SUPER GT 2025 SERIES

JAPANESE FIA-F4 CHAMPIONSHIP

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改めておさらい「サクセスウェイト」と「BoP」(後編)

 

 

 GT500とGT300のクラス違いに加えて、様々な車種のマシンが40台以上も参戦するSUPER GT。エンジンパワー(馬力)も違えば、クルマの形も違うし、タイヤも違って、その性能はバラバラなのに、いろいろなところで白熱のバトルが展開されている。それはSUPER GT独自のルール「サクセスウェイト制度」や「BoP(Balance of Performance)」が機能しているから。
 今回はその「BoP」について、SUPER GTの込山 勇データインスペクター(DI)との加藤 博テクニカルアドバイザー(TAD)に話を聞いた。

>改めておさらい「サクセスウェイト」と「BoP」(前編)はこちらから

 


込山 勇 SUPER GTデータインスペクター

自動車メーカーを退職後、2017年SUPER GTデータインスペクターに就任。予選/決勝後に全車の車両データを回収・分析し、SROおよびGTAに提出するなどの役目を担う。GTAの性能調整委員会の座長を兼任。

 


加藤 博 SUPER GTテクニカルアドバイザー

様々なチームを経て、2024年よりSUPER GTテクニカルアドバイザーに就任。スポーティングレギュレーションの技術部分や性能調整を含めた技術全般に携わり、技術チームをサポートする。性能調整委員会のメンバーのひとり。

 

 


 

 

GT300で採用される「BoP」とは?

 前述した「GT500とGT300の速度差」の調整方法のひとつでもあり、13車種が参加するGT300マシンの均衡化を図るための規定でもある「BoP=Balance of Performance」。そのBoPの調整項目は多岐にわたり、とても複雑なもの。いっそのこと、エンジン出力を調整して全車を「300馬力」に揃えたら簡単だと思われるが、そうしないのはなぜなのか?

「GT300には(今年)13車種が参加していますよね。それぞれクルマの形が違います。だから空気抵抗も違ってきます。搭載しているエンジンも違うので排気量も特性も違います。さらにSUPER GTはタイヤもマルチメイクでいろいろなタイヤメーカーさんが供給しています。それら全部を同じにすれば“300馬力に揃えること”も一つの案として可能でしょうけど、それではワンメイクレースになってしまうんです。だから、そのマシンやタイヤの特徴を残すためにも『BoP』を有効に使って均衡をはかっています。
 BoPは『Balance of Performance』の略で、『性能調整』と訳されることもありますが、厳密に言うと、それはイコールではありません。英語の『Performance』にはマシン、エンジン、タイヤ、ドライバー力、チーム力などが含まれ、それらのバランスをとるのがBoPです。

 また、よく『サクセスウェイト』と『BoP』がゴチャ混ぜになってしまう人もいるのですが、『サクセスウェイト』は成績に応じて個別の“車両”に課せられる“ハンディキャップ”で、それによって同じ車両が好成績を上げ続けることを難しくして各レースを拮抗させるもの。条件によっては(本来のスピードが抑制されるため)順位が入れ替わる可能性もあります。一方の『BoP』は、先ほども言ったように、GT300に参戦するいろいろな車種が同じ土俵で戦えるように“車種別”に調整し、かつ、そのギャップをギュッと縮めて、さらにそこにいろいろな車種をちりばめられるように調整するもの。例えば、1位と2位が5秒離れていたものを0.5秒にまでツメる調整が『BoP』の役割なんです。順位を変えずに、そのすべてのギャップを縮めること──それが我々が目標としているところです。分かりやすく言えば、競馬のように、チェッカーフラッグを受ける時に全車が横並びになったらいいなと。それが1秒以内なのか0.7秒以内なのか……その目標値はサーキットや天候などによって変わりますが、その小さなギャップに全車を入れたいと思っています」(加藤TAD)

 


SROによってSUPER GT専用に発行されるBoPと実際に第2戦に向けて公示された「参加条件(BoP)」

 

 

