT-Rの苦闘」の画像

ノーハンディの最終戦でMOTUL AUTECH GT-Rが見せた意地の完勝
苦しんだ序盤戦のGT-R勢。終盤の3戦は1勝、ポール2回と巻き返す

“新型になった年、GT-Rは強い”。そのジンクスを胸に、日産関係者やファンが期待していた2017年。開幕戦で彼らは、まったく逆の衝撃に襲われてしまった。GT500クラスの総集編、第2回は苦戦から始まったNISSAN GT-R NISMO GT500の1年を主要ドライバーと開発担当者の声を交えて、レポートしてみたい。

 

 

GT500 Class | NISSAN GT-R NISMO GT500

■全車がQ1で終わる悪夢の開幕戦。巻き返しに全力を注ぐ

 テクニカルレギュレーション(技術規定)の変更を受け、競技車両が一新されることになった2017年シーズンのGT500クラス。日産は引き続き、フラッグシップであるスーパースポーツのNISSAN GT-Rをベースとした新型車両を投入した。
 参戦チームは昨年と変わらず、ワークスであるNISMOのNo.23 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)を筆頭に、No.12 カルソニック IMPUL GT-R(安田裕信/ヤン・マーデンボロー)、No.24 フォーラムエンジニアリングADVAN GT-R(佐々木大樹/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)、No.46 S Road CRAFTSPORTS GT-R(本山哲/千代勝正)の4台。使用するタイヤは23号車と46号車がミシュラン、12号車がブリヂストン、そして24号車がヨコハマと昨年と変わりはない。
 ドライバー体制の変更では、昨年のGT300クラスでGT-R GT3で1勝を挙げたマーデンボローがステップアップし、安田と12号車をドライブ。その12号車からデ・オリベイラが24号車にコンバートされ、佐々木と組むことになった。

 

 シーズンオフのプライベートテストはGT500クラスの3メーカーが一堂に会することが少なく、またテストの内容、車両の状況も明かされないため、タイムだけでは優劣が判断できないものだ。だが日産の今季のGT500車両、NISSAN GT-R NISMO GT500においては開発進捗が厳しいと言う声が漏れ聞こえていた。実際、3月に岡山国際サーキットで行われた今季初となる公式テストでは、タイムの面でも、日産系チームの表情も、輝いてはいなかった。
 そして迎えた開幕戦岡山。なんとGT-R勢はQ2に1台も進めず。決勝はNSX-GT勢の不調にも助けられて23号車が7位に入賞。だが、決勝のベストタイムでGT-R勢で最速の12号車でさえもLC500の6号車がマークしたファステストよりも1.2秒以上も遅かった。

 

   

 

 開幕戦の“惨敗”を受け、日産系チームを統括するNISMOの田中利和総監督は「空力パーツに関するホモロゲーション(パーツ公認)は3月末で凍結(開発終了)されましたが、それ以外の部分で4月末に凍結されるものに関しては、ぎりぎりまで全力で開発を進めます。また1基目のエンジンはすでに封印(エンジン交換禁止)されていますが、2基目に対してできることを、今まで以上に進めていきます」と“GT-R”のプライドを胸に、諦めないことを宣言した。
 続く第2戦富士。その努力が実ったか、予選では23号車が奮起して2位とフロントロウを手に入れた。Q2で渾身の走りを見せたクインタレッリは「(予選2位は)チームみんなの努力の結果だと思っています。GT-Rが進歩していることは分かっていたのですが、レクサス(LC500)が6台もいるので、まさかフロントロウまでこられるとは」と、自らも驚きを隠せなかった。決勝ではLC500に表彰台独占を許すも、23号車は4位につけた。ベストラップでも、ファステストの36号車(LC500)に対し、約0.5秒差に迫ることができた。
 第3戦のオートポリスでは、46号車が予選2位につける。決勝では46号車が4位、23号車も5位と健闘。まだ道半ばではあったが、GT-Rの戦闘力が向上してライバルに迫りつつあることを感じさせていた。

