- SUPER GTについて
- ニュース
- レース日程
- 順位
- チーム&ドライバー紹介
- English
- Japanese

「全日本GT選手権(JGTC)」として1994年にスタートしたSUPER GTには現在、GT500とGT300の両クラス合わせて40台以上ものモンスターマシンが参加しており、その40台超がコースのあらゆる場所でテール・トゥ・ノーズ、サイド・バイ・サイドのバトルを展開する。例えば、富士スピードウェイでのGT500マシンの最高速は300km/hにもおよぶ。そんなハイスピードでのバトルは手に汗握る白熱したもので、それがSUPER GTの魅力のひとつなのだが、それはつまり、危険との隣り合わせでもあるということだ。
そこで、SUPER GTではJGTC時代の2002年から「FRO=First Rescue Operation(ファースト・レスキュー・オペレーション)」と呼ばれるレスキュー体制を構築した。レースや走行セッション中に発生したクラッシュやアクシデントの際に「ドライバー」「ファイヤー&レスキュー」「ドクター」の3名1組で出動し、初期消火や救出活動、救命救急を行なっている。
前回は発足から25年目を迎えた「FRO」の役割や活動内容を紹介したが、今回は今シーズンからFROに導入されたニューアイテム「デジタルショックセンサー」と救出用補助具「BOAデバイス」について紹介する。
SUPER GTでは2002年のFRO運用開始によりレスキュー体制が強化され、それに加えてサーキットでの実車を使った救出訓練を重ねてスピーディーで質の高い救出&救命作業が行なわれているのだが、その一助となっているのが前回少し触れた「ショック(G)センサー(衝撃加速度計)」、いわゆる「Gセンサー」である。
「Gセンサー」は2006年からSUPER GTに参戦する全車に装着が義務付けられたもので、マシンの受けた衝撃を感知するものだ。ケース上部中央の磁石に付いたインジケーター(赤玉)がクラッシュや接触などの際に、設定された衝撃(現在は15G)を感知すると、衝撃を受けた方向に赤玉が飛び出す仕組みになっている。FROのドクターやレスキューが容易に目視できる箇所(ダッシュボードやドア付近)に取り付けられており、車両に15G以上の衝撃が加わったことと衝撃方向(時計の針で表現する)がひと目で分かる。「G」とは重力加速度で、「1G」は自分の体重と同じ重力がかかっている状態。つまり60kgの人が15Gの衝撃を受けた場合、900kgもの重さがのしかかってきたことになる。F1のコーナリングはおよそ4~6Gと言われ、訓練された戦闘機パイロットでも9Gを超える急旋回では失神することもある。
前述のとおり、そのGセンサーは磁石式でアナログ方式なのだが、これについて、SUPER GTのメディカルデリゲート(医療責任者・MD)を務める渡邊水樹ドクターは次のように語る。
「本来は15Gで反応するべきところ、その個体差なのか、赤玉が規定値よりも低い衝撃で動いてしまうことがあるんです。さらに『Z軸』、つまりタテ方向のGが拾えないという問題があります。また、Gセンサーをドライバー自身が確認することができないという問題もあり、今シーズンからデジタル式のショックセンサーを採用することにしました。テレメトリー(走行中のマシンのデータをモニタリングできるシステム)を利用して、即座に管制にデータ(衝撃の数値)が送られてくるのですが、正直に言えば、まだ改善すべき点が多く、旧型のGセンサーと併用している状況です。将来的にステアリングモニターへの表示だったり、FROとのデータ共有ができるようになれば、ドライバーの救助だけではなく、レースコントロールにも有用になるであろうという意味では“未来”があるのかなと思っています。1〜2年のうちに形にしていきたいですね」