「BoP」が決定するまでの流れ

 各大会ごとに「参加条件」として公示されるBoPの項目には「最低重量」「エアリストリクター径」「BoP重量」「最低地上高(※)」「給油リストリクター」「最大過給圧(ターボ車のみ)」があり、“止まる”“曲がる”“加速”といったマシンの運動性能やエンジンパワーを抑制して、車種ごとのバランスをとっている。
 ※FIA-GT3は最低地上高、GTA-GT300はスキッドブロックのスペーサー厚さで調整している

 その決定にはSRO(GTワールドチャレンジやインターコンチネンタルGTチャレンジのプロモーター)が大きく寄与しており、込山DIが座長を務めるGTAの「性能調整委員会」と連携して詳細が決まり、その内容が参加者に伝えられる。
(SUPER GTのオフィシャルサイトにも公開されている。【第2戦 富士】:参加条件(各車種のBoP)

「BoP決定までの流れとしては、まず最初にGTAが回収したデータと性能調整委員会の見解をSROに提供し、SROにFIA-GT3のBoPの検討を依頼します。予選やレース後にGTAが回収した全車のデータ(ベストタイムや最高速等)を整理してまとめたものをSROに提出しています」(込山DI)

 


込山DIが予選/決勝後に全車のデータを回収し、そのデータを整理してSROに提出。その後、SROおよびGTAによってBoPが決定される。

 

「GTA側から、レースが開催されるサーキットの特性や天候、タイヤメーカーの違いによる性能、込山DIが回収したデータの解析結果など、SGT特有の状況を伝えます。SROがそれらを精査しGT3のBoPを作るので、そこにGTAが管轄する『GTA-GT300』や『GT300MC(マザーシャシー)』を合わせ込みます。年に数回ですが、SROのスタッフが公式テストやレースの際に来日して、現場で意見交換しています。」(加藤TAD)

 SROおよびGTAがデータを精査する際には直近のテストやレースのみならず、前年もしくはそれ以前のレースにまで遡ることもある。つまり、直前のデータだけで決められるものではないということ。FIA-GT3に関してはトラック(サーキット)のカテゴリー(分類)もあって、例えば直線の長い富士スピードウェイのようなコースだったり、岡山やSUGOのようにコーナーの多いコースなど、サーキットの特性によって多少の微調整が加えられることもある。

「レースの所要時間から、ピット作業やトラブルによる停止時間とサクセスウェイトの効果を引いて、本当の車両速度・車種別速度等を割り出し、統計分布からその標準偏差の両端を切って中央値に寄せる──その偏差値の推移を長い年月で見ていくんです。それは1回のレースで変わる数値ではないので、その作業を繰り返していきます。だから、簡単に決められるものではなくて、物理学的な部分と統計学的な部分を両方合わせて判断しています。
 SROから届く書類はFIA-GT3に限定された内容で、かつ英語で書かれているので、それを日本語に翻訳し、さらに我々が管轄する『GTA-GT300』と『GT300MC』をそこに加えているだけなので、基本的に書き換えることはしていません。あくまでもFIA-GT3のBoPのベースはSROが決めています」(加藤TAD)

 

 


 

 

 長い年月をかけてより多くのデータを集め、それを整理してまとめ上げ、さらに細かく分析して数値を割り出していく──気の遠くなるような話だが、それだけの作業をして『BoP』を策定し、SUPER GTがより公平に争われるように努めている性能調整委員会のメンバーたち。彼らの努力がSUPER GTの“魅力”“迫力”“面白さ”に直結している。ぜひ「サクセスウェイト制度」と「BoP」について “おさらい”して、もっともっとSUPER GTを楽しんでほしい。

 

≫ 第1戦 岡山:参加条件(各車種のBoP)

≫ 第2戦 富士:参加条件(各車種のBoP)

≫ 第2戦 富士:エントリーリスト GT500クラス(表右SW欄がサクセスウエイト)

≫ 第2戦 富士:エントリーリスト GT300クラス(表右SW欄がサクセスウエイト)

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