SUPERGT.netでは2020年のSUPER GTシリーズ開幕まで「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
第12回は2006年の第5戦、スポーツランドSUGO。GT300クラスの決勝レースは序盤から驚きのバトルが展開。そして緊迫のレースは最終ラップまで続き、トップを争う4台が一団となってゴールを駆け抜ける。「トップ4が0.7秒差でチェッカー」の一戦をプレイバック!
■前年チャンピオンたちは新たな挑戦を選ぶ
2005年のGT300チャンピオンである山野哲也と佐々木孝太は、この2006年はそれぞれ別の道を選んだ。山野は古巣のNo.7 雨宮アスパラドリンクRX7(山野哲也/井入宏之)へ。そして佐々木は、前年からフェアレディZで参戦を開始したMOLAのエースとしてNo.46 吉兆宝山 DIREZZA Zのステアリングを握る。パートナーは、前年2戦にスポット参戦した24歳の番場琢。この年、初のレギュラードライバーというチャンスを得た。
前年王者であり、ドライバーとしても32歳と脂の乗りきった佐々木は、初めてのZながら開幕戦鈴鹿、第2戦岡山と連続でポールポジションを獲得。岡山での予選会見では「去年はチャンピオンになれて"強さ"を見せられましたが、今年はそれにプラスして"速さ"をアピールしたい。鈴鹿は雨(の予選)で“まぐれ”と思われたところもあったので、今回は正真正銘のポールを獲りに行きました」と意気込んでいた。
だが、鈴鹿はスタートの佐々木が逃げ切れず、番場もアウトラップでスピンして結果は12位。岡山も思うように行かず5位。第3戦富士は6位、続くセパンはノーポイントと前半戦は噛み合わずに過ぎていった。
全9戦で行われた2006シーズンの折り返しは、第5戦スポーツランドSUGO。当時は金曜日に練習走行が行われていたが、雨と霧、低い路面温度で各チームは十分なデータは得られなかった。その中で、佐々木は上位に名を連ねる。そして、予選日の7月22日も雨。佐々木は予選1回目でトップタイム。だが、スーパーラップを前に小雨となり、路面は一部乾いてタイヤ選択が難しくなる。結局、ドライ路面用のスリックタイヤを選んだNo.88 アクティオムルシェRG-1(マルコ・アピチェラ/桧井保孝)のアピチェラがポールポジションを獲得。46号車の佐々木は5番手となった。
■佐々木が好スタートも序盤はスリーワイドの激戦
決勝日、朝は小雨と霧だったが昼前には雨は上がって、コースもドライ路面に。各車がドライコンディションのデータが無い中、決勝レースを迎える。
このレースもスタートドライバーとなった46号車の佐々木は好スタートを切って、1周目には3番手に浮上。トップの88号車のアピチェラ、追うNo.96 EBBRO BTEC MAZIORA 350R(黒澤琢弥/黒澤 翼)の兄、琢弥、そして佐々木の3台がサイド・バイ・サイドの激戦を早くも繰り広げる。そして3周目にはメインストレートで3台横一線の“スリーワイド”のスリリングなバトルも披露。SUGOのスリーワイドと言えば2007年第5戦、GT500クラスのバトルが有名だが、GT300ではその前年にすでに披露していたのだ。
この中、トップに抜け出たのは46号車の佐々木。2番手の96号車は、追い上げてきたNo.11 JIM CENTER FERRARI DUNLOP(田中哲也/青木孝行)の田中と接触。2台はもつれるようにスピン、コースアウトして優勝争いから脱落。88号車も選んだタイヤが状況に合わなかったか、ポジションを下げてしまう。
作戦通りにレースの半分以上、42周を走った佐々木がピットイン。46号車を番場に手渡す。実質トップの番場を追い上げるのはNo.13 エンドレスアドバンCCI Z(影山正美/藤井誠暢)の藤井だ。予選はスーパーラップに進めず11番手だった13号車だが、影山の猛追もあって中盤には2番手まで上がっていた。さらに、その後ろにはNo.27 direxiv ADVAN 320R(密山祥吾/谷口信輝)の密山と、No.2 Privée Zurich・アップル・紫電(高橋一穂/加藤寛規)の加藤も迫っていた。
トップを走る番場は、GT500車両との交錯など思うように行かないこともあり、追ってくる13号車とのマージン10秒をジワジワと消費してしまう。「できるだけマージンを取って番場選手に渡したかったので、それはできた。マージンは使ってもらうために取るんですけど、そんなきっちり使うな!と(笑)」と、佐々木はレース後半を見守る心境を振り返った。
