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2021.01.19
【2020 シーズンプレイバック 第4回】GT500クラス総集編“GT-R”

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No.23 MOTUL AUTECH GT-Rが鈴鹿で2勝を挙げる!
23号車が“テール・トゥ・ウイン”を決めた第6戦は12号車も2位でワン・ツー。
しかし、鈴鹿の2戦以外は表彰台なしと厳しいシーズンに…

 

2020 AUTOBACS SUPER GTは、7月から5ヶ月で8戦の過密日程で行われた。だが、参戦の各チームは例年以上の熱戦を繰り広げ、これまで以上に記憶に残る多くのシーンがあった。
2020シーズンを6回に渡って振り返る「2020 シーズンプレイバック」。第4回はGT500クラスで2勝を挙げたNISSAN GT-R NISMO GT500の2020シーズンを、NISSAN/NISMOの松村基宏総監督の言葉と共に振り返る。

 

 

■当初はライバルに遅れをとった2020年型GT-R

 2020シーズンのGT500クラスは、参戦の3車種15台すべてがCLASS 1規定の車両となった。NISSAN陣営は2019年同様に4チームにNISSAN GT-R NISMO GT500を供給した。3月14日、15日の公式テスト岡山は天候に恵まれず、路面が唯一完全ドライとなったセッション4(2日目午後)に、No.23 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)が2番手タイムを記録した。
 この後、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため3月末の公式テスト富士が延期となり、開催スケジュールが大幅に改定される。改めて6月27日、28日に行われた公式テスト富士では、セッション1(1日目午前)に23号車が3番手タイムとなるが、全体的には今ひとつの結果だった。
 こうして迎えた7月19日(ワンデイ開催)の開幕戦富士もNo.3 CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(平手晃平/千代勝正)の平手がQ1を3番手で通過するも、他の3台はQ2進出が叶わなかった。結果的に、予選も決勝も最高位は3号車の7位に終わった。

 

 2020年モデルのGT-R NISMO GT500は、どのような開発をおこなって臨んだのか?NISSAN系チームの総監督を務めるニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社(NISMO)の松村基宏COOに、シーズンを終えた時点で前半戦の苦戦の分析も含め語っていただいた。
 「テクニカルレギュレーション(車両規則)が変更され、2020年モデルでは、それまで許されていたボディ床下を工夫することでダウンフォースを稼ぐことができなくなりました。2019年モデルと同じようなクルマ作りをしていくとダウンフォースが減ってしまいます。そこを何とかしようと、20年モデルではフリックボックスやラテラルダクトを徹底的に工夫しました。結果的に19年モデルとほぼ同等か、少し上回るレベルでダウンフォースを確保することができました。
 シーズンオフのセパン・テスト(1月)と比べると、岡山の公式テストでは気温が違いすぎて、その温度差を補正しながら見ていましたが、ライバルはドラッグ(空気抵抗)の低減を重視したクルマになっていると感じました。一方、GT-Rに関してはエンジンの新制御をメインにテストしていて、冬場の低い路温の状況で、タイヤのグリップなどから想定内と判断していました。ただ、実際のレースが始まると加減速、特にラインを外した状態での加減速などドライバビリティの面で(ライバルに)後れをとっていることが分かりました」

 

 

   

 

   

 

 

 

