2001 GT INSIDE REPORT NETWORK EDITION
Round6 SUZUKA GT300km Special Report

■特集:審査委員の判定、競技運営をめぐって
 ここのところ、JGTCにかぎらず全日本選手権タイトルのかかったレースで、審査委員会の判定などオフィシャルの対応をめぐって問題が生じることが多くなっている。この件に関して関係者の意見を訊いた。


熊倉淳一監督/無限×童夢プロジェクト
「去年のNSXのリストリクター違反・失格の件(最終戦鈴鹿)ですが、私としてはそもそもエンジンの止め方に問題があったのではないかと思っています。ただ車両保管が解除されてからでは抗議しても受け入れられるわけがないので、オフィシャルがチェックするときにちゃんと止まるまで立ち合って、やましくないのを証明するべきだった。それにつきると思います。
 現状では、言い方は悪いかもしれませんがオフィシャルのレベルもピンキリではないかと思います。サーキットやカテゴリーごとにオフィシャルの認識が違うのはよくないですよね。書面で徹底するなりして、ちゃんと統一してほしい。そのうえで責任を持って下されたジャッジにはこちらは従うべきだ、抗議しちゃダメだと思ってます。その書類も、受け止め方がその人の主観などで判断基準がバラバラだと困っちゃうんですけど。
 ウチもかつて黄旗追い越しやオレンジボールでピットインせざるをえないときがあったけれど、抗議はしませんでした。それぐらい審判のジャッジは絶対だと思っていたから。それなのに、一度出たジャッジがくつがえされたりすると『それもありなのかな?』と錯覚してしまうでしょう。とにかく終わってしまったらレースは取り返しがつかない。そのままスポンサー関係にも影響してしまうし…。
 車検の基準もその都度違う傾向もないわけではない。願わくば全サーキットに共通の決定権のある人がいて、最後の最後には『オレが責任を持って決める』というふうにしてくれるといいですね。
 それとあとひとつつけ加えてさせてもらうなら、いま、ピットストップの時間を短縮しようとするあまりドライバーの安全面を犠牲にしているんじゃないかという心配があります。希望としては、鈴鹿1000kmのときのようにタイヤ交換と給油の作業を別にしてもらえるとうれしいです。それぐらいピットでの作業に余裕を持たせてもらえると安全が保てると思うんです」


柿元邦彦監督/ニッサンモータースポーツインターナショナル(NISMO)
「ドライバーにしろエントラントにしろ、(規則に違反しても)やり得みたいな意識があるのではないですか。今日(10月26日練習走行日)にしてもピットイン時のショートカットはいけないということでわざわざパイロンまで置いてあるのにはじき飛ばして入ってきたり…。これはタマゴが先かニワトリが先かという話になるんですが、参加者の側も規則を守るとか、立ち居振舞いに関して自覚が必要だし、オフィシャルの側も自信を持って判定を下していただきたいですね。たしかにオフィシャルも人間ですからまちがいはあるかもしれません。真実というのはわからないこともあるんです。だからといって判断を下すオフィシャルが揺れ動いてはいけません。自信を持ってやってほしい。
 まあ、いまは見直すいい時期なのかもしれません。オフィシャルもエントラントも胸に手を当ててあるべき姿を考えるべきでしょう。(シリーズを通じたオフィシャルの共通化という意見については)たしかにそのとおりだと思います。世界中のうまくいっているレースシリーズは、シリーズを通してマネージメントができていますからね。
 なにかまずいことが起きたときすぐに手を打っていかなければ民間の企業というのは立ち行かないでしょう? その点で、たとえばMINEのフォーミュラ・ニッポンの裁定がいまだに出ていないなど、いかにも対応が遅いですよね」


