SUPERGT.netでは2020年のSUPER GTシリーズ開幕まで「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
第6回は2012年の第7戦、目まぐるしく順位が変わった雨のオートポリス。最終ラップにS Road REITO MOLA GT-Rが逆転して優勝、しかも最終戦を前にして連覇を決めたバトルです。「雨中の大逆転で連覇達成」の一戦をプレイバック!
■連覇を目指す1号車は予選Q2でタイヤ選択をミス
台風の接近で雨の週末となった2012年9月29日。AUTOBACS SUPER GT第7戦「SUPER GT in KYUSHU 300km」の公式練習では、ディフェンディングチャンピオンでランキングトップのNo.1 S Road REITO MOLA GT-R(柳田真孝/ロニー・クインタレッリ)がトップタイムを記録。「路面温度が低いので、正しいタイヤのチョイスが必要だ」と、タイヤの重要性をアタックしたクインタレッリは語っていた。
そして迎えた公式予選。クインタレッリがQ1をトップで通過。だが、柳田はQ2を10位と、Q3に進出できず。気温が低いため、温まっているQ1用タイヤをQ2で使う作戦が裏目に出た。一方、ランキング2位のNo.38 ZENT CERUMO SC430(立川祐路/平手晃平)の立川は、Q3を4位で終えて表彰台を見据える。
決勝日もやはり雨。午前のフリー走行は霧のため、わずか7分で中止。幸いにも昼過ぎには霧も晴れ、雨の中セーフティカー(SC)スタートに。SC先導2周の後、レースが始まる。ポールポジションからスタートしたのはNo.19 WedsSport ADVAN SC430(荒聖治/アンドレ・クート)のクート。しかし予選3位のNo.23 MOTUL AUTECH GT-R(本山哲/ミハエル・クルム)の本山が早々にパス。23号車はリードを広げるも、12周目にGT300車両がクラッシュしてSCが導入され、マージンは消える。17周目に再スタートすると2番手以降の順位は目まぐるしく変わり、中盤を過ぎると23号車もタイヤがマッチしなくなったのか順位を下げていく。
そうした中でペースが良かったのは、No.32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴)の道上だ。予選Q2で中山がクラッシュしたため、11番手からスタート。しかも修復に際しエンジン交換をしたため、序盤にペナルティストップ15秒を課されて14番手まで落ちていた。それでも「昨日のクラッシュを忘れるほどチームが速いマシンに仕上げてくれた」と道上。さらにタイヤがコンディションにマッチした32号車は徐々に順位を上げ、レース中盤の30周目には3番手となる。
対して1号車のクインタレッリは、着実に周回を重ねる。レース前半のコンディションが見えないため「安全を重視したタイヤを選んだ」からだ。そしてシナリオ通りにミニマムでのピットインを実行。1号車にタイヤを供給するミシュランは「予選こそがっかりでしたが、雨は(タイヤの)性能をアピールする舞台ですから」と自信を持って臨んでいたのだ。
■レース後半は逃げる32号車HSV-010を1号車GT-Rが猛追
後半に入った42周目に、32号車は所定のピットイン。チームはタイヤ無交換でタイムを稼ぎ、トップで中山を送り出す。中山は44周目にGT300車両と接触して、No.24 D'station ADVAN GT-R(安田裕信/ビヨン・ビルドハイム)の安田に先行を許す。だがペースは衰えず、50周目には再びトップを奪い返してみせた。
一方、1号車の柳田は5番手。この頃から小雨になりコース後半は乾き出し、タイヤがマッチせずペースアップできないマシンが増える。その中、1号車だけは快調だ。57、58周目には19号車、24号車を相次いで抜き2番手に。10秒以上先のトップ32号車を追い上げる。
32号車はタイヤ無交換の苦しさが出たのか、ペースが悪い。残り8周、32号車と1号車の差は約8秒に。だが柳田は追撃の手を緩めない。ラップタイムが1分50秒程度の32号車に対して、1号車は1分48秒台、62周目には車両ベストの1分46秒005を叩き出して差を詰めていく。すると、場内やテレビ中継の実況が慌てはじめる。逆転優勝の可能性が高くなっただけでなく、1号車が優勝して38号車(立川)がこの時点の5番手で終われば、柳田/クインタレッリ組の連覇が決定することに気が付いたからだ。しかも38号車のペースは悪く、自力での上位は見込めそうもなかった。
だが、その差はまだ5秒前半。トップの中山は、滑るマシンを必死に前に進める。「予選では僕がクラッシュしてしまったが、チームが夜を徹して修復してくれた。だから、何としても結果で恩返しをしたいという強い想いがありました」。NAKAJIMA RACING総監督の中嶋悟氏が、GT300クラスすら未経験の中山を抜擢してから4年目。初めて訪れた優勝のチャンスだ。あと3周、中山も1分48、49秒で逃げ切りを図る。
■ラストラップに王者・柳田の闘争心が燃え上がる
しかしファイナルラップを前に、32号車の背後に1号車が迫った。タイヤ以外にも「24号車を抜いてからブレーキがロックするようになり、ペースが落ちてしまった…」と、苦しい状況の中山。あと1周を逃げ切りたい中山は1コーナーの出口でインを締め、1号車をブロック。ペースの速い柳田はフルブレーキングで接触を避ける。