■第3戦鈴鹿では23号車が予選2位から優勝を果たす

 2020シーズンは7月から11月まで2~3週間おきに全8戦を、富士スピードウェイ、鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎの3コースのみで開催する変則スケジュールとなった。第2戦富士では予選Q1でNo.12 カルソニック IMPUL GT-R(佐々木大樹/平峰一貴)の平峰が3位、23号車の松田が7位で通過。Q2でも12号車(佐々木)が4位、23号車(クインタレッリ)が5位と勝ちを狙えるグリッドを得た。決勝では12号車が3番手で争うが、終盤にペースが落ち、他車との接触のペナルティもあって結果は11位に。GT-Rの最上位は3号車の8位となった。
 富士の連戦こそ苦戦したが、第3戦鈴鹿では23号車が予選をQ1、Q2ともに2位で通過。決勝でも23号車の速さが際立ち、序盤にクインタレッリがトップに立つと後半も松田が守り切って、セーフティカーが3度も導入される難しいレースを制してシーズン初勝利を挙げた。
 続く第4戦もてぎではQ1の最高位が3号車の10位と、4台すべてがQ1で終わるという結果に。決勝では3号車が7位、23号車が8位に入賞してポイントを獲得した。
 富士に戻った第5戦の予選では12号車の平峰がQ1で1位となり、Q2でも佐々木が2位とフロントロウを獲得する。またNo.24 リアライズコーポレーション ADVAN GT-R(高星明誠/ヤン・マーデンボロー)もQ1で高星が、Q2ではマーデンボローが共に4位と、シーズンでのチーム最高となる予選結果に。23号車は6位、3号車も7位とGT-R全4台がQ2進出を果たした。
 決勝では24号車(高星)がポールポジションのNo.8 ARTA NSX-GTを抜いて一時トップに立つ。後半も表彰台を争う位置につけるもステアリングのトラブルでピットインして結局14位。12号車も佐々木がファステストラップを出して上位を走るが、序盤のセーフティカー導入中に追い越しをしたためドライブスルーペナルティで後退。3号車も1周目で接触からマシンを壊してリタイア。23号車も上位を走るが、ステアリングにトラブルが出てピットに入ったために11位。予選から速さを見せた第5戦は、悔しい結果で終わった。

 

 松村総監督は浮き沈みが大きかった2020シーズンを振り返って、このように分析した。
 「(4月上旬に)寒い岡山で開幕するはずが、7月の夏場になっての富士で開幕したことも大きく影響しています。そもそも2020シーズンはオリンピックの関係で富士は1戦のみの予定でしたが、それが4戦になったのも大きかったですね。
 開幕前のテストでは、気象条件の差も含めライバル勢がドラッグを大幅に改善してきている様子はつかめず、富士で最高速度付近の伸びを見るにつけ、2020年規定の規則におけるベース車両のボディ形状が大きく影響することを感じましたが、当初の開発方針であるダウンフォースを確保する方向でシーズンに突入することとなりました。
 あと、シーズンが4か月半と短く、一切のテストが行われなかったことも響きました。これは各メーカー同じ条件ですが、GT-Rは4台で3種類のタイヤを使用していて、メリットもありますが、短期に開発を進めなければならなかった2020年は厳しかったですね」

 

 

   

 

   

 

 

 

■ワン・ツーを決めた第6戦鈴鹿は4台全車がベストリザルト

 第6戦鈴鹿では23号車が予選Q1で思わぬアクシデントに見舞われる。松田がアタック中にダンロップコーナーでコースアウトしてクラッシュし、マシン前部を大きく壊してしまう。「マシンの調子が非常に良かったが、それもあって行き過ぎた」と自分の非を認めた松田。当然、Q1はノータイムとなり、決勝はクラス最後尾(15番グリッド)からのスタートとなった。その他のGT-R勢では、12号車がQ2 で4位、3号車は5位となった。
 決勝レースでは12号車の佐々木が着実にポジションを上げて、2番手となったところでピットイン。チームは素早いピット作業で平峰をトップでコースに戻した。後方では23号車のスタート担当のクインタレッリが猛追して、6番手まで浮上。そして、そろそろピットインという22周目に、GT300車両がクラッシュ。このとき130Rに差しかかっていたクインタレッリに「ピットに入って!」と無線が飛ぶ。セーフティカーが導入されると予想したエンジニアからの指示にクインタレッリがすぐさま対応。前夜、必死にマシンを修復したメカニックたちがここでも完璧な作業をしてコースに戻すと、そこは12号車の前、トップの位置でそのままセーフティカーランに入った。「12号車の前だったのは分かりましたが『トップだ』と言われてびっくりしました。予選Q1のクラッシュではクルマのダメージもそれなりに大きかったのですが、きちんと直してくれたチームに感謝しています。このレースは『絶対勝たねば』と臨んだだけに、その気持ちを走りに表すことができました」と松田が言うように、セーフティカー退去後は気迫の走りで追いすがる12号車を振り切って23号車がシーズン2勝目、ランキングでも3位に上がった。12号車は2位、3号車も4位に入り、24号車も8位と皆がシーズンベストリザルトを記録した。