現行の磁石式ショックGセンサー
左が磁石式の「ショックGセンサー」。
一定の衝撃(SUPER GTでは15G以上)が加わると2枚目の写真のように“赤玉”が飛び出す仕組みだ。
これは「15G以上」「10時の方向」の衝撃を受けたことを示している。
前回「FRO=First Rescue Operation」の救護活動が基本的にはFIA(国際自動車連盟)が定める『国際モータースポーツ競技規則 付則H項』に則って運用されていることをお伝えしたが、その規則によって、来年からシングルシーター(いわゆるフォーミュラカー)における救出には「BOA(ボア)デバイス」と呼ばれる救出用補助具の使用が義務付けられることになった。これはHANSデバイス(頭部頸部保護装置)やHALO※の導入により「リムーバルシート」と呼ばれるシートごとドライバーを引き上げる方法が複雑かつ危険性が増したために廃止されたことを受けて新たに採用されたデバイスである。頸椎損傷のリスクを最小限に抑えるために首を保護しながらフォーミュラカーの狭いコクピットからドライバーを上方/後方へ引き上げるというものだ。
※「HALO(ヘイロー)」:現在のフォーミュラカーにおいて、頭部を保護するためにコクピット開口部の周囲に取り付けられたフレーム状の防護装置。
渡邊MDは8年ほど前にドイツのサーキットで似たような仕組みのものが使用されているのを見て、SUPER GTでも使えないかと長年にわたり各方面と相談・調整を続けてきたのだとか。
「最初は富士スピードウェイやスポーツランドSUGOで手作りしたものを使って試しました(写真)。SUGOのレスキューさんのお母さんが“夜なべ”して作ってくれたこともあります。そうやって試行錯誤を続けながら、FIAの追い風もあって、実現までこぎ着けられたのは感慨深いですね。FRO車両にはもちろんBOAを積んでいますが、国内のほぼすべてのサーキットさんが購入してくれました。時間はかかりましたけど、一歩一歩やってきて良かったなと思っています。BOAの運用の仕方とかルールを広めるという仕事はまだまだ残っていますけどね」
「各サーキットのレスキューさんたちと毎回、実車訓練をしていますが、FIA-F4ではすでに2回運用しています。警察とか救急隊も使っていますが非常に簡単な仕組みで、顔の前側から首に巻いて1周させて、その後に前側から脇の下を通して後ろ側で束ね、それをグッと持ち上げてドライバーを救出します。本来はフォーミュラカーで推奨されているものですが、ツーリングカーでも有効だと思っています」
ちなみに「ボア」とは主に中南米に生息する大型のヘビで、発達した筋肉で獲物を締め付ける“大蛇”を指す。ジャングルを舞台にした映画で“大蛇”として登場するアナコンダもボア科である。

2017年に試作したお手製BOAデバイス
今から8年前の2017年に“手作り”したもので自ら試す渡邊MD。
長年試行錯誤を繰り返し、改良を重ねながら、自ら推進してきたことが身を結んだことで「レース界に少しだけでも貢献できたかな」と語る。

現在使用されているBOAデバイス(FIAブルテンより抜粋)
FIAのブルテン(公式通知)に掲載された写真(抜粋)。
現在はシングルシーターに限られているが「SUPER GTでも有用なことが確認されており、積極的に使っていく(渡邊MD)」とのことだ。
SUPER GTにもレスキューに関わる最新のデバイスが導入されたとはいえ、これらのデバイスは使用されないことが望ましい。FROが出動せずチェッカーを迎えることを誰もが願っているが、万が一に備え、レスキューやメディカルセクションはもちろんすべてのオフィシャルは常に張り詰めた緊張感のなかでレースに臨んでいる。それによって、ドライバーが安心してレースに挑むことができるのだから……。
次回、連載の最終回は取材に応えてくれた渡邊水樹MDの“想い”をお伝えする(第3回に続く)。

SUPER GTメディカルデリゲート 渡邊水樹ドクター(左から2番目)
1972年生まれ。聖隷浜松病院 脊椎脊髄外科部長。脳神経外科医として、せぼね骨腫瘍科/脊椎脊髄外科を担当。
SUPER GTのメディカルデリゲートを務めるかたわら、WECやWRCなどのメディカルにも携わる。
つちやエンジニアリングの土屋武士監督とは高校時代の同窓生。
(写真左から)FROファイヤー&レスキューの松本和之チーフ、渡邊MD、
開田祐矢デュプティ・セーフティデリゲート、FROドライバーの山脇大輔チーフ。