2015年以来のGT500タイトルを目指したNISSAN GT-R勢。
第2戦富士で優勝を挙げ手応えある前半戦だったが、シリーズ後半は苦戦が続いた。
その苦闘の1年を、NISSAN系チームの総監督・田中利和氏のコメントと共に振り返る。
2018年も幾多の名勝負、感動のシーンを繰り広げ、シーズンを終えたAUTOBACS SUPER GT。SUPERGT.netでは、今季を振り返る意味で5回に渡り「2018 シーズンプレイバック」をお送りする。
第3回はGT500クラスのNISSAN GT-R NISMO GT500の戦いを振り返ってみたい。
今季は2戦開催の富士を重点レースとし、2017年正常進化モデルを投入
昨シーズンは前半戦では苦しみ、後半戦で盛り返したNISSAN GT-R NISMO GT500勢。最終戦ではNo.23 MOTUL AUTECH GT-Rがライバルを圧倒する速さでポール・トゥ・ウインを決めた。
今シーズンはその2017年型からの正常進化モデルで臨むこととなった。開幕前、マシン開発も担当するNISMOの鈴木豊監督は「エンジンに関しては(昨年の2基目で)改善し切れていなかったところを改善。エアロ(空力パーツ)は、バランスも見ながらダウンフォースを出す方向で精力的に手を加えてきました」と、そのポイントを語った。
日産系チームを統括するNISMOの田中利和 総監督は「これまでも特性的に合っていた富士で、8月のレース(第5戦)が500マイルになり、ボーナスポイントが付くようになりました。そこで、より富士でポイントを稼ぐことを考えてクルマを開発してきました。またクルマ以外、例えばサテライト(NISMO以外)のチーム力向上なども考え、オフの間に手を加えてきました」と、今年の戦略を語る。
参戦体制は今年も4チーム4台。NISMOのNo.23 MOTUL AUTECH GT-Rは松田次生/ロニー・クインタレッリと変更なし。TEAM IMPULのNo.12 カルソニック IMPUL GT-Rは新エースに佐々木大樹を迎え、ヤン・マーデンボローとのコンビに。その佐々木が抜けたNo.24 フォーラムエンジニアリングADVAN GT-Rは、初のGT500レギュラーとなる高星明誠を抜擢、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラとコンビを組む。46号車(MOLA)に代わって、NDDP with B-MAXがGT300からステップアップし、No.3 CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rで参戦。ドライバーは本山哲/千代勝正をそのまま起用することになった。
目論み通り富士の第2戦で優勝。前半戦は23号車がランキング上位を争う
開幕戦岡山の予選ではGT-Rの4台中3台がQ2進出を果たし、決勝でもジャンプスタートのペナルティもあった23号車と24号車が、最終的には5位、6位にまでポジションを戻してゴール。このレースを田中総監督は「結果は運不運もあるけれど、クルマにタイトルを争うパフォーマンスがあることは確認できました」と、手ごたえはあったと振り返る。
またGT500初レースの3号車が、予選でGT-R勢最上位となる3番手となったことに関しては、大きな収穫だったと田中総監督。「本山と千代、2人の力も大きかったと思いますが、微妙なコンディションでタイヤ選びが難しい状況で3番手グリッドを得たのは良かったですね」。
続く第2戦はGT-Rが得意としてきた富士。今年も期待通りの展開となった。予選では23号車が3位。決勝ではオープニングラップでトップを奪い、最終的には2位に約10秒の大差をつけて優勝を決めた。レース中盤にはNo.39 DENSO KOBELCO SARD LC500に先行を許すも、2度目のピット作業でNISMOの“ピットマンズ”がパーフェクトな仕事を見せNo.39を逆転、チーム総合力の強さも発揮した。
一方で課題もあった。レース後にクインタレッリは「ストレートでもう少し速く走るクルマにする必要がある」とコメント。勝ったレースでありながら、GT-Rの戦闘力をもっと引き上げる必要を感じていたのだ。
第2戦富士で会心の勝利を挙げ、抱き合う田中総監督(左)とクインタレッリ
第2戦の優勝で23号車はランキングトップに立ち、第3戦鈴鹿では唯一、燃料流量リストリクターが1段階絞られた。それもあってか予選は最下位だったが決勝では粘り強く走り、6位まで挽回する。他のGT-R勢では12号車が4位、3号車は7位、24号車も9位と4台揃って入賞を果した。
続く第4戦タイは雨のQ1で12号車の佐々木と24号車の高星、注目の2人がQ1でワン・ツーとなり、タイのGT-Rファンを大いに沸かせた。だが、決勝ではその2台が同士討ち。これで流れを手放してしまい、12号車の6位が精一杯だった。
