SUPERGT.netでは2020年のSUPER GTシリーズ開幕まで「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
第13回は2010年の最終戦(第8戦)、ツインリンクもてぎ。レース後半、ウイダーHSV-010の小暮は2番手のままゴールしてもチャンピオンが決定。それでも彼はトップを奪うべく、PETRONAS TOM'S SC430の脇阪へアタック。脇阪もシーズン初勝利のため、必死のディフェンス。もしクラッシュすればすべてを失う、激しく緊張感溢れるサイド・バイ・サイド。「The Racers Battle」の一戦をプレイバック!
■最大のライバルが早々に脱落。18号車が優位に立つ
2010年の最終戦「MOTEGI GT 250km RACE」では、9チームにGT500チャンピオンの可能性が残されていた。だが、現実的にはランキングトップのNo.18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/ロイック・デュバル)と、1ポイント差のNo.6 ENEOS SC430(伊藤大輔/ビヨン・ビルドハイム)が本命。10ポイント差のNo.1 PETRONAS TOM'S SC430(脇阪寿一/アンドレ・ロッテラー)とNo.17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大)は優勝して、あとはライバル次第。以上、この4チームの争いとなっていた。
10月23日の予選から18号車と6号車は火花を散らす。予選1回目では6号車のビルドハイムがトップ。18号車は3番手。続く予選2回目は3セッションのノックダウン予選(※)。まずセッション1(S1)は18号車の小暮がコースレコードでトップ。17号車の金石が3番手、6号車は4番手。S2は6号車のビルドハイムがトップタイムで、1号車のロッテラーが3番手、18号車のデュバルが4番手。
S2上位7台で行われるS3で、S1で自ら出したレコードを更新して小暮がポールポジションを決める。「今回はホントにヤバかったです。いつもより緊張して。僕は緊張しないと良い走りができないけれど、それでもヘルメットを被れば“バーン”と忘れる(無心になる)のに、あれこれ考えちゃって。S3の前は久々に意識が離れていくのを感じました(苦笑)。ピットから(無線で)『たぶんポール』と言われて舞い上がって、あとはよく憶えてないです」と、小暮らしい言葉でこの予選を振り返る。
一方、6号車はわずか0.057秒で2位。伊藤は悔しがるが、チームは18号車より柔らかいタイヤを選んでいたため、決勝スタートでの逆襲に手応えを感じていた。大逆転を狙う17号車は3位、1号車は5位につけた。
翌10月24日は曇り。気温19度とレース観戦には最適な1日だった。午後2時ちょうど、決勝レースのスタートが切られる。ポールから逃げる18号車のデュバルを僅差で6号車のビルドハイムが追う。本格的にドッグファイトになるかと思われた3周目、なんと6号車がピットロードに。ビルドハイムはスターティンググリッドへのコースインで赤信号を無視。このペナルティのピットストップ20秒を課せられたのだ。「タイヤを温めることに集中して信号を見落とした…。最悪の1日にしてしまった」。ミスをビルドハイムは悔やむが、最後尾に落ちた6号車のタイトルは絶望的となった。
※当時は各大会によって公式予選の方式が選択でき、「スーパーラップ」方式と「ノックダウン」方式と呼ばれていた。
■ピットインを前に18号車を抜き、1号車がリードする
これで背後に17号車の金石を従え、レース序盤はHonda HSV-010 GTのワン・ツーとなる。だが、2台が選んだミディアムタイヤは微妙にコンディションに合わず、思うようにペースを上げられない。その後方からハイペースでポジションを上げてきたのは1号車のロッテラーだ。スタート周でNo.12 カルソニックIMPUL GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)の松田を抜き、14周目には17号車も抜いて、トップの18号車との間隔を狭めていく。
