2002 JGTC INSIDE REPORT NETWORK EDITION
Round6 MOTEGI GT CHAMPION RACE
スペシャルレポート2
15 Sep. 02
Special Report 2

『特集2:レース中のセーフティカーの導入について』


 今シーズン、決勝中にセーフティカー(SC)が導入されるケースがたいへん多い。それによってレースの流れが寸断されたり不利益をこうむるチームが出てきたり、ピットに車両が殺到することでかえって混乱と危険を招いたりするおそれもある。ドライバーはこの点についてどう感じているか、以下の三つの質問を投げかけてみた。
(1)SCを導入するに統一基準づくりが必要か
(2)SC中のピットインについてルールが必要か
(3)SCランはGT500とGT300とで分離すべきか
 質問したドライバーは両クラスのベテランで、海外レースの経験がある選手を選んだ。加えてGT-A事務局長に現状を尋ねた。


松田秀士(No.910 910ロデオドライブアドバンGT3R/インディ500に10位入賞経験あり)
「(1)基準は必要だと思うね。日本のレースはSCが入ったことによる順位の変動が激しい。がんばってる人の順位が大きく下がって運が悪いことになってしまったり、ラッキーで漁夫の利を得ることがあったりして不公平だから改善すべき。
(2)(SC中のピットインについては)隊列が整うまでピット(入口)はクローズすべき。まあ、トラブルがあってどうしても入らなきゃいけないクルマは仕方ないけどね。SCが入った瞬間にピット(入口)が開いてるのは改善したほうがいい。隊列を整えるまではクローズすべきだよね。オフィシャルの運用を徹底するべきでしょう。あと、スタートラインまで追い越し禁止(となっている理由)はわかるけど、アメリカはリスタートのときはグリーンが出たらどっからでもOKになってる。GT500クラスの前にGT300クラスがいるときには、GT500がリスタートでものすごくかわいそうなことになる。グリーンになって最終コーナー立ち上がったら抜いていいっていうようにしたら現実的だし、がんばりがいがあると思う。それから、オーバルみたいにあと1周でリスタートっていう表示を、たとえばフラッグタワー上ではっきり示すとかしないといけないと思う。隊列の後方にいるクルマはSCのランプが消えたのなんて見えないからね。まあ無線があるのを前提にしているのかもしれないけれど、無線が壊れていたりした場合を考えてなんらかの表示をするべきだと思う。
(3)GT500とGT300との分離はものすごく大事だし、ホントにできるならやるべき。前回の富士で優勝したNo.24 は、SCで得をしている。ああいうことがあっちゃだめでしょう」

新田守男(No.31 ARTAアペックスMR-S/GT300チャンピオン2回、ツーリングカーのベテラン)
「(1)基準はあったほうがいいと思う。回数の問題ではなく、危険だという判断があったら何回入れようといい。安全への配慮を考えたら数が多くなってもしかたがないと思う。
(2)SC中のピットインについては、よくわからない。オーバルでSCがしょっちゅう入ってるアメリカはじょうずに運用してると思うし、そのへんは見習えばいいんじゃないかな? SCが入った時点で入口をクローズするのは、経験を積んだ人が運用してるわけだし、まねてもいいんじゃないかな? 
(3)GT500とGT300については分けるべき。SCが同じだとレースが読めないっていうか(順位が)わからなくなる。前回の富士では、SCが入った後に自分たちのポジションや周回数がモニターのトラブルもあって、わからなくなった。(コースの)両サイドでGT300とGT500のSCを分ける方法がとれるんじゃないかな? トップ(の車両)をつかまえられないというのは問題。展開を見ていれば判断がつくはず。それは運営側の怠慢だと思う。それをやるためにテストの時間使ってシミユレーションしても良いと思う。そこでこういう問題があるというのが出てきたら、そこで判断すればいいわけだし、そのためのテストだと思う。
 運営側にいいたいのは、主催する側も利益がかかってるわけで、いろいろ勉強する必要があると思う。それから、前回の富士みたいにオレたちにも順位がよくわからないなら、レースを見てる人たち、お客さんにレース展開がわかりっこないでしょう。わかりやすくするためになにかやる必要があると思う」

