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2020.06.26
【SUPER GT 名勝負列伝】「驚異のテール・トゥ・ウイン!ウェッズスポーツIS350が最後尾からの大逆転優勝」2008年第7戦もてぎ

【SUPER GT 名勝負列伝】「驚異のテール・トゥ・ウイン!ウェッズスポーツIS350が最後尾からの大逆転優勝」2008年第7戦もてぎの画像

2008 AUTOBACS SUPER GT Round 7 MOTEGI GT 300km RACE / 2008.9.14 TWIN RING MOTEGI

SUPERGT.netでは2020年のSUPER GTシリーズ開幕まで「SUPER GT 名勝負列伝」と題し、SUPER GT(2005年〜現在)で行われたシリーズ123戦から、名勝負として名高いレースを紹介していく。
最終回となる第16回は2008年の第7戦、ツインリンクもてぎで起こった驚異の猛追劇です。予選で最も速かったウェッズスポーツIS350の織戸学は、パーツ不良が違反となって決勝は最後尾スタートに。そこから織戸と阿部翼が成し遂げる奇跡とは。「驚異のテール・トゥ・ウイン!」の一戦をプレイバック!

 


 

   

 

 

2008年の19号車は監督にドライバー、マシンも一新

 2008年シーズン、RACING PROJECT BANDOHはチーム創業者の坂東正明氏から、息子の坂東正敬氏が監督・代表を引き継ぎ、チーム体制を一新。エースドライバーには、チームが1997年に全日本GT選手権(現SUPER GT)のGT300クラスに初参戦してタイトルを獲得した時、共に走り、その後はGT500クラスでも2勝した織戸学を招聘。パートナーにはGTルーキーながら、メーカー系フォーミュラやポルシェカレラカップジャパンで優勝経験のある阿部翼を抜擢した。
 さらに第3戦富士より、マシンをトヨタ・セリカからLEXUS IS350に切り替えた。チームはベース車両を大幅に改造することで知られ、セリカもベース車両のFFレイアウトを、GT500スープラのノウハウをつぎ込みFRに変更されていた。しかし、Vemacやガライヤ、紫電など純レーシングカーも登場したことから、新型車のIS350が導入された。そのIS350は元々FRのセダンだが、ミッドシップ化して3リッターV8エンジンを搭載(当時はエンジン搭載位置の変更が可能)した驚きのマシンだ。
 デビュー戦となった第3戦は予選7位、決勝9位。続く第4戦セパンで予選2位、そして第5戦SUGOはポールポジションを獲得。第6戦鈴鹿でも決勝序盤に2番手を走る。確かにポテンシャルの高さを証明したが、レースではマイナートラブル等もあり、シーズン前半戦は上位入賞という結果を残せていなかった。

 

 

最速タイムも無情のペナルティで最後尾スタートに

 ルーキーの“マサ監督”(長年の付き合いの監督を織戸はこう呼ぶ)は、トラブル続きのチームのためと神社でお祓いもして、9月13日に第7戦「MOTEGI GT 300km」予選日を迎える。前日の練習走行でもNo.19 ウェッズスポーツIS350(織戸学/阿部翼)はトップタイムをマークし、IS350ともてぎの相性は良好だった。

 午前の予選1回目でも織戸が唯一の1分55秒台を記録し、暫定ポールポジションを獲得する。だが、直後の車検でなんと車両規則違反が判明し、予選1回目のタイムが抹消となってしまう。吸気関係の検査で、余計な空気がエンジンに流入していると指摘されたのだ。チームが調べると、エアボックスの留め金が熱膨張による金属疲労で緩み、余計な空気が入っていた。すぐさまパーツを交換して再車検に合格するが、予選ノータイムは変わらず、決勝のスターティンググリッドはGT300クラスの25番目、すなわち最後尾が決まった。

 そして19号車は、ドライバー2人が基準タイムをクリアするため、予選2回目のセッション1(予選2回目は3段階のノックアウト方式)のみ走行を許された。走った時間はドライバー2人でわずか5周。しかし阿部は1分55秒台(予選2回目の3番手に相当)、織戸に至っては1分54秒634とポールポジション(1分55秒739)を上回り、その速さを改めて証明した。
「谷口さん、初ポール、おめでとう。(予選の)結果は負けたけど、数字(タイム)は勝ってるからね!」と、予選後に笑顔の織戸。ちなみにGT300のポールポジションは、ドリフト競技でも織戸の後輩となるNo.26 ユンケルパワータイサンポルシェ(谷口信輝/山路慎一)の谷口が初の獲得となった。

 翌14日の決勝日。織戸はスターティンググリッド最後尾で「いい景色だ。(グリッドの)25番は僕とヨコハマタイヤのラッキーナンバーですからね。前のクルマを全部抜いちゃいますから、見ててください(笑い)」と、超前向きなコメント。それを空元気だと、この時は誰もが思っていた。