勝てるレースをトラブルで落とし、マシンの進化でライバルに遅れを取る
そして、重点を置いた富士の500マイル、第5戦を迎えた。予選では62kgものウェイトハンディを背負う23号車(クインタレッリ)がポールポジションを獲得。24号車の高星が2位とフロントローを独占。3号車と12号車も4、5番手と、ここまでは筋書き通りに進んでいた。
決勝でも序盤は23号車がトップを快走。中盤、タイヤの摩耗が厳しくなったか23号車は後退したが、今度は12号車がトップに立つ。そしてラストのピットインが間もなくという時、12号車に吸気系のトラブルが発生して大きくペースダウン。ピットで修復はできたが、2周遅れとなってしまい、12位でレースを終えた。
結果的にGT-R勢の最上位は24号車の6位だった。「(12号車のトラブルは)残念としか言いようがなかったです」と田中総監督。そして「勝てるはずのレースを落とした、ということは自分たちが手に入れていたはずの25ポイントを、ライバルに与えてしまったわけですから…」と、タイトル争いでの痛い失敗を悔いた。
Honda NSX-GTとLEXUS LC500、両ライバル陣営は、この第5戦から今季2基目のエンジンを投入したが、NISSAN陣営は第6戦のSUGOまで引っ張った。これで3戦を、しかもレース距離も300kmの2戦と250kmと短い分、耐久性よりパワーに振った、より攻めたセッティングも可能だ。
そんな戦略を胸に挑んだ第6戦SUGOでは12号車が予選2位。決勝ではマーデンボローがトップを奪ってピットイン。その後、先行するNo.100 RAYBRIG NSX-GTを佐々木が追い上げた。しかし、終盤に最終コーナーでオーバーラン。クラッシュは避けられたが、グリーンに出た際に巻き込んだ芝がラジエーターを覆ってしまいマシンはオーバーヒート気味に。3位ゴールが精一杯だった。「このミスを糧に、今後さらに強いドライバーになってくれるでしょう」と、田中総監督は佐々木のミス自体より、次を期待する言葉を送った。
ラスト2戦、オートポリスともてぎでもNISSAN陣営の目論見は崩れ去った。特に昨年までは“得意”だったオートポリスでは、昨年の開幕戦以来となる4台すべてがQ1敗退という事態に。決勝でも入賞は24号車の7位のみ。「この週末はクルマに速さが足りなかった。それが全て。特に予選でのパフォーマンス不足は大きな課題となりました」と田中総監督は敗因を分析した。
最終戦のもてぎでも、Q2進出は3号車のみ。決勝も23号車が7位、3号車と24号車は9、10位と、満足にはほど遠い内容でシーズンを終えることとなった。
「今季はクルマの競争力がライバルに対して劣っていた。シーズンオフも、シーズンに入ってからも我々はクルマを速くしてきましたが、ライバルの方がもっと速くなっていた。これをしっかり受け止めて、オフにはしっかりと取り組んでいきます」。2018年シーズンを終え、田中総監督はこう総括した。
敗因を分析して対処。来シーズンのGT-Rは、間違いなく期待大
全8戦で優勝1回、ポールポジション1回。タイトル奪還を狙うNISSAN陣営としては、昨年に続いて“惨敗”と言えよう。
敗因を挙げていけば、勝てるレースを落としたこともあるが、最終的にはシーズン後半のGT-R NISMO GT500にパフォーマンスが足りなかったことが大きかった。
シーズン終了後、田中総監督は来季に向け「競争力のあるクルマを準備して、チャンピオンシップ争いに戻ってこれらるよう取り組んでいく」と約束してくれた。“GT-R”というプライドを掲げる彼らが、このままを良しとするはずはない。2019年のNISSAN GT-R勢はこの屈辱をバネにして、車両開発でも、体制面でも、大きな変革と躍進を見せてくれるだろう。
■NISSAN GT-R NISMO GT500 2018年全8戦の記録
No.23 MOTUL AUTECH GT-R
ドライバー | 松田 次生/ロニー・クインタレッリ |
チーム | NISMO |
今季成績 ドライバーランキング8位/チームランキング8位 |
||||||||
Rd.1岡山 | Rd.2富士 | Rd.3鈴鹿 | Rd.4タイ | Rd.5富士 | Rd.6SUGO | Rd.7AP | Rd.8もてぎ | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
予選 | 8 | 3 | 15 | 15 | 1 | 12 | 14 | 9 |
決勝 | 5 | 1 | 6 | 12 | 9 | 7 | 15 | 7 |
