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2020.05.15
【SUPER GT 名勝負列伝】「灼熱のリベンジマッチ。ARTA NSXの伊藤が完勝」2006年第4戦セパン

【SUPER GT 名勝負列伝】「灼熱のリベンジマッチ。ARTA NSXの伊藤が完勝」2006年第4戦セパンの画像

2006 AUTOBACS SUPER GT Round 4 JAPAN GT CHAMPIONSHIP MALAYSIA / 2006.6.25 Sepang Circuit

SUPERGT.netでは2020年のSUPER GTシリーズ開幕まで「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
第5回は、マレーシアのセパン・サーキットが舞台となった2006年の第4戦。前年はセパン戦で苦汁をなめたARTA NSXが、いくつものトラブルを乗り越えて勝利した戦いです。「灼熱のリベンジマッチ」のバトルをプレイバック!

 


 

   

 

 

1年前の灼熱地獄が再び起こるのか・・・

 2006年6月25日、AUTOBACS SUPER GT第4戦の決勝日。No.8 ARTA NSX(伊藤大輔/ラルフ・ファーマン)のファーマンはポールポジションから順調にトップを維持しているかに見えた。だが、10周を過ぎるとにわかにARTAの動きが激しくなっていた。
「それを聞いた瞬間、昨年のことを思い出して目の前が暗くなるようでした」。ピットで交代に備えていた伊藤はレース後にそう語った。昨年とは、ちょうど1年前の第3戦セパンの決勝レースのことだ。やはりファーマンがポールポジションから独走し、そして伊藤に交代。走り出して数周でクールスーツにトラブルが発生する。
 クールスーツは、チューブが巻き着いたアンダーウェアに冷水が流れ、酷暑の車内で身体を冷やすもの。その水の循環が止まったのだ。すると体温で温まったお湯に包まれた“ホットスーツ”状態となってしまう。レース終盤、伊藤は熱中症寸前でトップ争いを演じた。トップは明け渡すものの、何とか2位でフィニッシュ。自力でマシンから降りられず、メカニックが急ぎ用意した台車に乗せられて医務室に直行したのだ。

 雪辱に挑んだこの年の第4戦セパン。前年に続きポールポジションを手にするも、ファーマンは週末に体調を崩して万全ではなかった。スタートはこれまで通りファーマンだが、規定周回を終えたらいつでもピットインできる体制を整える。
 その中、好スタートを切ったファーマンは予選2位のNo.22 MOTUL AUTECH Z(ミハエル・クルム/リチャード・ライアン)のクルムとの差をじわじわと開く。ここまでは順調。するとトラブルが立て続けに発生。まず無線が不調になり、ピットとの交信が不能となる。ここはサインボードで何とか対応するが、10周を過ぎるとコクピットのファーマンが慌ただしく動く。問い掛けるピットのボードには『Cool?』の急造されたガムテープ文字が表示された。

 この時点で2番手の22号車は約5秒後方で、ファーマンのラップタイムも安定している。だが、彼の状況は時限爆弾を抱えたようなものだ。「昨年のこともあって、勝ちたいという気持ちが強かった。でもタフなレースだったよ」とファーマンは3分の1をこえた21周目、GT500勢の最初に所定のピットへと向かった。

 

 

皆がやるべきことをすべてやって勝利を狙う

 交代する伊藤は、クールベストを装着していた。その名の通りベスト型の冷却ウェアでガス式だ。長時間は保たないが、止まっても壊れたクールスーツのように温水にくるまれることはない。そして、チームはもうひとつ策を講じる。タイヤ交換は後輪2本のみと、作業時間を短縮した。「(危機の連続でも)チームも僕もやるべきことをやるしかないと、気持ちを切り替えた」と伊藤が語るように、前年のリベンジを期してNSXは灼熱のコースへ戻っていく。

 レースも終盤を迎えた31周目。クラス最後まで粘ったNo.12 カルソニック インパル Z(ブノワ・トレルイエ/星野一樹)のトレルイエがピットに向い、8号車はトップへと戻る。その後方、約10秒に22号車のライアン。奇しくも前年のセパンで死闘を繰り広げた2人による、バトルが再現された。
 このライアンだが、2006年は当初参戦の予定はなかった。22号車のレギュラーであった山本左近が第3戦を終えてF1のシートを得たため、急遽このレースからステアリングを握ったのだ。前年は終盤に伊藤と競り合い逆転で優勝しているが、実はライアンも暑さが苦手だ。前年も「(バトル中も)途中で頭の上を小鳥が飛んでいる気がしたよ(笑)。でも伊藤に抜き返されて目が覚めたんだ」と述懐したほどだ。

 話をこの年のレースに戻そう。22号車のピット作業は順当だったが、タイヤ交換2本分の時間を利した8号車が先行。しかし、ライアンはこの年初めてフェアレディZを駆ると思えない速さで追い上げた。逃げる8号車の伊藤は暑さ以上に、替えなかったフロントタイヤのグリップ不足に悩まされ、ペースを思うように上げられない。その差はラスト10周で3.4秒となり、8号車のミラーに真っ赤なZがはっきり映るまでに近づいた。

