GTC 1999 GT INSIDE REPORT

Special Report
(2)チーム関係者に訊く


 前回*、第2戦富士のインサイドレポートでは、最近のGTCマシンの性能向上およびコストの高騰について、福山英朗(No.81 ダイシンシルビア)、鈴木恵一(98年GT300チャンピオン)、木下隆之(No.32 cdmaOneセルモスープラ)、松田秀士(No.55 STPアドバンタイサン バイパー)の各氏に意見を訊いた。今回は、チーム監督その他、前回とは立場の異なる方々の意見を掲載する。*『(1)ドライバーに訊く』はこちら


長谷川勇総監督(No.25 MOMOCORSE Racing Team with Tsuchiya)
「全体の盛り上がりを削がないようにしながら規制していくことはつねに必要だと思いますよ。ただ、現状でもGT300のMR2は危険だということはないと思います。GT500では微妙な空力でグランドエフェクトでやってますが、GT300の空力はまだそこまでいってません。従来のツーリングカーのレベルですよ。絶対速度が知れてますから、ブレーキ性能も決して悪くないです。レギュレーションは、今年は現行のままでいいと思います。車両の安全規定を強化するとしたら、剛性確保とか前後のクラッシャブルバリアとかそのあたりでしょう。あと言いたいのは、内輪だけじゃなくてお客さんに喜ばれるレースをしないといけないということです。レースファンがそんなに急激に増えるとは思えないんで、チューニングカーを楽しむユーザーを動員しないといけない。(ユーザーが)走るチャンスを多くするなど、そのあたりの運営も強化すべきだと思います。うちは部品メーカーなんで、お客さんに喜んでいただくことを考えています。チームもクルマも、日曜日に走らせるだけっていうんじゃマンネリだし、地方を転戦しているんだからディーラーの人たちが走る機会を作るとか、いろいろな努力が必要だと思いますよ。『これでいいや』じゃ衰退しますよ」

土屋春雄監督(No.25 MOMOCORSE Racing Team with Tsuchiya)
「GTのタイムが上がってきているのは正常進化しているだけ。世界中でマシンを遅くしようという傾向があるけれど、遅ければ安全ということではない。今このシリーズは成功してるんだからむやみにいじらないほうがいい。コストだってウチは今一番安い。ポルシェは設計が20年前のクルマでしょ。開発らしい開発をやってないそのまんまのクルマ。そのクルマにあわせて遅くしちゃって(進歩が)止まってたらレースはなにもおもしろくない。ターボだから速いという理屈も、そうは思わない。ほんとうにオレがやりたいのは3リッターNA。今のレギュレーションを考えたらこれが一番速くなると思ってる。だからといってNAはカネがかかるとも思わないよ。ウチなんか確実にエンジンを2レースは使ってるし、コストもそんなに上がってないよ。要するにアイデアの問題。ウチのクルマなんか溶接さえできればだれにでも作れるはず。決まった予算のなかでのカネの使いかたしだい。ウチがカネかけるようになっちゃったらGTは悪くなると思うよ。でもオレがほかのクルマやったら、もっともっと速くなるよ」