福山英朗(24 EndlessタイサンアドバンGT3R/GT300チャンピオン2回、日本開催のNASCAR参戦。今季3戦のNASCARにも参戦予定)
「(1)SCを出す出さないの基準は必要でしょう。多用しない方向性なら事故現場でのスピードを落とすこと、現場での車速を落とさせる努力をするべきですね。現実的には、レースに影響のないところに停止している場合も、SCの原因になりそうな重大事故の場合でも、黄旗のアクションが同じなんですよね。ドライバーにイエローの度合い、重要性をわかってもらうために、重大なアクシデントは黄旗2本にして振動させるとか、オーバーアクションで『よけろ!』というような指示をするとか、そういうことやれば車速を落とすし、SCもそんなにいらないでしょう。SCを出すなら出すで反対はしない。必要なときは出せばいいと思います。
(2)ピットインのルールについては、入口をクローズにしなきゃ、トップがつかまらないのは当たり前。隊列が整うまではクローズにするべき。そうすれば隊列はすぐ整うから。
(3)GT300とGT500を分けるのは簡単ではないけれど、JGTCのスペシャルルールとして練習してSC2台を入れるのが最低限必要でしょうね。ドライバーのほうも、SCの最中はオペレーションに協力してとっとと隊列を整えることでしょうね。自分だけが有利なスタートできるようにバラバラな車間距離を取ると見栄えも悪い。『感動するシーン』を見に来ているファンへのショーアップも大切なことですからね。
 あと言いたいのは、競技長はレースを知らなさすぎる。もっと勉強してほしいですね。競技長だけじゃなく競技委員団かな? 委員すべてがチームとして責任を持ってみんなで勉強して進歩させないといけないと思います」

黒澤琢弥(No.37 ZENTトムス スープラ/CART参戦経験あり。トヨタGTドライバーズ・アソシエイション会長)
「(1)赤旗にしないでレースを続行させるという意味でSCは必要だと思います。たしかにちょっと入れすぎるなというききらいはありますが、それよりも気になるのはSCの出る場所とタイミング、それからみんながピットに入ってきてしまって、SCがトップを捕まえられなくなっているということ。CARTの場合、オーバルでは、SCが出ると隊列が整うまで入り口もクローズになるんですよ。ピット入口にオフィシャルが立っていて、ピットにマシンを入れない。隊列が整ってからそれを解除するんです。日本の場合、いつでもピットに入れる点が、SCがなかなかトップを捕まえられないで長引く原因のひとつになっていると思いますね。SCがきちんとしたタイミングで出るならば、回数が多いことは問題にならないでしょうね。
(2)SC導入に関して基準を設けるには、もう少し時間が必要なんじゃないかと思います。競技長側はもちろん、SCのドライバーも含めたジャッジを下し実行する人間の経験も大きい。CARTやNASCARといったアメリカのレースも、きっと最初は試行錯誤があったはず。いろいろやってきたなかでやり方が固まっていったと思うし、ドライバー側だけに意見を求めるのではなく、オフィシャルも競技団ももっといろんなレース、いろんな国のやり方を肌で感じてくる必要があるんじゃないでしょうか。ボクもアメリカに行くまではSCをうまく活用した方法を知らなかったですから。ただ、JGTCも給油するレースで、SCのあいだにピットに入れなければガス欠するようなケースも考えられるので、ほかでうまくいっているレースを参考にするとかしていくべきでしょう。
(3)GT500とGT300をSCランの際に分離するというのはいいアイデアだとは思うんですが、現状ではSCが1台入っただけでごちゃごちゃしているわけで、その状況でSCを2台にしてすぐにうまくいくのか、という疑問もあります。ドライバー側はもちろん、運営側も勉強しないといけないのでは、と思います。
 また、サーキットの設備についての問題もありますね。前回富士ではトムス2台で同じタイミングで入ってきたために、給油して出て行く際にメカニックが押してバックさせてからじゃないと出られなかった。それでボクらは順位を台なしにしたんだけれど、そういうのはレースをつまんなくしてしまうし、観ているお客さんにとってもよくないと思う。ただ、台数を大きく減らすこともできないだろうし、ピットを大きくするのもすぐにはむずかしいでしょう。そのあたりの解決もドライバーが考えるのではなく、エントラントと運営側がきちんと話し合って決めてもらわないとパニックになってしまうよね。
 たとえば、2ストップや3ストップが多いNASCARなどだと、全車がいっせいにピットインするというタイミングがそれほど多くない。だけどJGTCは1スティントでタイヤ交換、ドライバー交代で1回しか給油しない。だから同じ状況下で走っていれば同じタイミングでピットに殺到することになる。たとえば燃料タンクを小さくして2回給油しなければならないようにしてしまえば、スタートで搭載する燃料の量も違うだろうから、全車が同じタイミングでピットに入ることも減ると思うけれど…。ただ、いずれにしても非常にむずかしい問題でしょうね」