19周目の1コーナーでロッテラーは粘るデュバルのインにSC430をねじ込み前へ出る。タイトルを考えれば1号車に先行されても、この位置をキープすればOKのデュバルは無理にバトルに持ち込む必要はなかった。
トップとなった1号車はわずか3周ほどで18号車との差を約3秒と広げる。だがソフト系のタイヤだけに、レース折り返し前の23周終わりでピットイン。チームは素早いピットワークで、脇阪を実質トップでコースに戻す。そしてタイヤがマッチしていなかった18号車も翌周にピットへ。作業タイムを削るよりタイトルのための確実性を重視し、1号車より時間をかけて小暮をコースに送り出す。
1号車と18号車の差は5秒近くに開き、リアタイヤ2本交換作戦を採った17号車はそれが裏目に出てペースが上がらず3番手。シリーズタイトルを考えれば、これでレースは実質終わりと言える状況だった。
だが、このレースがGT参戦101戦目となる脇阪は「アンドレ(ロッテラー)の順位を引き継いで、あとは職人みたいにタイヤマネージメントをしてレースをまとめるというは、(このレースを前に)もう止めちゃおうかなと思っていた」と、SC430に最後のムチを入れる。そして、もう1人これを良しとしなかったのが、小暮だった。2番手キープと思われた18号車が猛然とスパート。GT500全車がピットインし、1号車がトップに戻った35周目。その背後には18号車が迫っていた。
■冷静に攻める小暮とクリーンに守った脇阪の好ファイト
1号車のテールを捉えた18号車の小暮は、37周目の1コーナーで、果敢にアウトからオーバーテイクを仕掛ける。連続する2コーナーの立ち上がりではサイド・バイ・サイド、時に軽く接触をしながら短いストレートを駆け抜け、3コーナーでは今度はアウト側の脇阪が前に出る。
「タイトルを考えれば(小暮は)2位キープだと思ったけど、優勝にこだわってファイトしてきた。彼は凄いな、僕が忘れていたものをまだ持っている。でも(タイトルを獲る立場なら)アホちゃうかって(笑)」。レース後に脇阪はユーモアを交えて、小暮の攻めの姿勢を讃えた。この後も1号車と18号車はテール・トゥ・ノーズで周回を続け、小暮は隙あらば脇阪の懐を刺すべく攻撃姿勢を緩めない。そして、ホットであってもクリーンな一線を保った好ファイトが続いた。
この年、HondaはマシンをNSXからHSV-010 GTに変更した。このニューマシンに初めて乗った時、小暮は「チャンピオンを獲れる」と感じた。さらにNo.18 ウイダーホンダレーシングは、小暮とデュバルというトップフォーミュラで優勝を争う実力者が組むことになる。それだけに小暮は「毎戦、ポールポジションで優勝する」と意気込んだ。
そして開幕戦鈴鹿は、早速ポールポジションを奪取。だが、決勝は2台のHSV-010 GTを巻き込んでクラッシュしてリタイアで終わった。それでも第2戦岡山は、ポール・トゥ・ウインで見事リベンジ。その後は2度の表彰台を得て、ランキングトップで迎えた最終戦もてぎ。当然、ここでも“ポール・トゥ・ウイン”にこだわった。
1号車を猛攻する小暮に、ピットは「リスクは避けような。落ち着いていこう」と無線で諭す。“熱くなっている”と見えたが、小暮は無理をしていないと言う。前日の予選前、あたふたする彼にHondaのGTプロジェクトリーダー(PL)である瀧敬之介氏は「小暮、ゆっくり速く、だからな」と声を掛ける。決勝で走り出す前も瀧PLと話した小暮は「ゆっくり速く、ですよね」と返したという。そう、気持ちは“ゆっくり”、マシンは“速く”なら、なにも恐れることはない。
「僕にとって2位と1位では価値が全然違う。だから可能性があれば、チャレンジしたかった。最初(1号車と)ぶつかった時は、レース人生を振り返りかけましたが(苦笑)。それ以外は、みんなが思うほどプッシュしていなかったんですよ」と小暮。ラスト数周となっても、小暮は少しでも脇阪がふらつけば並び掛けようとして観客を絶叫させた。
結局、前年チャンピオンである1号車がプライドを見せた、脇阪とロッテラーがシーズン初勝利を手にする。最終戦を2位で終えた18号車の小暮とデュバルが、2010年のチャンピオンを勝ち獲った。
「ファンには刺激的なレースだったろうけど、僕は何度も心臓が止まりそうだったよ(苦笑)」。そう言うデュバルは、マシンが停止位置に止まる前にドアを開けてしまうほど、2人のGT500初タイトルにたかぶっていた。
