2010年以来タイトルから遠ざかっていたHonda。 2014年からは2代目NSXをベースにしたNSX-GTで挑むも、苦しいシーズンが続いていた。 しかし、今季は勝利した4レースすべてをポール・トゥ・ウインで決める。そして、No.100 RAYBRIG NSX-GTがチャンピオンとなった。 NSX-GT開発を指揮した佐伯昌浩プロジェクトリーダーと共に躍進の1年を振り返る。
2018年も幾多の名勝負、感動のシーンを繰り広げ、シーズンを終えたAUTOBACS SUPER GT。SUPERGT.netでは、今季を振り返る意味で5回に渡り「2018 シーズンプレイバック」をお送りする。
最終回はGT500クラスのHonda NSX-GTの戦いを振り返ってみたい。
ラジエター搭載位置の変更で重量配分を適正化。そしてもうひとつの策が…
2017シーズンは2勝を挙げたHonda NSX-GT。未勝利だった2016年に較べれば進化したが、当然これで満足するはずはない。
2018年型のNSX-GTは、車両の基本レイアウトに手を入れる大手術を行った。開発を担当する本田技術研究所、HRD Sakuraの佐伯昌浩NSX-GTプロジェクトリーダー(PL)は、その内容をこう語った。
「(エンジン上部にあった)インタークーラーの位置を下げ(横に配置し)、低重心化と重量配分の適正化を進めました。ただ、そうするとクーリング的には厳しくなります」。そこに関しては、戦略面で対応するアイディアを採用したという。
「2018年は、NSXが得意としてきたSUGOとオートポリスがシリーズ後半の涼しくなるタイミングに移ったことから、夏のラウンドを何とか凌ぎ、涼しいシーズン序盤と、終盤で勝負したい。そう考えながらクルマを仕上げてきました。今年こそチャンピオンを獲りたいと思っています」。シーズン直前、佐伯PLはそう語っていた。
今季のNSX-GTは、昨季と変わらず5チーム。だがドライバー陣容では、大きなトピックがあった。2009年のF1ワールドチャンピオンであるジェンソン・バトンのフル参戦だ。彼は昨年の第6戦鈴鹿に第3ドライバーとしてスポット参戦。そして今季はNo.100 RAYBRIG NSX-GTに山本尚貴のパートナーとして、レギュラーシートに収まった。また、伊沢拓也はNo.8 ARTA NSX-GTに移籍し、野尻智紀とのコンビに。この他、No.16 MOTUL MUGEN NSX-GT(武藤英紀/中嶋大祐)、No.17 KEIHIN NSX-GT(塚越広大/小暮卓史)、No.64 Epson Modulo NSX-GT(松浦孝亮/ベルトラン・バゲット)は昨年から不変だ。
開幕戦と第3戦鈴鹿でワン・ツー!しかも2戦共にポール・トゥ・ウイン
こうしてパワーアップしたNSX-GTは、オフのテストでドライバーたちに好感触を与えた。しかし、勝負するレースを絞るという佐伯PLの発言に関しては“Hondaらしくない”、“出るレースすべてで速さを求めないなんて”という声が、ファンや関係者から聞かれたのも事実だった。
迎えた開幕戦岡山。予選では17号車と8号車でフロントロウを独占。決勝では17号車がポールから快走し、追いすがる100号車との争いを制して優勝。ワン・ツーフィニッシュと佐伯PLの目論み通りの好結果を得た。終始速さを見せた17号車はもちろん、前半担当のバトンの好走とタイヤ無交換作戦で予選5位から2位を奪った100号車においても、“やはり今年のNSXは強い”と印象付けた。
レース後、佐伯PLは「予選で1、2番を獲れたのが最大の勝因」と分析。さらに「今年は速い道具(NSX-GT)は準備できたので、それをどう使えば“もっと速くできるか”が課題となりますね」と語っていた。
シーズン序盤のラッシュを考えていたNSX-GT陣営だが、第2戦富士は、3月の公式テストからセットアップに悩み、さらに予選日午前の公式練習と午後の公式予選が悪天候に見舞われた影響か、予選では16号車の6位が最上位。さらに決勝でも8号車が8位、100号車が9位と、2台が入賞するにとどまった。このレースを終えたTEAM KUNIMITSUの高橋国光総監督は「2戦連続のポイント獲得が実現したので、このまま継続できるようさらに努力をしていきます」と、この2ポイントの重要性を語ったが、正にそれが最後に大きな価値となったのだ。
