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2020.06.23
【SUPER GT 名勝負列伝】「バトルは熱く、戦いはクールに。LC500同士の激戦を小林可夢偉のDENSO KOBELCO SARD LC500が制す」2018年第4戦タイ

【SUPER GT 名勝負列伝】「バトルは熱く、戦いはクールに。LC500同士の激戦を小林可夢偉のDENSO KOBELCO SARD LC500が制す」2018年第4戦タイの画像

2018 AUTOBACS SUPER GT Round 4 Chang SUPER GT RACE / 2018.7.1 Chang International Circuit

SUPERGT.netでは2020年のSUPER GTシリーズ開幕まで「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
第15回は2018年の第4戦、舞台はタイのチャン・インターナショナル・サーキット。レース終盤、トップを競り合うのは同じLEXUS LC500を駆る同世代のドライバー3人。特に小林可夢偉は関口雄飛の猛攻に晒される。スリリングな攻防は、最終ラップへ。「バトルは熱く、戦いはクールに」の一戦をプレイバック!

 


 

   

 

 

F1ドライバーコンビが苦しんだ2018年の序盤戦

 2018年AUTOBACS SUPER GTの第4戦「Chang SUPER GT RACE」も残り7周。最終コーナー1つ前のS字コーナーでNo.39 DENSO KOBELCO SARD LC500(ヘイキ・コバライネン/小林可夢偉)の小林は「終わった!」と、直後を走るNo.36 au TOM'S LC500(中嶋一貴/関口雄飛)の関口は「きた!」と思った。姿勢を乱した小林の駆る39号車は、次の瞬間、コース外に出てしまったのだ。

 小林は、前年の第6戦鈴鹿1000kmにWedsSport ADVAN LC500の第3ドライバーとしてSUPER GTに初参戦し、この2018年にはDENSO KOBELCO SARD LC500のレギュラードライバーに。2016年のGT500王者でF1での優勝経験もあるコバライネンとのコンビは大いに期待された。
 彼は9歳でレーシングカートを始めると著しい活躍を見せ、16歳になった2002年にフォーミュラレースを開始。その後、トヨタの支援を得て欧州で活動。2009年にはF1デビューを果たすと、2012年には日本人最上位タイの3位表彰台に上った。2015年からは国内レースをメインに活動し、翌年からはTOYOTA GAZOO Racingの世界耐久選手権(WEC)チームの主力も務めるなど世界に知られる日本人ドライバーだ。
 そして臨んだ2018年開幕戦岡山だが、マシンセットを外して悔しい結果(予選Q1はコバライネンが15位とQ2の小林は走れず。決勝は完走も12位)に。第2戦富士はWECが重なって欠場(チームは決勝2位)。調子が上向くかと思われた第3戦鈴鹿はコバライネンがQ1で終わり、決勝も序盤に彼が単独クラッシュ。小林はまったく走らずと、シーズン前半は不完全燃焼のレースが続いた。

 

 

初めての予選Q1で賭けに出て、勝利へのチャンスを掴む

 6月30日、第4戦の予選日。このチャンは小林にとって初めてのコースだが、マシンのセットが決まり切らずに公式練習でも小林は優先されない。周回はコバライネンと半分ずつとなる。それでも最後に乗った小林が13番手ながらチームベストを記録。
 
 「練習がてらで良いよ(笑)」とチームが言うほどに、とにかく走行機会をという配慮で、予選Q1は初めて小林が担当した。ところが午後は突然の雨。Q1前には止むが、路面はウエット。各車はレインタイヤで数周走るが、路面は徐々に乾いていく。タイヤ選択に悩む状況だが、小林は「一か八か」でドライ路面用のスリックタイヤでアタックへ。見事7番手を記録してQ1をクリア。一方、他のLC500勢はレインを選んで下位に沈む。
 完全にドライ路面のQ2は、コバライネンがNSX-GTの2台に次ぐ3位。39号車はこの年の予選ベストと良好の結果を得た。

