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2023.04.04
【特集】GT300クラス注目の新型車apr LC500h GTを直撃!開発理由とその特性とは…

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 2023 AUTOBACS SUPER GTの年間エントリーも発表され、開幕戦の岡山国際サーキット(4/15、16)も迫ってきた。そこで今季唯一のニューマシンとなる、GT300クラスに参戦するNo.31 apr LC500h GTにスポットを当ててみたい。先の公式テスト岡山でも速さをみせた、ファンの注目を集めた1台でもある。
 このマシンのベース車両が選ばれた理由、そしてGT300マシンとしてどのような特徴をもっているのか? LC500h GTの開発者でもあり、aprの監督・代表を務める金曽裕人氏に聞いた。

 

 

 

 

■先代プリウスでのGT300挑戦の意義とその終焉

 aprは2011年、GT300クラスにTOYOTAのプリウスをベースとしたマシン、しかもハイブリッドシステムを搭載したユニークな車両を投入した。それまでも4ドア車両をベースとしたオリジナルマシンで参戦していたが、最先端の“エコカー”のイメージがあったプリウスを敢えて使用することで、プリウスがエコだけではないこと、そしてTOYOTAのハイブリッドシステムをレースの場で鍛えるという目的があったと言う。

 とはいえGT300のプリウスは、その外観をもっているとはいえ、中身は完全にレーシングカーだ。2018年までは、aprが長年得意としてきたミッドシップレイアウトを使用しており、市販車と異なりエンジンがドライバーの後方にあった。

 

2022年まで活躍したNo.31 apr GR SPORT PRIUS GT

 

 しかし2019年、レギュレーションの変更にともない、aprは新たにプリウスPHVのボディを使用したFRレイアウトの車両を製作。2022年まで活躍するとともに、このプリウスPHV製作で培われた技術が、今季も活躍するGR Supra GTやGR86 GTにも活かされている。では、なぜまた新たなハイブリッド車両を製作することになったのだろうか?

 

「プリウスPHVは、車両のディメンションの面で厳しい部分があったんです」と金曽監督は語る。

「ドアが4枚あり、ホイールベースが長かったことから、ドライバーのシートをうしろにもっていくことができなかった。GR86と比較すると、シートがかなり前方にある。ベースがFFなので、ドライバーとエンジンの位置関係が難しかったんです。そもそもドライバーがクルマから降りられなくなってしまう」

 

 GT300規定車両は大きな改造が可能だが、市販車のフレーム、さらに安全性に配慮したシートやロールケージなどもあり、ドライバーの着座位置を定めるのが非常に難しかったのだという。また興味深いのが、プリウスPHVのボディについてだ。

「今のエコカーは、当然リヤウイングを着けたりすることを考えているわけではありません。しかし、車両のCd値(空気抵抗係数)はすごく低い。それを狙うために、フロントウインドウを寝かせ、Aピラーがすごく前の位置にあります。ただレーシングカーにすると、エンジンをボンネットの奥にせざるを得なく、整備性が非常に悪かった。また、エンジンをあの位置にすると、FFがベースなので、フロントタイヤとドアまでの間が狭すぎ、エキゾーストが通らなくなってしまいます」

 エキゾーストの取り回しが難しくなれば、エンジンパワーも不利になる。また排熱を含めた空力の活用、さらにリヤまで伸びる大きなキャビンがあることから、リヤウイングにうまく空気が当たらず、他のGT300規定車両に対してリヤウイングの角度をつけざるを得なかった。「ドラッグの塊」という難しい状況のなかで2022年まで戦っていたのだ。

 金曽監督は、4ドアのFFをベースとした車両に対する参加条件の策定なども訴えていたが、状況はなかなか好転しなかった。

 

 

■新型車LC500h GTの得意コースはふたつ

 そこで次期マシンが検討されることになったのだが、aprはTOYOTA自体と組んでのハイブリッド開発という重責も担っている。「やっぱりハイブリッドがついているクルマをベースにしよう」と決定し、当然候補として挙がったのは、現在市販車の販売がスタートしている新型プリウスだ。

