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2021.01.29
【2020 シーズンプレイバック 第6回】GT500クラス総集編“NSX-GT”

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SUPER GT史に残る最終戦の逆転劇でチャンピオンを奪還!
全8戦を4勝5ポールポジションと新型NSX-GTが圧倒し、RAYBRIG NSX-GTが2018年以来のタイトルに輝く!!

 

2020 AUTOBACS SUPER GTは、7月から5ヶ月で8戦の過密日程で行われた。だが、参戦の各チームは例年以上の熱戦を繰り広げ、これまで以上に記憶に残る多くのシーンがあった。
2020シーズンを6回に渡って振り返る「2020 シーズンプレイバック」の最終回。最終戦で劇的な逆転勝利と共にGT500クラスのチャンピオンを獲得したHonda NSX-GTの2020シーズンを、車両開発に携わったHonda GT プロジェクトリーダーの佐伯昌浩氏の言葉と共に振り返える。

 

 

■フロント・エンジンとなり、中身が一新された2020年型NSX-GT

 「2位で終わりたくない。(リタイアになってもいいから)行かせてください!」。最終戦富士の終盤、トップを走る37号車GR Supraを追いかけるNo.100 RAYBRIG NSX-GTの訴えが無線から響いた。予選7位から2番手まで上がってきたNSX-GTの燃費はゴールまでギリギリ。伊予木仁エンジニアは「いいよ。行け、行け!」と、そこまでの燃費走行を止めさせた。

 

 2020シーズンはGT500クラスの全車がCLASS 1規定の新型車で臨んだ。Hondaのベース車は引き続きNSX-GTだったが、これまでの運転席後方にエンジンを搭載するミッドシップ・レイアウトから、フロント搭載となり、中身は一新されたと株式会社本田技術研究所 HRD SAKURAの佐伯昌浩Honda GT プロジェクトリーダーは言う。
 「2020シーズンのNSX-GTはエンジン搭載位置をフロントに変更し、一新しています。この変更にあたり、これまでサイズ的に厳しい部分があったのでウォーターポンプなどの取り付け位置を変更。エキゾーストパイプも一から作り直すなど大幅な設計変更を行いました。最初の試作エンジンは多少重くなってもトラブルを出さないよう、何よりも信頼性を重視しました。新型車両は2019年の2回目のメーカーテスト(最終戦直後)から参加しましたが、車体もエンジンもトラブルフリーで、セッションを止めることはなかったですね。そこから断熱系を削っていき、ボディ剛性の面でも削って軽量化するなど、少しずつ攻めていきました。
 我々、NSX-GTの開発陣には初めてのフロント・エンジンということで、ちょっとトラブルもありましたが、何とか対処して公式テスト岡山を迎えました。この時点ではエアロの最終決定前でしたが、新型コロナの影響もあって最終確認ができていませんでした。だから、この時点での完成度は50%といったところ。当初予定されていた3月の公式テスト富士や鈴鹿メーカーテストが中止になり、エアロの確認テストはなかなかできませんでしたが、開幕直前、6月末に富士で行われた公式テストで最終確認をすることができました。新しいフリックボックスを初日に1台に装着し、2日目にやっと全車に装着できました。新型コロナ禍でも、コンピュータでのシミュレーションや風洞テストは認められていて開発を進め、ピークのパフォーマンスよりもセットアップで許容範囲の広いものを採用しました」

 

 2014年のNSX CONCEPT-GT登場以来、いやフロント・エンジン仕様のNSXがシリーズに投入されたのは初めてだけに、当初は「2020年は苦しむかな」と不安の声もあった。だが、佐伯プロジェクトマネージャーの言うように手堅く作られた新型NSX-GTは岡山と富士の公式テストの大半のセッションでトップタイムをマークし、早くもライバルたちを驚かせていた。

 

   

 

 

 

■第2戦富士と第4戦もてぎで17号車が独走優勝

 開幕戦富士では、No.8 ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺)の野尻が予選2位を獲得。100号車も4位に食い込んだ。レースでは完成度の高さの差が出たのか、GR Supraの37号車にポール・トゥ・ウインを決められ、決勝上位独占を許したが、6位に100号車が入る。レース結果は厳しいものだったが、佐伯プロジェクトマネージャーはまずまずの手応えを得たようだ。

 

 「開幕戦ですが、予選では上位に食い込むことができました。少なくとも一発の速さに関しては、予想していたよりは競争力があった、と判断しました。ロングランのテストができてなく、決勝では下位集団に呑み込まれるクルマも多かったのですが、トラブルでリタイアした17号車は、それまで上位につけていたので、完走できていればGR Supra勢の一角に食い込めたのではないか、と。これが一つの希望になりました。これまでと同様に、20年モデルのNSX-GTもダウンフォースをしっかり出して、高速コーナーで優位に立てるようなコンセプトで仕上げてきました」

