GT INSIDE REPORT
Network Edition
GTC 2000
Round1 MOTEGI GT CHAMPION RACE


No.2
NEW MACHINE CHECK

今シーズンから登場したブランニュー・マシンと新型マシンについて、開発担当者や開発ドライバーたちにそのコンセプトやフィーリングを聞いてみた。


トヨタMR-S
河野 康TRDシャーシ技術グループリーダー(MR-S設計デザイナー)
31 MR-S
「MR-Sを見たとたんに、これしかないという印象を持ちました。レーシングマシンとしての素質を感じましたね。設計の苦労はとくにないです(笑)。パーツとかこれから開発する面はたくさんあるでしょうけど。今回はいかに早く作るか、安くするかが課題でした。設計からクルマができるまで4か月しかかかっていません。だからといって基本的な部分で妥協はしていません。要は、TRDは CADを使ってますんで、基本データはスープラから昔のTS010まで全部CADに入っているんです。そのなかから使えそうなものは持ってきました。スープラのウィングやフロントのロッカーアーム、JTCCカローラのアップライト、チェイサーのハブやドライブシャフトなどを使ってます。もちろんボディ回りやフュエルタンク、サスなど新設計もあります。MR-Sはまだ大きな可能性が広がると思っていますので、100%が見えないかぎり、今何%の仕上がりかは言えませんよね。頭を抱えている個所もありますけど…、ナイショです(笑)。もちろん今シーズンからチャンピオンをねらうつもりで作りました。テストでトラブルがいろいろ出ましたけれど、対策はしてきました。ただ、ワークスチームと違ってレース部隊、テスト部隊と分かれていないので、なかなか時間がなかったですし、急な開発もできないですね。MR-Sは市販スポーツカーとしてもすばらしいクルマだと思うので、ぜひファンのみなさんにも乗っていただいて、GTで応援していただきたいと思っています。今回の開発は個人的にも自由にやらせていただいているのですごく楽しいですよ」


ポルシェ・ボクスター
中野啓吉監督(MTCI RACING TEAM)
24 BOXTER
「これまでにもGTでは外国屋ポルシェなどをやっていました。(リアエンジンの)ポルシェはリアヘビーですが、それなりの走行方法もあるマシンでした。ミドシップのボクスターはバランスが真ん中にあり、レーシングカーに近いマシンです。国産GTマシン、つまりMR2と同様の手法を目標として、まあ、外車の国内版とでも言うべきやり方ですね。重量とリストリクターの関係はもっと走ってみないとわからない部分もあります。現状は1050kgにミドシップの25kgハンディでやっています。リストリクターは本来の規定では直径25.5mmなんですが、2バルブの特認で0.7mm拡大の26.2mmを選択しています。軽量化も考えたのですが、1025kgで小さいリストリクターでやるより1100kgで0.7mm大きなリストリクターを選んだほうが得策だと思ったんです。エンジンはGT2用の3.6リッター2バルブツインターボ。他のGT2ユーザーと同じです。サスペンションは全部作り替えてあります。形式(ストラット)はいじれないんで、ダンパーを強化したり、フロントがGT3Rと同じなのでロワアームを調整式のものにしたりしています。世界で1台のレーシングカーなのでおもしろいですよ。パワー的にどうとかいうレベルには達していないんですが。GT500がキャンセルとなっている現状ですので、ベテランのアピチェラと西澤オーナーの組み合わせで、プロドライバーとしてしっかり走る立場のアピチェラからアドバイスを受けて、勉強しつつ参戦するというのが目標です」