ポイント | 6 | 26 | 31 | 31 | 35 | 39 | 39 | 43 |
ランキング | 5 | 1 | 2 | 3 | 6 | 6 | 9 | 8 |
W.H. | 0 | 12 | 52 | 62 | 62 | 70 | 39 | 0 |
※ポイント・ランキングはドライバーのもの。W.H.はウェイトハンディ、単位はkg。 |
No.12 カルソニック IMPUL GT-R
ドライバー | 佐々木大樹/ヤン・マーデンボロー |
チーム | TEAM IMPUL |
今季成績 ドライバーランキング12位/チームランキング10位 |
||||||||
Rd.1岡山 | Rd.2富士 | Rd.3鈴鹿 | Rd.4タイ | Rd.5富士 | Rd.6SUGO | Rd.7AP | Rd.8もてぎ | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
予選 | 11 | 13 | 6 | 7 | 5 | 2 | 11 | 14 |
決勝 | 14 | 6 | 4 | 6 | 12 | 3 | 11 | 11 |
ポイント | 0 | 5 | 13 | 18 | 18 | 29 | 29 | 29 |
ランキング | - | 10 | 10 | 10 | 12 | 11 | 11 | 12 |
W.H. | 0 | 0 | 10 | 26 | 36 | 36 | 29 | 0 |
※ポイント・ランキングはドライバーのもの。W.H.はウェイトハンディ、単位はkg。 |
No.24 フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-R
ドライバー | ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ/高星明誠 |
チーム | KONDO RACING |
今季成績 ドライバーランキング14位/チームランキング12位 |
||||||||
Rd.1岡山 | Rd.2富士 | Rd.3鈴鹿 | Rd.4タイ | Rd.5富士 | Rd.6SUGO | Rd.7AP | Rd.8もてぎ | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
予選 | 6 | 15 | 11 | 4 | 2 | 8 | 13 | 11 |
決勝 | 6 | 13 | 9 | R | 6 | 6 | 7 | 10 |
ポイント | 5 | 5 | 7 | 7 | 13 | 18 | 22 | 23 |
ランキング | 6 | 9 | 13 | 18 | 15 | 13 | 14 | 14 |
W.H. | 0 | 10 | 10 | 14 | 14 | 26 | 18 | 0 |
※ポイント・ランキングはドライバーのもの。W.H.はウェイトハンディ、単位はkg。 |
No.3 CRAFTSPORTS MOTUL GT-R
ドライバー | 本山 哲/千代勝正 |
チーム | NDDP RACING with B-MAX |
今季成績 ドライバーランキング17位/チームランキング13位 |
||||||||
Rd.1岡山 | Rd.2富士 | Rd.3鈴鹿 | Rd.4タイ | Rd.5富士 | Rd.6SUGO | Rd.7AP | Rd.8もてぎ | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
予選 | 3 | 7 | 12 | 9 | 4 | 13 | 15 | 8 |
決勝 | 7 | 10 | 7 | 13 | 15 | 8 | 13 | 9 |
ポイント | 4 | 5 | 9 | 9 | 9 | 12 | 12 | 14 |
ランキング | 7 | 11 | 11 | 14 | 16 | 17 | 17 | 17 |
W.H. | 0 | 8 | 10 | 18 | 18 | 18 | 12 | 0 |
※ポイント・ランキングはドライバーのもの。W.H.はウェイトハンディ、単位はkg。 |
※次回の『2018 シーズンプレイバック』はGT500クラス LEXUS LC500の1年を振り返る。
4/13-14 | Round1 OKAYAMA | |
5/03-04 | Round2 FUJI | |
6/01-02 | Round3 SUZUKA | |
8/03-04 | Round4 FUJI | |
8/31-9/01 | Round5 SUZUKA | |
9/21-22 | Round6 SUGO | |
10/19-20 | Round7 AUTOPOLIS | |
11/02-03 | Round8 MOTEGI |