一方、後半のペースが良かったのは2号車だ。加藤は58周目に27号車を抜いて3番手に浮上する。だが、27号車も僅差で食い下がり、15秒以上あったトップ4の間隔は周を追うごとに詰まっていった。
■後続の猛追でラストラップは4台が超接戦に
46号車を追う13号車の藤井は、この後GT300で6勝を記録する選手となるが、この年はまだ参戦2年目。トップとの差を詰めるが、それで精一杯の状況だった。対して、この時すでにベテランの域に達していた2号車の加藤は、自分が開発する“紫電”のポテンシャルを最大限に発揮して、前の2台に迫っていく。それに引っ張られるように27号車のペースも衰えない。ラスト10周で、トップ46号車と13号車の差は約1.5秒。その4秒ほど後方に2号車と27号車が追い上げる。
ここから46号車の番場も踏ん張り、13号車と約1秒差をキープ。藤井は前を追うどころか、背後1秒まで迫ってきた2号車の加藤が気になる状態になってしまう。
いよいよラストラップ。ここでGT500クラスのトップを走るNo.1 ZENT CERUMO SC(立川祐路/高木虎之介)の立川が、1コーナーでGT300トップ集団に追い付く。1号車もNo.23 XANAVI NISMO Z(本山 哲/松田次生)の本山に追われているだけにGT300集団を強引に掻き分けるように抜いていく。バックストレッチに入ったところで、1号車は1列僅差で進む46号車、13号車、2号車を抜こうとする。だが、46号車だけは抜けずに馬の背コーナーを通過。
立川にすれば46号車がSPコーナーで譲らないようにも思えたはずだ。「(1号車に)追い付かれたときは、最終コーナーまで先に行こうと思ったんです。『SPコーナーのあたりで譲れ』と無線があったんですが、僕も冷静さを失っていて…」とは番場。そして最終コーナー入り口で番場がアウト側にズレるやいなや、猛然と1号車は駆け抜けて行った。
これで加速が鈍った46号車の背後、スリップストリームに13号車が張り付き、2号車は先行2台のインに、27号車は13号車の背後に位置して、ラストラップの最終コーナーを駆け上がっていく。ウェイトハンディがわずかに軽かった利もあったのか、登り坂の加速は13号車より46号車の方が良かった。13号車の藤井としては、2号車がイン側に来てしまったため、抜きどころを逸してしまったか。
トップ争い4台の中、まっ先でゴールを駆け抜けたのは、46号車の番場だ。2位の13号車との差はわずか0.401秒。その真横に0.035秒遅れて2号車が3位。4位の27号車までトップから1秒もない、0.785秒の激戦、一瞬の攻防だった。
「後ろから(No.13とNo.2が)来ているのは分かっていたんで“絶対抜かれない”と、アクセルは戻さないで踏みっぱなし。優勝は嬉しいけど、反省点がものすごくあって、正直、嬉しいのは半分。優勝は(佐々木)孝太さんのおかげです」と、優勝会見で番場は述べた。
佐々木は「これでタイトルを狙える位置に来た」と語ったが、残念ながらこの後は表彰台に登ることは叶わず。タイトルは、前年のチームメイトである山野がエースを務める7号車の手に渡った。番場とチームはこれが初優勝で、5年後に番場はGT300のチャンピオンとなる。MOLAも2年後の2008年にGT300のタイトルを獲得し、ステップアップしたGT500クラスでも2度の栄冠を手にしている。
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2006 AUTOBACS SUPER GT 第5戦 SUGO GT 300km RACE /スポーツランドSUGO
公式予選:2006年7月22日(土) 天候:雨/コース:ウエット
決勝レース:2006年7月23日(日) 天候:曇/コース:ドライ
Po | No | Machine | Driver | Laps | Time | Tire | Q-Pos |
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GT300
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1 | 46 | 吉兆宝山 DIREZZA Z | 佐々木 孝太/番場 琢 | 75 | 1:49'21.084 | DL | 5 |
