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2020.05.26
【SUPER GT 名勝負列伝】「地獄から天国へ。雨宮アスパラドリンクRX7が悲願の戴冠」2006年最終戦富士

【SUPER GT 名勝負列伝】「地獄から天国へ。雨宮アスパラドリンクRX7が悲願の戴冠」2006年最終戦富士の画像

2006 AUTOBACS SUPER GT Round 9 FUJI GT 300km RACE/ 2006.11.5 FUJI SPEEDWAY

SUPERGT.netでは2020年のSUPER GTシリーズ開幕まで「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
第8回は2006年の最終戦、富士スピードウェイで行われた第9戦です。GT300タイトルを争う雨宮アスパラドリンクRX7のエース山野哲也が、決勝レース早々にまさかのスピン。この絶体絶命のピンチから数々のバトル&ドラマを経て、歓喜の結末へ…。「地獄から天国へ」の一戦をプレイバック!

 


 

   

 

 

RX-7と紫電が最終戦富士でタイトルを争う

「あのスピンは、未だに不思議なんです。誰かがリアウイングを引っ張り上げたようにフワッと…。僕は(マシン)コントロールには絶対の自信があって、これまで決勝でのスピンは1度もなかったんですよ」。2006年にGT300クラス3連覇を決めた山野哲也は、あの絶体絶命に陥った“スピン”をこう語った。

 それは、2006 AUTOBACS SUPER GT第9戦(最終戦)の「FUJI GT 300km RACE」でのこと。山野哲也が所属するRE雨宮レーシングは、ロータリーエンジン車のチューナーとして日本最高レベルの腕を持つ雨宮勇美が率いる参戦13年目のチームで、GT300クラスでも人気、実力共にトップクラスだ。この年、RE雨宮のNo.7 雨宮アスパラドリンクRX7(山野哲也/井入宏之)は、第4戦セパンで優勝。直前の第8戦オートポリスでも2位に入って、ランキング2位で最終戦富士に臨んだ。彼らに5ポイント差でランキング1位に立つのは、オートポリスで7号車を抑えて優勝したNo.2 プリヴェチューリッヒ・紫電(高橋一穂/加藤寛規)だ。最終戦でのチャンピオン争いは、事実上この2台によって行われた。

 予選日の11月4日。舞台となる富士スピードウェイは、2005年に新コースにリニューアル。自慢のロングストレートは健在で、“高速重視”の特性は基本変わりなく、コーナリング・マシンのRX-7と紫電には苦手のコースだ。それでも、5月の第3戦富士でウェイトハンディ0kgを利して2号車はポールポジションを得ただけに若干有利か。しかし、当時は最終戦までのウェイトハンディを搭載する規定で、2号車は上限の100kg、7号車は85kgと共に厳しい状態だ。
 それもあって予選では、2台ともスーパーラップ(予選1回目の上位10台で行われる1台ごとのタイムアタック予選)には残れず。それでも7号車が11位、2号車が13位となる。ポイントを考えれば、2号車の前でのゴールが必須の7号車が前のグリッドとなった。ちなみにポールポジションは、No.777 梁山泊 apr MR-S(田中実/大嶋和也)の大嶋で、最年少記録(19歳6カ月)である。

 

 

山野がまさかの単独スピンでRX-7がピンチに

 そして翌日の決勝レース。7号車のスタートドライバーはエースの山野。前年の2005年はMR-S(No.30 RECKLESS MR-S)、2004年はHonda NSX(No.16 M-TEC NSX)で連覇しているチャンピオンだ。この年、以前所属したRE雨宮に初タイトルをと移籍し、自身の3連覇にも挑む。また彼はジムカーナ競技でも、王者12回(当時)の記録を持っていた。それだけに、雨宮監督もパートナーの井入も、彼が2号車を引き離してピットインする想定だったろう。
 だが、レース6周目。2号車(加藤)を背後に従え、7号車が12番手でヘアピンを抜けたその時、山野は単独スピンを喫してしまう。ピットで見ていた井入は「その瞬間、ピットが凍りつきました。(タイトル争いが)終わったというか、それすら思い浮かばなかった」と振り返る。

