SUPERGT.netでは2020年のSUPER GTシリーズ開幕まで「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
第9回は2009年の第6戦、鈴鹿サーキットでの真夏の耐久です。2007年にGT300クラスを制覇した若き2人が、GT500クラスで再びタッグを組み波乱の長距離戦を乗り切ってGT500クラスでの初優勝に邁進します。「若手が演じた完勝劇」の一戦をプレイバック!
■GT300を制した兄弟のようなコンビが再びGT500で組む
2019年にGT500クラスを初制覇した大嶋和也。そして、同じTOYOTA/LEXUSのドライバーであり、大嶋のライバルでもある石浦宏明。ふたりは2006年にGT300クラスに初参戦。そして、2007年に新鋭コンビとしてNo.101 TOY STORY apr MR-Sを駆り、GT300クラスのチャンピオンを獲得した。この時、大嶋は20歳、石浦は26歳。意外に年齢が離れているが、TOYOTAの育成スクールでは同期である。それは大嶋が小学2年生からカートに乗っているのに対し、石浦は高校卒業後にカートを始めたから。そして、出会ったふたりはまるで兄弟のように意気投合し、パドックやプライベートでもいつも一緒に過ごしていた。
GT300制覇の翌年、石浦はGT500クラスへステップアップ。最高位は4位とまずまずの結果を残す。対して、大嶋は欧州のフォーミュラレースに挑戦。1勝を挙げるが、折からの経済不況から欧州遠征を1年で終える。
そして、2009年。ふたりは再び同じステアリングを握る。開幕戦岡山の予選はスーパーラップに進出して、石浦が予選2位を獲得。雨の決勝はタイヤ選択のミスから遅れ、最終的は9位。第5戦までで、第3戦富士の5位が決勝最上位だった。
■真夏の鈴鹿は“全開で行く!”とふたりで決めて臨む
この年の第6戦は、2006年からSUPER GTの一戦となった鈴鹿サーキットの長距離レース“Pokka(鈴鹿)1000km”だ。だが、この年は折からの世界的な経済悪化で、決勝レースは700kmに短縮された。それだけに走行ペースが上がり、よりハードな戦いになると予想されていた。
8月22日午後の予選、この大会は3段階のノックダウン方式(※)で行われた。まずセッション1は大嶋のタイムで8番手通過。続くセッション2は石浦が走り、No.38 ZENT CERUMO SC430(立川祐路/リチャード・ライアン)の立川に続く2位。ポールポジションを争うセッション3は、GT500クラスで初めて最終アタッカーを任された大嶋。前走の石浦のベストタイムは上回れなかったが、トップタイムで初のポールポジションを獲得した。
「セッション1はギリギリのタイムで、(セッション3は)僕がこれまで出したことないようなタイムでないとポールは獲れないと思いました。でも、前戦は調子が良かったのに結果に結び付かなかったので、この鈴鹿は“行くしかない!“という気持ちでした。始めはドキドキでしたが、ミスなくまとめられて、すごいホッとしてます」と、大嶋は初々しいコメントを残した。
※ 当時は各大会によって公式予選の方式が選択でき、「スーパーラップ」方式と「ノックダウン」方式と呼ばれていた。
ただ、予選の最後に使ったタイヤが決勝スタートに使われるため、無理はしていなかったり、固めのタイヤを選んだチームも多く、決勝レースでは状況が変わる可能性も考えられた。
「このレース、僕らは(アクセルを)全開でいこうと決めてきたので、決勝もスタートから全開で逃げ切るようなレースをしたい」と石浦は、この機会を最大限に活かそうと考えていたのだ。
迎えた決勝レース。気温31度の中で121周の長丁場が始まる。35号車の石浦は、予選後の言葉通りに最初からスパート。5周目にはファステストラップを記録して、2番手のNo.3 HASEMI TOMICA EBBRO GT-R(ロニー・クインタレッリ/安田裕信)のクインタレッリを徐々に引き離す。そして28周目にピットインして、大嶋にバトンタッチ。ここからは耐久レースらしく、各チームの作戦次第で順位が前後するが、前半戦の実質トップは35号車がキープしていた。
石浦はGT500クラスで2年目、大嶋はルーキーだが、関係者や取材者たちは彼らの落ち着いたレース運びに感心していた。「(セットや作戦も)ふたりで必ず話しをして決めています。この前のテストで大嶋がすごく良いタイムで、ふたりで話して予選アタッカーも決めました」と石浦。さらにレース序盤も「(予選で使った)タイヤが保つかギリギリで、(2番手を)3、4秒離したら(タイヤをセーブする走りで)温存しました」と、石浦はクレバーな走り方をしていた。
大嶋がピットインする58周を前に、2番手No.8 ARTA NSX(ラルフ・ファーマン/伊沢拓也)の伊沢との差は10秒以上になっていた。ピットのタイミングで3号車や8号車、No.6 ENEOS SC430(伊藤大輔/ビヨン・ビルドハイム)に一旦トップを譲ることもあったが、35号車はここまで完璧であった。
■チームの好判断で勝負所を切り抜け、大嶋が逃げ切る
レースも終盤に入る85周目、第1コーナーに入った8号車の左リアタイヤがパンク。この影響でエンジン下面を壊したのか、車両火災が発生してしまう。この消火作業や事後処理のため、セーフティカー(SC)が導入された。
この時、35号車の石浦は最初にピットインを済ませる(当時の規定ではSC導入中もピットインは可能)。すると他車もこれに続き、止めた車両に挟まれた車両がすぐに発進できなかったり、給油中の出火があったりとピット前は混乱状態となる。