 

   

 

 そして第2戦富士では8号車の野尻が、新型NSX-GT初のポールポジションを獲得。予選2位にはNo.17 KEIHIN NSX-GT(塚越広大/ベルトラン・バゲット)とフロントロウを独占する速さを示す。レースでは8号車と17号車のトップ争いとなり、17号車が先行。追う8号車はピットアウト周のスピンもあって上位から脱落。これで独走状態となった17号車が、見事に新型NSX-GTの初勝利を記録した。
 第3戦鈴鹿では「開幕前のタイヤテストで鈴鹿では手応えがあり(ポールポジションの)チャンスだと思っていた」とNo.64 Modulo NSX-GT(伊沢拓也/大津弘樹)の伊沢が言うとおり、Q1をGT500ルーキーの大津が、Q2も伊沢が制してポールポジションを奪取。レースではポジションを落とした64号車に代わり、予選8位から上がってきた100号車がトップ23号車GT-Rを伺える位置でバトルを開始。3度もセーフティカーが導入される荒れたレースになるが、100号車が2位表彰台、64号車が4位となる。
 続く第4戦もてぎでは17号車が予選2位に、8号車も同3位につける。100号車もウェイトハンディ52kgながら予選6位と健闘。決勝ではポールポジションの38号車GR Supraを17号車と8号車が追う展開に。序盤にトップを奪った17号車はセーフティカー導入でマージンを失うも後半を走った塚越の激走もあって、独走で第2戦に続くシーズン2勝目のチェッカーを受け、ドライバーランキングもトップに浮上。3位には予選7位から追い上げたNo.16 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(武藤英紀/笹原右京)が入った。

 

   

 

   

 

 舞台は3度目の富士となる第5戦。ここで8号車のGT500ルーキー福住がQ2でトップを獲得して初のポールポジション。シーズン前半は不運続きの8号車はウェイトハンディが8kgと少ないとは言え、NSX-GTの速さを証明した。だが、決勝ではまたもセーフティカー導入から8号車はトップから陥落して3位でゴール。GR Supra勢は2度目のワン・ツーと、富士では強さを見せる。この点をNSX-GT開発を指揮する佐伯プロジェクトマネージャーは、こう分析する。
 「GR Supra勢はロードラッグ仕様で、特に富士のストレートでは大きなアドバンテージを持っているように思いました。我々はシーズン中、富士は何とかがんばって、鈴鹿ともてぎでポイントを稼ぎ、チャンピオン争いの権利を残したまま最終戦の富士に臨むことを大きな目標としました。そして最終戦富士では驚くような結末になりましたが、ポイントはその前戦、もてぎにあったと思っています」

 

   

 

 

 

■第7戦もてぎで予選はトップ3、決勝ではトップ5を独占する!

 そしてシーズン後半のHondaホーム2連戦、最初の第6戦鈴鹿を迎える。予選では8号車がシーズン3度目、福住が連続のポールポジションに。予選2位は鈴鹿を得意とする64号車。NSX-GTの2台がフロントロウからスタートした決勝だったが、ピットインのタイミングで導入されたセーフティカーの影響も利した23号車と12号車、GT-Rの2台がワン・ツーでフィニッシュ。またも勝利を逃した8号車は無念の3位に。
 ウェイトハンディの係数が半減する第7戦もてぎでは、予選で64号車の伊沢がシーズン2度目のポールポジション。2、3位も8号車と100号車とNSX-GTがトップ3を独占する。そして決勝では8号車が序盤に64号車を抜いてトップに立つと、そのままレースをリード。途中のセーフティカー導入も切り抜けて、大差で独走してようやくのシーズン初勝利。2、3位は64号車と100号車。さらに4、5位も16号車、17号車と続き、参戦5台でトップ5を占める快挙を成し遂げた。

 

 佐伯プロジェクトマネージャーは、この快挙についてはこう語った。
 「2020シーズンのエンジンはアンチラグを切ってもレースで戦えるようなエンジンを目指しており、ブレーキングポイントの多いもてぎ、特に第7戦では燃費の良さを武器に1~5位を独占することができました」

 

   

 

   

 

 

 

