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2017.12.28
【2017年シリーズ総集編】GT500クラス 第3回「悪夢から復活の2勝! NSX-GTの飛躍」

【2017年シリーズ総集編】GT500クラス 第3回「悪夢から復活の2勝! NSX-GTの飛躍」の画像

第5戦はARTA NSX-GTが、第6戦はEpson Modulo NSX-GTが優勝!
未勝利だった2016年、そして悪夢の開幕戦から立ち直り、シーズン2勝を手にする

昨年、Hondaのマシンが全日本GT選手権(JGTC)とSUPER GTで毎年積み重ねてきた年間勝利記録が17年で止まった。そして今年、新たな“NSX”が再び歴史を刻みだした。2017年総集編の最終回は、GT500クラスのHondaが挑んだ“復活”の1年を、主要ドライバーと開発責任者の声を交えてご紹介したい。

 

 

GT500 Class | Honda NSX-GT

■5台全車がトラブルに見舞われた悪夢の開幕戦

 今季はGT500クラスのテクニカルレギュレーション(技術規定)が変更され、3メーカーの全車が新型となった。Hondaは2代目となるNSXが市販されたことを受け、ベース車をこの市販モデルに変更。登録の車両名も“NSX CONCEPT-GT”から“NSX-GT”に変更した。昨年同様にハイブリッドシステムは非搭載だが、“NSX CONCEPT-GT”がハイブリッド搭載前提の基本設計だったのに対し、“NSX-GT”はハイブリット非搭載を前提に設計・開発され、より効率的なレイアウトとなった。

 

 参戦体制は昨年同様に5台の参戦だが、No.15 Drago Modulo Honda Racingが撤退し、代わってNo.16 TEAM MUGENが復帰しチーム構成に変更があった。
 チームとしては、No.8 ARTA NSX-GT(野尻智紀/小林崇志)、No.16 MOTUL MUGEN NSX-GT(武藤英紀/中嶋大祐)、No.17 KEIHIN NSX-GT(塚越広大/小暮卓史)、No.64 Epson Modulo NSX-GT(ベルトラン・バゲット/松浦孝亮)、No.100 RAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/伊沢拓也)となった。

 ドライバーラインナップでは、昨年8号車をドライブした松浦が64号車に移籍。64号車だった中嶋が16号車で、昨年の15号車だった武藤とGT300をCR-Z GTで戦った2012年のGT300以来となるコンビを組む。松浦が抜けた8号車にはGT300の4年間で5勝を挙げた小林が復帰した。
 ドライバーに変更はなかった17号車と100号車だが、共にチーフエンジニアが変わり、100号車は車両メンテナンスガレージも変更された。タイヤでは、TEAM MUGENがHondaのGT500車両としてSUPER GTでは初めてヨコハマタイヤを装着することとなった。それ以外のチームのタイヤは昨年同様で、8号車、17号車、100号車はブリヂストン、64号車はダンロップ。このように、今季は5台すべてのチームで何かしらの変更がなされた。

 

   

 

 昨年は、Honda車(NSX、HSV-010 GT、NSX CONCEPT-GT)が1998年から続けてきた毎年の勝利記録が途絶えるという悔しいシーズンであった。だが、今季は開幕前の公式テストからNSX-GTの速さが注目を集めていた。ことに8号車と17号車が、開発時点で先行していたLC500勢の一角に食い込み、常にトップ5に位置し好調だった。
 その手応えの中、迎えた開幕戦岡山。予選は、赤旗で明暗が分かれた。Q1で5〜7位の8号車、17号車と16号車がQ2に進出。Q2では赤旗が2度も出たが、2度目は終了3分前の16号車のマシントラブルだった。この赤旗前にタイムを出していた8号車がポールポジションを手にする。小林は「確かにラッキーな部分はあったけど、Hondaとブリヂストン、そしてチームががんばってクルマを仕上げてくれたからポールが獲れました」と、NSX-GTの速さもアピールした。
 だが、決勝ではNSX-GT勢は、その幸運と努力が霞む悲劇に見舞われる。フォーメーションラップでポールの8号車、そして17号車、64号車までが突然のストップ。さらに100号車も5周でスロー走行して結局リタイア。予選での16号車も含め全車が、同じ電装系パーツのトラブルだった。「過去3年以上トラブルがなかった実績あるパーツで、問題が発生したことは想定外でした」と、佐伯昌浩SUPER GTプロジェクトリーダーは苦渋の表情。予選後にこのパーツを交換し、7番グリッドから出走した16号車が決勝最上位の9位。ピットに戻され、対応できた17号車と64号車は大きく遅れながらも完走した。
 続く第2戦富士は8号車が予選8位で、他はQ1敗退。決勝では100号車の6位が最上位。NSX-GTにとっては、開幕前の期待と裏腹な序盤2戦となった。

