今年から選手権が掛かったエンジンチューナーとは何か?
JGTCでは、今シーズンからドライバー、チームのほかにエンジンチューナーにも選手権タイトルがかけられることになった。そこで、エンジンチューナーとはどんな仕事をしているのか、主要チューナーの話を聞いた。
TRD MS事業室 佐藤直樹マネージャー
「TRDのMS事業室のなかにエンジン開発グループとシャシー開発グループがあって、エンジン開発グループのほうがレース用の3S-Gエンジンの開発をやっています。レギュレーション上ブロックとヘッドは変えることはできませんので、動弁系、クランク、ピストンなど、それ以外の部分の設計、開発、製作を行っています。3S-GはGT500、GT300の両クラスで使われていますが、ターボが違うほかは基本的な部分は両者同一です。リストリクターの違いなどはマネージメントを変えることなどで対処しています。GT300はあまり費用をかけたくないので、GT500で実績のあるエンジンを使ったりしています。資源を有効活用しているということですね。
毎レース、本番用とスペアを台数分持って来ています。本番用というのは車両に搭載されているエンジンということで、トラブルがないかぎりイベント中に積み替えることはありません。本番で使ったものを次のテストでも使い、次の本番前にリビルド、オーバーホールをしています。1シーズンでは車両1台あたり3基でローテーションするペースです。
シーズンオフもシーズン中も開発は継続しています。ベンチでテストして、結果がよければテスト車両に搭載して実車テストをして耐久性、性能の確認をして、それからレースに投入するというかたちになります。信頼性が確認できなければレース車両には搭載しません。
(タイトルは)ぜひ獲りたいですね。TRDの名で獲れるものはそれしかありませんから。メカニックや開発エンジニアにとっていい目標、モチベーションにつながります」
NISMO 小倉義信技術部マネージャー
「JGTCの特徴はまずリストリクターがあることですね。エンジンの性能を向上させるうえでそこが一番大きいポイントだと思います。空気量が制限されているなかで、ピークパワーを出すのではなくいかに平均馬力を出すか。われわれはターボエンジンを使用していますが、ターボのスペックだけでなく、カムやバルブなどあらゆる部分で出力を上げるために仕様改善を図っています。ターボラグを詰めつつ、いかに高回転域でブーストの制御性を向上させるかということも重要ですね。
ニスモではエンジンを含めたマシンすべてを設計・開発していますが、そのなかで車体側とエンジン側のせめぎ合いはあります。レイアウトなどで、車体側が『これでどうですか?』と持ってきたものをエンジン側で変更してほしいということもありますし、レイアウトを成立させながら、性能要因をどれだけそこに織り込めるかを考えなければならない。たとえば車体側はエンジン搭載位置を低くしたいとすると、エンジン側としてはオイルパンを薄くしてそれに対処しなければならなかったりするんですが、そこで失ったパワーをどこで補うかというように性能向上をしていっています。また、レイアウトの図面を引くときに、実際にやってみてどうなるかが不明な部分もありますし、実際にやったときに不具合が出たらそこは改善してという作業もあります。
今年シリーズ途中から投入したVQエンジンについては、一番最初は2基作り、その後6基ぐらいをベンチで回し、走行テストを行ないましたが、そこで出た細かい不具合をフィードバックしてレース用のエンジンを新たに数基作りました。ただ、デビューさせるまでに実車でのテストがあまりできなかった点には苦労しました。走り込んでの課題の洗い出しとその対策が、最初の見込みよりも遅れてしまったんですね。そういう部分は今後やり方を含めて見直していかないといけないなと思っています。
いまレースに持ち込んでいるのは、実際に搭載されているものと各マシン1基ずつのスペア、全部で6基ですね。スタッフ的には、私が開発スタッフとして、レースでの状況を把握し、課題をつかむために来ているのと、オーテックが3名。それとカルソニックには、東名エンジンのスタッフが2名です。オーテックと東名のそれぞれがエンジンのチューニングを行なっていますが、それでなにか問題が出たときには情報を共有できるようにしています。
チューナー部門のタイトルはあまり意識していません。それよりもまずはクルマが勝てるようにすることが重要です。オーテックにも東名にも同じエンジンを使ってもらっているので、両方でいい成績を出せるようにしたい。そこが一番の課題です」
無限×童夢プロジェクト 永長真プロジェクトリーダー
「GTのエンジンというのは、国内レースのなかでは比較的改造自由度が高いですよね。ですからかなりの部分、たとえばロアケースに相当するようなところというのはもう完全にオリジナルのものが使えるわけです。さらに今のGTではエンジン単体ではなく、搭載性であるとか、車体側との兼ね合いもありますんで、そのあたりに関してはまるっきり白紙の段階から設計していっている状態です。ですからユーザーからエンジンを受け取って、それをチューニングするという意味でのエンジンチューナーとは仕事の内容もかなり違うと思います。広い意味でC32Bというエンジンを含めNSXをどう味付けするかという大きな仕事のなかで、無限としてエンジンと車体をどうマッチングさせるか、というようなところまで考慮した仕事という感じですね。
