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2019.11.18
【短期連載】SUPER GTを支える派遣役員の仕事 第3回 テクニカルデリゲート

【短期連載】SUPER GTを支える派遣役員の仕事 第3回 テクニカルデリゲートの画像

「安全でフェアなレースを行なうために技術面から公正に見守る」テクニカルデリゲート

 

エキサイティングでドラマティック、カッコいいマシン&ドライバーとファンを魅了するSUPER GT。このレースを毎戦、安全かつ公正に運営するため影から支える人たちがいます。中でもGTAで各種運営グループを率いるGTAの派遣役員にお話しを聞きました。

 

最終回の第3回はテクニカルデリゲートを務める岩川靖治(いわかわ・せいじ)さんです。役職を日本語で言えば“技術の派遣役員”で、レース車両が規則通りに造られているかを車検で確認するのが主な仕事ですが、それ以外にもいろいろな仕事もあるようです。では、岩川さんに仕事の内容をお聞きしましょう。

 

 

──テクニカルデリゲートとは、どんな仕事をしているのでしょうか?

 

岩川 「テクニカル」としてはGTAで主に競技車両を担当しており、GT500/GT300クラスのマシン全車、今年で言えば44台をすべて見ています。

大会中の流れとしては、木曜日に定盤(※)の設置等の前準備をして、金曜日の午前中にサーキットの技術委員とともにテクニカルミーティングを行ない、午後から公式車検と任意車検。土曜日は朝一番に公開車検があって、公式練習、予選のQ1/Q2を経て、予選後の再車検があります。日曜日はウォームアップ走行、決勝レースを経て、レース後の再車検ですね。

レースの後は次のレースに向けて書類を作ったり、引き継ぎ作業を行ないます。クラッシュ車両があれば追跡調査もしますし、テクニカルとしてのレースレポートもGTAに提出しています。レポートの内容としては、ピットでこんなことがあったとか、ペナルティとなった接触があれば、その検証写真を添付したり、クラッシュ車両の破損状況やリタイヤ車両のトラブル箇所なども報告しています。

※:定盤(じょうばん)は、車両の寸法を測る際に基準となる水平面を得るための板状の計測台。レースの車検では定盤にクルマを乗せて各種の数値を計測する。SUPER GTでは東レ・カーボンマジック製が用いられている。

 

 

 

 

──SUPER GTマシンの“車検”はどのように行なわれているのですか?

 

岩川 我々は、安全かつ公正なレース運営を行なうためにサーキット内にある車検場でGTAが持ち込んだ設備で車検をしています。

具体的な内容としては、テクニカルパスポート(※1)と、FIA GT3の場合は公認書をもとに、まずはバケットシートやシートベルト、消火器の使用期限などの安全装置を確認した上で、車両重量を測り、定盤の上で最低地上高やウイングの高さなどルールに合致した寸法に収まっているかをチェックしています。また、掘りピット(※2)を使って、下からもスキッドブロックやフラットボトムなどをチェックしたり、ジグ(※3)を使ってフロントのスポイラーの寸法や高さを見ています。

ドライバーのレーシングスーツやヘルメット、アンダーウェアなどの装備品チェックも車検場で行ないます。開幕戦と5戦目は全ドライバー分をチェックしますが、あとは変更がなければ申請もチェックも不要になりました。加えて、技術委員がメインとなってピットを回り、給油装置や消火器、給油マンの耐火スーツやヘルメット、グローブのほか、メカニックのスーツやヘルメット、ゴーグルなどもチェックします。

余談ですが、車検場にはチームスタッフは4人までしか入れないと規則で決められています。また、車検の順番はレースごとに指定されていて、GT500クラスはメーカーごとに分けて行ない、各社の間にGT300車両の車検を挟んでいます。GT300も同じ車種でグループ分けするようにしています。それをレースごとにローテーションしています。

※1:テクニカルパスポートは一般車の車検証・記録冊子に当たる書類。車両の基本状況や改造や車検の記録を記入する。
※2:掘りピットは、クルマを置く床面に人が入れる窪みを作り、そこに車検員が入ってクルマの下面の状況を確認する施設。
※3:ジグ(Jig)はパーツの加工や組み立ての際に形が正しいか、形に添わせて状態を見る器具。レース車検では車体やパーツの寸法が基準内か確認する器具を指し、カテゴリーや車両ごとにジグが製作される場合もある。

 

 

 

 

──SUPER GTでは、予選日の早朝に“公開車検”を行なっていますが、ここでは何をしているのでしょうか?

 

岩川 GT500クラスは金曜日に燃料流量リストリクターを抽選の上、各チームに渡します。それが正しく装着されているかのチェックと封印、そしてGセンサー(※)のチェックですね。ライトやウインカー、ブレーキランプ等のスタート前チェックは技術委員にお願いしています。

※:SUPER GTでは、車両がクラッシュした際にドライバーにダメージがあるかの参考とする、衝撃を計るために加速度(G)センサーを設置している。一定以上のGが検出された場合は、ドライバーをすぐに動かさずに首の固定などを行なう。

 

 

 

 

──大会中の場内放送で予選や決勝後に“再車検”を行なうとアナウンスがありますが、ここでは何をしているのでしょうか?

 

岩川 予選のQ1終了後は時間がないので、我々がピットでエアリストリクターを計測したり、エンジンデータを抜いてチェックを行ない、合否判定をしています。サーキットによってコース特性が違い、“キモ”となるポイントも違ってくるため、再車検はサーキットによってチェックする項目を変えています。

Q2、決勝レース後の再車検は車検場で実施します。再車検時はチームのスタッフは一切車検場に入れません。合否は我々GTAのテクニカルが決めることではなくて、大会の技術委員長が判断します。

 

 

──決勝レース中は、何をしているのですか?

 

岩川 今年はピット前に5人、テクニカルスタッフを配置しています。サーキットのオフィシャルさんともどもコントロールタワー(管制室)と常に無線で交信しつつ、ピットやピットイン車両の状況を伝えています。ディプティ(副)テクニカルデリゲートの小西教志君が管制室に入り、レースダイレクターの服部(尚貴)さんたちと連携を取っています。それは公式練習も予選も決勝も同じです。

ピット前にいるテクニカルスタッフはカメラを持っていて、トラブル車両やクラッシュ車両などの該当箇所を記録したり、ヘルメットにビデオカメラを装着してピット作業などの動画も撮影しています。

 

 

 

 

 

──技術的な知識も豊富なうえ、レース中も大変忙しいお仕事なんですね。最後にテクニカルデリゲートの難しさ、やりがいとはなんでしょうか?

 

岩川 時代と共にクルマがどんどん速くなっていきますし、技術も日進月歩で進んでいきます。その技術についていくために1年1年勉強しなければならないですし、新しいシステムが生まれれば新しいルールが必要になるため、その勉強も必要になってきます。さらに、テクニカルとして(技術部分を)コントロールしていくにあたって、派遣役員だけじゃなくて、技術オフィシャルさんのスキルも上げなければならないし、新しいことを覚えてもらわなければいけないということが大変なことですね。

達成感を感じるのは……やっぱりレースが安全に終わった時かな。もっとカッコ良く言えば、フェアでいいレースをお客様にお見せできた時ですね。そういう時にこの仕事をやっていて良かったなと思います。

 

 

 

 

 

 

 

岩川さん、興味深いお話しありがとうございました。
3回に渡りSUPER GTを支えるGTAの競技役員の仕事内容をご紹介してきました。
感動的なレースの影に、こんな人たちが活躍していることを少しでも知って頂ければ幸いです。

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