これまでの1000kmレースから300kmとなった鈴鹿の第3戦は、開幕同様にNSX-GTの実力が発揮できた。予選のQ1ではトップ4を独占。Q2でも8号車、100号車、そして17号車でトップ3を形成してみせた。決勝でも8号車が独走し、そのままポール・トゥ・ウインを決めた。さらに100号車が2位と、こちらも開幕同様にワン・ツー。佐伯PLも「予選で1-2-3、しかも6台全車、タイヤ3社すべてがQ2に進出できました。決勝でもワン・ツーで、低重心化と重量配分の改善の成果が形になって現れたと言えますね」と、レース後は顔をほころばせていた。
厳しい中盤戦をしのぎ、第6戦SUGOでついにRAYBRIG NSX-GTが勝利する
そしてNSX-GT勢にとって課題の“暑い季節”に突入する。第4戦タイでは16号車がポールポジションを得たが、決勝ではその16号車の5位がベスト。100号車の連続入賞がストップする。続く第5戦富士500マイルも厳しく予選は8号車の8位がベスト。だが、決勝では粘り強く走って17号車と8号車、100号車が3〜5位に入賞する。
第6戦SUGOでは、ここまで2位2回、ノーポイントは1回のみとコンスタントな成績でランキング3位につけていた100号車が快走を見せた。予選では山本が念願のポールポジション。「もう2位は要らない」と公言していたが、このレースで2番目に重い80kgのウェイトハンディを積みながらの激走だった。だがこの重量は決勝に効いてくる。前半担当の山本はハンディの軽いNo.12 カルソニック IMPUL GT-Rに抜かれ2番手に後退。しかし、大きくは引き離されずに食らい付き、バトンにNSX-GTを手渡す。シーズン序盤はSUPER GT特有の混雑するコースの対応に苦労する場面もあったF1王者だが、この頃には山本やチームのアドバイスもあり、大きな進歩を見せていた。
早めのピットインが功を奏し、トップに返り咲いた100号車は、終盤の8号車の追い上げを抑えきったバトンが初優勝のゴール。NSX-GTにとっては今季3度目となるポール・トゥ・ウイン&ワン・ツーフィニッシュだった。
佐伯PLは「2人のドライバーのがんばりはもちろんですが、GT500クラスの経験豊富なチームの中で、ATJ(オートテクニックジャパン)もよくがんばったと思います」と、昨年から100号車のメンテナンスとレース運営を担当するレーシングガレージも讃えていた。
天国から地獄の第7戦。そして決戦の最終戦もてぎで快挙を達成!
100号車がランキングトップで迎えた第7戦オートポリス。ここでもNSX-GTは予選で8号車、17号車、100号車と上位を奪う。しかし、決勝ではタイヤのマッチングに苦しみ、さらに懸念されていたピックアップ(※)にも悩まされる。それでも100号車はなんとか5位に食い込んだ、一方、ランキング2位でレースに臨んだ8号車は他車に追突されるアクシデントで入賞を逃した。結果、100号車はランキングトップを維持するもNo.1 KeePer TOM'S LC500にポイントで並ばれてしまう。他には8号車がタイトルの権利をわずかに残し、最終戦に臨むことになった。
※ピックアップ:タイヤかすがタイヤの接地面に貼りついてしまい、タイヤのグリップが失われたり、異常な振動が生じたりする現象。
最終戦の行われるもてぎでは第7戦前に公式テストが行われたが、ここではもてぎが得意というLEXUS LC500勢が好調。対してNSX-GT勢のタイムは伸び悩んだ。これを見てファンや各メディアから「NSX-GTのタイトルに不安が!?」と声が上がる。しかし、佐伯PLは「最後の公式テストで、各チームはいろいろトライしているのでしょう。タイムはあまり参考にならないと思いますよ」とテスト中に語り、自信を崩さなかった。ただ、関係者によると今季のNSX-GTは非常にピンポイントのセッティングが必要で、今季は毎戦、毎セッション悩んでいたとも言う。
そして迎えた最終戦もてぎ。ノーハンディとなったNSX-GTは、テストでの不安を吹き払う走りを見せた。8号車が今季3度目のポールポジションを獲得し、タイトルを狙う100号車が予選2位に入った。3位にも64号車が入り、今季3度目の予選トップ3独占となる。
決勝レースでは、8号車が先行してそのまま逃げ切りポール・トゥ・ウインで2勝目を掴んだ。また、64号車も序盤No.38 ZENT CERUMO LC500と3番手を争う活躍を見せた。
そしてタイトル争いは、レース終盤に予選5位から追い上げる1号車の平川が、3番手を走る100号車、バトンの背後に迫った。勢いからして1号車が逆転するかに思われたが、すでにSUPER GTドライバーとして順応したバトンは慌てずにしっかりブロック。すると、ここまでの追い上げでタイヤを酷使した平川のペースがダウン。わずか1.5秒ほどのリードを保って100号車は逃げ切って3位でゴール。