 

   

 

   

 

 

■折り返しの第4戦で早くも2基目のエンジンを投入

 第3戦から第4戦まで約2カ月のインターバルには2度の公式テストが行われた。ここでGT-Rが顕著な進歩を見せる。特に6月末の鈴鹿テストでは初日に23号車がトップタイム。2日目には2〜4位にその名を連ねてみせた。

 そして第4戦SUGOのパドックで、GT-Rはライバル関係者を驚かせた。早くも2基目のエンジンをここで投入したのだ。今季はシーズン2基のエンジンしか使えないため、早くても第5戦富士、セオリーはレース距離の長い第6戦鈴鹿を区切りにするからだ。
 予選こそ24号車の6番手が最高だったが、決勝は46号車が最後尾から怒涛の追い上げを見せる。3度もセーフティカーが導入されたレースで、46号車は絶妙のピットタイミングを得るという運にも恵まれ、終盤に入る頃には2番手に浮上。猛然と追い上げる本山はラスト2周でLC500の1号車とサイド・バイ・サイドのトップ争いを展開。折しも降ったにわか雨もあって、今季屈指の名勝負が繰り広げられた。46号車は優勝こそ逃すも2位でゴール。今季、GT-R勢初の表彰台に上がった本山は「チームがベストな選択でピットに入れてくれた。GT-Rは2基目のエンジンになり着実に進歩もしているので、こちらもがんばっていかないと」と、GT-Rが戦えることを実感した。23号車も4位で続き、後半戦に向け良い流れを掴んだ。
 第5戦の富士では、23号車が52kgと今季好調なLC500勢5台に次ぐウェイトハンディながら予選2位を獲得。そして、決勝もハンディの軽いNSX-GTの8号車にこそポールから逃げられるも、LC500勢を抑えて2位。GT-R勢として2戦連続で表彰台に上がった。

 

   

 

 そして第6戦の鈴鹿1000kmでも、23号車は見事なレース展開で連続2位となる。予選では24号車がGT-Rとして今季初のポールポジション。しかもダウンフォース削減で今年は出ないだろうと言われたコースレコードタイムを、デ・オリベイラが叩き出して見せる。一方、23号車は予選こそ12位だったが、決勝ではスタートドライバーのクインタレッリが猛然と追い上げ、GT500全車が1回目のピットインを終えると5番手にポジションアップ。レース中盤には2番手を走るも、ピットアウトの際にGT300車両の進路を塞いだとしてドライブスルーペナルティを課せられ、一時は12番手まで後退する。しかし、再度の猛チャージと、上位のアクシデントにも助けられて、結局2位でフィニッシュ。23号車は未勝利ながらも、ここまで全戦入賞してランキングトップに躍り出た。
 クインタレッリは「僕も(松田)次生も、完璧な仕事ができました。ペナルティを受けたのは本当に残念ですが、リカバリーはできたと思います」と、自信を持ってレースを振り返る。松田も「いい流れを断ち切らないようにチーム一丸で戦っていけば、チャンピオンにつながると思います」と、ついにタイトル争いを見据えたコメントを口にした。
 しかし、23号車がポイントリーダーとして臨んだ第7戦のタイは、ウェイトハンディもあって予選11位と厳しいスタート。それでもGT-R勢としては12号車が予選2位からトップのLC500を追う。レース直前のスコールで路面はウエット。雨はすぐに止むも、ほとんどがレインタイヤ選択。ここで6列目スタートの23号車はスリックタイヤを選ぶギャンブルに。だが、序盤の出遅れが予想以上に大きく、タイヤ無交換を敢行するも9位が精一杯。優勝のチャンスがあった12号車だが、残り2周でガス欠というミスでレースを失った。

 

   

 

 

■最終戦で23号車がライバルを圧倒するポール・トゥ・ウイン!