 翌7月1日の決勝レース。スタートドライバーのコバライネンは「僕らの方がタイヤの温まりが良いはず」と、NSX-GTの弱点を狙っていた。好スタートを切ると、ヘアピン(3コーナー)で2番手のNo.17 KEIHIN NSX-GT(塚越広大/小暮卓史)の小暮をアウトからパス。ポールポジションのNo.16 MOTUL MUGEN NSX-GT(武藤英紀/中嶋大祐)の武藤を追撃。17周目にはテール・トゥ・ノーズに持ち込んだコバライネンは、ヘアピンのインでGT300の集団に詰まった16号車を大外から回り込んで、サイド・バイ・サイドに。4コーナー飛び込みで、ついに39号車はトップを奪った。

 39号車は5周ほどで2番手以下を6秒以上引き離し、独走態勢を築く。レース中盤になると、上位のNSX-GT勢は遅れ出し、代わって予選下位だったLC500勢が上位へ進出してくる。中でも、予選11、10位のNo.6 WAKO'S 4CR LC500(大嶋和也/フェリックス・ローゼンクヴィスト)のローゼンクヴィストとNo.36 au TOM'S LC500(中嶋一貴/関口雄飛)の中嶋の追い上げは急で、21周目に6号車が3番手、36号車は7番手まで浮上した。

 GT500車両は25周目から順次ピットイン。トップの39号車は37周終わりまで粘り、トップを守ったまま小林をコースに戻した。そのアウトラップの39号車の背後に、6号車が急接近する。
「後ろは誰?」と小林が無線で尋ねた。このシーズン、決勝レースは開幕戦岡山での47周しか経験してない小林にとっては、初めての首位攻防だ。「6号車は大嶋」。大嶋は一つ年下でTOYOTA育成時代からの旧知の仲。性格もドライビングも分かっている。追い付かれた直後こそサイド・バイ・サイドに持ち込まれたが、39号車のセットはストレートでの伸びがあり、最後は譲らない。
「思いのほか39号車もペースが速く、攻め切れませんでした。後半はGT300に引っかかっている間に36号車に追いつかれて…」。大嶋が攻めあぐねていると、その背後には36号車が迫ってくる。

 

 

 

襲いかかる旧知の友。したたかに冷静に逃げ切る

 「大嶋の後ろ、関口が凄い勢いで来ている」と小林に無線が入る。関口は、10代半ばの小林がレーシングカートで活躍していた頃、“西の小林、東の関口”と並び称されていた。苦労はあったが、順調に進んだ小林と違い、関口のレース人生は紆余曲折の連続だった。
 2007年、19歳でGT300クラスのウェッズスポーツセリカ(パートナーは飯田章)に抜擢されて初参戦し、5戦目に19歳7ヶ月で優勝(当時の最年少記録)。その後はTOYOTAの育成コースを離れて、欧州のフォーミュラに挑戦。帰国後はGT300のランボルギーニやNISSAN系チームで実績を残し、2013年にNISSAN GT-Rを駆ってGT500クラスへステップアップ。そして、2014年は再びLEXUS/TOYOTA系チームへ。実績を重ねた関口は、この2018年にTEAM TOM'Sに移籍する。

 小林と大嶋が競り合ってペースが落ちたこともあり、56周目に関口が追い付き、3台がテール・トゥ・ノーズに。そこにGT300の集団が現れて、混戦となる。そこで関口が躊躇なく仕掛けて、大嶋をパス。3番手に落ちた6号車は、ここからトップ2台に遅れてしまう。

 ラスト10周。逃げる小林を36号車の関口が攻める。「(前半の)一貴選手も順位を上げたし、自分が乗ってもクルマのフィーリングは非常に良かった」と、勢いに乗る関口。一方、小林は「これはヤバイと思いましたね。無理に優勝は狙わずに手堅く2位のポイントで良い、とチームとは話しました」と言う。だが36号車はコーナーで速くて詰めてくるものの、39号車はストレートで速く最後はしのげる。さらに、WEC仕込みの小林のディフェンス力が、かろうじて関口を抑え込む。