日産スカイラインGT-R
1 SKYLINE GT-R
エリック・コマス(No.1 ロックタイト・ゼクセルGT-R)「新しいスカイラインはシェイクダウンのときからすごく速くて、有望なところを見せてくれた。なにもセッティングしてない状態で、走り始めてすぐに昨年のベストタイムと同じようなタイムを記録してしまったほどだからね。強みはまず車重が50kg軽くなったこと。それにマシンのバランスが非常によくなっている。前後の重量バランスがよく、ブレーキング時の安定性がすぐれていてトラクションもいい。さらにセッテイングにフォーミュラカーのように敏感に反応する。反面、ドラッグを減らす空力セッティングをしているので、ストレートのスピードは若干上がっているものの、昨年のマシンに比べてフロントのダウンフォースが少し足りない。これが今のところの一番の問題だ。ホンダ勢に比較して、とくに高速コーナーでハンディになっている。次のレースまでに手を加えなければならない点だ」
影山正美(No.1 ロックタイト・ゼクセルGT-R)「ABSが使えなくなるということでかなりきびしいのではないかと思っていたんですけど、それ以外の部分で補っているので思っていたよりは乗りやすく、なおかつ去年のマシンよりもずっとバランスがよくなっているのでびっくりしました。気に入っているというか、これならいけるという感触は得てます。昨年のクルマと比較すると、ひとことで言えばすごく進化しているということになります。剛性も上がっているし、とくにバランスがすごくよくなっています。前後バランスもよくなっているし、重心も低くなっているし。そういう意味では去年のクルマより数段上ですね。クルマのもともとの素性がいい、ポテンシャルが高いということです。だからタイムが出るわけです。50kg軽くなって、その分リストリクターが小さくなっているので当然エンジンのパワーダウンを感じるんじゃないかと思うんですけど、アクセルを踏んだときに、クルマが軽い分それがプラスマイナスになってパワーダウンを感じない。いい方向にいっているというのを乗っていてすごく感じますね」


トヨタ・スープラ
佐藤直樹 TRD MS事業室 副室長
36 SUPRA
「2000年型スープラのねらいは、まず車体剛性。いわゆるねじれ剛性を中心に、昨年型よりかなりアップさせています。具体的にどのくらいアップしているかですか? 『かなり』です(笑)。ドライバーからも、コーナリングでも安定しているし、ブレーキングでも安定しているという評価をもらっています。それから信頼性の向上ですね。昨年は、とくにシーズン前半にはずいぶんトラブルが出ましたので、それをすべてリストアップして、すべての対策をしてきています。あとは空力ですが、風洞実験をそうとうやって、細かく見直しています。今年はレギュレーションで(空力面での)制限が強まったんですが、それでも昨年並みの空力性能は確保できています。もうひとつ重視したのは重心を低くすることですね。これはロールケージの配置や形状を徹底的に見直すことなどによって実現しています。先に言った剛性アップも、やはりロールケージによるところが大きいですね。エンジンのマウント位置を下げることも低重心化に貢献していると思います。
 エンジンは(FMR=フロントミドシップに対して厳しくなる)レギュレーションに対応して少し前に出しています。具体的な数値ですか? これくらい(指で5cmほどの幅を示す)。前に出せば出すほど前が重くなって重量バランスが悪くなり、コーナリング性能で不利になるのは明らかですからね。レギュレーションでFMRでなくFRと認められるぎりぎりのところまでです。エンジンの中身に関しては根本的な変更点というのはありませんが、ファインチューニングは施しています。最高出力はリストリクターで抑えられていますので、レスポンスをさらによくするといった改良が中心です。エンジン重量も少し軽くなっているはずです。(今回はライバルに後れをとっているが?)ウーン、そうなんですよ。どうしてなんでしょうか、どうもよくわからないんですが…。わかったら教えてくださいよ(苦笑)」