佐藤正幸監督/トヨタ・チーム・セルモ
「どのスポーツでもジャッジする側の判断に任せるのが基本だということは理解できるが、人間がやっていることなので、そこには当然まちがいもある。じゃあ、まちがいがあったときにどうするのか。それをあるていど正しい方向に持っていくのか持っていかないのか。そういう部分がここのところ問題になっていると思う。たとえば5月のMINEのF3での問題(トップ争いの2台の行為が危険行為にあたるかどうか)は、あまり例がないことだと思うけれど、最初に科されたペナルティーポイントが控訴の結果半分になった。判断を一部ひっくり返したわけだ。だけど、前回のもてぎの問題(ピットストップ中のエンジン不停止)ではまわりの関係者の多くが気づいていたし中継のVTRにも残っているのに、判断がひっくり返らなかった。そのへんがあいまいだと思う。そういうのが続いてるよね。
 だからここでもう1回整理して、ちゃんとしたジャッジをするために、審判団は『ジャッジに対しては絶対服従』ということを明言するというのがひとつの方法。絶対服従というなら抗議権や控訴権を認めるという逃げ道を作るのはおかしい。抗議権や控訴権はレギュレーションで認められているけどね。この絶対服従というのはいままでずっと取られてきた方法。昔はVTRもなかったし、なにがあろうとそういうかたちだった。ただ、いまはVTRもあるんだから、そういうものを利用して判断するというもうひとつの方法もあると思う。映像や関係者の証言を集めて総合的に判断するというね。そのあたり、前回のもてぎではVTRを証拠として採用しないと言ったのに、MINEのフォーミュラ・ニッポンの問題ではVTRを見て審査委員会が判断を覆したり、サーキットによって、また競技長や審査委員長によってやり方が変わってくるのがおかしいよ。
 そもそも機能もしていないし権限もないんだから、審査委員会も必要ないよ。権限を持っているのは競技長であり、もっといえば現場のオフィシャル。その現場のオフィシャルが非常に優柔不断というか、機能していない部分も目立つよね。マニュアル的なものがキチッとされていないというか、レギュレーションを判断する個々のオフィシャルの理解にバラつきがある。なかにはレギュレーションに対する知識がないんじゃないかという人もいる。なにかあったときにあわててその場でレギュレーションブックを出してきたりする。解釈の部分でもあいまいさがある。そのあいまいな部分をどうするのかというマニュアル的なものがあまりないように思う。白線やゼブラゾーンに関しても同じで、統一見解がなされていないね。ボクの印象として、オフィシャルはライセンスを持っていても半分ボランティアで本当のプロ集団じゃないというのはある。もちろんオフィシャルの人たちもレースが好きだからこそやってくれているし、あまり責められない環境ではあるけれど。オフィシャルをプロ集団化したほうがいい。オフィシャルはそれぞれのクラブに所属しているだろうけど、それは大きくいえばすべてJAFの管轄下にあるわけだよね。だったらJAFがキチンと報酬を与えるべきだと思う。毎年、何千億円っていう余剰金があるんだから。JAFがレースをすべて牛耳るなら、レギュレーションの統一見解をあきらかにしたうえでオフィシャルの報酬も出す。そうすればよりプロ化されると思うよ。そのなかでいいオフィシャルを育てていけばいいんだよ。原点はそこにあるんじゃないの? JAFがお役所仕事しかしないなら民営化すればいいんだよ。中途半端なことをするくらいなら、レースに対する権利をすべて放棄するべきだと思う」


坂東正明監督/レーシングプロジェクト・バンドウ
「(JGTCは)シリーズ戦なので出ている側の人間は変わらないのに、サーキットによって競技長やオフィシャル、審査委員会のメンバーは変わる。統一的な判断をすべきなのに、それがバラバラに思える。たとえば金曜からの3日間はどのレースでもタイムスケジュールが変わらないようにしてほしいし、車検にしても同じ人間にみてほしい。
 ポストの人間も、GT500のドライバーはわかってもGT300はだれかすらわかってない。全部で90人近くにもなるドライバーの名前が全部わかる人間が各1人ぐらい全部のポストにいるべきだと思う。競技委員のほうも、走ってるのがだれかチェックできるような態勢が必要でしょう。
 ハコ長(ポスト長)からオフィシャルサイドに上がってきて競技長までいったことを審議して、それをまたハコ長に戻すとか、相互にチェック機能を持たせるべきでしょう。統一してレースのわかるオブザーバーと、統一した年間のオフィシャルを用意すべきだよね。白なら白って決めたら、それを変えたり覆すようなことをしたらぜったいにダメだよ。どんなスポーツのジャッジでも同じでしょ?
 クルマを当てるのも、どこまでやってもOKなら檻のなかのケンカだよ。ルールを守ってやらないとダメだし、チェックする側も1年間通して見ないと。鈴鹿も『ウチはF1やってますから(オフィシャルの)レベルはどこにも負けないです』っていうけど、それなら鈴鹿から全レース派遣すればいい。オフィシャルも昔みたいに弁当もらってればいいっていうもんじゃないし、きちんとプロ化しないとダメでしょう。オフィシャルが亡くなっても、たまたま出てはいけないところにいたからやむをえませんじゃ、犬死にですよ。利権を求めないオブザーバー。むずかしいでしょうけれど、それが必要だと思うな」