 

 

   

 

   

 

 

 第7戦もてぎでは前戦優勝の23号車が予選4位、3号車が予選8位となる。決勝で表彰台を目指す23号車だったが徐々に順位を下げ、それでも激しいバトルを切り抜けて7位でフィニッシュ。ランキング3位をキープする。12号車が9位、24号車はマシントラブルがあって14位だった。3号車も駆動系のトラブルにより途中でレースを終えた。
 そして23号車が優勝すれば自力でのタイトル獲得が決まる最終戦富士。だが、Q1では松田が6位、Q2でもクインタレッリが6位、12号車は予選8位。3号車と24号車はQ2に進めなかった。
 決勝では23号車のクインタレッリがロケットスタートを決めて5番手に浮上。さらにダンロップコーナーでは4台を抜きさる驚異のブレーキングを魅せて、一気にトップに躍り出た。だが、ライバル勢のタイヤが温まってくると逆襲にさらされて徐々にポジションダウン。結局9位となり、ドライバーランキングはGT-R勢トップの6位となった。このレースでは予選で苦しんだ3号車がGT-R勢トップの6位でゴール。12号車は7位、24号車は13位となった。

 

 松村総監督に「2020シーズンのNISSAN陣営を100点満点で評価すると?」と問うと
「点数をつけるなら、チャンピオンになれなかったということで50点から70点といったところですか」と、やはりタイトルに手が届かなかった点を悔いた。

 

 また「各チームと選手を表彰するなら?」と聞くと
「MVPは、第6戦鈴鹿でがんばってクルマを直したメカニックも含めチーム一丸となって“テール・トゥ・ウイン”を果たした23号車NISMOと松田選手とロニー選手ですね。
 新人賞は、GT500をドライブするのはこれが初めてでしたが、活きのいい走りを見せたNo.12 カルソニック IMPUL GT-Rの平峰選手。私自身、毎戦毎戦、彼の走りを楽しみに見ていました。
 エンジニア賞はNo.23 MOTUL AUTECH GT-Rの中島健トラックエンジニア。第6戦の最後尾からのスタートで、レース前にその事態もシミュレーションしていたようですがイエローフラッグのタイミングでズバッと決心してピットインさせた。あれは素晴らしかったですね」と、健闘したチーム、選手たちを讃えた。

 

 

   

 

   

 

 

 

■2021シーズンは“強いGT-R”をお見せしたい

 23号車が2勝を挙げるも、スピードの面でも勝負強さでも悔しいシーズンだったNISSAN陣営。だが、すでに2021シーズンに向けてNISSAN GT-R NISMO GT500の改良は進められているはず。最後に、松村総監督に開発のポイントと目標を話していただいた。

 

 「2021シーズンに関しては空力の開発が凍結されるようで、そうなると開発を進めるのは主にエンジンのみとなりますが、燃焼の改善を進めてドライバビリティを引き上げていくこと。これがメインになりますね。あとセッティングも含めてタイヤの使い方も詰めていくことが必要になると思います。
 2021年は戦略的に戦っていき、ファンの皆さんに“強いGT-R”をお見せしたいですね」

 

 

 

 

 

 

※次回は「GT500クラス総集編:TOYOTA GR Supraの2020シーズン」をお送りします。

 

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