エンジンに携わるスタッフの数にしても、設計する人間、外部や社内でパーツを製作する人間、それらを組み立てる人間などを合わせたらすごい数になってしまいますね。もちろん全員が専任というわけではないですが、加工ラインだけでも50人近い人間がいますんで、ほんとうにたくさんの人間が関係しています。サーキットの現場でのエンジンサービスだけでしたら7〜8人ですね。
レースに用意するエンジンは、NSX5台について、基本的にはクルマに乗っているだけですが、当然スペアエンジンも用意します。各チーム1基ずつはスペアを用意しますので、最低10基は毎回用意するかたちになります。それ以上プラスアルファのエンジンを用意することはまずないですね。通常3日間のイベントで、何度もエンジンを交換するというようなことがあるとしたら、それはイレギュラーなことですし、予選用エンジンなどを用意しだしたら、それこそ別のカテゴリーになっちゃいますから。年間トータルで何基ぐらい造るかですか? う〜ん、ノーコメントです(笑)。
エンジンチューナーのチャンピオンシップというものは、やはりドライバーやチームなどのタイトルを目指してやっている結果として、終わってみたらエンジンチューナーも獲れたとか獲れなかったとかっていう感じのものじゃないかな。GTの場合は基本のエンジン自体がバラエティーがありますからね。フォーミュラ・ニッポンのように、同じベースエンジンを多くのチューナーがそれぞれにチューニングして戦うというのとは、やはり少しニュアンスが異なるように思いますね」
戸田レーシング 柚木隆エンジンエンジニア
「ウチの場合はユーザーに応じて仕事のやり方や進め方が違いますから、一概には言えないですね。エンジンのメンテナンスにしても、ユーザーによってエンジンのライフサイクルが違います。何レースか同じエンジンで戦うチームもあれば、Vemac(No.62)のようにレースは毎回フレッシュを積んで、それを次のテストまで使うというユーザーもあります。
エンジンの使い方にしても、2基を交互に使うところもあれば、3基持っていてそれをローテーションする場合もあります。レースでのスペアエンジンはそれぞれに1基ずつは持ってきています。3つのユーザーで合計9基のエンジンを扱っていますが、現場では3人のスタッフで担当します。基本的にその3人と、工場にいるスタッフがエンジンを触ることになるのですが、どこもそうでしょうけど、目先の一番近い日程のレースに使うエンジンをやりますね。基本的には各ユーザーのエンジンにひとりずつ担当がつくようなかたちで作業を進めています。JGTCのエンジンは結局イチから造っていっているようなものなので、部品もウチで造るものも多いのですからそのあたりが大変なところですね。
エンジンチューナーのチャンピオンシップに関しては、現場としては結果的にあとからついてくるものという印象で、それほど意識はしていませんね。もちろん3台全部がいいところにいってくれればいいですが、終わってみて3台のうちせめて1台でも上のほうにいっててくれればいいな、という感じです」
Mid West Racing 中西知之代表
中西代表は、1982年から88年までヨシムラに在籍し、当時のTTF1(1000cc)用のスズキ4気筒エンジンなどを手がける。89年からケンマツウラレーシングでF3000を手がけ、片山右京、星野一義のチャンピオン獲得をかげで支えたほか、ヤマハ発動機のF1プロジェクトにも参加。96年、マツダスピードに移籍。JTCC用の4気筒エンジンを手がける。97年から2000年まではニスモに在籍。JGTCでは98年のシルビア(近藤真彦/青木孝行)、99年シルビア(土屋武士/井出有治)を手がける。2000年に独立、Mid West Racingを設立。現在は5人のメンバーでNo.3 シルビア、No.51シルビア、No.24、No.26、No.28のタイサンポルシェ、No.63 ポルシェ、No.360 フェラーリのチューナーをつとめる。
「NISMOにいるときに、JTCCもなくなったしJGTCのスカイラインはオーテックさんだし、エンジンビジネスとして『日産車以外で仕事をとれ』ということになりまして、シルビアのほかにポルシェやフェラーリも手がけはじめました。2000年シーズンはポルシェなどにNISMOのステッカーが貼ってあったんですよ。
現場での仕事は、走行前に車体屋さんがチェックしたあとの軽いチェックをし、走行中はシルビアはターボ車なので燃料噴射量の調整、イグニッションタイミング、ブースト圧の調整、データロガーを使ってECUユニットの調整やプログラムの変更をしてベストな状態にもっていくようにしています。走行後にもチェックをするといったかたちです。苦労ですか?とくにはないですよ(笑)。仲間と5人態勢でこなしていますし、さいわいエンジントラブルでリタイヤというのはこれまでないんです。設計的な問題でのトラブルもないですしね。
夢は、タイサンさんにルマン24時間の予選からでも使ってもらって速さをアピールできればいいなと思っています。世界制覇ですかね(笑)。二輪だと(全日本選手権から)そのまま世界に簡単に出ていけるんですよ。
チューナータイトルですか? それよりもユーザーさんがいいポジションでいられることを心がけています。シルビアには打倒ヴィーマック、打倒MR-Sで、毎回力を入れています。結果は、シーズンが終わってついてきてくれればいいと思っています。JGTCのターボ車はリストリクターがついていますから、単純にブースト圧を上げると空回りしてタービンが壊れてしまうんです。限定されてしまう条件のなかで戦うことの難しさはありますね。そのへんが腕の見せどころでしょうか?」
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