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「全日本GT選手権(JGTC)」として1994年にスタートしたSUPER GTには現在、GT500とGT300の両クラス合わせて40台以上ものモンスターマシンが参加しており、その40台超がコースのあらゆる場所でテール・トゥ・ノーズ、サイド・バイ・サイドのバトルを展開する。例えば、富士スピードウェイでのGT500マシンの最高速は300km/hにもおよぶ。そんなハイスピードでのバトルは手に汗握る白熱したもので、それがSUPER GTの魅力のひとつなのだが、それはつまり、危険との隣り合わせでもあるということだ。
そこで、SUPER GTではJGTC時代の2002年から「FRO=First Rescue Operation(ファースト・レスキュー・オペレーション)」と呼ばれるレスキュー体制を構築した。レースや走行セッション中に発生したクラッシュやアクシデントの際に「ドライバー」「ファイヤー&レスキュー」「ドクター」の3名1組で出動し、初期消火や救出活動、救命救急を行なっている。
ここでは発足から25年目を迎えた「FRO」の役割や活動内容、今シーズンからFROに導入されたニューアイテムのほか、現在メディカルデリゲート(医療責任者・MD)を務める渡邊水樹ドクターの想いなどを3回に分けて紹介する。

SUPER GTメディカルデリゲート 渡邊水樹ドクター(左から2番目)
1972年生まれ。聖隷浜松病院 脊椎脊髄外科部長。脳神経外科医として、せぼね骨腫瘍科/脊椎脊髄外科を担当。
SUPER GTのメディカルデリゲートを務めるかたわら、WECやWRCなどのメディカルにも携わる。
つちやエンジニアリングの土屋武士監督とは高校時代の同窓生。
(写真左から)FROファイヤー&レスキューの松本和之チーフ、渡邊MD、
開田祐矢デュプティ・セーフティデリゲート、FROドライバーの山脇大輔チーフ。
SUPER GTの前身であるJGTC時代から競技車両の高速化が進み、それに伴う重大なアクシデント/クラッシュおよびそれに起因する車両火災などが増えていた。そこで2001年よりレスキュー体制の強化が検討され、2002年に「FRO=First Rescue Operation」が発足した。これはSUPER GT独自のレスキューシステムで、FRO車両(現在は3台)にそれぞれ消火器やドライバー救出用の器材、救命用の医療機器が搭載されている。FRO車両を運転する「ドライバー」、初期消火や救出活動を行なう「ファイヤー&レスキュー」、そして救命措置などの医療行為を行なう「ドクター」の3名が乗車し、セッション中は万が一に備え、コース脇などで待機する。その際にはレースコントロール(管制室)と無線で交信しながら、車内に設置されたテレビモニターで状況を確認している。
一方、決勝レースのスタート時はグリッドの最後尾に並び、SUPER GTマシンとともにフォーメーションラップを走る。最もアクシデントの起こりやすい“1周目”はコース上にいるというわけだ。何事もなければ、そのままコース各所の待機場所へと移動する。

現在3台のFRO車両が使用されているが、こちらは2026年第1戦から使用されている「パトロール NISMO」。
ルーフや前後グリルにフラッシュライトが追加されているほか、ストップ車両の回収用に車体前後下部に頑丈な牽引フックを装着する。

FRO車両には消火器やオイル処理剤、ほうき、バール、耐熱ブランケットなどの消火&救出用機材のほか、
頸椎カラーやBOAデバイス(*1)、酸素ボンベなどの医療機器が搭載されている。
*1「BOAデバイス」:負傷ドライバーの首から脇の下に通して、上方/後方からドライバーを車外に引き揚げる蛇状のパッド付き器具(右写真内の黄色のアイテム)。
競技中にアクシデントが起こると、管制室からの指示により、FROは現場へ急行。接触やクラッシュなどでドライバーが負傷している可能性がある場合には、まずはドクターが「G(ショック)センサー(*2)」とドライバーの状態を確認する。同時にファイヤー&レスキュー担当者はマシンやその周囲の状況をチェックして燃料漏れや出火がないことを確認し、救出作業の安全を確保する。そのうえでETカー(エクストリケーション=救出車両)で駆けつけた各サーキットのレスキューオフィシャル(4〜6人ほど)が実際の救出を行なうという流れになっている。
ご存知の方も多いと思うが、SUPER GT車両の天井(屋根)部には「レスキューハッチ」と呼ばれる救出作業用の“穴”が設けられており、そこからヘルメットやHANSデバイス(頭頸椎保護装置)を外したり、頸椎カラーの装着作業ができる。
なお、SUPER GTでは毎戦競技前に、参戦するSUPER GT車両を用いた救出訓練を行なっており、各サーキットのレスキューオフィシャルとの連携を確認して、レスキューの精度を上げる努力を続けている。
*2「Gセンサー」:磁石にくっついた赤玉が衝撃を受けた方向に飛び出すインジケーター。現在のSUPER GTでは15G以上で反応するようになっている。

クラッシュ時の救出や初期治療だけではなく、コースアウトや接触などでストップした車両があれば、
それをFRO車両で牽引して安全な場所に移動させることもFROの重要な役割のひとつ。
※写真は2025年第8戦もてぎ

救出訓練の様子(2026年第1戦岡山大会時)。
マシンの側にいる紺×白の耐火服を着ているのがFROのドクター、オレンジ×白がファイヤー&レスキュー。
白いつなぎは岡山国際サーキットのドクター&レスキューオフィシャル。
皆が真剣に訓練に取り組んでいることが分かる。
SUPER GTのメディカルデリゲートを務める渡邊水樹MDによると「レースに『スポーティングレギュレーション(競技規則)』や『車両規則』があるのと同じように、FROの救護活動も、基本的にはFIA(国際自動車連盟)が定める『国際モータースポーツ競技規則 付則H項』に則って運用しています。そのように『ルール』として明文化されたものがあるので、シーズン前の『規則説明会』でチームにも説明し、ドライバーにもセーフティに関する講習を行なって、そのルールを守ってもらうように伝えています」とのこと。ちなみに、そのFIAの規則ではメディカルセンターの設備や医師要員の条件、ヘリコプターや救急車の配備、救出訓練などについても厳しく定められている。
また、「今年からシングルシーター(フォーミュラカー)においては『BOA(*1)』の使用が推奨されているのですが、つい先日(6月25日付け)、来年から“使用必須”となることが通達されました。SUPER GTはツーリングカーなので使用義務はないのですが、非常に優れたアイテムなので我々のFROにも導入しました。SUPER GTと併催のFIA-F4ではすでに使用したケースもあります。また、クラッシュ発生時の救助活動における判断の迅速化や衝撃Gの測定精度向上を目的に『デジタルショックセンサー(衝撃加速度計)』の使用も開始しました。まだ試用段階なので、これまで使用してきた磁石式のGセンサー(*2)と併用中ですけどね」と渡邊MD。
そのふたつの『ニューアイテム』については、次回、紹介する(第2回に続く)。

外部からチェックできるようにGT300マシンのダッシュボード中央部に搭載された磁石式のGセンサー。
GT500マシンは運転席ドア付近に搭載されている。