「シリーズを通してどこでも同じ基準でジャッジをする」レースダイレクター&ドライビング・スタンダード・オブザーバー
エキサイティングでドラマティック、カッコいいマシン&ドライバーとファンを魅了するSUPER GT。このレースを毎戦、安全かつ公正に運営するため影から支える人たちがいます。中でもGTAで各種運営グループを率いるGTAの派遣役員にお話しを聞きました。
第1回はレースダイレクターとドライビング・スタンダード・オブザーバーを務める服部尚貴(はっとり・なおき)さんです。その役職を聞いても分かりにくいですが、他のスポーツで言えば“審判”で、目立たない方が良いけれどレースには欠かせない仕事です。また服部さんはSUPER GTなど国内外のビッグレースで活躍してきたドライバーで、その経験があるから任される仕事でもあります。では、服部さんに仕事の内容をお聞きしましょう。
──レースダイレクター/ドライビング・スタンダード・オブザーバーとは、どんな仕事をしているのでしょうか?
服部 ドライビング・スタンダード・オブザーバーは、接触や4輪脱輪など(ドライバーの走行に関しての)ペナルティの可能性のある事象について、映像を何度も確認しながら最初のジャッジをします。
レースダイレクターはレースを安全かつ円滑に進めるために、例えばセーフティカーの出動や赤旗などのジャッジを行なっています。
いずれも走行セッション中はコントロールタワーの「管制室(※)」に缶詰めで、特に決勝レース中はかなりバタバタします。
──レースの運営には「競技長」という役職の方が居ますが、レースダイレクターとはどう違うのでしょう?
服部 競技長は各サーキットから任される人で、レース(を運営するクラブ)のオフィシャルが務めていています。
一方でレースダイレクターはシリーズを一貫して見るために、SUPER GTでは運営団体のGTアソシエイションが派遣し、僕が年間を通して担当しています。ジャッジの決定権は49:51で、日本の場合は「51」が競技長と言われていますが、SUPER GTでは海外と同様に「51」がレースダイレクターの役目だと思っています。それはシリーズを通して同じ基準でジャッジをするためで、サーキットによって接触や赤旗のジャッジが異なったりしないようにしています。
それ以外には、レース中のペナルティに対する通告書などの書類を確認、署名をしたりします。それを審査委員会に渡し、そこでドライビングスルーなのか、ペナルティストップなのかなどの裁量が決まります。
──レース中に接触してもペナルティになったり、ならなかったり、どちらが悪いなどの判定にはどのような基準があるのでしょうか?
服部 基本的には「抜く側がリスクを負う」です。例えば、抜きにいった時に相手が寄ってきたら最後まで逃げなくてはならないとか、スペースを空けるといったことですね。それが基本です。
ただ、抜く側がホイールベース内に入っている状態(※)でコーナーに入った場合、その際はちょっと違ってきます。前走のクルマが“ドアを閉める(後走車の進路に寄る)”と当たってしまうので、考え方としてはブレーキの開始位置、ステアリングを切る位置、接触した位置、接触してからのアクセルの開け方や最後まで逃げているかどうか、などを含めて総合的に判断しています。
それをドライビング・スタンダード・オブザーバーの村上敦さんと田中哲也さんのふたりとともにモニターを見て、最終的なジャッジを下しています。ただ僕自身にはレースダイレクターとしての仕事もあるので、そこを分業しているかたちです。
ドライビング・スタンダード・オブザーバーの村上敦さん(左)と田中哲也さん
──ペナルティと判定して、ドライバーやチームから反論があったり、納得してもらえないことなどあるのでしょうか?
服部 反論というか、「なんで?」って問われることはありますね。
基本的には映像を見せて「これはこうでこうなった。だからペナルティをとりました」とか「こうだからセーフです」と説明します。例えばその人(のクルマ)が前にあっても、相手が横にいるのに自分が寄っていって当たったとかであれば、それをきちんと説明したうえで「だから我々はこのようにジャッジしました」と伝えています。
そのようにジャッジに関しては、すべてきちんと説明できるようにしています。
──レースダイレクター/ドライビング・スタンダード・オブザーバーという仕事のやりがいはどこにあるのでしょうか?
服部 基本的には面倒なことが多いので大変ですが、誰かがやらないとレースが成り立たないですからね。
ペナルティに対して、いまSUPER GTに参戦しているドライバーと認識、価値観がぴったり合えばベストなのですが、そこまではいかないにしろ、大多数のドライバーと同じところに落ち着けばいいと思っています。
ドライビング・スタンダード・オブザーバーに関しても長くやってきましたが、ジャッジの基準は一度も変えていません。そういう意味では自分のやり方、考え方が(参戦ドライバーたちに)浸透しているのかなと。最近、そんな大きなクレームもないですしね。あとは自分とドライバーの認識がズレていかないように、ということはずっと心がけています。
でも、ドライバーやチームとして参加した方が、きっと純粋にレースを楽しめるでしょうね(笑)。
服部さん、興味深いお話しありがとうございました。
次回もお楽しみに!
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