GTC 1999 GT INSIDE REPORT

Special Report
(3)有力チーム関係者に訊く



 第2戦富士、第3戦SUGOのGTインサイドレポートでは、最近のGTCマシンの性能向上およびコストの高騰について、ドライバー、チーム監督などから聞いた。今回はメーカー直系もしくは関わりの深い有力チームの関係者の意見、考えをレポートする。(順不同)


木村芳郎 TRD(トヨタテクノクラフト)取締役
「かつてのCカーやJTCCの二の舞にならないようにメーカーを排除するべきだという意見がときどき聞かれますが、私はそれは間違いだと思います。行き過ぎた過当競争になると費用が高騰してやめてしまおうということになる危険性はありますが、それを恐れるあまりメーカーを排除しようとするのは、ボクは間違いだと思います。モータースポーツというものは、メーカーがそれなりの関与をしてやるべきだと思う。
 GTCの現状を維持するなり、さらに発展させていこうと思うなら、レギュレーションを何年間か現状のまま固定します、とかある時点で言って、年度ごとに新しいクルマを作らなくてもいいように動いたほうがよいと思います。現在でも行っているプライベーターの優遇措置をもっと広げていけば、メーカーに対抗できないということはあり得ないと思います。メーカー側から基本になる車両とエンジンを提供し、それから先はチームが自分たちのノウハウで速くする。出てきたスープラやNSXが(チームごとに)全然ちがうカタチをしている、というふうに。
 そうすれば、今はメーカーがかけている開発のための費用を、できるだけ多くのチームに基本的な車両を提供するためにまわして、多くのチームが参加するための努力ができます。それで、どこのチームにもチャンスがまわってくるという考えかたになればいいなと思います。ほかのメーカーさんに比べてウチの台数が多いというのは、そういうふうにしたいからなんです。台数を増やすために基本的な開発だけをやって、あとはチームに任せる、と。極端なことを言えば、ひとつのチームでトヨタからもホンダからもクルマの提供を受ける、それでチームのノウハウでクルマを仕上げていくというようなことがあってもいいと思う。メーカー同士の戦いではなく、チーム同士の戦いにする、そんな方向にいくような方策が取れないものかな、と思っています。
 99年仕様のスープラは、『ああしなければ勝てない』じゃなくて、いろいろな方向から徐々にやった結果が『ああなった』というのがホントなんです。でもハチロク(No.86 BPアペックスKRAFTトレノ)を見ると、まったくのプライベートでもここまでできるのか、と思いますね。ですからチームがそれぞれの考えかたでやったほうがおもしろいんじゃないでしょうか。チームを育てる、ドライバーを育てる、それでレースそのものを盛り上げる。そういう方向でいければと思っています。そういう役割というのは、メーカーと具体的に参加するチームとのあいだにいる我々の役目かな、とも思います。
 外国車を買って参加するチームも、エンジニアやメカニック集団がいて、そういう人たちを含めてレースを盛り上げることを考えていかないといけないと思います。レースというものはかならず技術的なものが伴って、その集大成がチームだというふうに。たとえばポルシェで参加するなら、ポルシェを勉強してもらってレースに向くように改造してもらう努力はしてほしいと思います。完全なレーシングカーを買って出るなら別ですけど、量産車をベースにしてやるなら、国産車も外国車も同じですが、チームの力でそのクルマを走らせていくという姿を描いているんですけどね」


岡 寛 NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)監督
「今までのレポートは読みましたが、そのとおりだと思いました。速さの面では、競争の世界なのでしょうがないと思いますが、ちょっと速くなりすぎていますね。速くなれば安全対策としてブレーキの強化やクラッシュを考えたボディの強化をしなければならなくなってくるんです。景気もよくないし、スポンサーやメーカーから出るおカネも減っています。今年よかったからといって来年いいとはかぎらないですよね。速さの追究以外の面におカネをかけられるようにしないといけないでしょう。速さ、安全性などをトータルで考えて、結果的にはコストを下げる方向でやってもらいたいですよね。
 それから、私たちはプライベーターにもマシンを供給したいと考えています。そのつもりはありますが、コストの面で折り合いがつかない。プライベーターに供給するためにはパーツなどの開発コストを下げないとムリなんです。それをテクニカル・レギュレーション、スポーティング・レギュレーションで可能にしていってもらいたいですね。GTCは、1台しか出さずにそれで勝てばいいやというレースではないと思います。ギンギンに速いクルマを1台作って勝つことはできると思いますが、それでお客さんが来てくれるかというと、違いますよね。
 お客さんあってのレースですから、ニスモも考えていかないといけないと思っています。せっかくみんな努力して盛り上がってきてるんですが、平行線ではなく、もっともっとという気持ちですから、私たちも協力していくつもりです。GT-Aがアンケートを取ったり考えを発表してくれているので、問題はないと思いますが。
 イベント自体に関してはみんながんばってると思いますよ、ドライバーも含めて。去年より今年と、いい方向で来ている。来年はもっといいアイデアが出てきて、おもしろいレースをしたいと思いますね」