「僕たちは(現状において)パーフェクトだったと思う」と言うライアン。だが、「終盤もプッシュし続けたが、トラフィックもあり(追い付く)チャンスはなかった」と追い切れなかった理由も続けた。実はマシンのドリンクボトルホルダーが前半から壊れており飲料が飲めず、彼の集中力が落ちた面も否めなかったろう。

 

 

見事にリベンジを成し遂げてトロフィーを掲げる

 ARTA NSXの伊藤は、ペースが落ちた22号車との差を5.6秒まで増やし、トップでチェッカーを受ける。前年のセパン後から彼は体力作りを見直し、この年のセパン入り前には暑さにより耐えるトレーニングも行ったという。「なんとか身体は持ちました。途中、リチャード(ライアン)に追い上げられましたが、ミスさえしなければ抜かれないと思ったし、昨年のこともあるから負けられないと言う気持ちで走りました」。

 いくつもの試練を乗り越え、見事に前年のリベンジを果たした伊藤とファーマン、そしてARTA。前年の表彰式で伊藤は熱中症のため、フラフラで最後に2位の楯を挙げる所しか出られなかった。だが、この年はセパン・サーキットの表彰台の頂点にしっかりと上がり、ふたり一緒に優勝トロフィーを持ち上げた。

 2位は22号車、3位には12号車が入った。この年、GT500クラスに上がった12号車の星野にとっては初表彰台だ。また、LEXUS/TOYOTA勢は開幕戦鈴鹿でNo.36 OPEN INTERFACE TOM'S SC430(脇阪寿一/アンドレ・ロッテラー)が、LEXUS SC430の華々しいデビューウインを飾るも、この第4戦セパンでは大苦戦。No.1 ZENT セルモ SC(立川祐路/高木虎之介)が予選3位から決勝終盤を4番手で走るも、GT300車両と接触してポイント圏外に。代わって4番手となった36号車もマシントラブルから、ピットでレースを終える。他のSC430、スープラもトラブルが多く、No.25 ECLIPSE ADVAN SUPRA(織戸学/土屋武士)の決勝10位がセパンの最上位だった。

 

 

 

 


No.22 MOTUL AUTECH Z(ミハエル・クルム/リチャード・ライアン)
決勝2位/予選2位
 

   


No.12 カルソニック インパル Z(ブノワ・トレルイエ/星野一樹)
決勝3位/予選4位
 


No.100 RAYBRIG NSX(セバスチャン・フィリップ/細川慎弥)
決勝4位/予選6位
 

   


No.23 XANAVI NISMO Z(本山 哲/松田次生)
決勝5位/予選8位
 


No.18 TAKATA 童夢 NSX(道上 龍/小暮卓史)
決勝6位/予選9位
 

   


No.3 イエローハットYMS トミカ Z(横溝直輝/J.P.デ・オリベイラ)
決勝7位/予選7位
 


No.25 ECLIPSE ADVANスープラ(織戸 学/土屋武士)
決勝10位/予選13位
 

   


No.35 BANDAI DIREZZA SC430(服部尚貴/ピーター・ダンブレック)
決勝11位/予選15位
 

 

 

 

 

2006 AUTOBACS SUPER GT 第4戦 JAPAN GT CHAMPIONSHIP MALAYSIA/セパン・サーキット

公式予選:2006年6月24日(土) 天候:晴/コース:ドライ

決勝レース:2006年6月25日(日) 天候:曇・晴/コース:ドライ

Po No Machine Driver Laps Time Tire Q-Pos
GT500
1 8 ARTA NSX 伊藤 大輔/ラルフ・ファーマン 54 1:51'41.405 BS 1
2 22 MOTUL AUTECH Z ミハエル・クルム/リチャード・ライアン 54 0'05.663 BS 2
3 12 カルソニック インパル Z ブノワ・トレルイエ/星野 一樹 54 0'25.120 BS 4
4 100 RAYBRIG NSX セバスチャン・フィリップ/細川 慎弥 54 0'44.161 BS 6
5 23 XANAVI NISMO Z 本山 哲/松田 次生 54 0'51.637 BS 8
6 18 TAKATA 童夢 NSX 道上 龍/小暮 卓史 54 1'20.454 BS 9
7 3 イエローハットYMS トミカ Z 横溝 直輝/J.P.デ・オリベイラ 54 1'28.867 BS 7
8 24 WOODONE ADVAN KONDO Z エリック・コマス/柳田 真孝 54 1'30.838 YH 10
9 32 EPSON NSX ロイック・デュバル/武藤 英紀 54 1'34.934 DL 11
10 25 ECLIPSE ADVANスープラ 織戸 学/土屋 武士 53 1Lap YH 13
11 35 BANDAI DIREZZA SC430 服部 尚貴/ピーター・ダンブレック 53 1Lap DL 15
12 1 ZENT セルモ SC 立川 祐路/高木 虎之介 53 1Lap BS 3
13 66 triple a サード スープラGT アンドレ・クート/平中 克幸 50 4Laps BS 14
14 6 Mobil 1 SC 飯田 章/片岡 龍也 47 7Laps BS 12
15 36 OPEN INTERFACE TOM'S SC430 脇阪 寿一/アンドレ・ロッテラー 44 10Laps BS 5

・タイヤ=BS:ブリヂストン/DL:ダンロップ/YH:ヨコハマ

 

→ 2006 AUTOBACS SUPER GT 第4戦 JAPAN GT CHAMPIONSHIP MALAYSIA

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