SUPERGT.netでは2020年のSUPER GTシリーズ開幕まで「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
第10回は2010年の第5戦、スポーツランドSUGO。予選10位のKEIHIN HSV-010が、決勝で猛追撃。終盤は逃げるウイダー HSV-010と好バトル。そして2台はフィニッシュラインをほぼ横一線で駆け抜けて…。「壮絶バトル!0.025秒差の逆転劇。」の一戦をプレイバック!
■予選10番手から17号車の金石年弘が猛烈な追い上げ
2010年シーズンはHondaがHSV-010 GTをGT500クラスに送り出した。開幕戦鈴鹿では、No.18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/ロイック・デュバル)がデビュー戦でポールポジションを獲得。決勝ではNo.100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴)が3位表彰台。そして、第2戦岡山では18号車がポール・トゥ・ウインで初勝利を飾る。これでHonda初となるGTのFRマシンは一躍脚光を浴びることとなる。
そして迎えた第5戦。スポーツランドSUGOでの予選日は、No.23 MOTUL AUTECH GT-R(本山 哲/ブノワ・トレルイエ)が絶好調で、公式練習、予選1回目とトップタイム。スーパーラップでもトレルイエが最速ラップを決め、ポールポジションを獲得した。HSV-010 GT勢も100号車の伊沢が2位、4番手に18号車の小暮、5番手はNo.8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/井出有治)のファーマンと上位に名を連ねる。
だがNo.17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大)は、予選1回目で塚越がドライブするも歯車が噛み合わず10番手で、トップ8によるスーパーラップ進出を逃す。しかし、マシンの調子自体は悪くなく、決勝レースでの巻き返しを誓っていた。
■独走の23号車GT-Rに悪夢! 優勝争いは18号車と17号車に
決勝スタートでは、ポールポジションから23号車のトレルイエが逃げ、5周目にはファステストラップになる1分17秒691を記録し、後続の100号車の伊沢と18号車のデュバルを引き離す。2番手争いでは100号車がスピンし、代わって18号車が23号車を追いかける。
この後方で目覚ましい追い上げを見せたのが、17号車の金石だ。予選10位から10周目には7番手、30周目には4番手へとポジションを上げていく。
上位で早めに動いたのは18号車で、29周目に小暮に交代。17号車は37周目、4番手でピットイン。塚越に追い上げのバトンを渡す。23号車はトレルイエで引っ張り、2番手に10秒差をつけて50周目にピットへ。実質トップのまま、本山に引き継いだ。
レースも後半。各車のピットが済み、17号車は3番手に浮上。さらに塚越は72周目に自己ベストの1分18秒864を叩き出して、18号車との差は1秒台にまで削られた。
残り8周となった74周目。追う18号車に約10秒差をつけトップを快走していた23号車が、最終コーナーで突如マシンを止めてしまう。「エンジンのメイン電源が突然落ちた。しばらくしてからスイッチを入れ直すと、再スタートしたが…」と本山。レース後に判明したが、前走の周回遅れが跳ね上げたコブシほどのタイヤかすが、23号車のボンネット上にあるキルスイッチ(非常時に外から電源を切るレバー)に当たって、なんと電源が切れたという。これで1分近く動けなかった23号車は上位から脱落した。
■終盤は小暮と塚越が好バトル! 決着は最後の直線で
ついにトップは18号車の小暮。その背後にまで迫った17号車の塚越とのマッチレースとなる。早めのピットインをした18号車はタイヤがグリップダウンしたのか、コーナーでマシンが滑ることも。塚越にとって小暮は、Hondaドライバーの先輩で、抜くべき目標だ。まして、このパッシングは2008年にスポット参戦して以来苦楽を共にしたチームの、もちろん自身と金石(※)にとっても、GT500初勝利に直結する。コーナーごとに18号車に迫り、牽制して、時にサイドにマシンをねじ込む。しかし、小暮もHonda系チームの中心である18号車のエースを任されるドライバーだ。時に暴れるマシンを巧みに抑え付け、塚越にパッシングを許さない。
※金石年弘はシリーズ戦以外ならば2004年のオールスター戦カルフォルニア第1レースで優勝している(G'ZOX・SSR・ハセミ Z)。
ラスト6周の最終コーナー手前。18号車がGT300車両に詰まると、17号車はすかさずアウトへ。塚越が抜いたかに見えたが、小暮はGT300車両がインに避けた瞬間に思い切ってアウト側、17号車の前にマシンを加速させる。小暮らしい攻める守りでトップをキープ。塚越は「リスクを負ってまで抜こうと思ってなかった。ぶつかってもいけないので、そこで仕切り直して抑えていこうと…」と、ここは引く決断をした。
残り2周の1コーナーでは、スリップから出た塚越がアウトから抜きに掛かる。しかし、小暮はレイトブレーキングでそれをを許さない。2台はサイド・バイ・サイドで2コーナーに向かうが、ここも小暮が守り切った。
