SUPERGT.netでは2020年のSUPER GTシリーズ開幕まで「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
第14回は2015年の最終戦となる第8戦、舞台はツインリンクもてぎ。MOTUL AUTECH GT-Rは、予選12位と厳しい結果となる。抜きにくいと言われるもてぎで、ランキングトップで予選5位のカルソニック IMPUL GT-Rの前でゴールしないと連覇は潰えてしまう。しかし決勝日の朝、松田とクインタレッリは“行ける”という確信があった。「王者の逆襲」の一戦をプレイバック!
■雨の予選が松田/クインタレッリの連覇を窮地に追い込む
2015年の最終戦「MOTEGI GT 250km RACE」。ロニー・クインタレッリは11月15日、決勝日の朝に磨き上げられ、完璧に仕上がっているNo.1 MOTUL AUTECH GT-Rを見て「このクルマは強い」「僕らは勝てる」と勇気をもらったという。そして、彼らは予選12位から、連覇を狙って決勝レースに臨んだ。
同い年の松田次生とロニー・クインタレッリは2010年にTEAM IMPULで初めて組み、2014年にNISMOで再びチームメイトとなる。シーズン序盤こそ苦しんだが第3戦オートポリスと第8戦もてぎに勝利し、GT500クラスのチャンピオンに輝いた。
そして2015年も同じ体制で、連覇に挑んだ。この年は、第2戦富士でポール・トゥ・ウインを決め、そのままランキング上位を進むかと思われた。しかし中盤戦はノーポイントこそなかったが、上位入賞は叶わず苦しいレースが続いた。それでも、前年も勝利した第7戦のオートポリスで2勝目を挙げて、ランキング2位へと浮上した。
迎えた最終戦のツインリンクもてぎ。古巣でランキングトップ、2ポイント差のNo.12 カルソニック IMPUL GT-R(安田裕信/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)の前を走らなければ連覇はない。他に4チームにタイトルの可能性はあったが、ランキング3位で13ポイント差のNo.38 ZENT CERUMO RC F(立川祐路/石浦宏明)までに実質絞られた状況だ。
予選日の11月14日。雨の中、午前の公式練習で1号車は2番手タイム。だが、予選Q1を前に雨脚が強くなり、それが彼らを苦しめる。“普通の雨“ならなにも問題なかったが、強めの雨ではライバルたちが使用するタイヤメーカーのレインタイヤにアドバンテージがあったからだ。
Q1を早めにアタックした松田だが、結果は12位。上位8台が進出するQ2には進めず。タイトルを争う12号車と38号車は、Q2で5位、6位となる。1号車の実力からすれば決勝で届かない位置ではないが、もてぎは抜きにくいコースと言われ、最終戦はシリーズ最短の250kmと抜くチャンスがいつもより少ないこともあり、かなり難しいミッションだ。「この時は今年チャンピオンになるのは無理かもと思いました」と、いつも強気で前向きなクインタレッリでさえ悲観的になっていた。
■微妙な天候の中、下位スタートのクインタレッリ好走
決勝日の翌15日は天候が回復する予報だったが、午前のフリー走行は雨。ここでも1号車は11番手。しかし、昼前には雨は上がるという情報を得ていた彼らは、それを見込んだセッティングを試していたのだ。
その後、予報通りに雨は上がり、路面も乾いた。ところが、スタート直前に一時的な雨が再びコースを濡らしてしまう。グリッド上では、各車が慌ててレインタイヤを用意し始める。
「微妙なコンディションでした。(スタートが)上位ならもっと悩んだでしょうが、逆に冷静に色々考えられた」と松田は状況を前向きに捉える。
スタートドライバーのクインタレッリが「レインタイヤでスタートしたかった。予選と違い、ウエットから乾いていくなら僕らのタイヤが良かったからね。ただタイヤが冷えた状況だけが心配だった」と言うとおり、ウォームアップからスタートまでは慎重だったが、1周終えると早くも2つポジションを上げ、翌周は9番手に。10周目では6番手まで浮上する。