ホンダNSX
永長 真 無限マネージャー
16 NSX
「97年、98年、99年と、3年間この(GTC仕様NSXの)プロジェクトを行なってきたわけですが、まず97年に新車で闘ったなかで変えなきゃいけない部分、また変えたい部分があり、それを盛り込んで作ったのが98年モデルです。これは最初から2年ぐらい使おうということで作り、予定どおりいろんな要素を入れながら2年間使ったわけです。そして2000年に関しては、いずれにしても新しいクルマを作ろうというのが無限と童夢の考えでした。で、『どんなクルマを作ろうか?』というときにそれまでの3年間でやり残したこと、とくに99年が98年の延長で、やりたいことが2年分溜まっていたので、そこらへんを全部出してみようということになりました。その結論として、今のNSXの特性をもっと伸ばそうという方向になったんです。空力、NAというドライバビリティーのいいエンジン、コーナリングのいいシャシーという、その組み合わせがウリなので、それをさらに磨き上げようという方向で突き詰めようとしています。
 まず空力については、今年リヤウィングの幅が制限されて、それを取り返すにはどうすればいいかという考え方をしました。レギュレーションにはリヤウィングについてしか書かれていませんが、リヤウィングが小さくなればバランスが崩れた状態になるので、バランスを取るためにはフロントも削らざるをえなくなる。でも私たちの場合には、リヤウィングで削られた分をなんとか取り戻す方向、つまり低いほうに合わせるのではなくプラスしていくように考えたんです。ですから空気の流れるところはすべて見直しました。いろんなところが微妙に変わっていますよ。99(年型)と2台並べないとわからない部分もあると思います。フロントのフェンダー部分なんかは大きく変わっていますけどね。リヤウィングやディフューザーも変えざるをえなかったので当然違います。
 次に車体とエンジンについてですが、これは定石ですけれども、コーナリング性能を上げるためにかさばるものはコンパクトに、重いものはなるべく低くということを考えてエンジンの載せ方を変えました。そのひとつとしてエグゾーストのレイアウトを変えて、今までエンジンの下を通っていたものを横から取り回しています。それだけでなくロワケースの構造を変えて、これ以上は薄くできないぐらい薄くしています。ロワケースは、これには何mm、これには何mm、だからでき上がりは何mmというように足し算で作っていたんですが、今年の場合は最初にでき上がりを何mmにするかということを決め、それを成立させるにはどうすればいいかと考えました。最初の目標値があまりにも薄かったので、でき上がりはプラス5mmになってしまいましたが。でき上がりの薄さですか? それは秘密です。また、重いものをなるべく低く、真ん中に集めようということで、エンジンのサブフレームの構造も変えましたし、オイルポンプの位置も変えました。オイルポンプは、今までエンジンの前側にあったのを後ろ側に持っていっています。また、ギヤボックスのレイアウトも変えています。整備性を上げるために、クラッチ、デフ、ミッションのレイアウトが変わっているんです。そこは、まだくわしくは言えませんね。ただ、99年モデルをチラッと見てもらって、2000年モデルをチラッと見てもらえれば『ああ、そういうことか』とわかるのではないでしょうか。
 もう1つ、車体の剛性を上げていることもポイントです。ロールケージの張り方にしても、上を軽く、剛性は出るように。これはFEM、有限要素法という応力解析プログラムを使い、コンピューターで設計しています。また、シャシーはアルミフレームをカーボンで補強しているんですが、その補強のやり方に3年間のノウハウを活かしています。重要なところには厚く貼り、それほどでもない所には1プライ、2プライという具合にして、貼り方も変えています。
 このようにかなり新しいトライをしているので、設計段階で予知しえなかったトラブルは起きています。でも、ある程度初期トラブルは出て当たり前ですね。今年のトライは、やりたいと思う極限を採り入れていこう、これ以上はできないというところまで採り入れていこうとやってきたことですから。
 予選のタイム(1分46秒968)は自分たちがやってきたことがまちがっていなかったというひとつの証明になりました。2000年規定ができたとき、誰も46秒台が出るとは思わなかったんじゃないでしょうか? 開幕に間に合わせるために正月も休まずに働いてくれた人たちのためにも、46秒台というタイムを出せてうれしいです。やった甲斐があったねと、みんなでよろこびを分かち合っています。
 ただ、ここで終わると私たちの独りよがりになってしまう。私たちが狙っているのは、こういうニュースを見たり結果を見た人たちに『どんなクルマだろう』と思ってもらえること。今まで興味のなかった人が見てくれたら、初めて私たちがやっていることを理解してもらえたことになりますし、独りよがりの仕事ではなくなると思います。私たちの仕事、サーキットにいるチームもプレスもみんなそうですが、それはとにかくお客さんにいっぱい入ってもらうこと。私たちにできることは、魅力的なクルマを作ることなんです。それを1人でも多くの人に理解してもらいたいですね」



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