加治次郎事務局長/GTアソシエイション
「スポーツのルールというものは、それに関わる人間だれもが同じように理解し、アウト・セーフの判定に納得がいくようになっていなければいけません。ですが、モータースポーツの場合、はたして現状がそうなっているかどうか。そのことを関係者全員がしっかり考えていく必要があると思います。
 それから、ジャッジをぜったいに尊重することからすべてが始まるということも再認識しておかなければならないと思います。仮に審判の判定がまちがっていたとしても、一度下された判定は尊重しなければならない。それがスポーツのルールなんです。
 これを徹底するためにはジャッジを下すオフィシャルのレベルアップも必要だし、競技者の側のレベルアップも必要でしょう。そのうえで相互の信頼関係を築いていく必要がある。いま、いちばん欠けているのはオフィシャル側と参加者側の相互信頼関係だと思います。オフィシャルとドライバーが触れあう機会を設けるなどして、お互いの関係を作っていくというのもひとつの方法だと思います。それから、オフィシャルがプライドを持って仕事ができるような環境を整備していくことも必要でしょう。
 JGTCというのはさまざまな要素があって、ある意味でむずかしいカテゴリーです。GT500とGT300という速さの異なるクルマがいっしょに走っているし、給油やドライバー交代という耐久的要素がありながらスプリントのような要素もある。F1とも耐久レースとも違うんです。そういう独自のカテゴリーとして、自分たちなりのスタイルをどう築き上げていくか。それがもっとも重要なことだと思います」



【解説】違反行為判定の流れについて

鈴鹿サーキット・オフィシャル団副競技長「コースポストに関しては、各ポストのチーフの名前とJAFのライセンス番号をあらかじめ登録します。これによって判定者はだれかわかるようにしているわけです。ここからレースが始まります。鈴鹿の場合、全部で30ポストあり、各ポストは原則的に5人で1組になっています。
 たとえば黄旗が振られているあいだに追い越し行為があった場合、現場のポストから判定が上がってきます。この判定に対して反則報告書を作成します。コース委員長がこれ(報告書の作成)を行います。そのバックアップにコントロールタワー3階にある21台のモニターを使っています。この21台はそれぞれの映像がビデオに録画されています。そこで事実が確認された場合、審査委員会に送ります。われわれオフィシャルはあくまで判定をするだけで、それに対して審査委員会がレギュレーションに違反しているかどうか再確認するわけです。なおかつ審査委員会はペナルティの軽重を決めますが、その課程で判定した事実についてわれわれに確認することもありますし、ビデオを見ることもあります。オフィシャルが判定をし、審査委員会が裁定をする。たとえていうならわれわれオフィシャルは行政官で、審査委員会は司法ということになります。これは明確に区別されています。われわれが反則行為としても、審査委員会が不可抗力だとしてドローにする場合もあるわけです。不可抗力であってもわれわれは事実は事実として報告しますから。このようにオフィシャルは判定のみを行うのであって、たとえば競技長がペナルティを課すなどということはありえないわけです。
 ピット作業中の違反行為についても補給監査のオフィシャルが、たとえばエンジンを停止しないで給油をしたなどの違反行為を判定します。審査委員会に報告する前にチームに確認することもありますし、チームマネジャーを呼んで話を聞く場合もあります。それでも現場が反則行為と判定した場合は、オフィシャル団で協議のうえ審査委員会に報告します。また、審査委員会がチームマネジャーを呼んで話を聞く場合もあります。ピットレーンのスピード違反についてはレーン入口、出口で計測しているほか、中央付近でもスピードガンで測っています。JGTCのようなローリングスタートでは、違反スタートについてはトランスポンダーのデータによって、グリッドと実際に通過した車両の隊列とのあいだに違いがあるかどうかを客観的に判定できます。微妙な場合にもビデオも回していますのでそれでバックアップできます。
 アメリカのCARTやNASCARは審査委員会というものがなくレースディレクターがジャッジまでしますが、日本はFIAの国際モータースポーツ競技規則に基づいて審査委員会を設けてやっています。その審査委員会についても、JGTCの場合3名で構成されるのですが、うち1名は大会組識委員会任命の審査委員、残り2名はJAF派遣の委員です。JAF派遣の2名はシリーズを通して同じ規準で判定できるように、3名のJAFの審査委員のなかから選ばれます。3名で全戦をまわるわけですから、2名のうち1名は次のレースにもかならず行くことになります。また、3名で構成されているのは判定が割れたときに評決できるように奇数になっているわけです」




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