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2021.01.26
【2020 シーズンプレイバック 第5回】GT500クラス総集編“GR Supra”

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最終戦では5台のGR Supraが熾烈なタイトル争いを演じる
GR Supraのデビューイヤー開幕戦はTop5独占!シリーズをリードし、最終戦のゴール目前まで熱戦を演じる…

 

2020 AUTOBACS SUPER GTは、7月から5ヶ月で8戦の過密日程で行われた。だが、参戦の各チームは例年以上の熱戦を繰り広げ、これまで以上に記憶に残る多くのシーンがあった。
2020シーズンを6回に渡って振り返る「2020 シーズンプレイバック」。第5回はGT500クラスでシーズン2勝を挙げ、最終戦では5チームにタイトルの可能性があったTOYOTA GR Supra GT500の2020シーズンを、車両開発に携わったTRD車両開発部の湯浅和基開発部長の言葉と共に振り返える。

 

 

■“Supra is Back”で期待感が高まった2020シーズン

 「レースはゴールするまで何があるか分からない」。モータースポーツでは言い尽くされた台詞だ。だが、まさかシーズン最終戦の、しかも決勝ゴール目前であのような悲運が待っていようとは…。2020年は「スープラ復活!」で始まり、「37号車の悲劇」で終わった“GR Supraが主役の年”とファンの記憶には残るのかもしれない…。

 

 TOYOTA陣営は2017年からの3年間でシリーズ24戦中14勝と抜群の成績を残したLEXUS LC500から、2020年はTOYOTAを代表するスポーツカー、2006年までJGTC/SUPER GTで活躍した“スープラ”の最新型“GR Supra”でGT500クラスに参戦。そして陣営のブランド名も「TOYOTA GAZOO Racing」と改めて、連覇を目指した。3月の公式テスト岡山、そして6月に延期された公式テスト富士では総合トップタイムはHonda NSX-GTに譲ったものの、デビューイヤーとなるGR Supra勢でもNo.14 WAKO'S 4CR GR Supra(大嶋和也/坪井翔)やNo.36 au TOM'S GR Supra(関口雄飛/サッシャ・フェネストラズ)がトップ3に食い込む走りを見せていた。

 

 GR Supra GT500は、新型車でありながらGT500マシンとしての良い部分をLC500から引き継いだ正統後継車でもある。開発に携わった株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメントTRD車両開発部部長の湯浅和基氏は、GR Supra GT500についてこう語る。
 「GR Supraは、基本的にLC500の延長線上にあって、正常進化させたものです。その中で、新たにテーマに掲げたのが冷却性能の向上。これはエンジン性能を向上させるためにも有効的であり、トータルの性能向上にも繋がるからです。2019年から開発テストを続けてきましたが、大きなトラブルもなく熟成が進みました。コンピュータでラップタイムシミュレーションもやってきましたが、ほぼその通りの結果が出ていましたね。
 3月の公式テスト岡山の後、6月末に公式テスト富士までサーキットを実車での走行はできませんでしたが、その間もコンピュータを使ってシミュレーションは続けていました。新型コロナの影響で社内の会議もオンラインで行うようになりましたが、技術者にとってはコンピュータと向かい合っている時間も多くなり、これまでは『それはコンピュータではシミュレーションできないよ』と言っていたものも『実車で走らなくても何とか解析できないだろうか』などと考えるようになりました。だから新型コロナウイルス禍の中で、我々も各社もシミュレーション技術は格段に進歩したのではないでしょうか」

 

 

   

 

 

 

■開幕戦富士は決勝トップ5をGR Supraが独占する

 そして開催スケジュールが改められ、迎えた7月に開幕戦富士が行われる。NSX-GTが優勢ではないかと言われた中、予選ではNo.37 KeePer TOM'S GR Supra(平川亮/ニック・キャシディ)の平川がポールポジションを獲得。それでも予選上位6台は、GR SupraとNSX-GTの3台ずつが分け合った。しかし、決勝になるとGR Supraの安定感が光る。終わってみれば37号車がポール・トゥ・ウイン。しかも表彰台のみならず上位5台をGR Supraが独占した。これは2017年開幕戦でのLC500のトップ6独占に次ぐ好結果であった。
 しかし、第2戦富士はNSX-GT勢が巻き返して予選でワン・ツーを奪われて、決勝でも17号車NSX-GTの独走を許した。それでも36号車と14号車が2戦連続の表彰台と決勝での強さは示してみせた。第3戦鈴鹿ではウェイトハンディの影響も出て、NSX-GT勢とNISSAN GT-R NISMO GT500の23号車の躍進が目立つ中、予選ではNo.38 ZENT GR Supra(立川祐路/石浦宏明)と14号車が3、4位に。決勝では36号車が3位に食い込み、表彰台に3戦連続で登壇しドライバーランキングのトップとなった。
 第4戦もてぎでは、38号車の立川がポールポジションを獲得。立川は先代スープラ最後の勝者&チャンピオン(2005年)であり、SUPER GT現役ドライバーで唯一GT500先代スープラを知る男である。立川のGR Supra初勝利が期待された決勝だったが、残念ながら17号車NSX-GTに先行されて、2位で終わることとなった。

