2020年のSUPER GTはシリーズの開幕が延期となってしまったので、SUPERGT.netでは「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
まずは、2008年の第1戦鈴鹿。GT-RがR35の“NISSAN GT-R”となってのデビュー戦。「GT-Rの敵は、GT-R」のバトルをプレイバック!
■日本だけでなく世界も注目した一戦となる
2008年の開幕戦「SUZUKA GT 300km」。決勝日の3月16日、鈴鹿サーキットは3万2000人もの大観衆で沸いていた。お目当てはこのレースでデビューする新型車、通称R35のNISSAN GT-Rだ。当時、日産自動車復活の証として進められた“GT-Rのカムバック”。その大事な布石がSUPER GT参戦、いやSUPER GTで新たな“GT-R伝説”を創ること。それだけに、ファンはもとより、国内外のマスコミからも大いに注目を集めた。
そして、5台の新型GT-Rがグリッドに着く。予選1位、ポールポジションに位置したのは、「パーフェクトな走りができた」と言うNo.22 MOTUL AUTECH GT-R(ミハエル・クルム/柳田真孝)のクルムだった。
■必勝のプレッシャーとも戦うドライバーたち
日産のエースナンバー“23”を背負うNo.23 XANAVI NISMO GT-R(本山哲/ブノワ・トレルイエ)は、わずか0.267秒差で予選2位。「ベン(トレルイエの愛称)が勢いで攻めるのは分かっていた。だからもう少し車高を上げるべきだった…」と担当エンジニアは悔いる。確かに攻めすぎたトレルイエは、2コーナーの縁石に乗り、車体の底を打ってタイムロスをした。“新しいGT-Rで勝つこと”を義務付けられた23号車の2人。鈴鹿に入ってから、いつも陽気なトレルイエからは笑みが消え、本山が緊張をほぐそうと苦労するほどだった。
だが、予選の失敗はレースで取り戻せばいい。「レースではよくあることだよ」と、トレルイエも引きずらない。決勝スタートで彼は好スタートを切り、先行する22号車のクルムを僅差で追っていく。2台のGT-Rは3番手のNo.36 PETRONAS TOM'S SC430(アンドレ・ロッテラー)をわずか2周で1秒以上、10周で5秒も後方にし、マッチレースを繰り広げる。
息詰まる接戦を見た本山とエンジニアは「先に入ろう」と、当初の作戦を変更してピットインを22号車より先に行うことを決断した。
ヘルメットを被り、交代に備える本山は「心臓がバクバクしていた。自分で胸を触って分かるくらい。そんなこと、今までになかったんですよ」と語る。JGTC/SUPER GTで2度、フォーミュラ・ニッポンでも3度のタイトルを獲得する“日本一速い男”にも、重圧がのし掛かっていた。「GT-Rでデビュー・ウィンをする。クルマも良かったから、日産も、NISMOも、自分たちでも常に言っていましたから。すごいプレッシャーでした」。
■GT-R同士の戦いを制し、23号車が逆転勝利
しかし、ステアリングを握れば平常心が戻ってくる。22周でトレルイエがピットイン。NISMOのメカニックたちもノーミスで仕事をこなす。本山も重要だったというアウトラップを細心に、かつ最速でクリア。次の周にピットに入った22号車は、柳田にバトンが渡った。ピット時間は給油量の差か、わずかに22号車が早かった。だが、コースに出た彼のミラーには微かに23号車が見えていた。
柳田はこの時28歳、GT500クラスで3シーズンの実績を積み上げていた。まだタイヤが温まらない中、できる限りの努力はしたはず。しかし、容赦なく本山は柳田を追い詰めていく。
そしてヘアピン。出口でGT300車両に詰まった22号車のインに23号車のノーズをねじ込んだ。もちろん状況を考えれば、この後にもっと安全な抜き方もできたろう。だが、23号車は格の違いを見せつけるように前に出たのだ。
このまま本山の23号車は先頭を譲らす、22号車を従えてゴール。R35 GT-Rは、見事デビュー戦をワン・ツー・フィニッシュで飾ることとなった。
勝ちきれなかった悔しさを残した22号車の柳田。彼は翌年、再度GT300クラスに戻っている。そうして2010年に2度目のクラスチャンピオンとなり、再度GT500クラスに上がった2011年。同い年のロニー・クインタレッリと組んで、チャンピオンを獲得して翌年も連覇。現在でも両クラスで2度の制覇を達成した、ただ1人のドライバーだ。