 そしてラスト7周、ここで冒頭の小林が「終わった!」、関口が「きた!」と思った場面だ。39号車はGT300を抜こうとしてタイヤかすを拾い、マシンはコース外へ進む。だが、ここで小林は慌てない。「あえて“ジョーカー(コース外)”を出す」と、アクセルを戻さなかった。幸いコーナーに入る直前にコースに戻ることができ、トップをキープ。「コース外走行でペナルティか?」と、少し見守った関口だがその裁定は出ず。仕切り直しという関口だが、この後39号車より早くタイヤを替えた36号車はタイヤが厳しくなる。
 それでも食らい付く関口だったが、ファイナルラップのストレートで悲劇が訪れる。突如、36号車はスローダウン。ゴールを目前にマシンはストップした。ガス欠だった。計算ではきっちり補給したが、折からの高い気温と関口の力走で想定より燃費が悪くなったのだ。あと1リットルが足りなかった。

 アグレッシブが代名詞の小林可夢偉だが、このレースではしたたかに、クレバーに、冷静にトップを守りきった。小林の劇的な初優勝で盛り上がるピット無線に「(優勝)やっちゃいましたね」と、苦笑まじりに彼は静かに返したという。

 

 

 

 


No.6 WAKO'S 4CR LC500(大嶋和也/フェリックス・ローゼンクヴィスト)
決勝2位/予選11位
 

   


No.19 WedsSport ADVAN LC500(国本雄資/山下健太)
決勝3位/予選6位
 


No.38 ZENT CERUMO LC500(立川祐路/石浦宏明)
決勝4位/予選13位
 

   


No.16 MOTUL MUGEN NSX-GT(武藤英紀/中嶋大祐)
決勝5位/予選1位
 


No.12 カルソニック IMPUL GT-R(佐々木大樹/ヤン・マーデンボロー)
決勝6位/予選7位
 

   


No.17 KEIHIN NSX-GT(塚越広大/小暮卓史)
決勝7位/予選2位
 


No.1 KeePer TOM'S LC500(平川 亮/ニック・キャシディ)
決勝8位/予選12位
 

   


No.36 au TOM'S LC500(中嶋一貴/関口雄飛)
決勝10位/予選10位
 

 

 

 

 

2018 AUTOBACS SUPER GT 第4戦 Chang SUPER GT RACE / チャン・インターナショナル・サーキット

公式予選:2018年6月30日(土) 天候:曇/コース:ウェット/ドライ

決勝レース:2018年7月1日(日) 天候:晴/コース:ドライ

Po No Machine Driver Laps Time Tire Q-Pos
GT500
1 39 DENSO KOBELCO SARD LC500 ヘイキ・コバライネン/小林 可夢偉 66 1:36'42.825 BS 3
2 6 WAKO'S 4CR LC500 大嶋 和也/F.ローゼンクヴィスト 66 2.860 BS 11
3 19 WedsSport ADVAN LC500 国本 雄資/山下 健太 66 12.969 YH 6
4 38 ZENT CERUMO LC500 立川 祐路/石浦 宏明 66 38.836 BS 13
5 16 MOTUL MUGEN NSX-GT 武藤 英紀/中嶋 大祐 66 42.813 YH 1
6 12 カルソニック IMPUL GT-R 佐々木 大樹/ヤン・マーデンボロー 66 43.449 BS 7
7 17 KEIHIN NSX-GT 塚越 広大/小暮 卓史 66 1'05.798 BS 2
8 1 KeePer TOM'S LC500 平川 亮/ニック・キャシディ 66 1'06.628 BS 12
9 64 Epson Modulo NSX-GT ベルトラン・バゲット/松浦 孝亮 66 1'10.271 DL 14
10 36 au TOM'S LC500 中嶋 一貴/関口 雄飛 65 1Lap BS 10
11 100 RAYBRIG NSX-GT 山本 尚貴/ジェンソン・バトン 65 1Lap BS 5
12 23 MOTUL AUTECH GT-R 松田 次生/ロニー・クインタレッリ 65 1Lap MI 15
13 3 CRAFTSPORTS MOTUL GT-R 本山 哲/千代 勝正 65 1Lap MI 9
  8 ARTA NSX-GT 野尻 智紀/伊沢 拓也 35 31Laps BS 8
  24 フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-R J.P.デ・オリベイラ/高星 明誠 22 44Laps YH 4

・タイヤ=BS:ブリヂストン/DL:ダンロップ/MI:ミシュラン/YH:ヨコハマ

 

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