 

 

   

 

   

 

 

 まずまずの成績だったGR Supraのシーズン前半戦を湯浅部長が振り返る。
 「富士での開幕戦ですが、決勝の上位5台独占は、ハッキリ言って“出来過ぎ”でしたね。実際に(スピード勝負の)予選でGR Supraは、NSX-GTと上位グリッドを分け合う結果となっています。テストを含めてNSX-GTが速いことは分かっていましたが、開幕戦の予選結果はまさにあの時点での力関係を表していたと思います。それで今シーズンはNSX-GTと厳しい戦いを強いられるのだろう、と予想できました。その一方で、テストや開幕戦では日産さんのGT-Rが苦しんでいましたが、彼らもハマれば速い、特に夏場のミシュランタイヤのパフォーマンスはよく分かっていましたから、それも覚悟していました」

 

 

   

 

 

 

■第5戦富士で勝利するも苦戦が続いたシリーズ後半戦

 そして第5戦富士ではランキング上位のGR Supraが重いウェイトハンディに苦しむ中、ハンディ8kgのNo.19 WedsSport ADVAN GR Supra(国本雄資/宮田莉朋)が、GT500ルーキーの宮田のQ2での激走もあって予選3位と好位置につける。レースでは新型コロナウイルス禍で来日が遅れて第3戦からの参戦となったヘイキ・コバライネンの活躍と後半の中山雄一のがんばりでNo.39 DENSO KOBELCO SARD GR Supraが予選5位からの逆転優勝。GR Supraとしてシーズン2勝目を遂げる。2位は14号車でGR Supraのワン・ツーとなり、14号車がランキングトップに立ち、4位の37号車がランキング2位につけた。
 第6戦鈴鹿でも19号車が第5戦に続き予選で3位となる。決勝ではピットインのタイミングがセーフティカー導入直前と絶妙だった23号車GT-Rが勝ち、トップ4はGT-RとNSX-GTが占める。5位の38号車がGR Supra最上位。
 続く第7戦もてぎではNSX-GTが絶好調で予選トップ3、決勝ではトップ5を独占。それでも2017年以来のタイトルを狙う37号車がGR Supraの最上位となる6位に入り、平川がドライバーランキングのトップと同点のランキング2位で最終戦に臨むこととなった。なお、37号車のキャシディは今年の世界的なレース開催スケジュールの混乱から他カテゴリーの来季テストの日程が第7戦、最終戦と重なってしまい、苦渋の欠場になってしまった。代わりに2020年はFIA 世界耐久選手権(WEC)に参戦していた2019年のGT500王者・山下健太が平川のパートナーとして走ることとなった。

 

 

   

 

   

 

 

 富士で強く、もてぎで苦戦という構図が見えたGR Supra勢。これに関して湯浅部長はこう分析する。
 「GR Supraの車両セッティングではレーキアングル(※1)をトライしていました。最初の富士2連戦ではレーキアングルを小さくしてドラッグ(とダウンフォース)を低減し、鈴鹿ではレーキアングルを大きくしてドラッグも増えるけれど大きなダウンフォースを稼ぐように考えたのです。その辺りはまずまず上手くいったのですが、もてぎでは第4戦こそ38号車がポールポジション、決勝でも2位入賞でしたが、実際には完敗。第7戦もレースで速さを見せられず、Honda勢に上位を独占されました。2戦ともドラッグとダウフォースを上手くバランスさせることができず、完全に発散(※2)してしまいました(苦笑)」

 

※1:レーキアングル(レーキ角)とは、車体側面から見て路面に対して前下がりの傾斜(つんのめった形)を付けたセッティングのこと。この前傾の角度を大きく(より前下がりに)すればダウンフォースとドラッグが増えるとされる。これまでもチーム単位では試みられていたが、GR Supraの全チームではデータを共有しながらセッティングを進めていった。
※2:数学用語での「発散」。ある値(ここではダウンフォースやドラッグなど)がベクトル(力の方向)を示す関数において適正な値に収束しないこと。

 