 しかし、ロシアによるウクライナ侵攻や、半導体不足など世界情勢の変化により、新型プリウスの発売がずれ込んでしまった。市販プリウスの発表前にGT300車両が走り出すわけにもいかない。そこで、ハイブリッドを積むTOYOTA/LEXUSの車両のなかで候補となったのが、LEXUSのRC350h、そしてLC500hだった。RC350hは、近い形状のRC F GT3がすでに参戦しており、LC500hが選ばれたのだ。

 

 

 

 市販のLC500hをaprが風洞実験で計測したところ、非常に優れた数値が出た。またその美しいボディラインに金曽監督も惚れ込み、車両づくりがスタート。これまでプリウスPHV、GR Supra GT、GR86 GTで培ってきた技術が注ぎ込まれ、昨年から継続するハイブリッドユニットが組み合わされた。

「極論すれば、使っているものは一緒です。GR86 GTをストレッチしたものがLC500h GTと思っていただいて構わないと思います。コクピットやバルクヘットから後方はすべて同じですし、フロアやプロペラシャフトも同じです。エンジン搭載位置がGR86 GTと同じままで、アーム類が前に出ているということです」

 このアーム類が270mm前に出たことにより、重量配分が大きく改善。さらにホイールベースが伸びたことで、床下でダウンフォースを稼ぐことに成功した。「何しろボディがすごく良いですね」と金曽監督。

 こうしてできあがったLC500h GTは、重量配分とダウンフォースの大きさにより「中高速コースが強いと思っています」と金曽監督は言う。ターゲットは鈴鹿サーキット、そしてスポーツランドSUGOだ。

「GR Supra GT(GT300車両)は少し難しいクルマですが、GR86はオールマイティです。LC500h GTについては、鈴鹿とSUGO以外は“普通”かもしれません」

 

 

 

■新型でもトラブルなしの裏にはaprの実績がある

 また、これまで公式テストでもまったくトラブルが出ていなかったのは、プリウスPHV、GR Supra GT、GR86 GTとパーツが共通で実績があることから(すべてaprが開発に関わる)。ゆえに「なんの問題もない」と金曽監督は言う。ちなみに、市販車よりもわずかに後傾しているようにも見えるが、実際に1,100mmの車高に合わせて2度ほど後傾されている。

「クルマは“顔”をあまりいじらない方がいいというのが僕の考え方。前から走ってくるわけですからね。クルマの顔はアイデンティティがいっぱい入っているので、それを残さなければと思っています。だからaprが作っているクルマは顔をなるべく残しています」と金曽監督。

「そのまま平らなまま顔を残そうとすると分厚くなりすぎてしまうので、トップの高さを合わせて、わずかに後方を下げています」

 

 

 

■LC500h GTはTOYOTAハイブリッドの看板を引き継ぐ

 公式テスト岡山の際には、決して得意なコースではないというが、さっそく重量配分の良さが活きて好パフォーマンスをみせている。

「これまで培ってきたハイブリッドの技術が市販車にフィードバックされていますし、新型プリウスがスポーツ志向になったのは、SUPER GTを戦ったことで、多くのお客さまが『プリウスはスポーティ』というイメージを抱いてくださったから。それがすごく嬉しいですね」と金曽監督は語った。

 ミッドシップのプリウス、そしてプリウスPHVが築いてきた歴史と実績を受け継ぎデビューするapr LC500h GT。プリウスのイメージがSUPER GTで変わったように、市販のLC500hのスポーティさをさらに高める存在になるはずだ。今季のSUPER GTで最も注目の車両となるのは間違いないだろう。
 尚、apr LC500h GTに関しては動画によるマシン解剖も近日中にお届けする予定なので、こちらもお楽しみに。

 

 

 

 

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