 

 

圧巻の24台抜き!織戸/阿部組+IS350の大逆転劇

 好天に恵まれ、暑いほどの31度という気温で、決勝レースが始まる。それは19号車による“圧巻の追い抜き劇場”の開幕だった。スタート周で早くも2台を抜き、3周目には21番手、9周目は11番手と序盤は毎周必ず抜いて順位を上げる。さすがにトップ10からは甘くはないが、それでも26周目には9番手にまで浮上する。

 29周を過ぎ、GT300上位もピットインを迎える。まずはトップの26号車が谷口から山路に交代。これで予選2位のNo.2 プリヴェKENZOアセット・紫電(高橋一穂/加藤寛規)の加藤に先頭が代わる。2号車はいつものように加藤が規定ギリギリまで周回し、高橋に渡す作戦だ。
 19号車は30周にピットインを予定。だがペースも良く、タイヤのグリップも十分だったため、35周目まで引っ張った。結局、織戸はピットイン直前では3番手まで駆け上がっていた。
「結果はどうであれ、楽しんでレースをしようと(予選失敗から考えを)切り替えて臨みました。だから、非常に冷静になれた。何台も抜きましたが、GT300のみんなはとてもクリーンでした。チーム、スポンサーはもちろん、GT300のみんなからパワーをもらったみたいですね」と、織戸は自らの力走を振り返った。

 

 

 19号車はピットワークもノーミスで完了して、阿部に勝利を託す。ここまで2号車以外がピットインを終え、まず3番手No.66 triple a ムルシェRG-1(山西康司/余郷 敦)の余郷、そして2番手の26号車の山路が、19号車のターゲットとなる。
 ここまでの6戦、ルーキーの阿部は苦しんでいた。ここ2年はブランクと言えるほどシートに恵まれず、この年26歳。だが、彼の速さを評価した坂東監督は「2位、3位は要らない。常に勝ちにいこう」と、声を掛け続けた。
「織戸さんからクルマを渡されたとき、シングルポジション(ピットアウト時は4位)だったので、自分のタイムと他の平均ラップタイムを較べて計算してみて“勝てるな”と思いました」。阿部にとって、絶対に逃せないチャンスだった。

「落ち着いていけ」と坂東監督が無線で言えば、織戸も毎周のようにアドバイスを阿部に伝える。39周目にはチーム最速ラップ(このレースのラップタイム3番手)を記録して、19号車は66号車に迫る。41周目、ピットインを終えたトップの2号車、高橋との差は約10秒と“届く”位置だ。
 42周目、66号車は26号車を抜き2番手に上がるが、19号車が2台の背後につける。44周目、1コーナーでブロックラインを取る26号車のインをつき、さらに縁石に乗り上げるようにマシンをねじ込んで阿部はパッシングに成功。2周後の90度コーナーでは、周回遅れに詰まった66号車を、これまたインに飛び込みパス。残るは2号車のみだ。
 トップの2号車も必死で逃げる。だが、元々ストレートが遅い紫電は、コーナーで無理をするためにタイヤを傷めやすい。やはりこのレースも終盤に高橋のペースが鈍り、阿部がそのマージンを毎周確実に削って2号車の後ろに迫る。
 そして残り7周のヘアピン。リアを滑らした2号車のインサイドに阿部がノーズを並べる。バックストレートでのスピード競争となり、90度コーナーを前に19号車は2号車を抜いて、ついにトップに立つ。

 それでも阿部は「最後まで完璧なレースをしたい」と、ペースを緩めない。すると、ラスト2周のビクトリーコーナーでイン側に飛び出すも、そのままコースに戻る。それでも「コースアウト後も(ペースを)抑えていなかった」と、阿部は疾走し続けた。
 優勝を飾った19号車から降りる阿部を迎えた織戸は「お前、格好良すぎ!」と抱きしめ讃えた。ついに19号車は前人未到の“テール・トゥ・ウイン”、24台抜きを成し遂げたのだ。織戸はGT300復帰後の初勝利となりクラス通算4勝目を、もちろん阿部は参戦7戦目での、IS350にとっても初勝利となった。

 ちなみに“テール・トゥ・ウイン”は、翌2009年の第4戦セパンでもNo.2 I.M JIHAN CO.LTD・APPLE・Shiden(加藤寛規/吉本大樹)が達成したが、これは予選19位からだ。GT500クラスの最大ジャンプアップ優勝は、2007年R4セパンでの予選14位から1位フィニッシュのNo.24 WOODONE ADVAN Clarion Z(J.P.デ・オリベイラ/荒 聖治)である。

 