坂東正明監督(No.19 RACING PROJECT BANDOH)
「GTCってのはいっぱいエントラントがいるから盛り上がるんだろ? どうやってエントラントを増やすかもっと考えたほうがいいと思うんだよな。べつに速すぎるからカネがかかるとは思わねェよ。NAは軽くしていいっていうけど、軽くするのにはウンとカネがかかる。土屋さん(土屋エンジニアリング)はカネかかってねェっていうけど、あそこはノウハウの蓄積があって自分のところでやってるからだろ。土屋さんに同じクルマを作って同じメンテナンスしてくれって言ったらウンとかかるんだから。カネがかかるのはある意味しょうがねェんだけど、もう少しエントラントを増やしたかったら、もっとGT300をTVに映せと言いたい。今のGTCってGT300がいて成り立ってるんだろ。メーカーが争っているGT500だけでレースをやってみな。台数は少ないし、どこかがやめたら終わりだろ。GT300はメーカーがいなくてもできる。だからといってGT300だけでレースをやったら今度はお客さんが入りますか、という点も見逃せない。つまりだな、GT500とGT300両方いねェと成り立たないんだよ。そういうコミュニケーションがあってGTCってのは成り立ってるんだ。同じ上納金払ってるのになんでGT300はTVにちゃんと映らねェんだよ。全員が盛り上げてるっていうのをちゃんと伝えろよな。GT300じゃ視聴率が取れないなんていうのはやりかたを知らないだけだよ。もしそんなこというヤツがいたらクビにしちまえばいいんだよ。それくらいGT-AがTV局に言ってもいいんじゃないの」

平岡寿道監督(No.86 KRAFT)
「カネがかかるって言うけれど、速くしようとするとあるていどはしかたないんです。スポンサーへのソフト費用がかかるということもあるでしょう。ウチや土屋さんのところ(No.25 モモコルセ・アペックスMR2)みたいだったら問題はないけど、GT500のチームみたいにトレーラーでクルマ運んでテント出すとおカネがかかる。ハコ(のレース)の最高峰ということを考えると、その部分をカットすることはできないでしょう。コスト削減のために、GT-Aが金曜日にもタイヤ規制をしてるし、メーカー占有のテストもなくなってる。このあたりは現状でいいと思います。
 車両側の安全という点で言えば、NASCARやFIA-GTではドライバーの保護のためにサイドストラクチャーが3本入っているし、ドアの材料は変えちゃいけないという規制がある。これだとドライバーの安全性は高められるでしょうが、今度は乗り降りの問題とかも出てくるんです。ただ、GT500とGT300の速度差が開くと危険です。昔はスタートから15周ぐらい周回遅れにならなかったのが、今は8〜9周で周回遅れになるんです。常に後ろを気にしなきゃいけないくらいのタイム差がある。この差が近づいてくればバックマーカーがそうそうは出てこない。GT300とGT500を分ける話もありますけど、興行的に成功するかどうかでしょうね」

高橋規一(No.99 大黒屋ぽるしぇ/※高橋氏は現役の救急医でもある)
「安全面で一番気になるのはシートベルトのちょうど股のあいだの部分のベルトです。5、6点目っていうんですか? このベルトだけは、ドライバーが変わると調整できない。3点式のELRみたいになればシートを動かしてもベルトが合わなくて困ることはないんですけどね。今はレギュレーションでだめだという調整機能なんですが、ここが合わなきゃ死ねというようなものですよ。
 あとは、レース中になにかあればボクが止まって(救護措置を)しますよ。今回ボランティアドクターを買って出たんですが、レースウイークは富士もここも金曜日から手配してくれていて、あとは合同テストのときだけ来ればいいのかなという体制になっています。
 (速度を抑えるということでは)タイヤをレギュレーションで変えてコーナリングスピードを下げたりすることも考えられるだろうけど、(それが)安全面に結びつくかどうかなって思いますね。速すぎるから危険というより、速さを維持するためにおカネがかかりすぎ。コントロールするとすればエンジンに対する型式認定です。まあ、封印しろとまでは言わないけれど、スペアエンジンをボンボン使うチームと、われわれみたいにエンジン1基でオイル交換ぐらいしかやりようのないチームの戦いですから…。なんらかの規制というか、たとえば壊れたときだけ乗せ換えを認めるとかしたらどうでしょう」