■ギリギリの激走!最後の直線で100号車が逆転勝利&チャンピオン

 こうしてドライバーランキングでトップの17号車をはじめ、100号車、8号車が勝てばチャンピオン、64号車も一縷の望みがある状況で、最終戦富士には4台のNSX-GTを含む10台がタイトルを目指して臨む。
 予選では富士に強いGR Supraがトップ4を独占。NSX-GTは5位に64号車、7位に100号車となり、この時点で64号車のタイトルは消える。
 決勝ではポールポジションの37号車が先行する中、序盤は100号車の牧野が猛烈な追い上げを見せてピットインの前には2番手に上がって山本にステアリングを託す。各車のピット作業が終わると100号車は4番手。だが山本が2台のGR Supraを抜いて、再度2番手に戻す。だが、トップ37号車との差は残り20周で約15秒とかなり厳しい。しかも、この10周ほどは100号車も燃費を気にしながら走行をしなければならなかった。その中でも山本はセーブをしなければ37号車に追いつけるという手応えを得る。そしてラスト10周にピットに「行かせてください!」と訴えた。折しも37号車の平川もタイヤのピックアップ(タイヤにタイヤかすが付いてグリップが落ちる状態)が発生してペースダウン。この時、100号車の伊予木エンジニアは『これは走行会じゃない、レースだから勝負だろう。ここ数年、37号車とは因縁もあって(タイトル争いや2020年も接触などがあった)負けたくなかった』と思い、山本に「行け!」の指示を送った。
 すると100号車は37号車のマージンを毎周のように削り、ラスト4周でその差約2秒にまで迫る。その頃、37号車もピックアップは解消し、燃費面も大丈夫と判断して平川はペースをアップ。すると、100号車との差は縮まらなくなり、最終ラップに突入した。それでもプッシュを続けた山本は、最終のパナソニックコーナーで目の前に迫った37号車を見る。「もうウイニングラップ?いや、ガス欠だ!」と山本は全開でその横を駆け抜けた。抜いた瞬間「自分もガス欠になるか?」と不安を抱いたと言うが、そのままゴールラインをクリア。しかし、ウイニングラップ途中に100号車もガス欠でストップ…。
 100号車NSX-GTは、37号車GR Supraと壮絶なトップ争い、SUPER GT史に残る名勝負を繰り広げ、2018年以来のダブル・タイトル獲得を果たした。

 

   

 

 「GR Supra勢も最終戦の富士では“燃費を攻めた作戦”になったのだろうと思います。ただ富士ではアンチラグを切っていても、もてぎほど効果はなく、実際に100号車も(燃費は)ギリギリでしたから。いずれにしても2020シーズンのSUPER GTは厳しい戦いになりました。レーススケジュールが立て込んでいるのはともかく、走行テストの機会がないから新しいこと、パーツやセッティングを試せないのは本当に厳しかったですね」。最終戦を顧みて佐伯プロジェクトマネージャーは、こう総括した。

 

   

 

 

 

 

■まだまだゴールは先に。“より速いNSX-GT”に進化させる

 Honda陣営としては、中身を一新した新型車で4勝、5ポールポジションと共にライバルを凌駕し、100号車がダブル・チャンピオンとほぼ満点と言える結果を上げた。そこで、佐伯プロジェクトマネージャーに陣営の各賞を選んでもらった。

 

 「MVPを選ぶとしたら、やはりチャンピオンを獲得した100号車の2人ですね。ただ個人的には10人のドライバー全員がMVPだったと思います。8戦で5回のポールを奪い、ブリヂストンを履く3台が合わせて4勝。ダンロップを履く64号車も、ヨコハマを履く16号車もちゃんと表彰台に立っていますからね。本当に10人のドライバーと5チーム、そしてSAKURAも含めて全員で“速いNSX-GT”に仕上げ、タイトルを獲ったと思っています。
 新人賞は8号車の福住選手。コンビを組む野尻選手もそうですが一発の速さ、それも決めるべきところでピシッと決める。あの速さは頼もしい限りです。
 エンジニア賞は、やはり100号車の伊与木さんかな。チャンピオンを獲ったこともそうですが、最終戦で山本選手が「2位で完走するよりも勝負したい。行かせてください!」と無線で言ってきたとき「行っていいよ!」と即断した。あれには感動しました。僕も(ガス欠で)リタイアも仕方ないな、と腹をくくりましたけれど(笑)」

 

 そして、2021年は連覇を目指すことになるHonda陣営。最後に佐伯プロジェクトマネージャーに展望を語ってもらおう。
 「新型NSX-GTの1年目でチャンピオンを獲ることができましたが、まだまだゴールは先にあると思っています。2021年もHonda一丸となって、“より速いNSX-GT”に進化させたいと思っています。ファンの皆さんには、2021年もまた応援をよろしくお願いします」

 

 

 

 

【2020 シーズンプレイバック】は今回で終了です。
 

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