 

 

 


No.2 プリヴェKENZOアセット・紫電(高橋一穂/加藤寛規)
決勝2位/予選2位
 

   


No.66 triple a ムルシェRG-1(山西康司/余郷 敦)
決勝3位/予選8位
 


No.26 ユンケルパワータイサンポルシェ(谷口信輝/山路慎一)
決勝4位/予選1位
 

   


No.110 KUMHO BOXSTER-GT(光貞秀俊/池田大祐)
決勝5位/予選5位
 


No.33 HANKOOK PORSCHE(木下みつひろ/影山正美)
決勝6位/予選6位
 

   


No.46 MOLAレオパレスZ(星野一樹/安田裕信)
決勝7位/予選16位
 


No.52 GREEN TEC KUMHO IS350(黒澤琢弥/井口卓人)
決勝8位/予選9位
 

   


No.43 ARTA Garaiya(新田守男/高木真一)
決勝9位/予選10位
 

 

 

 

 

2008 AUTOBACS SUPER GT 第7戦 MOTEGI GT 300km RACE /ツインリンクもてぎ

公式予選:2008年9月13日(土) 天候:晴/コース:ドライ

決勝レース:2008年9月14日(日) 天候:晴/コース:ドライ

Po No Machine Driver Laps Time Tire Q-Pos
GT300
1 19 ウェッズスポーツIS350 織戸 学/阿部 翼 58 1:56'19.435 YH 25
2 2 プリヴェKENZOアセット・紫電 高橋 一穂/加藤 寛規 58 0'01.735 YH 2
3 66 triple a ムルシェRG-1 山西 康司/余郷 敦 58 0'04.136 YH 8
4 26 ユンケルパワータイサンポルシェ 谷口 信輝/山路 慎一 58 0'08.072 YH 1
5 110 KUMHO BOXSTER-GT 光貞 秀俊/池田 大祐 58 0'23.678 KH 5
6 33 HANKOOK PORSCHE 木下 みつひろ/影山 正美 58 0'23.800 HK 6
7 46 MOLAレオパレスZ 星野 一樹/安田 裕信 58 0'52.514 MI 16
8 52 GREEN TEC KUMHO IS350 黒澤 琢弥/井口 卓人 57 1Lap KH 9
9 43 ARTA Garaiya 新田 守男/高木 真一 57 1Lap MI 10
10 5 プロμ マッハ号 320R 玉中 哲二/山野 直也 57 1Lap YH 15
11 81 ダイシン ADVAN Z 青木 孝行/藤井 誠暢 57 1Lap YH 14
12 62 WILLCOM ADVAN VEMAC 408R 柴原 眞介/黒澤 治樹 57 1Lap YH 3
13 7 ORC雨宮SGC-7 井入 宏之/折目 遼 57 1Lap YH 12
14 77 クスコDUNLOPスバルインプレッサ 山野 哲也/佐々木 孝太 57 1Lap DL 4
15 4 EBBRO UEMATSU 320R 阪口 良平/松下 昌揮 57 1Lap YH 17
16 95 ライトニング マックィーン apr MR-S 山内 英輝/国本 京佑 57 1Lap MI 21
17 31 DOUBLEHEAD avex apr MR-S 峰尾 恭輔/坂本 雄也 57 1Lap MI 23
18 27 石松・FUNKY'S・HANKOOK GT3 井上 貴志/ファン・ジヌ 57 1Lap HK 20
19 111 ARKTECH BOXSTER-GT 小泉 洋史/黒澤 翼 56 2Laps KH 11
20 666 楽天 BOMEX 320R 周防 彰悟/山下 潤一郎 56 2Laps KH 24
21 70 外車の外国屋&LMPポルシェ 石橋 義三/山岸 大 55 3Laps YH 22
22 118 4CARAT SON GT3 宮本 隆士/栗原 正之 54 4Laps YH 18
23 87 アクティオガイヤルドRG-3 和田 久/栗原 宗之 53 5Laps YH 19
24 11 JIMCENTER ADVAN F430 田中 哲也/植田 正幸 51 7Laps YH 7
  88 triple a ガイヤルドRG-3 松田 秀士/古谷 直広 21 37Laps YH 13

・タイヤ=DL:ダンロップ/HK:ハンコック/KH:クムホ/MI:ミシュラン/YH:ヨコハマ

 

→ 2008 AUTOBACS SUPER GT 第7戦 MOTEGI GT 300km RACE



今週末には公式テスト富士が開催され、来月の18日(土)19日(日)にはいよいよ待ちにまった2020 AUTOBACS SUPER GTシリーズが開幕を迎えますので、4月から掲載してまいりました「SUPER GT名勝負列伝」も今回が最終回となります。ご愛読ありがとうございました。

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