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【Catch Up】
女性初のFROドクターがSUPER GTにデビュー
SUPER GT独自のレスキュー体制として2002年に構築された「First Rescue Operation(ファーストレスキューオペレーション=FRO)」。発足から25年目を迎えたFROに初めての女性ドクターが加入し、今大会で実戦デビューを果たしました。救命救急医として十分な実績をもち、サーキットドクターとしての経験も有する笠井あすかドクターをご紹介します。
First Rescue Operation(FRO)
笠井あすかドクター

FRO、そして全国のサーキット医療の質を向上できるように日々頑張っていきたい
──まずは先生のキャリアを簡単に教えてください。
「医学部を卒業して、その後に大学病院の救命救急科で10年以上、3次救急という最も重症な人を診る仕事をずっとしていました。その後は地域医療をやりたくて、絶海の孤島の小笠原村『父島』に赴任し、そこで地域医療に携わったことで医療システムを勉強したくなり、また一方で子供の進学を考えて、息子が中学生になるタイミングで東京に戻り、厚生労働省や国土交通省の航空局という役所で医療システムを学びました。それをきっかけに予防医学が面白くなって、現在は日本航空でパイロットの健康管理をしたり、客船の船医として働いています。“乗り物”としては全然違うんですけれども、特殊な環境で“人の安全を守る”というところはどれも同じ。乗り物は日々進化したりして技術はどんどんブラッシュアップされていくんですけれども、ソフト面の充実という部分ではまだまだ遅れているので、そういうところで共通してできることも多く、今はそこでいろいろやっています」
──では、レースドクターを始めたきっかけは?
「島から帰ってきた時に、子供が『サーキットに行きたい』と言ったので、家から一番近いモビリティリゾートもてぎに、当時まだ小学生の息子ふたりと行きました。私は特にモータースポーツのファンというわけではなかったんですが、グランドスタンドの上からサーキットを見た時に『あそこにメディカルセンターがある』『あそこにドクターヘリがいる』ということに気づいて、『お母さんはあそこに興味があるから施設見学に行ってきていいかな?』と息子たちに言って、飛び込みでメディカルセンターのドアを叩いたのがきっかけです。そうしたら、たまたまそこに大学時代の先輩がいて『何やってるの!?』と。救急の先輩だったので『もし興味があるならやってみないか』と誘ってもらいました。本当の偶然です(笑)。そこでモータースポーツにつながって、もてぎのサーキットドクターを務めることになりました。それが今から11年か12年くらい前のことで、4輪2輪含めて、様々なレースに携わってきました」
──その後、FROに加わることになったきっかけを教えてください。
「昨年のSUPER GTのもてぎ大会の時に『ぜひFROでやってみないか』とメディカルデリゲート(責任者)の渡邊水樹先生に声をかけていただいたんです。SUPER GTの際にはFROのみなさんと一緒に救出訓練をやっていたので、渡邊先生やFROのみなさんのことは知っていましたけど、FROはみんなの憧れのチームで……私はクルマに詳しいわけでもないので、もてぎで細々とサーキットドクターを続けられればいいなぐらいに思っていましたし、“私で務まるのかな!?”という思いもありました。それに長年お世話になっているもてぎでの仕事を続けたいという思いもあって、私自身は悩んでいたのですが、どうしたら両立できるのかを渡邊先生ともてぎの医師団長がきちっと話し合ってくださって、私がこのチーム(FRO)に入っても大丈夫なように仕事環境を整えてくれたので参加することにしました」
──レースドクターとしての魅力はどのようなところだと感じていらっしゃいますか?
「救急医として20年ぐらいやってきましたので、“平和なところから一気に最悪なことが起こる”という状況は何度も経験してきました。モータースポーツはみんなの夢を乗せている反面、少しでも何かが狂うと死に直結するという部分でそこは救急と似ているのかなと思っています。私たち医師が(クラッシュ)現場に行って、火が出ていないか、どのくらいの衝撃があったのか、意識があるのか、心臓はどうか、呼吸はどうか、ケガはないか……そういういろいろなことを一気に加味して判断して救出方法を決定して、レスキューチームと連携して救出する。それがドライバーの将来にも関わってくることなので、そこがやりがいでもあり、一方でツライところでもありますが、私にとっては常に課題を与えてくれるやりがいのある仕事だと思っています」
──最後に、FROの一員として意識していること、目標を聞かせてください。
「女医としてずっと仕事をしていますので、やはり女性としての限界を感じることはあります。モータースポーツ関係で言えば、やはり“パワー”ですね。本来、緊急脱出の時はひとりでドライバーを抱えて、ひとりでクルマから出すんですけど、正直に言って、私にはそれはできません。やればできなくはないかもしれませんが、そこに時間を使うことで救命作業に遅れが生じることがあってはなりませんから、私は「私にはできないからお願いします」と誰かに代わってもらおうと思っています。その代わりにそれ以外の部分で自分のできることをしようと思っています。あとはクルマの細かい知識、構造とかメカニカルな部分ですが、どんなに勉強しても分からないことが多くて……男性はどこの脳でそれを考えているんだろうと(苦笑)。女性の脳と男性の脳では違うのかなと感じるところでもあるんですけどね。逆に、どちらかというと女性はクールで冷静なところがあると思うんです。クラッシュが起こると慌ててしまうことが多いんですけど、女性は冷静。そして、細かいところに気づくという特性もあると思うんですね。例えば誰かと話していても、『今こういう表情をしたので少しイヤに思っているのかな?』とか、そういうところの対応能力は女性の方が優れているのかなと。あとはもうひとつ、女性だというところで安心感を与えられるんじゃないかなとも思っています。クラッシュが起きたりするとドライバーさんは本当に不安でしょうし、今まで全力でやってきたレースがその時点でパタっと終わってしまうわけですから、その時の失望感とか、いろいろな気持ちを抱えて座席に座っていると思うんです。そこでドアを開けて『レスキューですよ』『大丈夫ですよ、問題ないですよ』と女性の私が声をかけた方が安心してもらえるんじゃないかなと。女性の方が話しやすいこともあるでしょうし、そのメリットをFROでも大いに活かしていきたいと思います。また、FROの中でもみなさんのコミュニケーションを深めたり、サーキットチームとFROとの連携を深めるだけではなくて、サーキット同士の横串を通す、レスキューの人たちの横串を通して、サーキット医療に魅力を感じてくれるスタッフをどんどん増やしていきたいなと考えています。ただ、私は女性という前に医師であり、そしてFROのメンバーのひとりでもあるので、冷静に物事を判断して、このFRO、そして全国のサーキット医療の質を向上できるように日々頑張っていきたいと思っています」

予選開始前、渡邊水樹メディカルデリゲート(右)から激励を受ける笠井あすか先生。

その後、FRO車両の後部座席に乗り込み、待機場所へと向かっていきました。