 そして迎えた最終戦富士は、なんと10チームにドライバータイトルの可能性があった。GR Supra勢でも37号車(平川)、14号車(大嶋/坪井)、36号車(関口/フェネストラズ)、39号車(中山)、38号車(立川/石浦)と5台にチャンスがあった。
 予選では37号車の山下がQ2でトップとなってポールポジションを獲得。貴重な1ポイントを加えて、平川をランキング単独トップにした。またこれによりランキング上位6チームは優勝したら、チャンピオンになれるという緊張感溢れる決勝に。GR Supra勢ではタイトルの可能性がある37号車以下、39号車、36号車、38号車が予選4位までを占める速さを発揮して、運命の決勝レースを迎えた。
 決勝はポールの37号車がリードするも、後半は予選7位から2番手に上がってきた100号車NSX-GTとの一騎打ちとなる。一時は10秒以上のマージンを持っていた37号車の平川だが、タイヤにタイヤかすが付くピックアップに悩まされて、ペースが上がらない。終盤は100号車の山本に2秒差まで迫られるも、ピックアップ状態から抜け出せた平川もラスト2周でペースを戻し、2秒強の差のままファイナルラップに突入。そして、最終のパナソニックコーナー手前で、突如37号車がスローダウン。「その前のコーナーでガス欠症状が出ました。大丈夫かと思ったけれど、最終コーナーで一気に失速。もう言葉が出ませんでした…」と平川。ストレートを惰性で走る37号車の横を100号車が駆け抜け、勝利と共にタイトルも彼らに奪われてしまった。そして100号車もウイニングラップの途中にガス欠でストップ。互いにギリギリ、SUPER GT史上に残る名勝負だった。「燃費は大丈夫という計算でした。ピットにもまめに報告して確認もしていた」が、あと数100メートル、燃料にして200ccでもあれば、ゴールラインまで逃げ切れたはずだった。
 惰性でゴールラインを越えた37号車は辛くも2位。平川は100号車に2ポイント差のランキング2位でシーズンを終えることとなった。メインストレートのコースサイドに37号車を止めた平川は、ガードレール内側に座り込み、しばらく動けなかった。微かに揺れるヘルメットに向け、いつしか大きな拍手が巻き起り、この勇者の健闘を称えていた。

 

 

   

 

   

 

 

 このシーンに関して湯浅部長は、技術面からの対応をしているという。
 「最終戦(37号車のガス欠)に関しては、現在(12月中旬時点)も分析を進めているところです。もちろん“犯人捜し”をするつもりではなく、技術者としてクルマの機構的なものなのか、あるいは周辺の補器類に問題があったのか、ちゃんと確認しておきたいと思っています、もちろん、他のチームにもしっかりと協力してもらっています」

 

 そして、今季で活躍した選手、チームを湯浅部長に挙げてもらった。
「MVPというか、平川選手には『申し訳なかった』の一言ですね。GR Supra GT500の開発も担当してもらい、ハードワークをお願いしました。レース車両が完成してからもアドバイスや情報を提供してもらいました。そんな彼に報いるためにもチャンピオンになってほしかったのですが…。
 新人賞としてはサッシャ選手と宮田選手、2人です。共によくがんばってくれました。それぞれの置かれたポジション、役割の中で、時として驚くほどの速さを見せてくれました。来シーズンに期待しています。
 エンジニア賞は、個人的には誰か一人を挙げるのは難しいのですが、やはりTOYOTA GAZOO Racing陣営で最上位となった37号車の小枝正樹エンジニアということになりますね」

 

 

   

 

 

 

■2021年は弱点を克服!劣勢だったもてぎ戦を挽回したい

 開幕戦はトップ5独占と華々しいデビューを飾ったGR Supra。だが、最終的にはシーズン2勝で、タイトルも逃してしまった。全般で見れば、高速コースの富士では“レースの強さ”を発揮したが、テクニカルなもてぎで苦戦した形だ。

 

 「これはライバル車種も同じだと思いますが、2020シーズンはクルマによって(サーキットの)得手不得手がはっきりしていました。だから2021年に向けては、レギュレーションでできることは限られていますが“弱点を克服して不得手をなくすこと”です。GR Supraでいうなら“もてぎでの劣勢を跳ね返したい”と思っています。2021年もTOYOTA GAZOO Racing、各チームの応援をよろしくお願いします」

 

 LC500が“オールマイティな強さ”を示しただけに、GR Supra GT500も“どこのコースでも”、“どのチームでも”、“どのドライバーでも”勝つチャンスを与えるマシンを目指す。そういう“トヨタイズム”が継承されていくだろう。

 

 

 

 

 

 

※次回は「GT500クラス総集編:Honda NSX-GTの2020シーズン」をお送りします。

 

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