序盤をリードしたのは。ポールポジションのNo.37 KeePer TOM'S RC F(アンドレア・カルダレッリ/平川 亮)のカルダレッリ。これに雨を得意とするNo.64 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット)のバゲットが続く。12号車のデ・オリベイラは、前にNo.100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/伊沢拓也)の山本、後ろに38号車の立川と、3番手を争う集団で接戦を繰り広げていた。
6番手まで上がってきた1号車だが、12号車までは約15秒あり、ここからが正念場。しかも徐々に路面は乾き出し、刻々とレインタイヤで難しい状況に変わっていく。それでも、クインタレッリは着実に12号車との間隔を削っていった。
上位で先に動いたのは38号車で、22周目でピットイン。タイヤはドライ路面用のスリックだ。翌周に100号車が続き、12号車も24周でピットに戻る。このピットイン前に1号車は8秒差まで迫っていたが、12号車は37秒弱の素早い作業で1つ順位を上げて、安田を送り出す。この直前、38号車の石浦が冷えたタイヤに足をすくわれてコースアウト。なんとかコースに戻るが、タイトルは絶望的となる。また、タイヤの温まっていない12号車は100号車の伊沢に再び抜かれてしまった。
■最速ピット作業から松田が好守、そしてトップ争いの一騎打ちへ
対して、1号車は25周目にピットイン。ここまでレインタイヤで追い上げ、路面がスリック向きになったベストタイミングだ。しかもNISMOのメカニックたちが、なんと作業時間33秒フラットで松田を100号車、12号車の前へ送り出すことに成功。後半のドライバーたちは、この週末初めてスリックタイヤを履き苦戦する中、松田は冷えたタイヤで絶妙なブロックラインをキープ。100号車の猛攻を1周にわたり見事に防いだ。
ここでクラッシュが発生し、セーフティカー(SC)がコースイン。「SCが入らなくても抜かれない自信はあった」という松田は、32周目にSCランが解除されてもこの2台を抑え込む。前半2番手の64号車はSC導入時点でピットインしておらず、これで不運にも順位を下げる。さらにリスタート周にコースアウトしてしまい下位に沈んだ。
再スタート直後の1コーナー、1号車の松田は先行する37号車の平川がGT500の周回遅れに詰まって一瞬失速したのを逃さない。ついに1号車はトップに上る。
抜かれた平川だったが「(抜き返そうと)燃えていたけど、冷静に対応しました」と、チャンスを待ち、2台は共に自己ベストを出しながらテール・トゥ・ノーズでの攻防を続ける。対して3番手の100号車は少し離され、その後ろの12号車の安田は浮上のきっかけを見いだせないでいた。
残り10周となった43周目、1号車はV字コーナーでGT300の集団に行く手を阻まれる。すると、今度は平川がこの隙を逃さずインへ。しかし松田も立ち上がりからサイド・バイ・サイド、軽く当たるバトルへ持ち込むが、ヘアピンでは37号車が前へ抜け出る。
それをモニターで見ていたクインタレッリは、抜かれたことより危うさに渋い表情。「アウトラップはGT300をさばいていくタイミングも良く、素晴らしかった。そして、最後まで目が離せなかったし、僕の寿命が5年は縮まったよ(苦笑)。でも(松田)次生は、今シーズンすごく苦労しました。シーズン中盤は海外参戦もあって体調も気力も苦しい中、すごくつらいトレーニングや減量もしてくれた。感謝しています」と、松田の走りとシーズン中の努力を讃えた。
終盤、12号車は4番手のまま。「12号車の位置を知って、優勝を狙うより、2位でしっかりとチャンピオンを獲ろうと切り替えました」と松田。それでも、隙あらばとトップの37号車に1秒以内で最後まで食らい付く。
そしてレースは37号車が逃げ切り、シーズン2勝目を挙げた。「中盤戦の取りこぼしがなければタイトルも…」との悔しさが、後の平川と37号車を一段上に引き上げた一戦であった。
