GTC 1999 GT INSIDE REPORT

Special Report
(1)ドライバーに訊く


 6年目を迎えたGTC。現在では国内のレースカテゴリーとして最高の観客動員を誇るまでに発展してきた。しかし、急激なマシンの性能向上については、ドライバーをはじめとする関係者から、さまざまな意見が聞かれるようになっている。そこで今回のインサイドレポートでは、ドライバーの代表的意見を紹介する。次回以降、それ以外の関係者の意見を掲載する予定である。


福山英朗(No.81 ダイシンシルビア)
「はっきり言って今のGTは少し違う方向にむかっているんじゃないかと危惧しています。一言で言うと速すぎる。速すぎると危ないしコストがかかりすぎる。このまま放っておいたらまたエントラントが減るぞ、と声を大にして言いたいです。
 今回の金曜日の公開練習でのGT300のトップタイムは1分32秒台でしょ? 32秒台っていうのは4年前のGT500のタイム。このままいくと31秒台が見えてきますよね(インタビューは予選前のもの)。GT300のマシンで31秒台っていうのは、100Rでアクセルを踏んでいかなきゃ出せないタイムです。つまり100Rはもはやコーナーではなくなるということです。実際GT500クラスはもうかなり踏んでいってる。
 それだけクルマの性能が向上したんだからいいじゃないかという人もいるかもしれません。でも、クルマというのは機械です。機械というのは壊れるときがある。たとえば今の速度で100Rでアームがボキッと折れたらどうなると思います? 富士の1コーナーでGT500クラスのブレーキが壊れたら最高速からグラベルで止まると思います? セーフティーゾーンがとれだけあるか知ってますか? Aコーナーだって同様です。
 光貞(秀俊)の事故(97年のインターTECの時Aコーナーでクラッシュ)があって、去年の惨事があって、舘くん(信吾)の不幸があって、セーフティカーやら消火器やらオフィシャルやらレース運営ばかり話題になりましたが、根本的なことが置き去りにされているんじゃないでしょうか。F1にしてもCARTやNASCARにしても、安全のために速度を押さえることやセーフティーゾーンの拡張などサーキットの安全基準が世界的な課題となっているなかで、日本は速度を速くすることをいまだにやっている。サーキットを簡単に広げたりすることができない狭い国土なんですから、よりクルマ側に安全を追求しなければいけないんじゃないでしょうか。安全のために性能を向上することは当然必要ですが、さっきも言ったとおりクルマは壊れることだってあるんです。今の速度でブレーキが壊れたらどうしようもないですよ。ウエイトをたっぷり積むことで速度の均等化をはかるレギュレーションも、こんなときは逆効果になります。なにかあってから騒いだって遅いんです。
 ボクらはドライバーですから、それでもいけと言われたらいきますよ。ボク自身、度胸のケンカなら負けないということでは自信をもっているけれど、経験の浅い若いドライバーのなかには踏んでいかなければ明日がない、という立場の人だっているんでしょう? そういう人はムリしてでもいっちゃいますよ。
 にもかかわらず、今の日本のGTは救済措置というかたちで国産車をどんどん速くしようとしてるでしょう? ほんとうはポルシェにあわせて速いクルマを遅くするレギュレーションにしなきゃいけないんです。ウエイトハンディというのは、基本的にイコールが保たれたうえでのことでないと危険が増すだけです。はたしてそんなに速くする必要があるんでしょうか。NASCARやCARTがなぜおもしろいか。だれが勝つかわからないくらい性能が均一化しているからでしょ? 極端な話、GTが400km/hで走るようになって、そのかわりにチームの格差が拡がったらおもしろいでしょうか。お客さんは増えると思いますか? エントラントが減ることだけはまちがいないですよね。
 速くするということは、当然チームのコストもあがります。ウチ(チームダイシン)の大八木さんの話では、4年前と比べて(費用は)倍増しているそうです。4秒速くするために倍のコストが必要になるということは、逆にいえば4秒遅くするだけでたくさんのエントラントの参加が望めるということでしょう。GTだってプライベーターの参加があってこそのもの。GT300でいえば、ポルシェが5、6台は確実に増えますよ。これ以上速くなるともっと減っていくのは目に見えてるじゃないですか。
 ボクは別に(運営側と)ケンカするつもりはないし、今のレギュレーションを蹴飛ばすつもりもありません。ただ、考えかたとして、今この不景気な世のなかでGTだけは隆盛しているというのであるならば、今の人気ばかり考えないで、5年後を見越して、そこから逆算して今どうあるべきか考えたほうがいいんじゃないかと思っているんてです。こういうことを各エントラントやドライバーやプレスの皆さんが声に出していく時期がきているんじゃないでしょうか。そうでなければドライバーが組合でも作らないかぎりなにも先にすすまない。はたしてそれが最善の方法なのでしょうか」