 

   

 

 

■第3戦から3戦連続ポール。そして第5戦で2年ぶりの勝利!

 第3戦のオートポリスを前に、GT500クラスの参加条件が見直され、ミッドシップ車に搭載されるウェイトハンディが15kg軽くなった。そして、開幕から2戦連続で上位入賞を繰り返したLC500各車のウェイトハンディが増えてきた。さらに、このオートポリスはNSX-GTが得意とするレイアウトだ。実際に練習走行から100号車と17号車が速く、予選では100号車がポールを奪っている。決勝でも100号車がハイペースで逃げるが、セーフティカーの導入でマージンを失う不運もあり、100号車は結果3位。しかし、最後尾から猛烈な追い上げで100号車をも抜いた17号車が2位に入り、表彰台の2席をNSX-GTが占めることとなった。「(前に17号車がいるのは悔しいですが)ちゃんとNSX-GTが2台表彰台に上がれたことは大きな意味を持つと思う」とは3位の山本。今後のNSX-GTの躍進に大きな手応えを掴んだようだ。

 そして第4戦SUGOの予選では、ポールの8号車を筆頭に100号車、17号車とトップ3を独占。決勝でも100号車が中盤過ぎまでトップを快走。しかし、今回も3度のセーフティカー導入におけるタイミングの悪さもあって、100号車は下位に沈んでしまい、8号車の5位が最上位。とは言え、NSX-GTの“速さ”を垣間見せるラウンドとなった。

 

   

 

   

 

 その“速さ”が、ようやく結果に結びついたのが第5戦富士だ。公式予選では8号車が2戦連続、第3戦の100号車と合わせてNSX-GTは3戦連続ポール獲得。8号車は決勝でもスタートから快走を見せ、実質トップを譲ることなくゴール。NSX-GTはポール・トゥ・ウインで、LC500の連勝を止めた。ARTAとしては4年ぶりの優勝で、GT300クラスもARTAのNo.55 ARTA BMW M6 GT3がポール・トゥ・ウインとなり、1チームで両クラス完全勝利というSUPER GT史上初の快挙を達成した。野尻は、ブリヂストンとHonda、チームに感謝しつつ「まだフロントの跳ねる感じは残っているので、(今後の対応次第で)クルマの伸び代はまだあると思っています」と、NSX-GTの更なる進化を感じていた。

 

   

 

 

■最後の鈴鹿1000kmで優勝も、ラスト2戦は頂点に届かず

 続く第6戦の鈴鹿もNSX-GTが主役となった。「パワーアップだけでなくドライバビリティも追求した」と佐伯PLが言う2基目のエンジンが、このレースから投入された(100号車のみ第5戦から使用)。練習走行からNSX-GT勢が入れ替わりで上位に進出。予選では17号車の3位がベストポジション。しかし、決勝ではその17号車がライバルを圧倒する快走を見せ、序盤にトップを奪う。2度のセーフティカーでマージンが消えるも、リスタートと同時に、また17号車は後続を引き離す。その後方には64号車が浮上し、NSX-GT勢のワン・ツーでレースは終盤に。ピットインのタイミングで2番手となった17号車が、最後のピットインに向かおうかという147周目、左リアタイヤがバースト。コースアウトしてしまい、勝てるレースを失ってしまう。対して、64号車は追い上げてくるGT-Rの23号車とのマージンを見ながら確実に周回。このまま逃げ切って、チームにとっては10年ぶりとなる優勝を掴んだ。また、予選6位からポジションを上げてきた100号車が、終盤LC500の1号車との激闘を制して3位表彰台に。
 GT500ではここまで1勝と満足いく結果を出せていなかった松浦は、今年移籍した名門チームでの歴史的勝利に「今回優勝できたことで、まだまだ自分がレースでやっていけると自信を持つことができました。本当にいろんな人に感謝しています」と涙声でコメント。そしてレース前には「鈴鹿1000kmは、速さを見せることはあっても、良い(結果を残した)記憶がない」と苦笑していた中嶋悟総監督が、鈴鹿1000kmとしては最後の開催となるメモリアルレースで最高の思い出を胸に刻むことになった。