ピエール・アンリ・ラファネル(No.35 マツモトキヨシ・トムススープラ)
※BPRシリーズ、FIA GT選手権、全日本GT選手権のそれぞれにフル参戦した唯一のドライバー
「BPRシリーズ(消滅したヨーロッパのGTシリーズ)、そしてFIA GT選手権が経験した問題と同じことが、今ここで起こっていると思う。BPRでは当初、コンストラクターがマシンをプライベーターに供給していたので、どのチームにもチャンスがあった。(ワークスと)同じマシンを入手できたので、多少高くてもそれを購入してレースに参加していればチャンスはあったんだ。毎年エボリューションモデルが出て、チームはそれを購入した。ただ、ワークスチームがワークスマシンで参加するようになって、マシンを供給するにしても1年落ちのものしか出さなくなってプライベーターが上位に入れなくなり、やる気をなくして去っていった。ボクがいたGTCレーシングもそうだった。これでFIA GT選手権からGT1クラスがなくなったんだ。今、全日本GT選手権はこれと同じ方向に向かっているように思える。選手権のレベルはどんどん上がっている。去年ホンダが圧倒的に速くて、トヨタはそれに対抗すべく戦闘力の高いニューマシンを開発した。今年、トヨタはそのニューマシンを6台も供給しているが、仮にホンダ、ニッサンが来年2台だけで参加するようになり、トヨタもそれに合わせてプライベーターに供給しなくなったら、選手権は消滅してしまうだろう。プライベーターがワークスと同じマシンを購入できなければいけない。ニッサンのようにワークスマシンを2台しか出さないというのは選手権にとってはよくないと思う。あれがすごく速くて選手権を圧倒するようになり、ほかのコンストラクターも少ない台数に集中するようになるとメーカー同士の争いになり、プライベートチームはいなくなって選手権はなくなってしまうだろう。BPRや、FIA GTのGT1クラスのようにね。
 この選手権のいい点としては、リストリクターのサイズとウェイトハンディもうまく機能しているようで、同じマシンが勝ちつづけるということがないことが挙げられる。いろいろなクルマ、チームにチャンスがある。決して同じチームの1台のクルマがシリーズを圧倒してしまうということがない。3つのコンストラクターが参加しているし、プロモーションもいい。多くのプロフェッショナル・ドライバーが参加している。だから観客動員数も多い」

和田孝夫(No.11 エンドレスアドバンGTR)
「今は天気がよければお客さんはたくさん集まるだろうし、面白いレースができるだろうけど、はたして来年、再来年とこれが続いていくかどうか。実際に去年出ていて今年いないチームもけっこうあるし。みんな見栄張ってやってるけど内情はどこも苦しいと思いますよ。主催者も雨降ってお客さんが来なくて大赤字になれば一気に苦しくなってしまうだろうし…。
 ちょっと別のことを言えば、トップレースはお客さんも集まって興行自体成功しているかもしれないけど、底辺のレースはエントラントも集まらなくて大変なんですよ。たとえばGTCの前座などは集まるんですけど、それ以外はどのカテゴリーも軒並み参加台数が減っているんです。ボクも最近底辺のレースにどんどんかかわっているんですが、台数集めるのが大変なんですよ。宣伝も足りないからいつやっているかもわからないですし。ボクが底辺のレースに出ていたころはもっと観客も集まっていました。底辺のレースがなかったらトップレースもありえないんですよ。トップレースがあるのもトップドライバーがいるのも底辺のレースがあるからなんです。GTCの関係者もそのことをもっと考えてほしいです。前座でいろいろなカテゴリーのレースをやるとか。今もやっていると言われるかもしれないけど、もっともっとやってほしいですよ。それと雑誌の人にとくに言いたいですけど、モータースポーツ誌を買っているのはそういう(底辺の)レースに関わっている人なんですよ。彼らは名前が載ればうれしいんだから、もっと扱ってほしいです」

