News

News
2022.12.26
【2022プレイバック】第4回 GT500クラス総集編その1「“TOYOTA GR Supra GT500”の2022年」

【2022プレイバック】第4回 GT500クラス総集編その1「“TOYOTA GR Supra GT500”の2022年」の画像

ENEOS X PRIME GR SupraとKeePer TOM'S GR Supraが最終戦までタイトルを争う
開幕戦岡山と第4戦富士で優勝も痛いトラブルもあった2022年のGR Supra GT500勢
予選ではWedsSport ADVAN GR Supraのポールポジション4回と速さを見せる

 

 多くの観客がサーキットに戻り、熱戦が繰り広げられた2022年。「2022 シーズンプレイバック」も、この第4回からGT500編。最初はTOYOTA GR Supra GT500、6台の戦いと共に、今季からマシン開発のリーダーシップを担ったTRD開発部の佐々木孝博部長の言葉と共に振り返っていこう。

 

 

■開幕戦岡山は14号車がポール・トゥ・ウイン!第2戦も手応えはあり

 2022年3月、2回の公式テストでは、No.36 au TOM'S GR Supra(坪井翔/ジュリアーノ・アレジ)の坪井が好調だった。岡山での2日間総合、コンディションの良かった富士の1日目ではトップタイムを記録。さすが2021年GT500チャンピオンという走りをみせたが、他のTOYOTA GR Supra GT500勢やライバル車種の上位とはタイム差が大きいわけではなかった。

 今季よりGR Supra GT500開発の指揮を執る株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント、TRD本部MS開発部の佐々木孝博部長は、この開幕前の公式テスト、そして第1、2戦を振り返って言う。
「2021年のGR Supraはハイレーキ(大きいレーキ角※)から角度を戻していました。2022年型もそこは変わらずに、ダウンフォースを得る、最高速を失ってもダウンフォースを得ようと開発してきました。リアの安定性を確保しながらフロントのダウンフォースを稼いで旋回性能を上げる、ということに取り組んできました」
 ※:ハイレーキ(大きいレーキ角)とは、車体側面から見て路面に対して前下がりの傾斜(つんのめった形)を強めたセッティングのこと。この前傾の角度を大きく(より前下がりに)すればダウンフォースとドラッグが増えるとされる。デビュー時(2020年)のGR Supra GT500はハイレーキを武器に戦った。

 


公式テスト岡山で2日間総合トップタイムを記録したNo.36 au TOM'S GR Supra

 

 そして迎えた2022年開幕戦岡山。前年はGR Supra勢が予選トップ5、決勝ではトップ4を独占した得意コース。2022年も予選はNo.14 ENEOS X PRIME GR Supra(大嶋和也/山下健太)の大嶋がポールポジションを獲得。予選2位はNo.39 DENSO KOBELCO SARD GR Supra(関口雄飛/中山雄一)の中山とワン・ツーを決める。だが予選3、5番手には100号車NSX-GTと24号車Zも食い込み、今季はGR Supraの独壇場とは行かない。
 それでも決勝レースでは14号車がポールポジションから逃げて岡山2連勝とTOYOTA GAZOO Racing(TGR)勢としてはまずまずの結果に。ただ、2位は100号車、3位は23号車Zとライバル車種も互角の戦いを見せていた。

 

   
開幕戦岡山を2年連続で制したNo.14 ENEOS X PRIME GR Supra

 

 第2戦富士はTGRのホームコースである富士での一戦。マシンの素性もGR Supraは富士と好相性と言えるので連勝が期待された。そして予選Q1では36号車の坪井がトップタイム。Q2ではNo.19 WedsSport ADVAN GR Supra(国本雄資/阪口晴南)の阪口がポールポジション。だが富士も予選上位独占はならず、GR Supraの2番手は5位のNo.37 KeePer TOM'S GR Supra(サッシャ・フェネストラズ/宮田莉朋)であった。
 450kmで争われる決勝レースは、中盤になってGT300車両のクラッシュで一時中断。再開後は36号車と37号車、39号車のGR Supraと3号車Zがトップを争う。ここで36号車のアレジと37号車の宮田が接触し、36号車が遅れる。これで39号車がトップとなり、僅差で3号車Zと37号車GR Supraが追う展開に。その後、3号車がメインストレートをスロー走行していたGT300車両を避けようとしてスピン。幸いにもドライバーは無事だったが、コース修復のためレースは再度中断。長い中断の後、セーフティカーの先導でレースは再開されるも、最大延長時間となり所定の周回(100周)に届かず、62周でレースは終了。この時、39号車と37号車が1、2番手でゴールしていたが、37号車は36号車との接触でペナルティ。39号車は最初の中断時、関口が車両を降りた直後に左前タイヤが気になったのか、触ってしまっていた。これが赤旗中断時の作業とされてペナルティ。共にレースタイムに40秒加算されポイント圏外となった。繰り上がりで8号車NSX-GTが優勝。2位には36号車が入るも、続くGR Supra勢は6、7位と苦いホームレースとなった。