これで100号車の山本/バトン組が2018年のGT500クラスのドライバーチャンピオンを獲得。TEAM KUNIMITSUもチームのタイトルを手にした。Honda車としては2010年以来、NSXとしては2007年以来のチャンピオン奪還となる。
高橋国光総監督は、山本が世界に通じるドライバーに成長した、としたうえでバトンに対しても「彼が一生懸命にSUPER GTを理解しようとしていることが分かりました。彼にはSUPER GTの凄さが分かっていたんでしょうね」と、元F1ワールドチャンピオンの謙虚な努力を讃えた。佐伯PLもこのタイトル獲得の原動力として、スーパーフォーミュラと2冠に輝いた山本を挙げ、高橋総監督と同様にデビューイヤーでチャンピオンに輝いたバトンの技量と順応性を改めて高く評価していた。
2019年は速さをより確実にするとともに、課題も解決していく
今季のNSX-GTは、全8戦で4勝、ポールポジション6回。しかも4勝すべてがポール・トゥ・ウインで、シーズン4回はSUPER GT/JGTCの新記録。ワン・ツーフィニッシュも3回を数える。さらに予選の1-2-3は3回(1-2は5回)だ。そして、ドライバーとチームのタイトルも獲得した。
結果を見れば、ライバルを圧倒した今季のNSX-GT。しかし、昨年のLC500を例に出すまでもなく、これで安泰だとはHonda陣営も含め誰も思っていないだろう。
今季を振り返る佐伯PLは「ライバルをリードしたというより(追いついて)並んだ状態」と、喜びより、冷静な分析を口にする。「来シーズンは、速さをより確実にするとともに、ピックアップなどの課題も解決していかなければなりません」と、内容の悪いレースもあっただけに、今季の課題を解決すべく力を入れていくようだ。
このように、GT500クラス参戦の3メーカーは、シーズンが終わる前から課題の洗い出しと対策を検討。すでに来季型マシンの開発ペースも追い込みとなっている。そして、先日には早くもセパン・サーキット(マレーシア)でのテストも行われている。
2019シーズンは、Honda NSX-GTがタイトルを連覇するのか? LEXUS LC500、NISSAN GT-R NISMO GT500の反撃となるのか? それとも三つ巴の大混戦か? シーズン終了からまだ1カ月だが、早くも来季への期待が高まっている。
■Honda NSX-GT 2018年全8戦の記録
No.100 RAYBRIG NSX-GT
ドライバー | 山本尚貴/ジェンソン・バトン |
チーム | TEAM KUNIMITSU |
今季成績 ドライバーランキング1位/チームランキング1位 |
||||||||
Rd.1岡山 | Rd.2富士 | Rd.3鈴鹿 | Rd.4タイ | Rd.5富士 | Rd.6SUGO | Rd.7AP | Rd.8もてぎ | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
予選 | 5 | 10 | 2 | 5 | 9 | 1 | 3 | 2 |
決勝 | 2 | 9 | 2 | 11 | 5 | 1 | 5 | 3 |
ポイント | 15 | 17 | 32 | 32 | 40 | 61 | 67 | 78 |
ランキング | 2 | 3 | 1 | 2 | 3 | 1 | 1 | 1 |
W.H. | 0 | 30 | 34 | 64 | 64 | 80 | 61 | 0 |
※ポイント・ランキングはドライバーのもの。W.H.はウェイトハンディ、単位はkg。 |
No.8 ARTA NSX-GT
ドライバー | 野尻智紀/伊沢拓也 |
チーム | AUTOBACS RACING TEAM AGURI |
今季成績 ドライバーランキング3位/チームランキング3位 |
||||||||
Rd.1岡山 | Rd.2富士 | Rd.3鈴鹿 | Rd.4タイ | Rd.5富士 | Rd.6SUGO | Rd.7AP | Rd.8もてぎ | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
予選 | 2 | 12 | 1 | 8 | 8 | 3 | 1 | 1 |
決勝 | 11 | 8 | 1 | R | 4 | 2 | 12 | 1 |