 

   

 

 ウェイトハンディが半減された第7戦タイでは17号車の予選/決勝での3位がNSX-GTとしてのベスト。これで、最終戦でのタイトル争いから全車が脱落してしまった。ノーウェイトとなった最終戦もてぎでは、予選は100号車の6位、決勝では17号車の4位がベストリザルト。このように終盤2戦は、ライバル勢の後塵を浴びる格好となってしまった。
 それでも、今季は年間2勝、ポールポジション4回を挙げている。昨年の未勝利、ポールポジション1回を考えれば、“復活”といってもいい活躍だった。NSX-GTの2018年シーズンは、次なるステップである“飛躍”を達成し、そしてタイトルの“獲得”に結びつけてくれるだろう。

 

   

 

 

 

 

Honda NSX-GT 開発責任者が今季を振り返る

「第2戦でのパーツ投入がポイントに。開発の方向性を確信し、その後のパフォーマンス向上が連勝に繋がった」

株式会社本田技術研究所 HRD Sakura
佐伯昌浩 SUPER GT プロジェクトリーダー

 開幕戦ではLC500が速かった。ならば『次にノーウェイトで戦う最終戦では互角の勝負ができるように』と、シーズンを通して開発してきました。結果的に優勝2回、ポールポジションも4回奪うことができました。目標だった最終戦でもLC500勢の一角に食い込むことで『開発の方向性は間違っていなかった』と感じています。
 2基目のエンジンでは中速トルクを増やし、またターボラグをなくすようにしてドライバビリティ、具体的にはコーナーの脱出速度を上げられることができるよう開発しました。ドライバーからも『乗り易くなった』とコメントをもらっています。エンジン以外でも、2度のホモロゲーション(パーツ公認)の機会を活かして、空力パーツやサスペンションのジオメトリーなどを改善できるようなパーツを用意しました。あまりテストする機会がなく、実戦でテストするようなところもありましたが、シーズン中盤からはその効果が発揮できるようになる、と考えながら戦ってきました。
 具体的にはオートポリスのタイヤテスト(4月17、18日)の後、第2戦の富士で(新たな公認パーツを)投入することになりました。レース結果としては優勝に届かず今ひとつでしたが、レース中のペースなどから分析して、方向性が間違っていないと確信できました。だからシーズンを通じて大きなポイントとなったのは『第2戦』ということになりますね。そこからエンジンやシャシー、空力も含めてクルマのパフォーマンスが上がっていった結果として富士、鈴鹿の連勝に繋がったと思っています。
 来シーズンに向けては、ハードウェアの方向性はそのまま進化させるとともに、ドライバーのタイプに関わらず、どんなドライビングスタイルでも速く走れるクルマを目指していきます。

 


3回に渡りGT500クラスの総集編をお届けしましたが、3メーカーそれぞれに厳しい戦いを繰り広げていたことが分かっていただけたと思います。すでに来季に向けた車両やタイヤの開発はスタートしており、ドライバーたちもその身を鍛えていることでしょう。
ファンとしては、残りわずかとなった2017年はその激闘の余韻に浸り、年明けからは2018年シーズンの体制発表や車両テストの報に胸を躍らせたいところでしょう。

SUPERGT.netは、2018年も皆さんがレースを存分に楽しめる情報をお届けしてまいります。来シーズンもよろしくお願いします!

 

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