そして、2台はテール・トゥ・ノーズのままで最終ラップへ。この1ラップ、両車とも1分19秒台前半の全力疾走。このまま18号車の小暮が逃げ切るかと思えた最終コーナー。小暮の目の前にGT300車両が現れる。このため、18号車のコーナー脱出速度がわずかに鈍ったか、ストレート入り口で18号車のスリップストリームに17号車の塚越が入る。小暮もそれは許さないと、イン側にマシンを向けて17号車をスリップから外そうとする。しかし、すでに加速に入った17号車はまっすぐに18号車に並び掛ける。
スリップストリームがしっかり効いたこと。18号車のわずかな進路変更で17号車はまっすぐに走れたこと。このレースのウェイトハンディが18号車は70kgに対し、17号車は28kgと軽かったこと。SUGOのメインストレートが登り坂だったこと。そういった要因が味方したか、17号車は18号車に並ぶことに成功。そしてフィニッシュラインを2台が駆け抜けた。
GT500クラスの1位と2位差の最少記録となる0.025秒、マシンのノーズ部分だけ前に出た17号車が勝者となった。前半の立役者である金石が「今日はスタート直後からマシンの調子が良かった。(塚越が)2番手になってからはピットでレースを見ていられなくなり、トレーラーの中でモニターを眺め、とにかく祈っていました。優勝した瞬間は鳥肌が立ちました」と語るほど、劇的な逆転勝ちだった。
「前半を年弘さんが順位を上げてくれ、それが非常にいいペースだったので、(自分に)代わってからも慌てず最後まで攻めようと思いました。走り出してからは前へ前へと追い上げるだけ。最後は(18号車の目前に)GT300のクルマがいなかったら抜けなかった。あれは狙っていたわけではなく、本当に運が良かっただけだと思います」と、塚越は記者会見で振り返った。
“何かが起こる”と言われるSUGOだけに、運を呼び寄せるのも実力と言えるだろう。そんな劇的で記録的な逆転劇であった。
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2010 AUTOBACS SUPER GT 第5戦 SUGO GT 300km RACE/スポーツランドSUGO
公式予選:2010年7月24日(土) 天候:晴/コース:ドライ
決勝レース:2010年7月25日(日) 天候:晴/コース:ドライ
Po | No | Machine | Driver | Laps | Time | Tire | Q-Pos |
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GT500
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1 | 17 | KEIHIN HSV-010 | 金石 年弘/塚越 広大 | 81 | 1:50'27.577 | BS | 10 |
2 | 18 | ウイダー HSV-010 | 小暮 卓史/ロイック・デュバル | 81 | 0'00.025 | BS | 4 |
3 | 6 | ENEOS SC430 | 伊藤 大輔/ビヨン・ビルドハイム | 81 | 0'12.633 | BS | 8 |
4 | 12 | カルソニック IMPUL GT-R | 松田 次生/ロニー・クインタレッリ | 81 | 0'16.466 | BS | 6 |
5 | 24 | HIS ADVAN KONDO GT-R | J.P・デ・オリベイラ/安田 裕信 | 81 | 0'37.837 | YH | 11 |
6 | 23 | MOTUL AUTECH GT-R | 本山 哲/ブノワ・トレルイエ | 81 | 0'56.119 | MI | 1 |
7 | 1 | PETRONAS TOM'S SC430 | 脇阪 寿一/アンドレ・ロッテラー | 81 | 1'14.303 | BS | 12 |
8 | 100 | RAYBRIG HSV-010 | 伊沢 拓也/山本 尚貴 | 81 | 1'14.474 | BS | 2 |
9 | 38 | ZENT CERUMO SC430 | 立川 祐路/リチャード・ライアン | 80 | 1Lap | BS | 9 |
10 | 39 | DENSO DUNLOP SARD SC430 | アンドレ・クート/平手 晃平 | 79 | 2Laps | DL | 13 |
11 | 32 | EPSON HSV-010 | 道上 龍/中山 友貴 | 79 | 2Laps | DL | 7 |
12 | 8 | ARTA HSV-010 | ラルフ・ファーマン/井出 有治 | 77 | 4Laps | BS | 5 |
35 | MJ KRAFT SC430 | 石浦 宏明/大嶋 和也 | 15 | 66Laps | BS | 3 |
・タイヤ=BS:ブリヂストン/DL:ダンロップ/MI:ミシュラン/YH:ヨコハマ
→ 2010 AUTOBACS SUPER GT 第5戦 SUGO GT 300km RACE
4/13-14 | Round1 OKAYAMA | |
5/03-04 | Round2 FUJI | |
6/01-02 | Round3 SUZUKA | |
8/03-04 | Round4 FUJI | |
8/31-9/01 | Round5 SUZUKA | |
9/21-22 | Round6 SUGO | |
10/19-20 | Round7 AUTOPOLIS | |
11/02-03 | Round8 MOTEGI |