1号車は0.5秒差で2位、12号車は4位でフィニッシュ。レース直後、松田は溢れそうな涙を堪えながら「こんなに上手くいくとは思わなかった。最後まで諦めてはいけない、レースはチェッカーを受けるまで分からないということをまざまざと感じました」と振り返った。これで松田とクインタレッリはGT500クラス連覇を達成。そして流ちょうな日本語を操るイタリアンは、SUPER GT史に残る初の王者4回という金字塔を打ち立てたのだった。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
2015 AUTOBACS SUPER GT 第8戦 MOTEGI GT 250km RACE / ツインリンクもてぎ
公式予選:2015年11月14日(土) 天候:雨/コース:ウエット
決勝レース:2015年11月15日(日) 天候:曇・晴/コース:ウエット&ドライ
Po | No | Machine | Driver | Laps | Time | Tire | Q-Pos |
---|---|---|---|---|---|---|---|
GT500
|
|||||||
1 | 37 | KeePer TOM'S RC F | A.カルダレッリ/平川 亮 | 53 | 1:43'10.687 | BS | 1 |
2 | 1 | MOTUL AUTECH GT-R | 松田 次生/ロニー・クインタレッリ | 53 | 0.591 | MI | 12 |
3 | 100 | RAYBRIG NSX CONCEPT-GT | 山本 尚貴/伊沢 拓也 | 53 | 1.389 | BS | 3 |
4 | 12 | カルソニック IMPUL GT-R | 安田 裕信/J.P.デ・オリベイラ | 53 | 1.63 | BS | 5 |
5 | 38 | ZENT CERUMO RC F | 立川 祐路/石浦 宏明 | 53 | 3.112 | BS | 6 |
6 | 39 | DENSO KOBELCO SARD RC F | 平手 晃平/ヘイキ・コバライネン | 53 | 4.375 | BS | 7 |
7 | 15 | ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT | 小暮 卓史/オリバー・ターベイ | 53 | 10.490 | BS | 15 |
8 | 17 | KEIHIN NSX CONCEPT-GT | 塚越 広大/武藤 英紀 | 53 | 1'33.028 | BS | 9 |
9 | 6 | ENEOS SUSTINA RC F | 大嶋 和也/国本 雄資 | 53 | 1'39.104 | BS | 10 |
10 | 19 | WedsSport ADVAN RC F | 脇阪 寿一/関口 雄飛 | 52 | 1Lap | YH | 8 |
11 | 8 | ARTA NSX CONCEPT-GT | 松浦 孝亮/野尻 智紀 | 52 | 1Lap | BS | 14 |
12 | 24 | D'station ADVAN GT-R | 佐々木 大樹/ミハエル・クルム | 52 | 1Lap | YH | 11 |
13 | 64 | Epson NSX CONCEPT-GT | 中嶋 大祐/ベルトラン・バゲット | 51 | 2Laps | DL | 2 |
46 | S Road MOLA GT-R | 本山 哲/柳田 真孝 | 25 | 28Laps | MI | 13 | |
36 | PETRONAS TOM'S RC F | 伊藤 大輔/ジェームス・ロシター | 10 | 43Laps | BS | 4 |
・タイヤ=BS:ブリヂストン/DL:ダンロップ/MI:ミシュラン/YH:ヨコハマ
→ 2015 AUTOBACS SUPER GT 第8戦 MOTEGI GT 250km RACE
4/13-14 | Round1 OKAYAMA | |
5/03-04 | Round2 FUJI | |
6/01-02 | Round3 SUZUKA | |
8/03-04 | Round4 FUJI | |
8/31-9/01 | Round5 SUZUKA | |
9/21-22 | Round6 SUGO | |
10/19-20 | Round7 AUTOPOLIS | |
11/02-03 | Round8 MOTEGI |