 この序盤2戦を佐々木部長はこう振り返る。
「オフで改善してきたものは、開幕までにドライバーやチームのエンジニアさんに改善されたことを確認してもらっていました。しかし、ZもNSX-GTも向上の伸び代が大きくて、開幕戦が終わった時点では満足してはいなかったですね。
 それでも開幕戦と第2戦はポジティブにとらえることができていました。第2戦はイレギュラーな形でレースを終えることになりましたが、ダウンフォースを得るためにドラッグが増えて、最高速を失ってもいいと考えていたのですが、想定していたよりもドラッグを増やすことなくダウンフォースを得ることができていました。富士での車速の落ちは想定していたよりも良かった(落ちが少なかった)ので、そこは『富士でも戦える』とポジティブにとらえることができました」

 

 

■調子を上げてきた37号車が第3戦富士で優勝!19号車は4連続ポールポジション

 第3戦は、これまでGR Supraが“苦手”としていた鈴鹿。この予選では2022年型のGR Supraの進化がうかがえた。Q1では39号車と37号車が2、3番手。そしてQ2では19号車の国本がポールポジションを獲得し、チームとしては2戦連続だ。予選2位にも37号車が入り、決勝での活躍も期待された。だがレースでは3号車Zが速く、逆転して優勝。19号車は順位を下げ、37号車はピットインで17号車NSX-GTに先行されて3位で終了。4、5位もGR Supraと苦手の鈴鹿でトップ5中3台を占め、GR Supraは今までとは違う印象を残した。

 

   
第3戦鈴鹿では予選ワン・ツー!2台のGR Supraが決勝を最前列からスタート

 

 そして第4戦は再びの富士。予選で19号車の阪口がなんと3戦連続のポールポジションを決める。予選3、4位には上り調子の37号車と、第3戦でマシントラブルに泣いたNo.38 ZENT CERUMO GR Supra(立川祐路/石浦宏明)が入った。
 決勝レースは450kmで争われ、序盤から予選2位の24号車Zと37号車が激しいトップ争いを演じる。流れが変わったのは終盤、2度目のピットインの時。ここで37号車は素早いピット作業で宮田をトップでコースに戻す。一方、24号車はピットで手間取って3番手に後退。37号車の宮田は、追う12号車Zを振り切ってゴール。GR Supra勢として今季2勝目、フェネストラズと宮田は嬉しいGT500初勝利を手にした。だが、得意の富士で他のトップ5は4位の36号車のみ。期待された38号車だが、またもトラブルでリタイアとなった。

 

   
第4戦富士でNo.37 KeePer TOM'S GR Supraのフェネストラズ/宮田が初優勝を記録

 

 再度鈴鹿に戻っての第5戦、予選Q1で19号車(阪口)が2位。4連続ポールポジションも期待されたが、Q2では国本がGR Supra勢最上位も4位に終わる。450kmの決勝では、中盤まで表彰台圏内を争っていた38号車が2回目のピットインを延ばす作戦に出る。だが、そのピット作業のタイミングでセーフティカーが導入され、作戦が裏目となり9番手に後退し、その後マシントラブルもあってリタイアとなってしまった。この中、セーフティカーのタイミングを使用して、予選9位からジャンプアップした39号車が3位でフィニッシュ。今季初表彰台に上がった。

 


第5戦鈴鹿ではNo.39 DENSO KOBELCO SARD GR Supraが3位に入る

 

 第6戦はスポーツランドSUGO。予選Q2ではまたも19号車の阪口が速さを見せて、今季6戦で自身3回目、チームとして4回目、GR Supraは5回目のポールポジションをコースレコードで獲得した。また38号車も予選2位と今季ここまでの最上位を得た。
 しかし、決勝レースはスタート後に雨となり、レインタイヤへの交換を強いられる。また、最初に導入されたFCYのタイミングや各車が使うタイヤメーカーによって雨量とのマッチングが異なるなど、有利不利が交錯。この中で、予選2位の38号車が一時トップに立つ。だが、この雨にマッチしたタイヤを履いた23号車と3号車、2台のZに先行を許してしまう。38号車はドライバー交代のピットイン後は4番手を走行。そのままフィニッシュして、開幕戦以来の4位を得た。

 

photo
ポールポジション4回と速さを示した
No.19 WedsSport ADVAN GR Supra

    photo
トラブルに泣かされたNo.38 ZENT CERUMO GR Supraは
第6戦SUGOで2度目の4位を得た

 