 7戦を終えて未勝利のGT-R。ランキング3位でタイトルの可能性を残す23号車も、日産関係者もGT-Rファンも“とにかく勝ちたい”最終戦もてぎとなった。
 その気持ちがGT-Rに通じたのか、予選Q1は46号車の千代、23号車の松田がワン・ツーを決める。Q2では23号車のクインタレッリが、ただ1台だけレコードタイムを更新する激走。2位の6号車LC500を約0.9秒近く離してポールポジションを獲得した。
 決勝スタート前のフォーメーションラップ中、23号車は後続の6号車と接触し、車体後部を破損するアクシデントでヒヤリとさせるが、走行に大きな影響は出ず。クインタレッリも後半担当の松田も、実質のトップを譲ることなくチェッカーを受け、待望のGT-R今季初勝利を手にすることができた。ウェイトハンディのない最終戦で、ライバル車種に対してGT-Rの強さを証明することとなった。

 

   

 

 最終戦で勝ったものの、今季はタイトルを逃すこととなった。だが、クインタレッリは「シーズン序盤のパフォーマンスから考えれば、よくここまで巻き返せた」と感慨深げ。そして、松田も「間違いなくポテンシャルはアップして、良いレベルに来ている。この流れを継続して、来年こそタイトルを獲り返したい」と、早くも来シーズンを見据えていた。
 確かに、今季のGT-Rは開幕前、開幕戦での“どん底”から這い上がって、最終戦にはライバルと互角以上に渡り合った。一方、パフォーマンスの上がった終盤戦も、GT-R勢全体を見ると4チームの成績はバラバラでクルマの戦闘力が安定しているようには見えなかったのも事実である。
 来季こそ、GT-R全車が開幕からもてぎの23号車のようなパフォーマンスを発揮し、シーズンを盛り上げてくることを期待したい。

 

   

 

 

 

 

NISSAN GT-R 開発責任者が今季を振り返る

「対策した2基目のエンジンを一刻も早く投入したかった。細かい部分を毎戦進化させ、その積み重ねが勝利に繋がった」

NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル) 鈴木豊 監督

 今シーズンは1基目のエンジンに問題があって、トラブルを避けるためにパワーアップを追求できないという状況のまま開幕となりました。この問題は技術的な分析をして、2基目のエンジンではしっかりと対応ができました。この開発を終え、一刻も早く実戦投入しようということで、第4戦のSUGOで2基目に載せ替えました。投入時期が早いことでエンジンのマイレージ(総走行距離)が伸び、(耐久性の面で)チャレンジングな作戦ではありましたが、もちろん(エンジン単体の)ベンチテストでは確認済みでした。
 また空力パーツなど(シーズン中の開発が)凍結されている部分は多いのですが、開発が許されている部分では、毎戦毎戦、進化させていきました。細かいことの積み上げが、最終戦でのパフォーマンスに繋がり、勝利という集大成に繋げることができたと思います。GT-R全体として見るなら、NISMOとMOLAのミシュランタイヤだけでなくブリヂストンやヨコハマ、それぞれのタイヤメーカーさんとチームが一緒になって速くする努力を続けてきたことも大きかったですね。やはりエンジンだけでもなければ、シャシーだけでもない。クルマのトータルとして良いパフォーマンスを見出すことが、良い結果に繋がったのだと思います。
 開幕から3戦を消化した段階(開幕戦で苦戦した車両の基本パッケージ)からの“リバイバルプラン”だったので、どこまで(挽回できるか)とは思っていました。でも、ドライバーもチームも含めて全員が一生懸命やった結果、ここまで来ることができました。チャンピオンを獲れなかった悔しさはありますが、それ以上に『良くやった』『よくやってくれた』と皆に言いたい気持ちです。今年の経験を糧に、来年こそチャンピオンを奪回したいと思います。ぜひ来年も応援をよろしくお願いします。

 


2017年総集編も次回が最終回。GT500クラスの第3回、Honda NSX-GTの今シーズンを主要ドライバーと開発責任者である本田技術研究所の佐伯昌浩SUPER GTプロジェクトリーダーの言葉と共に振り返リます。

 

Page Top