 幸いクラッシュすることなく、360度回って山野はコースにすぐ戻る。順位は22番手に落ちていた。「ホント、穴があったら入りたいくらい(苦笑)。でも『まだ諦めるタイミングではない』と、その後は必死に走った。どんな走りをしたかも覚えていないほど…」。RX-7のコンディション自体はベスト。さらに、ポジションが下がったことで前走車が少なくスムーズな走りもできた。
 山野の必死のリカバリーにより11番手、2号車の2つ後ろまで追い上げた35周目に、7号車はピットイン。ここでタイヤは左側2本のみの交換と、チームも策を講じる。だが、コースに戻った7号車の井入の前にはNo.46 吉兆宝山 DIREZZA Z(佐々木孝太/番場琢)の佐々木が立ち塞がり、なかなか順位を上げることができない。「焦る気持ちもあって『一か八か行こうか』とも思いました。でも、結果として無理をしなくて(最後までペースが良かったので)良かったですね」と井入は振り返った。実際、46号車は終盤ペースが落ち、代わって前を行くNo.55 DHG ADVAN FORD GT(光貞秀俊/池田大祐)もペナルティで眼前から消えていった。

 

 

 

最終ラップに大波乱!タイトルはどちらの手に

 終盤は2号車(高橋)との一騎打ちとなる。「第8戦はガチンコで2号車に勝てず、2位でも嬉しくなかった。(第5戦)SUGOは僕のミスでスピンして(結果9位)。だから最終戦はタイトルと言うより“絶対何とかしてやろう”という気持ちが大きかった」。そう臨んだ井入は、ペースの上がらない2号車を抜いて7番手に浮上。だが、このポジションでは2号車はノーポイントでもタイトルを獲得できる。高橋も懸命の走りをするが、前2輪のみの交換でタイヤバランスを崩したのか紫電のペースは上がらず、7号車に追いすがれない。

 そして迎えた最終ラップ。トップは激戦の末、予選6位から素早いピットタイムを利して上がってきたNo.62 WILLCOM ADVAN VEMAC408R(柴原眞介/黒澤治樹)の柴原。2番手のNo.101 TOY STORY Racing MR-S(新田守男/高木真一)の高木とは差も開き、62号車の優勝は確実に思えた。しかし、先頭でゴールしたのは101号車だ。62号車はコース終盤でガス欠により失速。チェッカー目前のネッツ(現GR Supra)コーナーでマシンを止めてしまった。

 これで後続の順位も繰り上がり、7号車は6位でフィニッシュ。だが、2号車が1ポイントでも獲れば、タイトルには届かない。「2号車が順位を落としたのは分かっていました。彼らのピットも(タイトル獲得と)大騒ぎで。だけど『あれっ?』ってなって…」。山野が言うように、最終的に2号車は12位でレースを終える。同じ頃、GT500も逆転でチャンピオンが決まったことで、ピット周辺では62号車のストップにしばらく気が付かなかったのだ。

 この結果、7号車の山野/井入組と2号車の高橋/加藤組は86点の同ポイントとなり、優勝も1回ずつ。規定により、2位の入賞回数が多い山野/井入組が逆転でGT300クラスのチャンピオンに輝いた。RE雨宮レーシングと井入にとっては初。山野は3年連続で、違う車種、違うタイヤでタイトルという現在も更新されない記録を打ち立てた。
 レース直後、山野は号泣して雨宮監督に抱えられるようにピットを出て、井入を迎えに行った。「チャンピオンだと分かった瞬間、もう倒れ(泣き崩れ)て、何も言えず…。RE雨宮は僕が初めてJGTCに出たチームで、(自分の3連覇より)初タイトルをプレゼントできて、すごく嬉しかった。今日は自分で地獄と天国を見ちゃった感じですが(苦笑)、アマさん(雨宮監督)、井入君、RSファイン(メンテンナンス)、みんなで獲ったタイトルですよ」

 

 

 

 


No.101 TOY STORY Racing MR-S(新田守男/高木真一)
決勝1位/予選12位
 

   


No.19 ウェッズスポーツセリカ(松田晃司/脇阪薫一)
決勝2位/予選2位
 


No.13 エンドレスアドバンCCI Z(影山正美/藤井誠暢)
決勝3位/予選5位
 

   


No.777 梁山泊 apr MR-S(田中 実/大嶋和也)
決勝4位/予選1位
 


No.88 アクティオ ムルシェ RG-1(マルコ・アピチェラ/桧井保孝)
決勝5位/予選16位
 

   


