2002 JGTC INSIDE REPORT NETWORK EDITION
Round2 ALL JAPAN FUJI GT RACE
スペシャルレポート
4 May 02
Special Report

『GT-A競技&技術アドバイザーと新たになった富士スピードウェイの救急体制』


新たに導入されたGT-Aの競技、技術アドバイザーについて
 今シーズンからJGTCの全戦にGT-A競技アドバイザー、同技術アドバイザーが帯同することになった。この2名はどういう役割を担うのか、GT-A加治次郎事務局長、松井孝之技術アドバイザーに話を聞いた。

加治次郎事務局長「以前から(シリーズで統一した)レースダイレクターがほしいというのがレース関係者の一致した声でした。競技長がレギュレーションについて説明しても、表現や使う言葉で受け取られかたはさまざまになってしまうし、反則などの判断も多少の差が出るのが実情です。そこで同じ人間が同じ視点ですべてをみていくことが必要になってくる。
 ですが現在の国内の制度ではそれができません。そのなかでどうやって運営の平準化を進めるか。そういう意味で競技アドバイザーというアイデアが出てきたわけです。アドバイザーがテストとレースを見て、現状起こっていることを整理する。それを全員が同じように理解できるようにしてGT-Aの理事会に報告してもらうし、次の大会の主催者にも伝えてもらう。どういう状況のなかでどういう判断がされたかということがその人の表現で蓄積されていき、データ化されていく。それが基本的な仕事となります。その人が指示を出すわけではなく、あくまで情報をまとめたり伝達したりしてもらう、そういう役割です。実際の大会のなかで競技運営の役割を持つのではないし、その権限もありません。たとえば以前に起こったことを補足情報として競技長に伝えたり、こうしたほうがいいとアドバイスする。チームと競技運営側との相互理解を深めていく、情報の媒体者の役割です。だから(チームと競技運営者の)どちらかの側に立っているという立場ではありません。
 技術アドバイザーもそういう意味で同じことです。大会のオフィシャルとチームとのあいだをつなぎながら、どうあるべきかを進言していく役割です。JAF派遣の技術アドバイサーはあくまで審査委員会のアドバイザーで、審査委員が決めることに対してアドバイスをする立場。その立場には収まりきらない部分もあるので、大会の技術委員、JAF派遣のアドバイザー、チームとのあいだをつなぐということが必要になってきます。チームには(大会の技術委員などから)こういう見かたをされますよ、ということをアドバイスする。大会の技術委員などの側には、こういう見かたをしてください、ということをアドバイスする。お互いの疑心暗鬼をなくすための情報媒体者と考えていただくのがいちばん適切でしょう。それを進めることによって大会毎のバラツキがないようにしていければ、と思います。
 (それぞれの人選としては)ベテランの競技長を、という考えかたもあるでしょうが、あえて若い人がよいだろうということで、オフィシャルの経験があり、起こっていることが理解できて、表現もしてもらえる人ということで選考しました。大会ごとにバラツキがあるのはまずいという強い意志と自覚を持っているオフィシャル経験者を選んでいます」

松井孝之技術アドバイザー「レースに関する基本的な権限はあくまで各オーガナイザーが握っているわけですが、各サーキットがJGTCを開催するのは年1回か2回だけ。するとどうしても技術情報などが遅れぎみになってしまいます。たとえば、どこかのチームがなにか新しい技術を持ち込んできたとして、それが規則にかなっているかどうかの判断が車検場に入ってからなされたのでは、お互いにとって困るわけです。
 ですからわれわれは合同テストなどで事前に情報を収集し、それをレースウィークに入る前に各技術委員長などに上げて判断をあおぐといった役割を果たします。チームとサーキットとオフィシャルが情報を共有できるようにする、ということですね。アドバイザーというと大層ですが、アジャスターみたいな役と考えていただければいいと思います」


富士スピードウェイのレスキュー態勢
 1998年5月3日、富士スピードウェイでの全日本GT選手権中に発生した多重衝突事故をひとつのきっかけとして、各サーキットのレスキュー/救急医療態勢は年々充実しつつある。先日、富士スピードウェイで行われたフォーミュラ・ニッポン第2戦予選中にあったクラッシュの際には、コース上にヘリコプターが着陸するという従来にない取り組みが見られた。
 これには、より安全性を高めていこうという富士スピードウェイの意向が働いている。これに賛同した高橋規一医師、山口孝治医師の両GT-Aドクターが、サーキットでの理想的な救急態勢を構築するべく、昨年からさまざまな努力を重ねてきた。その内容について、今回の医師団長を務める山口医師に話を聞いた。なお、1998年の事故で重傷を負った太田哲也選手を原告とする民事訴訟はいまなお係争中だ。