「SCが出てちょっと動揺しましたが、そこでチームが良い判断をして、ピットインさせてくれました」と、石浦はここが勝負の分かれ目だったと語る。
SCが退去し、残り30周。フィニッシュドライバーは大嶋だ。35号車は未だトップだが、SCでマージンはほとんどなくなった。背後ではNo.36 PETRONAS TOM'S SC430(脇阪寿一/アンドレ・ロッテラー)の脇阪と3号車の安田が競っている。
「SCで約10秒のマージンがなくなったのは、仕方ないと割り切りました。自分もクルマも調子が良く、タイヤも最後まで大丈夫だから“あとは全開でいこう”と…」。逃げ切る自信があった大嶋はハイペースで2番手争いを引き離していく。一方、追うべき36号車はペースが落ちて3号車にパスされ、さらにGT300車両との接触でペナルティとなり、上位から脱落した。
鈴鹿に宵闇が迫るころ、35号車の大嶋は2番手の3号車を約10秒離して、あとはその間隔を保つ走りをする。そして、危なげなくチェッカーフラッグをまっ先にくぐった。
「終盤クールスーツが効かず、ドリンクもすぐになくなって“やばい”と思いました。最後15周くらいは、気合いを入れながら毎周を走っていました」。表彰式後のインタビューで言葉少なに語る大嶋だが、その顔は苦しさより微笑みが勝っていた。また石浦は「これまで僕らは若手らしくないと言われていたんで(苦笑)、ここからは(若手らしく)のびのびと暴れるレースができるかなと思います」と、取材陣を笑わせる余裕も。若手コンビのGT500クラス初優勝とは思えない、優勝会見となった。
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2009 AUTOBACS SUPER GT 第6戦 38th INTERNATIONAL Pokka GT SUMMER SPECIAL/鈴鹿サーキット
公式予選:2009年8月22日(土) 天候:晴/コース:ドライ
決勝レース:2009年8月23日(日) 天候:曇・晴/コース:ドライ
Po | No | Machine | Driver | Laps | Time | Tire | Q-Pos |
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GT500
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1 | 35 | KRAFT SC430 | 石浦 宏明/大嶋 和也 | 121 | 4:16'02.744 | BS | 1 |
2 | 3 | HASEMI TOMICA EBBRO GT-R | ロニー・クインタレッリ/安田 裕信 | 121 | 0'10.681 | MI | 2 |
3 | 38 | ZENT CERUMO SC430 | 立川 祐路/リチャード・ライアン | 121 | 0'18.450 | BS | 4 |
4 | 18 | ROCKSTAR 童夢 NSX | 道上 龍/小暮 卓史 | 121 | 0'20.928 | BS | 6 |
5 | 12 | IMPUL カルソニック GT-R | 松田 次生/セバスチャン・フィリップ | 121 | 0'36.905 | BS | 11 |
6 | 1 | MOTUL AUTECH GT-R | 本山 哲/ミハエル・クルム | 121 | 0'37.189 | BS | 12 |
7 | 39 | DUNLOP SARD SC430 | アンドレ・クート/平手 晃平 | 121 | 0'49.525 | DL | 13 |
8 | 36 | PETRONAS TOM'S SC430 | 脇阪 寿一/アンドレ・ロッテラー | 121 | 1'00.967 | BS | 7 |
9 | 100 | RAYBRIG NSX | 井出 有治/細川 慎弥 | 121 | 1'44.360 | BS | 9 |
10 | 17 | KEIHIN NSX | 金石 年弘/塚越 広大/金石 勝智 | 120 | 1Lap | BS | 14 |
11 | 24 | HIS ADVAN KONDO GT-R | J.P・デ・オリベイラ/荒 聖治 | 119 | 2Laps | YH | 10 |
12 | 8 | ARTA NSX | ラルフ・ファーマン/伊沢 拓也 | 84 | 37Laps | BS | 5 |
6 | ENEOS SC430 | 伊藤 大輔/ビヨン・ビルドハイム | 64 | 57Laps | BS | 3 | |
32 | EPSON NSX | ロイック・デュバル/中山 友貴 | 12 | 109Laps | DL | 8 |
・タイヤ=BS:ブリヂストン/DL:ダンロップ/MI:ミシュラン/YH:ヨコハマ
→ 2009 AUTOBACS SUPER GT 第6戦 38th INTERNATIONAL Pokka GT SUMMER SPECIAL
4/13-14 | Round1 OKAYAMA | |
5/03-04 | Round2 FUJI | |
6/01-02 | Round3 SUZUKA | |
8/03-04 | Round4 FUJI | |
8/31-9/01 | Round5 SUZUKA | |
9/21-22 | Round6 SUGO | |
10/19-20 | Round7 AUTOPOLIS | |
11/02-03 | Round8 MOTEGI |