「開幕戦のクラッシュは、(悪い事を)すぐ忘れる僕でもすごく辛かった。その後は一戦一戦、凄い緊張感の中で走っていました。ああいうプロとしてのプレッシャーは初めてでした。これまで何度もタイトルのチャンスをもらって、逃して。本当にHondaの皆さんに、応援し続けていただいた方々に“ありがとう”の気持ちでいっぱいです」。小暮はそう感謝の言葉を述べ、2010年シーズンを締めくくった。
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2010 AUTOBACS SUPER GT 第8戦 MOTEGI GT 250km RACE/ツインリンクもてぎ
公式予選:2010年10月23日(土) 天候:晴/コース:ドライ
決勝レース:2010年10月24日(日) 天候:曇/コース:ドライ
Po | No | Machine | Driver | Laps | Time | Tire | Q-Pos |
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GT500
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1 | 1 | PETRONAS TOM'S SC430 | 脇阪 寿一/アンドレ・ロッテラー | 53 | 1:37'19.525 | BS | 5 |
2 | 18 | ウイダー HSV-010 | 小暮 卓史/ロイック・デュバル | 53 | 0'00.326 | BS | 1 |
3 | 17 | KEIHIN HSV-010 | 金石 年弘/塚越 広大 | 53 | 0'15.327 | BS | 3 |
4 | 35 | MJ KRAFT SC430 | 石浦 宏明/大嶋 和也 | 53 | 0'15.706 | BS | 6 |
5 | 12 | カルソニック IMPUL GT-R | 松田 次生/ロニー・クインタレッリ | 53 | 0'32.326 | BS | 4 |
6 | 100 | RAYBRIG HSV-010 | 伊沢 拓也/山本 尚貴 | 53 | 0'32.962 | BS | 8 |
7 | 8 | ARTA HSV-010 | ラルフ・ファーマン/井出 有治 | 53 | 0'36.223 | BS | 10 |
8 | 23 | MOTUL AUTECH GT-R | 本山 哲/ブノワ・トレルイエ | 53 | 0'44.196 | MI | 9 |
9 | 32 | EPSON HSV-010 | 道上 龍/中山 友貴 | 53 | 0'50.841 | DL | 11 |
10 | 24 | HIS ADVAN KONDO GT-R | J.P・デ・オリベイラ/安田 裕信 | 53 | 1'05.177 | YH | 7 |
11 | 39 | DENSO DUNLOP SARD SC430 | カルロ・ヴァンダム/平手 晃平 | 53 | 1'11.009 | DL | 13 |
12 | 6 | ENEOS SC430 | 伊藤 大輔/ビヨン・ビルドハイム | 53 | 1'16.862 | BS | 2 |
38 | ZENT CERUMO SC430 | 立川 祐路/リチャード・ライアン | 35 | 18Laps | BS | 12 |
・タイヤ=BS:ブリヂストン/DL:ダンロップ/MI:ミシュラン/YH:ヨコハマ
→ 2010 AUTOBACS SUPER GT 第8戦 MOTEGI GT 250km RACE
4/13-14 | Round1 OKAYAMA | |
5/03-04 | Round2 FUJI | |
6/01-02 | Round3 SUZUKA | |
8/03-04 | Round4 FUJI | |
8/31-9/01 | Round5 SUZUKA | |
9/21-22 | Round6 SUGO | |
10/19-20 | Round7 AUTOPOLIS | |
11/02-03 | Round8 MOTEGI |