「強引にインを締められて『絶対に抜いてやろう』『このレースに勝つんだ!』と思った」。ゼッケン1を付ける柳田の闘争心が燃え上がる。2003年にGT300チャンピオンを獲得。2005年にGT500クラスに上がるも、2009年にはGT300クラスに戻る。しかし、2010年に再びGT300を制して翌年GT500に復帰。その年にチャンピオンを獲得し、史上初の両クラス制覇を成し遂げ、さらにはこの年も連覇に手を掛けた。その柳田が“王者の貫禄”を見せつける。
第1ヘアピン出口から32号車と1号車はサイド・バイ・サイドで軽い接触もしながら競り合い続ける。すると、第2ヘアピン進入で中山がブレーキングを遅らせて前に。これには付き合わなかった柳田は、大きくアウトに膨らむ32号車のインをズバリと突く。意地で追いすがる中山だが、アウト側のタイヤを芝生に落としてスピン。これで勝負ありだ。
大逆転の勝利で柳田は、連覇それもGT300と合わせて3年連続チャンピオンを決めた。「無線の調子が悪くてピットからの情報も伝わらず、(チャンピオンは)チェッカーを受けるまでまったく考えていませんでした。今大会は自身GT参戦100戦目でしたが、レースに勝って、連覇を達成でき、本当に最高の気分です」と満面の笑み。もちろんクインタレッリとチームも連覇だ。クインタレッリは2014、15年にも連覇して、現在もGT500クラス最多の制覇4回を誇るドライバーとなっている。
|
|
|
|
|
|
|
|
2012 AUTOBACS SUPER GT 第7戦 SUPER GT in KYUSHU 300km/オートポリス
公式予選:2012年9月29日(土) 天候:雨/コース:ウェット
決勝レース:2012年9月30日(日) 天候:雨/コース:ウェット
Po | No | Machine | Driver | Laps | Time | Tire | Q-Pos |
---|---|---|---|---|---|---|---|
GT500
|
|||||||
1 | 1 | S Road REITO MOLA GT-R | 柳田 真孝/ロニー・クインタレッリ | 65 | 2:09'45.269 | MI | 10 |
2 | 32 | EPSON HSV-010 | 道上 龍/中山 友貴 | 65 | 7.581 | DL | 11 |
3 | 19 | WedsSport ADVAN SC430 | 荒 聖治/アンドレ・クート | 65 | 31.747 | YH | 1 |
4 | 24 | D'station ADVAN GT-R | 安田 裕信/ビヨン・ビルドハイム | 65 | 35.489 | YH | 3 |
5 | 39 | DENSO KOBELCO SC430 | 脇阪 寿一/石浦 宏明 | 65 | 1'45.603 | MI | |
6 | 23 | MOTUL AUTECH GT-R | 本山 哲/ミハエル・クルム | 65 | 1'47.611 | BS | 2 |
7 | 38 | ZENT CERUMO SC430 | 立川 祐路/平手 晃平 | 65 | 1'49.213 | BS | 4 |
8 | 100 | RAYBRIG HSV-010 | 伊沢 拓也/山本 尚貴 | 64 | 1Lap | BS | 7 |
9 | 18 | ウイダー HSV-010 | 小暮 卓史/カルロ・ヴァン・ダム | 64 | 1Lap | BS | 6 |
10 | 12 | カルソニックIMPUL GT-R | 松田 次生/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ | 64 | 1Lap | BS | 8 |
11 | 8 | ARTA HSV-010 | ラルフ・ファーマン/小林 崇志 | 64 | 1Lap | BS | 12 |
12 | 6 | ENEOS SUSTINA SC430 | 伊藤 大輔/大嶋 和也 | 64 | 1Lap | BS | |
13 | 35 | KeePer Kraft SC430 | 国本 雄資/アンドレア・カルダレッリ | 64 | 1Lap | BS | 13 |
14 | 17 | KEIHIN HSV-010 | 金石 年弘/塚越 広大 | 63 | 2Laps | BS | 5 |
15 | 36 | PETRONAS TOM'S SC430 | 中嶋 一貴/ロイック・デュバル | 63 | 2Laps | BS | 9 |
・タイヤ=BS:ブリヂストン/DL:ダンロップ/MI:ミシュラン/YH:ヨコハマ
→ 2012 AUTOBACS SUPER GT 第7戦 SUPER GT in KYUSHU 300km
4/13-14 | Round1 OKAYAMA | |
5/03-04 | Round2 FUJI | |
6/01-02 | Round3 SUZUKA | |
8/03-04 | Round4 FUJI | |
8/31-9/01 | Round5 SUZUKA | |
9/21-22 | Round6 SUGO | |
10/19-20 | Round7 AUTOPOLIS | |
11/02-03 | Round8 MOTEGI |