服部尚貴(No.76イエローコーンマクラーレンGTR/CART参戦経験あり。)
「CARTと日本のレースでいちばん違うのはSC中のアクシデントや障害物を片付けるスピード。日本のマーシャルもたしかにがんばっているのはわかるんだけどね。(向こうでは)ストリートコースとかでクラッシュがあると、イエローフラッグが出た時点でオフィシャルはコースをどれだけふさいでようが、もう全開で片付けに入る。そのあたりの信頼関係というか、そういう部分も大きいよね。
(1)(日本では)トップを捕まえられなくてコーションが長引く。CARTであっても簡単に捕まるものではないんだけれど、向こうではいち早くトップを捕まえるために、SCが1箇所だけじゃなく2箇所に用意してあって、トップに近いほうのSCがコースインしてくるように工夫されている。無線でトップに近いほうのSCに指示が出て、そのSCがコースインしてきてトップを抑える。そういうところでも見習うところがあると思う。スチュワードがきちんとしていてトップをちゃんと把握しているしね。CARTだって、給油とタイヤ交換が行なわれているレースなんだから、本来はこれほど違う状況にはならないと思うんだけれど。
(2)SC中にピットにマシンが殺到して危険だ、というのは実際あるとは思うんだけれど、なんのために60km/hという速度制限をやっているのか、と思う。SC中にピット入り口をクローズドにするという案もあるんだろうけど、それだと義務周回数の問題などで、変なタイミングでSCが入ったりすると失格になっちゃったりするケースも起こってしまう。CARTのオーバルではたしかに(入口が)閉まるんだけれど、ロードコースでは日本と同じように開いている。だからボクはピット入口をクローズするのはどうかな、と思う。
(3)それよりもSC中の隊列はGT500とGT300で分けたほうがいいと思う。SCは1台で、原則は黄旗で追い越し禁止なんだけれど、GT500はGT300を抜いていい、というふうにすればおのずとGT500とGT300で隊列が分かれるはず。当然、GT500がGT300を抜く際には双方のドライバー同士で意思の疎通をしなきゃいけないと思うんだけどね。そのあたりも含めてドライバーに徹底させれば済むことだと、ボクは思うけれどね」


加治次郎GT-A事務局長
「SCを入れる基準といっても、そのときそのときの状況でいろいろ考えられるわけです。コースによっても状況は異なってきます。また、NASCARなどアメリカのレースでは、お客さんにとっておもしろいレースを演出するのにうまくSCを使っているケースもあります。そういうふうに使うという方向性もあるいっぽうで、使わないほうがいいという意見もある。そういう状況ですから、そのなかでひとつの基準を示すのはむずかしいと思います。
 ピットインに関しては、参加台数が多いのはたいへん喜ばしいことではあるんですが、現状ではピットエリアが狭いということがあります。JGTCは耐久レースではないが給油、タイヤ交換などがあるという点で、F1の決勝中のピットに近い状況にあります。そういう状況で、ピットインをどうすればいいのか、いろんな意見があって一概にはいえないんですが、ただ、GT-Aとしては現状のやり方を直さなければダメだという認識は持っています。いま、来年に向けてのルールを、意見をまとめて提案していこうとしています。
 ルール作りにあたっては考えるべきポイントが3つあります。まず、ピットインが集中してしまうのを避ける方法をどうするか。二つ目はトップの車両をなかなか捕まえられないなど、オフィシャルの手際が悪いということ。もうひとつはリスタートのときのGT300の順位。現状ではSCはGT500のトップを抑えているので、GT300の車両は位置によって順位が大きく左右されてしまうことがあります。GT500とGT300とで隊列を分けるというのがひとつの方法ではあると思いますが、現状ではSC1台でもむずかしい面があるわけですし、むずかしさはあります。オーバルのようなコースではアウト側とイン側で分けることもできますが、日本のサーキットではコース幅が狭く、コーナーが連続するところもありますし、参加者としては走行ラインを外すとタイヤカスが付着したりするので、できるだけ外したくない、といったこともある。
 それから、参加しているドライバーが、そうしたオペレーションをどれだけ熟知しているか、ということもあります。NASCARなどではシステムが完成していますが、JGTCの現状ではまだむずかしい。JGTCなりのバックグラウンドがないとうまくいかないでしょう。もちろん、現状では危険な状況でもあるので、来年はルールを変えるべきと考えています」



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