2 | 13 | エンドレスアドバンCCI Z | 影山 正美/藤井 誠暢 | 75 | 0'00.401 | YH | 11 |
3 | 2 | Privée Zurich・アップル・紫電 | 高橋 一穂/加藤 寛規 | 75 | 0'00.435 | YH | 2 |
4 | 27 | direxiv ADVAN 320R | 密山 祥吾/谷口 信輝 | 75 | 0'00.785 | YH | 14 |
5 | 101 | TOY STORY Racing MR-S | 新田 守男/高木 真一 | 75 | 0'53.932 | MI | 9 |
6 | 110 | TOTALBENEFIT GREENTEC BOXSTER | 松田 秀士/菅 一乗 | 75 | 1'07.797 | YH | 13 |
7 | 777 | 梁山泊 apr MR-S | 田中 実/大嶋 和也 | 74 | 1Lap | MI | 8 |
8 | 47 | 吉兆宝山 DIREZZA Z | 長島 正興/安田 裕信 | 74 | 1Lap | DL | 7 |
9 | 7 | 雨宮アスパラドリンクRX7 | 山野 哲也/井入 宏之 | 74 | 1Lap | YH | 15 |
10 | 96 | EBBRO BTEC MAZIORA 350R | 黒澤 琢弥/黒澤 翼 | 74 | 1Lap | DL | 3 |
11 | 52 | プロμ太陽石油KUMHOセリカ | 竹内 浩典/嵯峨 宏紀 | 74 | 1Lap | KH | 18 |
12 | 87 | トライクジャパン ムルシェ RG-1 | 山西 康司/WADA-Q | 73 | 2Laps | YH | 21 |
13 | 9 | NOMAD ADVAN LeyJun MT | OSAMU/田中 勝喜 | 72 | 3Laps | YH | 23 |
14 | 666 | ライフワークBOMEXアップル NSX | 周防 彰悟/山下 潤一郎 | 72 | 3Laps | YH | 22 |
15 | 88 | アクティオ ムルシェ RG-1 | マルコ・アピチェラ/桧井 保孝 | 72 | 3Laps | YH | 1 |
16 | 11 | JIM CENTER FERRARI DUNLOP | 田中 哲也/青木 孝行 | 69 | 6Laps | DL | 4 |
17 | 5 | プロμマッハGOGOGO車検320R九州 | 玉中 哲二/筒井 克彦 | 59 | 16Laps | YH | 17 |
18 | 19 | ウェッズスポーツセリカ | 松田 晃司/脇阪 薫一 | 53 | 22Laps | YH | 12 |
77 | クスコスバルADVANインプレッサ | 小林 且雄/谷川 達也 | 49 | 26Laps | YH | 10 | |
62 | WILLCOM ADVAN VEMAC408R | 柴原 眞介/黒澤 治樹 | 35 | 40Laps | YH | 16 | |
10 | T&G CyberAgent DUNLOP F360 | ヒロミ/尾本 直史 | 27 | 48Laps | DL | 19 | |
55 | DHG ADVAN FORD GT | 光貞 秀俊/池田 大祐 | 14 | 61Laps | YH | 20 | |
14 | ハンコックエンドレスポルシェ | 木下 みつひろ/峰尾 恭輔 | 4 | 71Laps | HK | 6 |
・タイヤ=DL:ダンロップ/HK:ハンコック/KH:クムホ/MI:ミシュラン/YH:ヨコハマ
→ 2006 AUTOBACS SUPER GT 第5戦 SUGO GT 300km RACE
4/13-14 | Round1 OKAYAMA | |
5/03-04 | Round2 FUJI | |
6/01-02 | Round3 SUZUKA | |
8/03-04 | Round4 FUJI | |
8/31-9/01 | Round5 SUZUKA | |
9/21-22 | Round6 SUGO | |
10/19-20 | Round7 AUTOPOLIS | |
11/02-03 | Round8 MOTEGI |