さて2008年開幕戦を制したNo.23 XANAVI NISMO GT-Rは、続く第2戦岡山も連勝。そのままランキングトップを独走するかに思えたが、シーズン中盤は増えたウェイトハンディ(WH)もあって苦戦。それでもWHが減った(※)第8戦オートポリスで3勝目を挙げ、最終戦富士では再び80kgを背負うもポイント重ねて、辛くも本山/トレルイエがドライバータイトルを手にした。
なお2008年全9戦でGT-Rは7勝もしているが、なんとチームタイトルは未勝利ながら全戦で得点したNo.36 PETRONAS TOYOTA TEAM TOM'Sが獲得している。かくもSUPER GTは難しいレースなのだ。
※ 当時のウェイトハンディ制では、決勝6位以下で次戦のハンデ重量が軽減。但し、終盤2戦でもハンディは搭載された。
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2008 AUTOBACS SUPER GT 第1戦 SUZUKA GT 300km/鈴鹿サーキット
公式予選:2008年3月15日(土) 天候:晴・曇り/コース:ドライ
決勝レース:2008年3月16日(日) 天候:晴/コース:ドライ
Po | No | Machine | Driver | Laps | Time | Tire | Q-Pos |
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GT500
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1 | 23 | XANAVI NISMO GT-R | 本山 哲/ブノワ・トレルイエ | 52 | 1:44'03.977 | BS | 2 |
2 | 22 | MOTUL AUTECH GT-R | ミハエル・クルム/柳田 真孝 | 52 | 0'00.854 | BS | 1 |
3 | 36 | PETRONAS TOM'S SC430 | 脇阪 寿一/アンドレ・ロッテラー | 52 | 0'25.551 | BS | 4 |
4 | 38 | ZENT CERUMO SC430 | 立川 祐路/リチャード・ライアン | 52 | 0'32.757 | BS | 5 |
5 | 24 | WOODONE ADVAN Clarion GT-R | J.P・デ・オリベイラ/荒 聖治 | 52 | 0'47.966 | YH | 8 |
6 | 35 | 宝山 KRAFT SC430 | ピーター・ダンブレック/片岡 龍也 | 52 | 1'12.218 | BS | 15 |
7 | 18 | TAKATA 童夢 NSX | 道上 龍/小暮 卓史 | 52 | 1'23.777 | BS | 6 |
8 | 17 | REAL NSX | 金石 勝智/金石 年弘 | 52 | 1'37.516 | BS | 12 |
9 | 6 | ENEOS SC430 | 伊藤 大輔/ビヨン・ビルドハイム | 52 | 1'42.861 | BS | 13 |
10 | 32 | EPSON NSX | ロイック・デュバル/平中 克幸 | 52 | 1'45.416 | DL | 7 |
11 | 25 | ECLIPSE ADVAN SC430 | 土屋 武士/石浦 宏明 | 51 | 1Lap | YH | 14 |
12 | 39 | DENSO DUNLOP SARD SC430 | 高木 虎之介/アンドレ・クート | 51 | 1Lap | DL | 16 |
13 | 100 | RAYBRIG NSX | 井出 有治/細川 慎弥 | 51 | 1Lap | BS | 9 |
14 | 1 | ARTA NSX | ラルフ・ファーマン/伊沢 拓也 | 47 | 5Laps | BS | 10 |
15 | 3 | YellowHat YMS TOMICA GT-R | ロニー・クインタレッリ/横溝 直輝 | 41 | 11Laps | BS | 11 |
12 | カルソニック IMPUL GT-R | 松田 次生/セバスチャン・フィリップ | 35 | 17Laps | BS | 3 |
・タイヤ=BS:ブリヂストン/DL:ダンロップ/YH:ヨコハマ
4/13-14 | Round1 OKAYAMA | |
5/03-04 | Round2 FUJI | |
6/01-02 | Round3 SUZUKA | |
8/03-04 | Round4 FUJI | |
9/21-22 | Round6 SUGO | |
10/19-20 | Round7 AUTOPOLIS | |
11/02-03 | Round8 MOTEGI | |
12/07-08 | Round5 SUZUKA |