鈴木恵一(98年GT300クラスチャンピオン)
「ボクが以前GT500のポルシェに乗っていたときには、ここ(富士)のタイムは1分32〜3秒。今のGT300のタイムです。たしかに今は速すぎると思う。レースっていうのは競い合いがおもしろいんであって、速いことがおもしろいとは思わない。今のGTは、NSXや今年のスープラを見ると中身はレーシングカー。ここまできたら外側はカーボンじゃないとおかしい。でもボディはスチールでしょ。すごく危ないよね。信吾のことだってそうでしょう。でも安全のためにカーボンにしちゃったらお金がかかりすぎてプライベーターはついていけなくなる。だからスピードを抑えるっていうのは賛成だね」
※鈴木恵一氏は第3戦SUGOからテレビ東京系列のGTC中継で解説者を務めることになっている。


木下隆之(No.32 cdmaOne セルモスープラ)
「今のGTが速くなりすぎているという意見には賛成です。なにかマシントラブルが起きたら取り返しがつかない。そういう意味では危険な方向にむかっていると思います。F1でもCARTでもコーナリングスピードを落とそうとしている、これは世界的な傾向じゃないですか。(最高速が)280km/h以上でブレーキングポイントが130メートル前後っていうのは異常ですよ。スープラに乗るようになって、コースレイアウト、とくにサンドトラップがこんなに小さいの? って初めて感じました。ここでなにかあったら壁に激突するぞって。なんでアスファルトよりもサンドトラップが低くなってるの? あれでは縁石がジャンプ台になって、砂の上を2、3回バウンドして壁にいくだけ。ドライバーの目から見たらそう思えるんだけど。砂の高さとか硬さ、盛りかた、とくに広さが安全かどうか、一度専門家にちゃんと調べてもらいたい。そういうことって定期的にやってるとは思えない。何年も一緒じゃないですか。
 今、救済措置で、車重を重くするかわりにリストリクターを拡げるか、軽くするかわりに狭くするか選択できるけれど、これはあくまでもラップタイムをそろえるための発想ですよね。でもこれは安全という意味では正反対なんですよ。当然重たくてパワーがあるクルマが危ない。レギュレーションが悪いとは言わないけど、ABSが壊れたりすることを想像して走っていないんですから、そろそろなんとかしなければ手後れになりますよ」


松田秀士(No.55 STPアドバンタイサンバイパー)
「レースで一番大切なのはコンペティティブだということだと思っています。ところが今のスピードに対して安全対策は決して十分ではない。インディで言えば、スピードが出過ぎるというときはまずコースを改修する。コーナーをきつくするとか。それでもダメなときはクルマです。とにかくつぎつぎと対策していってスピードを落とさせる。現在のGTマシンの進歩は進化の過程なのだからしょうがないと思います。ただ、そのどちらもせずにクルマだけが進化していってる。そろそろなにかをしなければ、今でも遅いと思ってる。とくにGT300は速すぎる。31秒なんて異常ですよ。
 もうひとつの要素、今GT500で言うとプライベーターなんてウチとディアブロとマクラーレンだけじゃないですか。ワークスが2億も3億もするクルマを作ってたらプライベーターの入る余地なんてないですよ。GTCってプライベーターがいろんなクルマを持ち込めるレースを望んでいたんじゃないんですか? もうそういう意味ではGT500は手遅れとも感じます。それだったらGT500とGT300で別のレースをする。そうするとGTCは実はGT300で保っていることがわかりますよ。それかもっと距離を長くする。そうしたらバイパーとかにもチャンスがあるしルマンにも通じていく。JTCCと同じことが今始まっています。JTCCで苦汁をなめたんなら、今なにをしなきゃいけないのか学習してるはず。プライベーターなきGT500になって、メーカーのひとつがやーめたって言ったらどうなります? それは絶対に起こってはならない。1回落ちたら立ち上げられないんですよ。今GTCがだめになったら日本のレース終わっちゃうでしょう? 今はGTバブルだっていうことを忘れちゃいけないんです。弾けたらどうします? 運営する人たちがもっと将来を真剣に考えなればいけないんじゃないでしょうか」


(2)チーム関係者に訊く
(3)ワークスチーム関係者に訊く