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2017.07.19
【SUPER GT基礎講座・第5回】公正で安全なレースをするために ~SUPER GT独自の取り組み~

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SUPER GT基礎講座 第5回

公正で安全なレースをするために ~SUPER GT独自の取り組み~

2017年も熱戦が続くAUTOBACS SUPER GTシリーズ。夏休みも間近ということで、「サーキットに観戦に行こう!」と観戦計画を練っている方もいらっしゃると思います。そこで“SUPER GT夏の3連戦 (※)”に向けて、SUPER GTの基礎中の基礎を改めてご紹介します。

第5回のテーマは「公正で安全なレースをするために」です。

※“夏の3連戦”は7月から8月に行われる、SUGO大会、富士大会、鈴鹿大会のこと。

 

◇ ◇ ◇

 

前回も解説しましたが、株式会社GTアソシエイション(GTA)は、SUPER GTを運営するにあたり様々なレギュレーション(規則)を定めています。その中で、SUPER GTの競技に関して厳格に定めたのが「スポーティングレギュレーション(SpR)」です。このSpRに基づいて、公正、かつ安全なレース運営が行われているのです。

 

何かが起こればレース中でも直ちに出動するFRO

 モータースポーツは、自動車という機械を人間が操って行われます。走行中にコースアウトするなど、ひとたびトラブルが生じればドライバーのケガ、ひいては生命を脅かすこともあります。このため、すべてのモータースポーツにおいて“安全対策”は、なによりも重要なことなのです。ここでは、この安全対策の中でSUPER GTシリーズで採用されている主なものを紹介します。 

 

 

 

 SUPER GTレースにおいてドライバーの死亡事故は幸いにも起きていませんが、過去には大きなケガを負うような事故もありました。この時の反省や教訓から、関係者とGTA、そして各サーキットなどが協力して立ち上げたレスキューチームが“FRO”「ファースト・レスキュー・オペレーション(First Rescue Operation)」です(SpR 付則-2)。皆さんもSUPER GTの競技中にアクシデントが発生するとボディに“FRO”と書かれた車両が出動し、レースカーやドライバーを救出するシーンを見たことがあると思います。

 FROは、その名の通り素早い救出活動を行うレスキューチームです。アクシデント発生時は、一般の交通事故でもそうですが、とにかく速い行動で、対応力の優れたスタッフを現地に到着させることが、トラブルを最小限にする最良の手段です。この発想から、FROは生まれ、運用されています。

 

 

 FRO車両は、SUPER GTの各大会で3台が配備されています。車両には、救命救急と初期消火を中心とした機材が搭載されており、車両自体もサーキット走行に対応したものとなっています。現在は各メーカーの協力により、ポルシェ/マカン・ターボ、スバル/レガシー・アウトバック、日産/スカイライン・クロスオーバーの3台が運用されています。
 競技中この3台はすぐに出動できるようにサーキット各待機ポジションで、エンジンを掛け、スタッフも完全装備で乗車して、出動に備えています。

 

 

 それぞれのFRO車両には、3名のプロフェッショナルスタッフが乗車しています。

 ドライバーは、レースキャリア豊富な方が務めていますので、まだレースカーが走行している競技中のコース内に出動しても、慌てることなく、他のレースカーを脅かすことなく、最速でトラブル地点まで向かう事ができます。
 そして同乗しているのは、救急医療に長けたドクター。当然、ドライバーに負傷があればすぐさま対応しますし、負傷がなかった場合でも、クラッシュ時の状況を確認し、救出&治療の判断をすぐに下せる心強い存在です。近年は、クラッシュが起こってもすぐにドライバーを車外に出さないことがあります。観戦している側としては、少々心配な時間ですが、FROのドクターが安全性を的確に判断しているのです。
 そして3人目は「ファイヤー&レスキュー」のスペシャリストで、レース運営の経験と救急の知識を持ったスタッフです。車両からのドライバー救出や、火災発生時は消火装備を扱って初期消火作業も行います。
 もちろん、FROだけでトラブルに対処できるわけではありません。各サーキットのオフィシャルとの連携も大切です。サーキットとGTAは各大会前に協議を重ね、安全な大会運営を行っています。