ポイント | 0 | 3 | 24 | 24 | 34 | 49 | 50 | 71 |
ランキング | - | 12 | 4 | 8 | 7 | 2 | 4 | 3 |
W.H. | 0 | 0 | 6 | 48 | 48 | 68 | 49 | 0 |
※ポイント・ランキングはドライバーのもの。W.H.はウェイトハンディ、単位はkg。 |
No.17 KEIHIN NSX-GT
ドライバー | 塚越広大/小暮卓史 |
チーム | KEIHIN REAL RACING |
今季成績 ドライバーランキング7位/チームランキング6位 |
||||||||
Rd.1岡山 | Rd.2富士 | Rd.3鈴鹿 | Rd.4タイ | Rd.5富士 | Rd.6SUGO | Rd.7AP | Rd.8もてぎ | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
予選 | 1 | 14 | 3 | 2 | ー* | 4 | 2 | 5 |
決勝 | 1 | 11 | 11 | 7 | 3 | 9 | 6 | 15 |
ポイント | 21 | 21 | 21 | 25 | 38 | 40 | 45 | 45 |
ランキング | 1 | 2 | 5 | 7 | 4 | 4 | 6 | 7 |
W.H. | 0 | 42 | 42 | 42 | 50 | 76 | 40 | 0 |
*予選出走せず ※ポイント・ランキングはドライバーのもの。W.H.はウェイトハンディ、単位はkg。 |
No.16 MOTUL MUGEN NSX-GT
ドライバー | 武藤英紀/中嶋大祐 |
チーム | TEAM MUGEN |
今季成績 ドライバーランキング15位/チームランキング14位 |
||||||||
Rd.1岡山 | Rd.2富士 | Rd.3鈴鹿 | Rd.4タイ | Rd.5富士 | Rd.6SUGO | Rd.7AP | Rd.8もてぎ | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
予選 | 12 | 6 | 7 | 1 | 12 | 5 | 6 | 13 |
決勝 | 10 | 14 | R | 5 | 14 | 4 | 14 | 14 |
ポイント | 1 | 1 | 1 | 8 | 8 | 16 | 16 | 16 |
ランキング | 10 | 14 | 16 | 16 | 18 | 14 | 15 | 15 |
W.H. | 0 | 2 | 2 | 2 | 16 | 16 | 16 | 0 |
※ポイント・ランキングはドライバーのもの。W.H.はウェイトハンディ、単位はkg。 |
No.64 Epson Modulo NSX-GT
ドライバー | ベルトラン・バケット/松浦孝亮 |
チーム | Epson Nakajima Racing |
今季成績 ドライバーランキング19位/チームランキング15位 |
||||||||
Rd.1岡山 | Rd.2富士 | Rd.3鈴鹿 | Rd.4タイ | Rd.5富士 | Rd.6SUGO | Rd.7AP | Rd.8もてぎ | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
予選 | 13 | 11 | 5 | 14 | 10 | 14 | 7 | 3 |
決勝 | 15 | R | 10 | 9 | 13 | 13 | 10 | 12 |
ポイント | 0 | 0 | 1 | 3 | 3 | 3 | 4 | 4 |
ランキング | - | - | 17 | 19 | 19 | 19 | 19 | 19 |
W.H. | 0 | 0 | 0 | 2 | 6 | 6 | 3 | 0 |
※ポイント・ランキングはドライバーのもの。W.H.はウェイトハンディ、単位はkg。 |
4/13-14 | Round1 OKAYAMA | |
5/03-04 | Round2 FUJI | |
6/01-02 | Round3 SUZUKA | |
8/03-04 | Round4 FUJI | |
8/31-9/01 | Round5 SUZUKA | |
9/21-22 | Round6 SUGO | |
10/19-20 | Round7 AUTOPOLIS | |
11/02-03 | Round8 MOTEGI |