永長 真 童夢×無限プロジェクト・プロジェクトリーダー
「今GTCは非常に人気があります。人気の面でここまで来られたのはファンあってのものだと思いますが、そのために我々も一エントラントとして非常に努力してきたと自負しています。ドライバーが一生懸命ファンサービスをしていて、我々もホスピタリティの内容や見栄えといったことも含めて改善してきています。同じようにクルマは性能だけでなく美しさも意識して、できうるかぎりの提供をしてきました。少しでもたくさんのお客さんに来ていただこうと毎戦努力してきた結果が、今のGTCの隆盛につながっていると思います。
 少なくとも我々はGTCというカテゴリーを十分に意識して、きちんとほかと差別化してきています。たとえばエンジンを準備するにも、ただ速くて性能本位で考えるならばもっと別の考えかたもできるわけです。NSXなら横置きV6を別のエンジンにかえることもできます。でもGTCはあくまでも街乗りマシンのトップカテゴリーだからこそ、NSXらしさを損なわないようにしているわけです。そういう意味で素材を生かして作りあげたつもりです。我々に対してやりすぎだというのなら、それは考えかたの相違としかいえません。たとえばエンジンだって、ワンレーススペシャルだって作れるわけです。でもこのカテゴリーのなかでそれをやっちゃいけないと思っているからやらないんです。あくまでもGT-Aの創立時からの考えかたを尊重し理解しているからこそ、今の結果が出ているんです。去年から今年にかけてのレギュレーションはNSXにとって不利といえるでしょう。とにかく速いから性能を均等化しようというレギュレーションですから。我々はGT-Aの考えに則って、与えられたレギュレーションのなかでまたベストを尽くすわけです。そのベストのつくしあいが過当競争といわれるのは…。競走なんだからベストを尽くすべきでしょう?
 要するに、各チームがベストを尽くせる環境にまでいっていないということだと思います。経済的に自立できていない。早く各チームが経済的に自立できるようにならなければいけません。そのためには、もっともっとお客さんに観てもらうしかないでしょう。TVをたくさんの人に観てもらって、サーキットにたくさんの人に来てもらえるようにならなくちゃいけない。
 端的にいえば、我々はハードウェアを売ることが商売です。もっともっと我々のハードウェアを買ってもらいたいと思ってます。エンジンは消耗品ですから、我々も買っていだいてそこで終わりにはしません。メンテナンスサービスという仕事があります。今は4台ともハードウエア的にはいっさい区別もしてませんし、データもオープンにしています。TRDのように、車体は買っていただいてメンテナンスサービスをするというのが理想だと思います。そのためにはパイが拡がらないと、つまり各チームが経済的に自立できないとビジネスは拡がらないんです。
 GTCは、今まで問題を積み重ねて解消して、をくり返してここまできました。決して今断崖絶壁に立っているとは思いません。ただ、まだ全体がプロとして自立できていない。経済環境がよくないというのもあるでしょう。社会と、モータースポーツの世界の経済環境にはタイムラグがあって、社会がよくなっても少し遅れるようです。宣伝広告費は最後にきますから。そんななかで少しでもタイムラグをなくすには宣伝広告しがいのあるレースを作るしかないんです。5万人の観客が10万人になれば世界も変わってくるでしょう。だから我々はハードウェアのメーカーとして魅力あるハードウェアを作るためにベストを尽くすんです。モーターに魅力がなければ、魅力あるモータースポーツにならないですから」


(1)ドライバーに訊く
(2)チーム関係者に訊く

◎この特集は第5戦富士でも引き続き行う予定です。