 

 

 

 

SUPER GT独自のドライビングモラルハザードやセーフティカー運用

 時には接触も起こる激しいバトルは、SUPER GTのだいご味です。でも、車両同士がぶつかって、双方リタイヤは興ざめですし、大きなアクシデントになってしまうのは問題です。
 SUPER GTでは競技運営の平準化や、ドライブ行為に関する独自の抑止制度が定められています。

 

 

 

 競技中の反則行為などの審判は、競技を運営するレースの競技役員(オフィシャル)によって行われます。サーキットで公式プログラム(パンフレット)を購入した方はこのオフィシャルの一覧が載っていますので、多くの方たちの協力のもと競技が運営されていることがお分かりいただけると思います。この中で、競技中に起こったことを把握し、競技運営の全体を統括するのが「競技長」です。競技長は各オフィシャルからの報告をもとに、規則に抵触する反則行為であったかを判断します。そして反則行為だった場合には「大会審査委員会」に報告され、審査委員会において罰則(ペナルティ)が裁定されます。

 基本的にオフィシャルは、大会ごとに違う方が担います。このため、過去においては大会ごとに判定の違いを指摘されることもありました。また、SUPER GTがプロフェッショナルなレースとして質をコントロールするには、統一された判断で競技が運営される必要があります。
 このため、SUPER GT全戦で平準化された競技運営を行う役務として、GTAの「レースダイレクター」が存在します。競技役員の要職を務めSUPER GTのレースをよく知る方がレースダイレクターとして、競技長をサポートし、SUPER GTのシリーズ各大会を公正、かつ均質に運営しています。

 

 

 またレース中のアクシデントは、ドライバーが要因となる場合もあります。SUPER GTには「ドライビングモラルハザード防止制度」という制度があります(SpR 付則-6)。これは、公式予選や決勝レースといった大会期間中は勿論、公式テストも含めたSUPER GTの走行機会すべてに適用され、その走行に関するガイドラインが定められています。もしこのガイドラインを逸脱する行為があった場合は、対象ドライバーに罰則が課せられます。この罰則ポイントが一定期間に一定量を超えた場合には、部分的や全面的な出走禁止など、競技のペナルティとは別にドライバーに課せられます。こうした制度により、ドライバーの技量とモラルの向上を、SUPER GTでは図っているのです。

 また、この制度の判定、運用を平準化するための役務が、GTAの「ドライビング・スタンダード・オブザーバー(DSO)」です。競技役員経験者やSUPER GTにも参戦したキャリアのあるレーシングドライバーがDSOとして、プロのレースにふさわしいドライバーの技量やドライブ行為の判断を行います。
 

 

 もうひとつSUPER GT独自のレース運用が見られるのが、「セーフティカー(SC)運用規定」です(SpR 付則-3)。レースではアクシデントが発生した時に、救出活動やオフィシャルの安全な活動を確保するためにSCが導入される事があります。この時、2クラス混走でレースを行うSUPER GTではGT500クラス車両の先頭車両が基準となってしまい、GT300クラス車両の一部に不利益が生じることがあります。また、再スタート時は両クラスが混在する隊列の場合、速度差があるために混乱が生じやすく危険です。

 

 

 そこでSUPER GTではSCを運用する場合には、ホームストレートで一旦クラス別に分かれて整列します(トップ写真)。これで改めてGT500車両を先行させ、その後ろにGT300車両が続く隊列を組み、SCランを続行して、再スタートへと臨みます。
 このSCの運用はSUPER GT独自であるため、公式テストではSC運用を練習する機会を作り、ドライバーとチームに手順の再認識をはかっています。

 

次回のSUPER GT基礎講座は、
第6回「レース以外もたくさんあるサーキットのお楽しみ」をお送りします。
お楽しみに!

 

 バックナンバーはこちらから

 第1回 サーキットに行こう! ~7つの開催サーキットを紹介~

 第2回 レースを観戦しよう! ~チケット購入とサーキットの歩き方~

 第3回  SUPER GTマシンの基本を知ろう! ~2つのクラスと多彩な車種~ 

 第4回 チームとドライバー ~ハイレベルなクルマのプロたち~ 

 

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