 中盤戦を振り返ってTRD車両部の佐々木部長は「鈴鹿での2戦は、昨シーズンは我々の方が劣勢だった印象が強かったのですが、今年のクルマでは鈴鹿でも戦えるという印象がありましたね」と、GR Supraが苦手だった鈴鹿での速さに手応えを得ていた。だが、この時からいくつかの課題も突きつけられていた。
「一方、第3戦からは(車両の)トラブルが出ていて…。自分の中では鈴鹿から後半戦ととらえているのですが、セルモさん(38号車)に何度も何度もトラブルが出てしまいました。それはセッティングなどの“使い方”で攻めたわけでもなく、速度が上がったことで負荷が大きくなったとも考えられないんです。ともかく(パーツを)交換してレースに臨むしかなかったですね。セルモさんだけでなくトムスさんの36号車でもブーストの制御系でトラブルが出て予選を走れないこともありました。
 その予選では、19号車が4度もポールポジションを奪って速さを見せていましたね。ただタイヤをうまく使えるピンポイントの予選セットでは速いのだけれど、レースになると安定した速さを発揮できませんでした。その辺りも大きな課題となりました」

 

 

■苦しんだ終盤の2戦、予選では19号車が奮闘。最終戦は14号車が3位表彰台を得る

 シリーズ終盤、サクセスウェイト(SW)が半減となった第7戦オートポリス。GR Supra勢にとっては苦しい大会となる。予選Q1では36号車(坪井)がトップタイムを出す。そしてQ2で19号車(国本)が3位に入る。決勝も19号車がトップを伺うが、ピットインを遅らせたのが裏目にでたか、コースに戻ると9番手に。この時の暫定1、2番手の39号車、37号車もピットインの周回を遅らせたが、結果的に上位には絡めず。このレースは予選5位から着実に走った14号車の4位がGR Supra勢の最上位だった。

 最終戦はモビリティリゾートもてぎ。GR Supra勢でドライバータイトルの可能性を残していたのはランキング5位のNo.37 KeePer TOM'S GR Supra(サッシャ・フェネストラズ/宮田莉朋)と同6位のNo.14 ENEOS X PRIME GR Supra(大嶋和也/山下健太)の2台。どちらも勝った上でライバルの順位次第と厳しい状況で、加えて14号車はポールポジションも獲らなくてはならなかった。
 SWがなくなる8戦目なので、GR Supra勢の逆襲もあるかと思われたが、早くも予選Q1で希望は打ち砕かれた。14号車は11位と、この時点でタイトルの可能性は消える。37号車も14位とQ2に進めず。Q2に進出したのは3位となった19号車(国本)のみだった。そしてもてぎが得意の19号車(阪口)はQ2でもポールポジションを争う。惜しくも今季5度目とはならなかったが、それでもコースレコードで予選2位を決めた。
 決勝でも前半は2番手からトップの100号車NSX-GTを追うが、ピットインで順位を下げ、燃費の問題から結局7位。対して予選11位の14号車は、スタート周で9番手まで挽回。さらに上位陣の脱落もあって序盤で5番手に浮上した。ピット作業でも14号車は順位を上げて3番手に。ゴールまで2番手の12号車Zを追った。結局、14号車は3位でレースを終え、GR Supra最上位の3位表彰台とランキング5位を掴み取った。

 

 

 2022シーズンは中盤盤までは活躍をみせたGR Supra勢だが、終盤戦で思うような結果を残せず、昨年手にしたタイトルを失ってしまった。シーズンを終えた佐々木部長に総括してもらった。
「シーズンを一言で表すなら『なかなか戦わせてもらえなかった』ということになります。当初は我々が想定していた開発目標は、クリアできたと思っていました。でもシーズンが始まってみると、ライバルの方がもっとレベルが高かった。特にZ。開発の段階ではもっとエンジン出力を上げていこうと思っていたのですが、それができなかった。だから最高速ではZに離されてしまい、NSX-GTにも追いつかれてしまいました。
 ダウンフォースを稼いでいる分ドラッグが大きくなるから、その分出力(エンジンパワー)を上げて補おうとしていたのですが、それが最後まで投入できませんでした。
 そして、何よりもトラブルが大きかった。上位入賞できたであろう車両が、トラブルでフィニッシュできなかったことも何度かあって…。本当にトラブルは痛かったですね。あと、安定して好成績を残せなかった原因としては、やはりクルマが扱いやすいクルマでなかったということが挙げられます」

 そして、来季のGR Supra GT500については「開発中の2023年仕様は、規定で空力の開発が制限されているため大きく手を加えることはできませんが、ステアリングの特性や姿勢制御など安定した速さを見せられるよう開発を進めています。
 2022シーズンはGR Supraのファンの皆さんに速さをお見せすることができませんでしたが、来シーズンは決勝でも安定した速さを発揮できるクルマを用意してタイトルの奪還を目指します。来年も応援をよろしくお願いします」と、佐々木部長は2023年のタイトル奪還に向けて準備が進んでいることを明かしてくれた。

 

 

 

 

※次回は「GT500クラス総集編:Honda NSX-GTの2022年」をお送りします。

 

Page Top