長谷見昌弘(No.3 ユニシアジェックススカイライン/ハセミ・モータースポーツ代表)
「今のGTCはずいぶんおカネがかかるようになっちゃってるのはたしか。速すぎることよりもそのほうが問題だと思う。モータースポーツというのはスポンサーからおカネをもらわないとやっていけないんだけど、今、スポンサーから出る金額っていうのは正直いってバブルのころの約半分でしょう? だったらクルマの値段も半分にしないとやっていけないんだけど、もうその範囲を完全に超えてるんです。もうひとつは、技術開発の速度が速すぎて1年落ちのクルマがまったく売れなくなってる。GTCには、かならずしもトップ争いには加わらなくてもいいっていうチームもあるんだから、そういうチームに1年落ちのクルマを安く売るという市場が成立すれば、いい循環ができる。でも今は1年落ちのクルマではなんの楽しみもないからそれが成立しない。(技術開発を追いかける)トップチームも大変だけど、そういうチームも大変なんですよ。
 GTアソシエイションのなかでもJAFのなかでも、メーカー関係者には、10年、20年とレースを続けていけるレギュレーションを考えてほしいですね。今の規定ではひとつのメーカーがやめてしまうとエントリーが減って、CカーやJTCCの二の舞になってしまいます。GTCがスタートしたころはよかったんですよ。とにかく台数を集めて、いいレースをしようとしていた。それが台数が増えてお客さんが集まるようになると、次は勝つことを最優先に考えるようになっちゃった。結局、メーカーの担当者というのは上からいわれて勝つことを優先しなくちゃいけなくなっちゃうんですね。ほんとうにレースを愛していたら、長く続けられるように考えるはずなんですけどね。プライベートの人たちはレースを愛しているんです。そういう人たちをだいじにしないとGTCはなくなっちゃいますよ。これからもお客さんを集めていくためには、続けることがだいじなんです。GTCも10年続いたら大したものだと思いますよ」

千葉泰常監督(No.55 / 26 TEAM TAISAN)
「メーカーが車両規則を独自に解釈しすぎていると思います。第一の問題として街を走っているクルマとあまりにもかけ離れてしまっている。その第一はウェイトだと思います。昨年までの最低重量は1150kgだったものが、1100kgになった。生産車はスープラもNSXも1300kg以上あるわけだから、レースカーが1100kgというのはおかしいです。それとエンジンの搭載位置によって重量を変えるという規定がありますが、それについてもNSXは生産車からミドシップだが、スープラも生産車とは違っていてフロント・ミドシップになっている。あれをなぜミドシップと見なさないのか。非常におかしいと思います。それと安全性の問題をあまりにも度外視していると思います。われわれが大切に育ててきた信吾(舘信吾選手)の死をきちっと受け止めなければいけないと思う。
 それと重量ハンデは非常にいいと思いますが、たとえば車両重量とリストリクター径のことについても、あまりにも国産車のことしか考えていない。さらに、今年エアボックスのサイズの規定がありますが、それも2リッターなどの国産車を対象とした規定であって、FIAの規定より小さく、われわれのようなV10の8リッターのエンジンでは収まりきれないサイズです。そういうことも踏まえてもらいたいです。それとわれわれは当初ポルシェのGT1を持ってくるつもりだったが、はじめからリストリクターの径が38mmなどと言われる。それでまず鈴鹿(の開幕戦)を走ってみろ、その結果で軽減するから、と言われる。だがその『まず走ってみろ』ができないんですよ。
 どんなクルマでもナンバープレートのついたクルマならいい、というふうにしていかないとお客さんにとっての魅力もなくなってきてしまいます。逆にワークスは2台というふうに制限してもいいと思う。今やGT300クラスまでGT500と同じ傾向になってしまっている。プロモーションも、たとえばポラロイド・チャリティーのようにお金を取ることばかりではなく、なにか考えないといけない。中学生や高校生にとっては1000円というのは大変だと思います。それとフォーミュラ・ニッポンにF3があるように、ジュニアクラスを、たとえば3年落ちのクルマを使ってやるとかして、次の人たちを育てたほうがいいと思います。ペーパー上はありましたけど、シーズンおわったらマシンを売らなければいけないとかということをほんとうにやったほうがいいと思います」


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