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2020.06.02
【SUPER GT 名勝負列伝】「若手が演じた完勝劇。夏の耐久で石浦/大嶋組がGT500初勝利」2009年第6戦鈴鹿

【SUPER GT 名勝負列伝】「若手が演じた完勝劇。夏の耐久で石浦/大嶋組がGT500初勝利」2009年第6戦鈴鹿の画像

2009 AUTOBACS SUPER GT Round 6 38th INTERNATIONAL Pokka GT SUMMER SPECIAL / 2009.8.23 SUZUKA CIRCUIT

SUPERGT.netでは2020年のSUPER GTシリーズ開幕まで「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
第9回は2009年の第6戦、鈴鹿サーキットでの真夏の耐久です。2007年にGT300クラスを制覇した若き2人が、GT500クラスで再びタッグを組み波乱の長距離戦を乗り切ってGT500クラスでの初優勝に邁進します。「若手が演じた完勝劇」の一戦をプレイバック!

 


 

   

 

 

GT300を制した兄弟のようなコンビが再びGT500で組む

 2019年にGT500クラスを初制覇した大嶋和也。そして、同じTOYOTA/LEXUSのドライバーであり、大嶋のライバルでもある石浦宏明。ふたりは2006年にGT300クラスに初参戦。そして、2007年に新鋭コンビとしてNo.101 TOY STORY apr MR-Sを駆り、GT300クラスのチャンピオンを獲得した。この時、大嶋は20歳、石浦は26歳。意外に年齢が離れているが、TOYOTAの育成スクールでは同期である。それは大嶋が小学2年生からカートに乗っているのに対し、石浦は高校卒業後にカートを始めたから。そして、出会ったふたりはまるで兄弟のように意気投合し、パドックやプライベートでもいつも一緒に過ごしていた。
 GT300制覇の翌年、石浦はGT500クラスへステップアップ。最高位は4位とまずまずの結果を残す。対して、大嶋は欧州のフォーミュラレースに挑戦。1勝を挙げるが、折からの経済不況から欧州遠征を1年で終える。

 そして、2009年。ふたりは再び同じステアリングを握る。開幕戦岡山の予選はスーパーラップに進出して、石浦が予選2位を獲得。雨の決勝はタイヤ選択のミスから遅れ、最終的は9位。第5戦までで、第3戦富士の5位が決勝最上位だった。

 

 

真夏の鈴鹿は“全開で行く!”とふたりで決めて臨む

 この年の第6戦は、2006年からSUPER GTの一戦となった鈴鹿サーキットの長距離レース“Pokka(鈴鹿)1000km”だ。だが、この年は折からの世界的な経済悪化で、決勝レースは700kmに短縮された。それだけに走行ペースが上がり、よりハードな戦いになると予想されていた。

 8月22日午後の予選、この大会は3段階のノックダウン方式(※)で行われた。まずセッション1は大嶋のタイムで8番手通過。続くセッション2は石浦が走り、No.38 ZENT CERUMO SC430(立川祐路/リチャード・ライアン)の立川に続く2位。ポールポジションを争うセッション3は、GT500クラスで初めて最終アタッカーを任された大嶋。前走の石浦のベストタイムは上回れなかったが、トップタイムで初のポールポジションを獲得した。
「セッション1はギリギリのタイムで、(セッション3は)僕がこれまで出したことないようなタイムでないとポールは獲れないと思いました。でも、前戦は調子が良かったのに結果に結び付かなかったので、この鈴鹿は“行くしかない!“という気持ちでした。始めはドキドキでしたが、ミスなくまとめられて、すごいホッとしてます」と、大嶋は初々しいコメントを残した。
 ※ 当時は各大会によって公式予選の方式が選択でき、「スーパーラップ」方式と「ノックダウン」方式と呼ばれていた。


 ただ、予選の最後に使ったタイヤが決勝スタートに使われるため、無理はしていなかったり、固めのタイヤを選んだチームも多く、決勝レースでは状況が変わる可能性も考えられた。
「このレース、僕らは(アクセルを)全開でいこうと決めてきたので、決勝もスタートから全開で逃げ切るようなレースをしたい」と石浦は、この機会を最大限に活かそうと考えていたのだ。

 迎えた決勝レース。気温31度の中で121周の長丁場が始まる。35号車の石浦は、予選後の言葉通りに最初からスパート。5周目にはファステストラップを記録して、2番手のNo.3 HASEMI TOMICA EBBRO GT-R(ロニー・クインタレッリ/安田裕信)のクインタレッリを徐々に引き離す。そして28周目にピットインして、大嶋にバトンタッチ。ここからは耐久レースらしく、各チームの作戦次第で順位が前後するが、前半戦の実質トップは35号車がキープしていた。

 石浦はGT500クラスで2年目、大嶋はルーキーだが、関係者や取材者たちは彼らの落ち着いたレース運びに感心していた。「(セットや作戦も)ふたりで必ず話しをして決めています。この前のテストで大嶋がすごく良いタイムで、ふたりで話して予選アタッカーも決めました」と石浦。さらにレース序盤も「(予選で使った)タイヤが保つかギリギリで、(2番手を)3、4秒離したら(タイヤをセーブする走りで)温存しました」と、石浦はクレバーな走り方をしていた。

 大嶋がピットインする58周を前に、2番手No.8 ARTA NSX(ラルフ・ファーマン/伊沢拓也)の伊沢との差は10秒以上になっていた。ピットのタイミングで3号車や8号車、No.6 ENEOS SC430(伊藤大輔/ビヨン・ビルドハイム)に一旦トップを譲ることもあったが、35号車はここまで完璧であった。