No.46 吉兆宝山 DIREZZA Z(佐々木孝太/番場 琢)
決勝7位/予選7位
 


No.2 プリヴェチューリッヒ・紫電(高橋一穂/加藤寛規)
決勝12位/予選13位
 

   


No.62 WILLCOM ADVAN VEMAC408R(柴原眞介/黒澤治樹)
決勝14位/予選6位
 

 

 

 

 

2006 AUTOBACS SUPER GT 第9戦 FUJI GT 300km RACE/富士スピードウェイ

公式予選:2006年11月4日(土) 天候:曇/コース:ドライ

決勝レース:2006年11月5日(日) 天候:晴/コース:ドライ

Po No Machine Driver Laps Time Tire Q-Pos
GT300
1 101 TOY STORY Racing MR-S 新田 守男/高木 真一 61 1:48'53.200 MI 12
2 19 ウェッズスポーツセリカ 松田 晃司/脇阪 薫一 61 0'00.723 YH 2
3 13 エンドレスアドバンCCI Z 影山 正美/藤井 誠暢 61 0'16.467 YH 5
4 777 梁山泊 apr MR-S 田中 実/大嶋 和也 61 0'29.337 MI 1
5 88 アクティオ ムルシェ RG-1 マルコ・アピチェラ/桧井 保孝 61 0'33.612 YH 16
6 7 雨宮アスパラドリンクRX7 山野 哲也/井入 宏之 61 0'37.431 YH 11
7 46 吉兆宝山 DIREZZA Z 佐々木 孝太/番場 琢 61 0'39.474 DL 7
8 26 カーチスTOMOタイサンGT3 西澤 和之/山路 慎一 61 0'51.606 YH 10
9 87 トライクジャパン ムルシェ RG-1 山西 康司/和田 久 61 0'54.395 YH 19
10 96 EBBRO BTEC MAZIORA 350R 黒澤 琢弥/黒澤 翼 61 0'55.244 DL 4
11 77 クスコスバルADVANインプレッサ 小林 且雄/菊地 靖 61 1'00.041 YH 22
12 2 プリヴェチューリッヒ・紫電 高橋 一穂/加藤 寛規 61 1'35.020 YH 13
13 61 アネブル ADVAN VEMAC320R 密山 祥吾/谷口 信輝 61 1'45.262 YH 21
14 62 WILLCOM ADVAN VEMAC408R 柴原 眞介/黒澤 治樹 60 1Lap YH 6
15 55 DHG ADVAN FORD GT 光貞 秀俊/池田 大祐 60 1Lap YH 15
16 11 JIM CENTER FERRARI DUNLOP 田中 哲也/青木 孝行 60 1Lap DL 14
17 5 プロμマッハGOGOGO車検320R九州 玉中 哲二/筒井 克彦 60 1Lap YH 20
18 910 洗剤革命 UEMATSU&石松RSR 植松 忠雄/阪口 良平 60 1Lap YH 18
19 47 吉兆宝山 DIREZZA Z 長島 正興/安田 裕信 60 1Lap DL 8
20 14 ハンコックエンドレスポルシェ 木下 みつひろ/峰尾 恭輔 60 1Lap HK 17
21 52 プロμ太陽石油KUMHOセリカ 竹内 浩典/嵯峨 宏紀 59 2Laps KH 24
22 10 T&G CyberAgent DUNLOP F360 ヒロミ/尾本 直史 59 2Laps DL 23
23 666 ライフワークBOMEXアップル NSX 周防 彰悟/山下 潤一郎 59 2Laps YH 26
24 170 外車の外国屋アドバンポルシェ 石橋 義三/高見沢 一吉 58 3Laps YH 27
25 111 RodeoDrive WAKO'S GT3 飯島 寛也/Guts 城内 50 11Laps YH 25
  9 NOMAD ADVAN LeyJun MT OSAMU/田中 勝喜 29 32Laps YH 3
  110 TOTALBENEFIT GREENTEC BOXSTER 松田 秀士/菅  一乗 8 53Laps YH 9

・タイヤ=BS:ブリヂストン/DL:ダンロップ/HK:ハンコック/KH:クムホ/MI:ミシュラン/YH:ヨコハマ

 

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