山口孝治・大会医師団長「高橋規一先生がJGTCで3年間提言してきたことや『人命はすべてのルールに優先する』という考え方を基本に問題点の洗い出しをして、われわれがなにをしなければいけないかを昨年から検討してきました。もっとも転換しなければと思って始めたのが事故現場でのドクターの治療。いままではとにかく負傷者を早くメディカルセンターに運ぶということが重視され、メディカルセンターで負傷者を待っての治療だったんですが、それでは命が助からないケースも出てきます。ですから、クルマでドクターが事故現場に駆けつけ、その時点から医療を開始しなければいけない。瀕死の重傷を負って心臓停止状態でも、3分以内に治療を開始できれば助かる可能性がある。われわれとしてはその可能性に賭けたいんです。このもとになっているのは、スリー・キュー・ティーズというんですが、3つのT(トリアージ=現場での事故程度・傷害の人数や症状の評価、トリートメント=治療、トランスポーテーション=搬送)をいかにQUICK(迅速)に行えるかという救急救命の基本的な考えかたです。
 これを実現するために、まずコース上にヘリコプターを下ろすことから実践をはじめました。このヘリコプターは、心臓のカウンターショックをはじめさまざまな機材を搭載したドクターヘリです。第二にドクタートランクの用意。これには、いままでも用意されていた事故現場で気管内挿管ができる器具のほか、大出血した場合に止血ができる小手術セット、肺に穴が開いた場合にそれを楽にするドレナージなどの器具が入っています。いままでの救急セットは呼吸管理用の器具がメインだったんですが、それにプラスして外傷や循環器の治療もできる器具も用意したんです。F1で用意されている器材をさらに進化させたものですね。現在このトランクは、ドクターが乗っているすべてのクルマとヘリコプター、合わせて8キット用意されています。
 さらに重要なのは現場に向かうドクターです。レントゲンも心電図もない現場で、目で見て耳で聞いてどこが患者の命を危うくしているのかを判断するには、十分な経験とすぐれた診断能力、治療能力が必要。そのために、とにかく外傷のことがわかる救急救命に精通した先生がたをリクルートしなければなりませんでした。これは昨年、富士SMC(スピードウェイ・メディカル・コミッティー)21という団体を立ち上げることで可能になりました。これはいままでの態勢の改善点を見つけるための富士スピードウェイの外郭委員会というべきもの。ドクターのほかドライバーや競技役員も参加しています。この団体を通じて関東近郊の各大学病院の救急救命センターにレースへの協力を申し入れたところ、どこも非常に反応がよく、現在30名ほどが富士スピードウェイのレスキュードクターとして登録されています
 今年の1月と3月には、こうした先生がたを集めてトレーニングも行いました。これはすぐれた臨床医のかたがたに、よりレースを理解してもらうためです。Bライセンスを取得してもらったり、レースのルールを理解してもらうためにポストに入ってもらったりということも行いましたし、ヘリコプターでの訓練も行いました。
 さらに、すべてをいっそうQUICKにするにはどうしたらいいかということで、今回のレースでは、新しいコンセプトのドクターカーを2台用意しています。これには、全日本クラスのドライバーと、ドクター、レスキューマン、ファイヤーマンの4人が乗っており、消火・救出・治療用の器材が搭載されています。速いクルマを速いドライバーが運転してできるだけ早く現場につくことで、ドクターがなるべく早く診断できるようにすること。なるべく早くクルマから脱出させるために慣れたレスキューが行くこと。火災が発生した場合に備えてすぐれたファイヤーマンが行くことがたいせつだということで、こういうクルマを導入したんです。今回は富士独自のクルマが間に合わず、ツインリンクもてぎからお借りしましたが、いずれは富士でも製作していきたいと考えています。
 また、こうしたドクターカーやドクターヘリを使いこなすためのマニュアルの叩き台も作りました。今年から毎レース、そのマニュアルを使い、さらに進化させていくことにしています。
 ドクターやナースの人数などについては、大会規模によって変わってきますが、JGTCやフォーミュラ・ニッポン、S耐の場合にはドクター7名とナース3名。ドクターはコントロールタワーとメディカルセンターに1名ずつ、あとはメディカルセンター横の救急車に1名、ピット出口とヘアピン先のドクターカーに1名ずつ、1コーナーの一番奥とBコーナー立ち上がりのコースサイドのETカー(救出用のクルマ)に1名ずつが配置されています。
 レースはモータリゼーションの最高峰であり、レースの技術が一般車にフィードバックされてきました。ならばレースで育てられたレスキュー態勢が一般社会にフィードバックされていかなければいけない。日本の救急医療も少しずつよくはなってきていますが、まだ現場で治療するというやりかたはスタンダードではありません。だから、まずはその考えかたをサーキット内で実践していきたいと思っているんです」


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