 

 

 

チームの好判断で勝負所を切り抜け、大嶋が逃げ切る

 レースも終盤に入る85周目、第1コーナーに入った8号車の左リアタイヤがパンク。この影響でエンジン下面を壊したのか、車両火災が発生してしまう。この消火作業や事後処理のため、セーフティカー(SC)が導入された。
 この時、35号車の石浦は最初にピットインを済ませる(当時の規定ではSC導入中もピットインは可能)。すると他車もこれに続き、止めた車両に挟まれた車両がすぐに発進できなかったり、給油中の出火があったりとピット前は混乱状態となる。
「SCが出てちょっと動揺しましたが、そこでチームが良い判断をして、ピットインさせてくれました」と、石浦はここが勝負の分かれ目だったと語る。

 SCが退去し、残り30周。フィニッシュドライバーは大嶋だ。35号車は未だトップだが、SCでマージンはほとんどなくなった。背後ではNo.36 PETRONAS TOM'S SC430(脇阪寿一/アンドレ・ロッテラー)の脇阪と3号車の安田が競っている。
「SCで約10秒のマージンがなくなったのは、仕方ないと割り切りました。自分もクルマも調子が良く、タイヤも最後まで大丈夫だから“あとは全開でいこう”と…」。逃げ切る自信があった大嶋はハイペースで2番手争いを引き離していく。一方、追うべき36号車はペースが落ちて3号車にパスされ、さらにGT300車両との接触でペナルティとなり、上位から脱落した。
 鈴鹿に宵闇が迫るころ、35号車の大嶋は2番手の3号車を約10秒離して、あとはその間隔を保つ走りをする。そして、危なげなくチェッカーフラッグをまっ先にくぐった。

「終盤クールスーツが効かず、ドリンクもすぐになくなって“やばい”と思いました。最後15周くらいは、気合いを入れながら毎周を走っていました」。表彰式後のインタビューで言葉少なに語る大嶋だが、その顔は苦しさより微笑みが勝っていた。また石浦は「これまで僕らは若手らしくないと言われていたんで(苦笑)、ここからは(若手らしく)のびのびと暴れるレースができるかなと思います」と、取材陣を笑わせる余裕も。若手コンビのGT500クラス初優勝とは思えない、優勝会見となった。

 

 

 

 


No.3 HASEMI TOMICA EBBRO GT-R(ロニー・クインタレッリ/安田裕信)
決勝2位/予選2位
 

   


No.38 ZENT CERUMO SC430(立川祐路/リチャード・ライアン)
決勝3位/予選4位
 


No.18 ROCKSTAR 童夢 NSX(道上 龍/小暮卓史)
決勝4位/予選6位
 

   


No.12 IMPUL カルソニック GT-R(松田次生/セバスチャン・フィリップ)
決勝5位/予選11位
 


No.1 MOTUL AUTECH GT-R(本山 哲/ミハエル・クルム)
決勝6位/予選12位
 

   


No.39 DUNLOP SARD SC430(アンドレ・クート/平手晃平)
決勝7位/予選10位
 


No.36 PETRONAS TOM'S SC430(脇阪寿一/アンドレ・ロッテラー)
決勝8位/予選7位
 

   


No.100 RAYBRIG NSX(井出有治/細川慎弥)
決勝9位/予選9位
 

 

 

 

 

2009 AUTOBACS SUPER GT 第6戦 38th INTERNATIONAL Pokka GT SUMMER SPECIAL/鈴鹿サーキット

公式予選:2009年8月22日(土) 天候:晴/コース:ドライ

決勝レース:2009年8月23日(日) 天候:曇・晴/コース:ドライ

Po No Machine Driver Laps Time Tire Q-Pos
GT500
1 35 KRAFT SC430 石浦 宏明/大嶋 和也 121 4:16'02.744 BS 1
2 3 HASEMI TOMICA EBBRO GT-R ロニー・クインタレッリ/安田 裕信 121 0'10.681 MI 2
3 38 ZENT CERUMO SC430 立川 祐路/リチャード・ライアン 121 0'18.450 BS 4
4 18 ROCKSTAR 童夢 NSX 道上 龍/小暮 卓史 121 0'20.928 BS 6
5 12 IMPUL カルソニック GT-R 松田 次生/セバスチャン・フィリップ 121 0'36.905 BS 11
6 1 MOTUL AUTECH GT-R 本山 哲/ミハエル・クルム 121 0'37.189 BS 12
7 39 DUNLOP SARD SC430 アンドレ・クート/平手 晃平 121 0'49.525 DL 13
8 36 PETRONAS TOM'S SC430 脇阪 寿一/アンドレ・ロッテラー 121 1'00.967 BS 7
9 100 RAYBRIG NSX 井出 有治/細川 慎弥 121 1'44.360 BS 9
10 17 KEIHIN NSX 金石 年弘/塚越 広大/金石 勝智 120 1Lap BS 14
11 24 HIS ADVAN KONDO GT-R J.P・デ・オリベイラ/荒 聖治 119 2Laps YH 10
12 8 ARTA NSX ラルフ・ファーマン/伊沢 拓也 84 37Laps BS 5
  6 ENEOS SC430 伊藤 大輔/ビヨン・ビルドハイム 64 57Laps BS 3
  32 EPSON NSX ロイック・デュバル/中山 友貴 12 109Laps DL 8

・タイヤ=BS:ブリヂストン/DL:ダンロップ/MI:ミシュラン/YH:ヨコハマ

 

→ 2009 AUTOBACS SUPER GT 第6戦 38th INTERNATIONAL Pokka GT SUMMER SPECIAL

 

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